監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
目次
症状固定とは
症状固定とは、治療を継続しているうちに、それ以上治療を続けても症状が改善しないという状態に至ることをいいます。治療開始から症状固定までの期間は、その事故による怪我の治療に必要な期間としていわば客観的に認められる期間であり、症状固定までの期間の長さは入通院慰謝料などの賠償額にも影響します。
怪我の内容で異なる、症状固定までの期間
軽い打撲などであれば数週間から1か月程度、むち打ち症などの比較的軽微な傷害であれば3か月から半年程度で症状固定となります。大きな骨折などの大きな怪我であれば治療に必要な期間はそれだけ長くなるため、症状固定までの期間が1年以上となることもあります。
症状固定時期は賠償額に大きく影響する
症状固定時までに生じた損害については入通院慰謝料や治療費など、症状固定時以後の損害については後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償が発生します。
入通院慰謝料の金額は治療期間の長さ、つまり治療開始から症状固定までの期間の長さに大きく左右されますし、後遺障害慰謝料等の症状固定時以後の損害については後遺障害が認定された場合に支払いを受けられるものであるところ、後遺障害の認定にあたっては症状固定時期までの治療期間の長さも判断要素の1つとなります。
このように、症状固定時期は賠償額に大きく影響します。
「症状固定」と言われて後悔しないために知っておくこと
上記のように症状固定時期は賠償額に大きく影響します。また、治療費など、症状固定後は支払いを受けられなくなってしまう費用もあるため、症状固定になる前に以下のようなことを知っておく必要があります。
症状固定を決めるのは医師
症状固定は、それ以上治療を続けても症状が良くならないという状態になることですが、そうした治療による改善の見込みは治療にあたっている医師が医学的な見地から判断します。たとえば被害者自身としてはまだ痛みが残っているから治療を続けたいという場合、そうした自覚症状の訴えは医師もある程度考慮するものと思われますが、医学的な見地から客観的には治療による改善の可能性がないと医師が判断すれば、症状固定となります。
症状固定後は治療費や入通院慰謝料が打ち切りに
それ以上治療を続けても改善の見込みがないということから、症状固定後については治療を続ける必要性があるとはいえず、治療費が加害者側の負担となるのは症状固定時までとなります。症状固定後も残る症状について治療を続けたいという場合は、被害者自身の負担となります。
また、入通院慰謝料についても同じく、医学的に必要性があるといえる期間中の治療(入通院)に対応する慰謝料が支払われるものであることから、症状固定時までの通院期間・日数が算定要素となります。症状固定後については、残存する症状が後遺障害に該当する場合に後遺障害慰謝料という形で支払われます。
保険会社の言いなりで症状固定すると後遺障害慰謝料に影響が出る可能性も
症状固定後も残存する症状が後遺障害として認定されるためには、それだけの怪我・症状であることを示す必要があり、その一つの要素として、相当な期間治療を受けたことが必要となります。
たとえば、むち打ち症による後遺症が後遺障害として認められるには一般的に6か月程度の通院期間が必要となりますが、保険会社は3か月程度で被害者や担当医師に治療打切り(症状固定)を打診してくることが多く、それに異を唱えず症状固定になると、後遺症が後遺障害として認定されず後遺障害慰謝料の支払いを受けられないことになる可能性が高いです。
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症状固定後の流れ
症状固定後の流れについては、後遺障害認定申請をするか否かにより異なりますが、以下のようなものになります。
示談交渉は症状固定後から開始
症状固定後に後遺障害認定申請を行わない場合、治療費や通院交通費、入通院慰謝料などの損害額を計算した上で加害者側(保険会社)と示談交渉を開始します。後遺障害認定申請を行う場合もこの時点で示談交渉を開始することもできますが、後遺障害の認定結果が出てから後遺障害についての損害と併せて示談交渉を行うことが多いです。
後遺障害診断書を医師に書いてもらう
後遺障害認定申請を行う場合、症状固定時に残存している症状についての診断結果を記した後遺障害診断書を提出する必要があります。後遺障害診断書は、治療を担当した医師に書いてもらいます。なお、怪我の内容によって記載すべきポイントは異なってきますので、後遺障害診断書を書いてもらう前に、交通事故に詳しい弁護士に相談した方がいいでしょう。
後遺障害診断書を入手したら後遺障害等級認定申請を行う
担当医師作成の後遺障害診断書を入手できたら、後遺障害認定申請を行います。申請は自賠責損害調査事務所という機関に対して行い、申請にあたっては、後遺障害診断書のほか、それまでの治療中の診断書やレントゲン、MRI等の画像データを含む諸々の資料を提出します。
症状固定後の通院はしても良いのか
症状固定後の通院については原則として自費通院となりますし、入通院慰謝料の算定には反映されませんが、(治療しても良くならないとされていても)痛み等の症状に対処するために通院せざるを得ない場合もありますし、症状固定後も通院を継続していることが後遺障害認定の上で一つの事情として考慮される場合もあります。
そのため、自費通院による金銭的負担等との兼ね合いにはなりますが、症状固定後も通院することは差支えありません。
症状固定時期を延ばし、慰謝料を増額させた事例
ご依頼者様は、交通事故により頚椎捻挫等のむち打ち症を生じ、通院を継続していましたが、事故から3か月で治療を打ち切って症状固定としたい旨を相手保険会社から言い渡され、弊所に相談されました。
弁護士が代理人に就任し、担当医師の見解も示しつつ、ご依頼者様の怪我の内容・治療状況からすれば治療による改善の可能性が高く、症状固定とするには時期尚早である旨を述べて治療期間の延長の交渉を行った結果、症状固定は事故の6か月後となりました。
症状固定後は後遺障害認定申請を行い、6か月間治療を継続できたこともあって14級が認定されました。結果として、入通院慰謝料についても通院期間が3か月にとどまる場合(想定金額47万円前後)よりも高い金額(約80万円)を獲得できました。
また、3か月の通院ではおそらく認定されなかったであろう後遺障害についての慰謝料(約100万円)も獲得することができました。弁護士が介入して治療期間・症状固定時期を延ばせたことで、慰謝料が想定約47万円から約180万円と、大幅に増額しました。
症状固定の判断を誤る前に弁護士へご相談ください
症状固定の時期は治療費の負担や慰謝料の金額に影響し、判断を誤れば本来受け取れる可能性がある金額よりも大幅に減額されてしまう可能性があります。弁護士にご相談いただければ、適切な症状固定のタイミングを見極め、それに向けての相手保険会社と交渉することもできます。相手保険会社に言われるままに症状固定を迎えてしまう前に、弁護士へご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)