監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
目次
交通事故慰謝料とは
慰謝料は損害賠償のうちのひとつ
交通事故により受ける損害とその賠償にはさまざまなものがあります。慰謝料はそのうちのひとつで、事故により怪我をしたり、後遺障害が残ったりしたことで受けた精神的苦痛に対する賠償です。
交通事故の慰謝料には3種類ある
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、傷害慰謝料とも呼ばれ、交通事故により負った怪我についての補償、もっと厳密にいえば、怪我の治療のために入院や通院をしたことで受けた精神的苦痛に対する補償です。
入通院慰謝料は治療中から治療終了時までの損害(精神的苦痛)に対する補償であり、治療終了後に後遺症が残る場合には、その精神的苦痛について後述の後遺障害慰謝料で補償されることになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故により負った怪我について治療をしたものの、完全には治らず後遺症が残ってしまった場合に支払われる慰謝料です。
後遺障害慰謝料が支払われるには、自賠責調査事務所による審査により認定されるなど、客観的な基準により定められた等級に該当すると判断されることが必要です。
後遺障害慰謝料が支払われる場合も、症状固定前の入通院に対しては入通院慰謝料が支払われます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故により死亡したことに対する慰謝料です。本人が死亡しているので近親者(遺族)が受け取ることになり、死亡した本人の苦痛と、近親者の苦痛の両方に対する慰謝料を含むものです。
交通事故慰謝料を算定するための3つの基準
交通事故慰謝料の算定には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があります。
慰謝料が最も高額になるのは弁護士基準
3つの基準のうち、慰謝料が最も高額になるのは弁護士基準です。
弁護士基準は、交通事故による損害賠償について裁判となった場合に認定される慰謝料の相場のようなものであり、裁判にならず弁護士と相手保険会社の交渉(示談交渉)により解決される場合も、裁判になった場合の8~9割程度で合意に至ることが多いです。
むちうちで後遺障害等級14級を獲得した場合の弁護士介入事例
むちうちで後遺障害等級14級を獲得した上で相手保険会社との示談交渉により解決する場合、症状固定までの通院期間が約6か月として弁護士基準で交渉すれば入通院慰謝料は70~80万円、後遺障害等級14級についての後遺障害慰謝料については同じく弁護士基準での交渉で90~100万円となり、慰謝料だけで合計160~180万円の支払いを受けられる計算となります。
交通事故の入通院慰謝料は1日いくらが妥当?算定方法の違い
自賠責での算定方法
自賠責基準の入通院慰謝料は、2020年3月31日までに発生した事故については1日4200円、同年4月1日以降の事故については1日4300円とし、実入通院日数の2倍か入通院期間のいずれか少ない方の日数をかけた金額となります。
そのため、2日に1回の頻度で通院した場合とそれよりも少ない頻度での通院の場合、後者では慰謝料の金額が少なくなります。
慰謝料は弁護士基準で算定されるべき
保険会社との示談交渉では自賠責基準や同基準と大差ないその保険会社の基準で計算した金額が提示されることが多いですが、自賠責の基準は最低限の補償に過ぎません。
被害者が納得して示談する限り違法ではないですが、より高額な弁護士基準での慰謝料を受け取れる機会をふいにしていることになります。弁護士基準は、裁判になった場合に認められる相当な慰謝料をもとにした基準であり、弁護士による交渉や裁判になればその基準での慰謝料を受け取ることができるものであるため、交通事故の慰謝料は、弁護士基準で算定されるべきものといえます。
弁護士基準では、自賠責基準のように1日いくらという計算ではなく、治療期間(日数)に応じた金額(何ヶ月の場合何円)が定められています。
例)通院期間3ヶ月の場合
3日に1回の頻度で通院し、通院期間3ヶ月の場合、自賠責基準で計算すると約26万円、弁護士基準ではむちうち症で画像上の異常等が認められない場合や軽い打撲・挫創(傷)の場合は53万円、それより重い怪我による通院の場合は73万円となります。
例)通院期間7ヶ月の場合
3日に1回の頻度で通院し、通院期間7ヶ月の場合、自賠責基準で計算すると約60万円、弁護士基準ではむちうち症で画像上の異常等が認められない場合や軽い打撲・挫創(傷)の場合は97万円、それより重い怪我による通院の場合は124万円となります。
例)通院期間8ヶ月の場合
3日に1回の頻度で通院し、通院期間8ヶ月の場合、自賠責基準で計算すると約69万円、弁護士基準ではむちうち症で画像上の異常等が認められない場合や軽い打撲・挫創(傷)の場合は103万円、それより重い怪我による通院の場合は132万円となります。
通院日数が少ない場合、自賠責より弁護士基準の方が良い理由
上に述べたように、自賠責基準だと2日に1回の頻度で通院した場合とそれよりも少ない通院の場合、後者の方では前者よりも慰謝料の金額が少なくなってしまいます。被害者にも家庭や仕事、学校などの日常生活があるため、2日に1回の頻度で通院できる方ばかりではありません。
弁護士基準では、長期・不規則の通院について、実通院日数の3.5倍(むちうちや軽い打撲等の怪我の場合は3倍)と通院期間のうち少ない方の日数が基準となり、通院日数が少ない場合、自賠責基準の日数より有利となります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
慰謝料の他に受け取れるもの
休業損害
休業損害は、交通事故から症状固定の間に事故を原因として仕事を休むことがあり、それによって本来得られるはずだった収入よりも下がってしまった場合に、その補償となるものです。給与所得者の場合は勤務先が発行する休業損害証明書や給与明細、自営業者の場合は確定申告や取引履歴などの資料をもとに、事故による減収分はいくらなのかを協議・交渉することになります。
逸失利益
後遺障害による逸失利益は、後遺障害が認定された場合に、事故に遭うことがなくその後遺症が無かった場合よりも労働能力が下がってしまうことによる将来の減収分についての補償です。
労働能力がどれだけ低下するか、労働能力の低下がどの程度の期間続くかは、後遺障害の等級や具体的な後遺症の内容によります。むち打ち症については14級の場合2~5年、12級の場合は5~10年程度、より重い後遺症の場合は平均的な就労可能年齢とされる67歳までの間とされることが多くなっています。
死亡による逸失利益は、基礎収入から本人の生活費として一定割合を控除した金額について、上記の就労可能期間までの間の利益を逸失したとして算定します。
その他に請求できるもの
上記のほか、症状固定までの治療関係費、入院雑費、入通院の交通費、付添看護費(被害者の症状や年齢からして必要と認められる場合)などが請求できます。
また、後遺障害の内容に応じて、将来の介護費、装具・器具購入費(車椅子、義足等)、家屋改造費などが請求できることもあります。被害者が死亡した場合、葬儀関係費を請求できます。
交通事故慰謝料を受け取るまでの流れ
交通事故(人身事故)に遭った場合、まずは事故による受傷の治療を継続します。治療を続けることで完治する場合もあれば、それ以上治療を続けても良くならないという状態・時期(症状固定)に至ることもあります。怪我の内容・程度にもよりますが、治療期間は3ヶ月から半年程度になることが多く、骨折など比較的重い怪我であれば、1年以上になることもあります。治療終了後は慰謝料等の損害賠償の金額について加害者側と交渉することになります。
症状固定時に症状(後遺症)が残っている場合、後遺障害認定申請を行うことができます。審査には数か月程度を要することが多く、審査結果に納得がいかない場合(非該当、思っていたより低い等級など)には異議申立て等の手続を行うことができます。その後、後遺障害が認定された場合はそれも含めた損害賠償の金額について加害者側と交渉することになります。
加害者側(相手保険会社等)と損害賠償額についての交渉を行い、合意(示談)が成立すれば、交通事故慰謝料を含む損害賠償金が支払われることとなります。交渉では折合いがつかないなどで裁判になった場合は、裁判の終了(判決、裁判内外での和解等)後に損害賠償金が支払われることになります。
慰謝料は個別の事情により増減する可能性があります
交通事故慰謝料は治療期間や後遺障害の等級によりある程度定額化されていますが、個別の事情により増減する可能性があります。加害者の悪質性の高さや被害者の受けた被害の重大性により慰謝料が増額されることや、被害者が元々持っていた疾患のことが考慮されて減額されることがあります。
慰謝料が増額するケースとは?
加害者が交通違反をしていた
加害者が飲酒運転、無免許運転、大幅なスピード違反やひき逃げなどの悪質な交通違反をしていた場合、そのような悪質な運転等により被害を受けた被害者の精神的苦痛はそれだけ大きくなるとして、慰謝料が増額することがあります。
被害者が失業した
事故により失業した場合、認められる要件は厳しいですが休業損害として請求できることがあり、休業損害が認められない場合でも、失業したことが考慮され慰謝料が増額されることがあります。
被害者が流産・中絶した
被害者が妊娠しており、事故の衝撃により流産してしまった場合や、中絶せざるを得なかった場合、事故により子どもを失った被害者の精神的苦痛はとても大きなものとなり、慰謝料は増額します。
加害者に誠意がない場合
事故後の加害者の態度・対応に立腹する被害者は少なくありませんが、加害者の態度・対応が特に不誠実な場合、たとえば自分の責任を軽くしようとして虚偽の供述をしたりした場合などは、慰謝料の増額事由となることがあります。
慰謝料が減額する素因減額とは?
被害者が交通事故前から持っていた疾患等(たとえば椎間板ヘルニアなど)が事故による損害の発生や拡大につながっていると認められる場合、その疾患等が影響している分だけ、慰謝料が減額されます。
適正な慰謝料を受け取るために弁護士への依頼をおすすめする理由
適正な慰謝料を受け取ることができる
すでに述べたように、弁護士が介入しない場合に使われる自賠責基準や保険会社独自の基準は、弁護士基準に比べて低額であり、十分なものではありません。弁護士に依頼することにより、最も高い基準である弁護士基準で慰謝料が算定されることになり、適正な慰謝料を受け取ることができます。
弁護士に相手方とのやり取りを全て任せることができる
事故で被害に遭った被害者にとって、相手方(主に相手方が加入している保険会社)とのやりとりは、更なる苦痛となります。弁護士が代理人となることで、被害者に代わって相手方とのやり取りを全て弁護士が行うことになるため、被害者自らが相手方とやり取りをすることの苦痛や煩わしさから解放されます。
通院頻度や検査についてアドバイスがもらえる
適切な賠償を受けるためには、適切な治療を受けることが必要です。通院頻度や治療中の検査結果は、入通院慰謝料の金額や、後遺障害認定の可能性にも関わる証拠となります。
弁護士は、被害者が入通院して治療を受けている時期から、こうした治療後の損害賠償に関する交渉を見据えた適切な治療を受けられるようアドバイスをすることができます。
そのため、交通事故に遭って治療を受けることになったら、出来るだけ早い段階で弁護士に依頼し、適時アドバイスがもらえるようにすることが重要です。
交通事故の慰謝料について交通事故に詳しい弁護士に相談してみませんか?
交通事故の慰謝料については、弁護士に依頼することで最も高い基準で算定された金額を受け取ることができます。
また、早い時期に依頼すれば、慰謝料の金額等にも関わってくる治療中のアドバイスを受けることもできます。交通事故の慰謝料について、交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)