監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故の被害者は、治療費を立て替えたり、仕事を休んで収入が減ったりして金銭的に苦しくなることが少なくありません。
そのため、できる限り早く慰謝料を受け取りたいと思われることでしょう。
交通事故の慰謝料は、通常示談成立後1~2週間以内に支払われますが、示談が成立する前に受け取れる方法もあります。
このページでは、交通事故の慰謝料が支払われるまでの期間や、早く受け取る方法などについて詳しくご紹介します。
目次
示談成立から1~2週間程度で慰謝料が支払われる
交通事故の慰謝料は、示談が成立した後1~2週間ほどで加害者側の保険会社から支払われるのが通例です。
示談成立とは、交通事故の被害者と加害者が、過失割合や損害賠償額などについて、話し合いにより合意することをいいます。
示談成立後、加害者側の保険会社が示談書を作成して被害者に送り、被害者が示談書に署名・捺印して返送します。
その後、保険会社が内部手続きを進め、指定された口座にお金を振り込みます。
なお、示談書の内容確認はとても大切です。
返送後は修正や追加が原則できなくなるため、サインする前に合意した内容が適切に記載されているかどうかを慎重にご確認ください。
事故発生~示談成立までにかかる期間の目安
交通事故発生から示談成立までにかかる期間の目安は、以下のとおりです。
- 物損事故:事故日から2ヶ月~3ヶ月程度
- 後遺障害なしの人身事故:治療終了から6ヶ月程度
- 後遺障害ありの人身事故:後遺障害等級の認定を受けてから6ヶ月~1年程度
- 死亡事故:事故日から1年~1年6ヶ月程度
これらの期間はあくまで参考であり、事故内容やケガの状況、示談交渉の状況によって上下することがあります。
また、後遺障害等級認定の結果に納得できず、異議申立てを行った場合は、示談が成立するまでの期間がさらに長引く可能性があります。
交通事故発生から示談成立までの流れ
交通事故の発生から示談成立までの流れは、以下のとおりです。
- ①事故発生
- ②事故直後の対応
警察への通報やけが人の救護、実況見分への協力などを行います。 - ③ケガの治療
病院で必要な検査や治療を受けます。 - ④完治または症状固定
医師から完治または症状固定(これ以上治療しても改善しない)と診断されたら、基本的に治療は終了となります。 - ⑤後遺障害等級認定
症状固定後も後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定の申請を行います。 - ⑥示談交渉
治療費や慰謝料などの賠償金や過失割合等について、相手方と交渉します。 - ⑦示談成立、示談金の支払い
示談書に双方が署名・捺印した後、被害者に示談金が支払われます。
交通事故の示談の期間や流れについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参考ください。
交通事故の示談にかかる期間はどれくらい?まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
慰謝料の支払いまでの期間が長引くケースとは?
示談交渉が長引いている場合
示談交渉が難航して長期化すると、慰謝料の支払いが遅れることがあります。
たとえば、以下のケースでは長期化が見込まれます。
- 傷害慰謝料・後遺障害慰謝料や休業損害、後遺障害逸失利益などの損害賠償額について、もめている場合
- 事故状況について双方の主張が食い違い、過失割合が決められない場合
- 治療が長引いて、示談交渉の開始が遅れている場合
- 加害者が過失を認めない場合
- 後遺障害等級認定の審査に時間がかかっている場合
- 後遺障害等級認定の結果に不満があり、異議申立てを行った場合
- 加害者が任意保険に加入していない場合など
示談成立できずに裁判に進んだ場合
示談交渉がうまくいかず、民事裁判に移行した場合も、慰謝料の支払いの遅れが見込まれます。裁判所のデータによると、交通事故事件の平均審理期間は約13.3ヶ月とされています。
裁判になると、事故発生から慰謝料の支払いまで、約2年以上かかる可能性が高いため、早く示談を成立させ、加害者側の保険会社から支払いを受けたいと考えている場合は注意が必要です。
ただし、裁判での判決結果には法的な拘束力があります。
そのため、加害者が支払いを拒否した場合には、財産の差し押さえなど強制執行手続きを実行できるというメリットもあります。
保険会社の支払い手続きが遅れている場合
加害者側の保険会社の手続き状況によっては、慰謝料の支払いが遅れるケースがあります。
たとえば、保険会社内部で事務処理が遅れていたり、担当者間の引き継ぎが不十分であったりすると、支払いが遅れることがあります。また、書類の不備も遅延の要因となり得ます。
示談書を返送してから1週間ほど経っても振り込みが確認できない場合は、保険会社に連絡して確認することをおすすめします。また、弁護士に依頼している場合には、弁護士を通じて保険会社に催促してもらうようにしましょう。
示談前に慰謝料などの賠償金を受け取る方法
交通事故の被害に遭うと、治療費の支払いだけでなく、休業による収入減など、大きな負担がかかります。そのため、できるだけ早く慰謝料を受け取りたいと考える方も多いでしょう。
以下で、示談前に慰謝料などの賠償金を受け取る方法についてご紹介します。
加害者側の自賠責保険から受け取る
示談前に賠償金を受け取る方法として、加害者側の自賠責保険会社に、「被害者請求」や「仮渡金請求」を行うことがあげられます。
以下で2つの違いについて確認しましょう。
被害者請求
被害者請求とは、交通事故の被害者が、加害者側の自賠責保険会社に直接、治療費や慰謝料などの賠償金を請求する手続きのことです。
この手続きを利用することで、示談成立を待たずに、申請から1ヶ月ほどで賠償金を受け取ることができます。
必要な資料を被害者自身で用意するため労力がかかりますが、その分、自ら納得のいく形で請求を進められるのがメリットです。また、被害者の過失が7割未満の場合は過失相殺されずに賠償金を受け取ることができます。
もっとも、自賠責保険会社には、以下の支払い限度額があります。
- 傷害:120万円
- 後遺障害:等級に応じて75万円~4000万円
- 死亡事故:3000万円
これらの限度額を超える部分は、加害者の任意保険会社などに別途請求する必要があります。
仮渡金請求
仮渡金請求とは、交通事故の被害者が、当面の治療費や生活費をカバーするため、加害者の自賠責保険会社から、一定額の保険金を前払いしてもらう制度のことです。
仮渡金はあらかじめ金額が定められているため、損害等の計算が不要です。そのため、申請すれば、1週間~10日ほどで受け取ることができます。
仮渡金の金額は、死亡事故は290万円、傷害事故はケガの程度に応じて5万円、20万円、40万円となっています。
ただし、仮渡金は1回しか請求できないため、請求のタイミングを見極めることも重要です。
また、仮渡金として受け取った金額が、最終的に確定した損害賠償金を上回る場合は、その差額を返還する必要があります。
加害者側の任意保険から受け取る
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社との交渉を通じて、「一括対応」や「内払い」をしてもらい、先に賠償金を支払ってもらうことも可能です。
以下で詳しく解説します。
一括対応
一括対応とは、本来加害者側の自賠責保険会社と任意保険会社それぞれに請求する賠償金を、任意保険会社がまとめて支払ってくれるサービスのことです。
一括対応の代表的なものとして、治療費の一括対応があげられます。
任意保険会社から送付された同意書にサインすれば、被害者の治療費を直接病院に支払ってもらうことができます。
任意保険会社は治療費等を払った後、自賠責保険の負担分を自賠責保険会社に請求します。
ただし、過失割合でもめている場合や、被害者の過失割合が大きい場合、保険会社が治療の継続が不要と判断したような場合は、一括対応が受けられない可能性があります。
内払い対応
任意保険会社との交渉によっては、治療費以外の損害賠償金が、示談の成立を待たずに支払われるケースもあります。このことを「内払い」と呼びます。
とくに休業損害(仕事を休んだことによる減収)は速やかな補償が求められるため、内払いで示談前に請求することが少なくありません。
もっとも、内払いは任意保険会社のサービスにすぎないため、請求すれば必ず支払ってもらえるというものではありません。
内払いに応じてもらえるか、どの賠償金をいくらぐらい受け取れるかは、任意保険会社の判断によります。
また、内払いは賠償金の一部を先に支払う形になるため、最終的に確定した賠償額から差し引かれる点にもご注意ください。
自身の保険から受け取る
示談前に賠償金を受け取る方法として、被害者自身の任意保険の「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」を利用することがあげられます。
以下で詳しく見ていきましょう。
人身傷害保険
人身傷害保険とは、交通事故で契約車に乗っている方(運転者や家族など)が死傷した場合に、治療費や慰謝料、働けない間の収入などを補償する保険です。
過失割合に関係なく、契約したときの保険金額を上限に、実際の損害額が支払われます。
損害額が確定すれば、示談前であっても、保険金を受け取れるのがメリットです。
人身傷害保険だけの利用であれば、ノーカウント事故に当たるため、等級に影響せず保険料も上がりません。
もっとも、飲酒運転など被害者に重大な過失がある事故や、自然災害が原因の事故などについては、補償の対象外となることがあるためご注意ください。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは、契約車に乗っている人が交通事故で死傷したときの損害を補償する保険です。
過失割合にかかわらず、死亡や後遺障害、入院・通院日数に応じて、定額の保険金が支払われます。搭乗者傷害保険を使っても等級に影響が出ないため、保険料は上がりません。
人身傷害保険も搭乗者傷害保険も、契約車に乗っている人が補償対象なのは同じです。
しかし、人身傷害保険は実際の損害額を補償し、搭乗者傷害保険は定額の保険金を支払うという違いがあります。
人身傷害保険は損害額の確定後に保険金が支払われますが、搭乗者傷害保険は請求すれば、すぐに保険金が支払われるのがメリットです。
交通事故の慰謝料の支払いで不安があれば弁護士にご相談ください
適正な慰謝料を早く受け取りたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故を得意とする弁護士であれば、専門知識や交渉経験が豊富であるため、示談交渉をスムーズに進めて、慰謝料の早期受け取りにつなげることができます。
また、弁護士であれば、過失割合の的確な算定、弁護士基準による慰謝料の増額交渉、後遺障害等級認定のサポートなども行えるため、慰謝料が増額する可能性も高まります。
交通事故の慰謝料の支払いで何か不安がある場合は、交通事故の解決実績が豊富な弁護士法人ALGにご相談ください。弁護士が寄り添い、被害者の方の最大の味方となって、適正な慰謝料を受けられるようサポートいたします。

-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
