監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故で負傷したときに、入院しなくても、通院したことに対する慰謝料を受け取ることが可能です。通院する期間は負傷の程度によって変わりますが、むちうち等の負傷では、3ヶ月程度を目安として、相手方の保険会社から治療を打ち切るように勧められるケースが少なくありません。
ここでは、通院3ヶ月で受け取ることが可能な慰謝料とその計算方法、および適正な慰謝料を受け取るために注意するべきこと等を解説します。
目次
通院3ヶ月で受け取れる慰謝料
3ヶ月(90日)通院した場合に支払われる慰謝料のことを、「入通院慰謝料」と言います。
また、3ヶ月で完治し、事故の前の状態に戻れば良いのですが、通院治療を継続しても、症状が改善されない状態(症状固定)になるケースも少なくありません。3ヶ月経過した時点を症状固定として、労働能力が減少するような障害が残っている場合には、「後遺障害慰謝料」も受け取ることができます。
通院3ヶ月の慰謝料の算定基準
通院3ヶ月で適正な「入通院慰謝料」を受け取るためには、どのような算定基準でどの程度の金額が支払われるのかという相場を知っておくのが望ましいと言えます。
「入通院慰謝料」の金額は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3種類の基準のどれを採用するかによって大きく変わります。3種類の基準の中で、通常であれば自賠責基準が最も低額になり、弁護士基準が最も高額になります。
- 自賠責基準…強制保険である自賠責保険における算定基準。
- 任意保険基準…任意保険における算定基準。
- 弁護士基準…弁護士や裁判所が使用する算定基準。
3ヶ月通院した場合の慰謝料の計算
3ヶ月通院した場合、「入通院慰謝料」を3種類の基準で計算したら、それぞれいくらになるのでしょうか。各基準での計算方法は次のとおりです。
- 自賠責基準…決められた計算式に則って算出する。
- 任意保険基準…各保険会社が独自で基準を定めており、非公開となっているため不明。
- 弁護士基準…過去の判例をもとに設定された算定表を用いて算出する。
以下で、具体例を用いてそれぞれ確認してみましょう。
入通院慰謝料の計算方法
通院3ヶ月、実通院日数30日の慰謝料 | |
---|---|
自賠責基準 | 25万8000円 |
任意保険基準 | 37万8000円(かつての基準) |
弁護士基準 | 73万円(重傷の場合) 53万円(軽傷の場合) |
自賠責基準
自賠責基準では、次の2つのうち少ない方の日数を計算に用います。
・実通院日数×2
・通院期間の日数
通院3ヶ月、実通院日数30日であれば、
・実通院日数×2:30日×2=60日
・通院期間の日数:3ヶ月=90日
となるため、少ない方である「60日」を採用します。
2020年4月1日以降の交通事故について、通院慰謝料は1日あたり4300円なので、次のとおりになります。
4300円×60日=25万8000円
任意保険基準
任意保険基準は各保険会社が独自に定めていて非公開ですが、大抵は自賠責基準に少し上乗せした程度で、弁護士基準と比べると物足りない金額になります。
なお、かつて用いられていた任意保険基準の算定表では、通院3ヶ月の慰謝料は37万8000円とされていました。
弁護士基準
弁護士基準では、公表されている算定表を用いて金額を導き出します。
入院せずに通院3ヶ月であった場合、入通院慰謝料の金額は、レントゲン画像やMRI画像等で確認できる負傷(重傷)であるケースでは73万円、検査画像等では確認できない負傷(軽傷)であるケースでは53万円となります。
後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害等級に基づいて算出されます。より重い後遺障害の等級が認定されれば、それだけ後遺障害慰謝料は高額になります。
通院3ヶ月の原因が事故によるむちうちのケースでは、後遺障害等級が12級や14級に該当する場合があります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
適正な慰謝料を受け取るための注意点
適正な慰謝料を受け取るために注意するべき点について、以下で解説します。
通院3ヶ月の適切な通院頻度
通院期間が3ヶ月であっても、月に1日だけ通院するのと、毎日通院するのとでは、入通院慰謝料の金額に大きな差が生じます。
弁護士基準で入通院慰謝料を請求する場合、実通院日数を3.5倍した日数が通院期間の日数よりも少ない場合には、実通院日数を3.5倍した日数を通院期間として用います。そのため、通院頻度が週2日よりも少ないと、入通院慰謝料が下がってしまいます。
一方で、通院頻度が多すぎると、過剰診療ではないかと疑われてしまいます。そのため、医師からの指示が無いのに毎日通院していた場合等では、保険会社から治療費の打ち切りを通告されてしまうリスクが生じてしまいます。
リハビリで通った期間は通院回数に含まれるのか
症状固定までのリハビリについては、通院回数に含まれるため、通院慰謝料の対象となります。症状固定後のリハビリについては、通院慰謝料の対象にならないケースが多いですが、リハビリによって後遺障害が緩和される等のメリットがある場合には、なるべく行うのが望ましいでしょう。
むちうちは通院3ヶ月で治療費を打ち切られる可能性が高い
むちうちは、通院3ヶ月で、保険会社から治療費の打ち切りを通告される可能性が高いです。これは、保険会社が治療期間の目安と考えている「DMK136」という基準によります。
「DMK136」とは、「打撲は1ヶ月、むちうちは3ヶ月、骨折は6ヶ月」という治療期間の目安です。この基準により、むちうちの場合には通院3ヶ月で症状固定を打診され、治療費が打ち切られてしまうおそれがあります。
治療の必要の有無や症状固定の時期を判断するのは医師であり、保険会社ではありません。そのため、保険会社が機械的に治療費の打ち切りを通告してきた場合は、健康保険を使って治療を継続する等の対応をして、示談の段階で交渉すると良いでしょう。
症状固定と言われたら
症状固定と言われた場合に、それを言ったのが医師であるのか、保険会社であるのかによって、行うべき対応が異なります。
医師が症状固定と判断したら、その意見は医学的に意味があります。残っている症状については、自賠責保険に対して後遺障害の申請をし、後遺障害等級認定を受けることができれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。
しかし、保険会社から症状固定と言われても、治療を打ち切る必要はありません。なぜなら、症状固定にあたるかどうかは医師が判断するものであるからです。
交通事故による負傷がむちうちであった場合、3ヶ月程度の通院をすると、症状固定だと保険会社から言われるケースが少なくありません。このとき、まだ痛みやしびれが残っていたら、保険会社の主張を鵜呑みにするのではなく、医師と相談して必要な治療を続けるべきです。
通院3ヶ月と2ヶ月の慰謝料の違い
通院期間が3ヶ月である場合と2ヶ月である場合とでは、通院慰謝料の金額が異なります。
入院しておらず、弁護士基準によって慰謝料が支払われるとすれば、重傷であったときには21万円、軽傷であったときには17万円の差が生じます。
また、通院期間2ヶ月で症状固定する負傷は、軽傷に分類される確率が高いと思われます。少しでも通院慰謝料を増額するためには、自身の過失割合を抑えることや、3日に1日程度は通院するようにしておくことが重要です。
通院3ヶ月の交通事故慰謝料について弁護士にご相談ください
交通事故に遭って、通院期間3ヶ月程度の怪我を負ってしまった場合には、弁護士にご相談ください。
主な慰謝料である入通院慰謝料だけでも、弁護士基準とそれ以外の基準では、受け取れる金額に大きな差が生じます。また、後遺障害等級認定の際にも、弁護士が介入することによって正当な認定を得やすくなるケースが存在します。
まだ治療を続けたいのに、保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合には、特に弁護士の力が必要となるでしょう。ご不安のある方は、まずはお気軽に弊所にお電話ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)