逮捕されるのはどんな時?
逮捕の種類について
逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕があり、それぞれ要件が異なります。そのため、事件の種類(罪名)によって、どの形で逮捕されやすいかにも違いが出てきます。このページでは、逮捕の各類型について解説します。
逮捕の種類
刑事事件で逮捕される場合、逮捕の種類としては大きく分けて通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕があります。
通常逮捕
通常逮捕とは、逮捕状を示して行われる逮捕です。次に解説するように、通常逮捕では逮捕の根拠について裁判官があらかじめ審査してから逮捕状を発行することで、不当な逮捕による身体拘束がなされることを防止しており、この通常逮捕が逮捕の原則で、逮捕時に令状を要しない現行犯逮捕と緊急逮捕は例外として認められるものとされています。
通常逮捕の要件
通常逮捕の要件は、逮捕の理由と逮捕の必要があることです。
逮捕の理由があるというのは、特定の犯罪が行われたということと、被逮捕者(逮捕される者)がその犯罪を行ったことが、相当程度に確からしいと認められることを指します。何らかの犯罪が行われた、というように犯罪事実の特定が不十分である場合や、被逮捕者が犯人である可能性が低い場合には、この要件を満たしません。
次に、逮捕の必要があるというのは、被疑者の逃亡と罪証隠滅の防止のために逮捕が必要であることを指します。被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重などの事情に照らし、逮捕の必要がないとき(逃亡や罪証隠滅の可能性が高くない一方、逮捕により被疑者が著しい不利益を受ける場合など)には、この要件を満たしません。
逮捕状について
逮捕状とは、検察官または司法警察員(公安委員会の指定する警部以上の者)の請求により、地方裁判所または簡易裁判所の裁判官が通常逮捕の要件である逮捕の理由と必要の有無について審査し、それらがあると認められる場合に発行されます。
憲法上、誰であっても、現行犯として逮捕されるか、権限を有する司法官憲が発する令状がある場合でなければ逮捕されないと定められています(憲法33条)。これを受けて、刑事訴訟法では裁判官が発する逮捕状が通常逮捕のために必要であると定めており(刑事訴訟法199条1項)、逮捕者である捜査官に逮捕の根拠を示すことで、不当な身体拘束を防止しています。
通常逮捕の多い罪名
通常逮捕では、次に述べる現行犯逮捕の場合と異なり、犯罪が行われた後に犯罪の内容や犯人が誰であるかについて捜査され、逮捕状の発付を経て逮捕されることとなります。
そのため、犯行時には被害者等に発覚しにくく後になって被害に遭ったことが発覚することの多い詐欺罪、横領罪などは、通常逮捕によることが多いです。
現行犯逮捕
現行犯逮捕は、犯罪の瞬間または直後において、逮捕状が無くとも犯人を逮捕できるというものです(刑事訴訟法212条1項、213条)。
上記で述べたように、不当な逮捕を防ぐために逮捕の理由と必要について審査した上での令状による逮捕が原則とされているところ、犯罪行為を行っている最中あるいは直後の者(現行犯人)については特定の犯罪の発生とそれを行った者であることが明らかであり、また、逮捕状を取得するよりもその場で逮捕しなければ逃亡の恐れが大きいことから、例外として逮捕状によらない逮捕が認められています。
準現行犯逮捕
準現行犯逮捕(刑事訴訟法212条2項)は、逮捕者が犯人の犯行の瞬間または犯行直後の状況を見ていなくとも、犯行が終わってから間が無く、同条同項各号所定の事由(犯人として声を掛けられ、追いかけられているとき、犯行に用いたと思われる凶器などを持っている場合など)がある場合には、現行犯人とみなして、逮捕状が無くとも逮捕できるとするものです。
私人逮捕
現行犯逮捕の場合のみ、警察官や検察官などの法律上逮捕権限を持つ者でない一般人(私人)でも、犯人を逮捕することができます。
現行犯逮捕の場合は誤認逮捕のおそれがなく、また逃亡する前に逮捕する必要性が高いという、逮捕状なしに逮捕できることと同じ理由から、警察官等でなくとも逮捕できることとされています。私人が現行犯人を逮捕したときは、ただちに犯人を検察官または警察官に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。
現行犯逮捕の要件
現行犯逮捕の要件は、犯罪の存在と犯人性(逮捕されようとしていることが犯人であること)が明らかであることと、犯行と逮捕との時間的接着性です。それらが認められることにより、令状主義(逮捕状がなければ逮捕できない)の例外として、逮捕状が無くても逮捕できることとされています。
また、通常逮捕と同様に、逮捕の必要(逃亡や罪証隠滅のおそれ)がない場合には、逮捕の要件を満たさず、逮捕することはできません。
現行犯逮捕が多い罪名
現行犯逮捕される可能性があるのは、詐欺罪や横領罪のように犯行時に外部の人間(被害者や第三者)から見て犯行が行われていると気付かれにくい罪ではなく、傷害罪や窃盗罪、強制わいせつ罪など、行為者以外の人間が行為者の行為を目撃した時に、それが犯罪行為であると一見して分かるような態様の犯罪です。
覚せい剤や大麻などの薬物の所持についても、職務質問などの際に違法薬物らしきものを所持しており、その場で検査して違法薬物であると確定すれば、現行犯で逮捕されます。
緊急逮捕
緊急逮捕とは、現行犯ではないが犯罪事実の存在と犯人性についての疑いが強く、また逮捕状を取れない緊急の必要性がある場合に、事後に令状審査を行うことで逮捕状なしでの逮捕ができるとされているもので、現行犯逮捕と同じく例外的な逮捕状のない逮捕として認められているものです。
緊急逮捕の要件
緊急逮捕の対象となる犯罪は、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪、という一定以上の重い法定刑の犯罪に限定されています。
また、逮捕されようとしている者がその犯罪を犯したことについて充分な疑いがあること、逮捕に急速を要し、逮捕状を求めることができないという緊急性があることも要件となります。また、通常逮捕、現行犯逮捕と同様に、逮捕の必要(逃亡や罪証隠滅のおそれ)がない場合には逮捕できません。
緊急逮捕の多い罪名
緊急逮捕が行われるのは、上記のように一定以上の重い法定刑が定められている罪に限定されていますが、殺人罪、傷害罪、窃盗罪、強盗罪、強制性交等罪、強制わいせつ罪、詐欺罪、横領罪など、該当する罪は少なくありません。
該当するいずれの罪についても、犯罪の十分な嫌疑、緊急性などの要件を満たせば、緊急逮捕される可能性があります。
逮捕された場合の流れ
警察に逮捕されると、72時間以内に勾留されるか否かが決定されます。勾留されると、逮捕に引き続き刑事施設に収容され、取調べを受けます。勾留の期限(10日から20日)内に、検察官が事件を起訴するかしないかを決定します。
逮捕後の流れについて詳しく見る逮捕されてしまった場合の対処について
逮捕された場合、引き続き身柄を拘束する必要があるとして勾留が決定されることが多いですが、事案によっては、弁護人が勾留されるべきでないことを検察官や裁判官に主張することにより、勾留されなかったり、一旦決定された勾留が取消しになる場合もあります。
多くの場合、逮捕の翌日には勾留されてしまうことから、それまでの間に勾留を防ぐ主張の準備を進めることが重要で、そのためには可及的速やかに弁護士に相談する必要があります。
接見・面会について
逮捕・勾留されている被疑者とは、刑事施設の接見室でアクリル板越しに会うことができます。
弁護士は、逮捕・勾留中いつでも被疑者と会う(接見)ことができますが、被疑者の家族や友人は、勾留前には面会できません。勾留後は刑事施設の所定の時間(平日の日中)内であれば面会することができます。
接見について詳しく見る不起訴で釈放されたい場合
逮捕・勾留されていても、不起訴となれば釈放されます。事案によりますが、不起訴となるためには被害者との示談成立や贖罪寄付などの事実が必要となることが多く、勾留されてから処分決定までの約1~2週間(勾留延長された場合を含む。)の間にそれらの手続を完了する必要があります。
したがって、不起訴となって釈放されたい場合、逮捕・勾留されてからできるだけ早く弁護士に相談する必要があります。
不起訴について詳しく見る逮捕の種類に関するよくある質問
準現行犯逮捕は、どの程度距離や時間 に間がある場合認められるのでしょうか。
準現行犯逮捕の要件の1つである犯行と逮捕との時間的・場所的接着性については、212条2項各号に定められた犯人性を示す類型的事情(盗んだらしき物や犯行に用いられたと思われる凶器などを持っている、体や衣服に犯罪の痕跡があるなど)への該当性と併せて準現行犯逮捕の適法性の判断要素とされます。
つまり、犯人であることを示す事情が顕著であったりいくつもあったりして犯人性の明白さが強まるほど、犯行時刻・現場との時間的・場所的な隔たりが大きくなっても準現行犯逮捕が認められることとなります。被逮捕者の身なりや態度等から犯人性がかなり明白といえる場合に、犯行から1時間~1時間40分、4キロほど離れた時間・場所での準現行犯逮捕が認められた例がありますが、犯人性が上記ほど明白とはいえない場合には、もっと時間的・場所的な間が小さくなければ準現行犯逮捕が認められない可能性があります。
万引きで、後日通常逮捕されることはあり得ますか?
万引き(窃盗罪)の逮捕について、窃取の瞬間を目撃されて現行犯逮捕される場合ばかりではなく、後日に通常逮捕や緊急逮捕される場合もあります。
その場では逮捕されなかったが店員や他の買い物客に犯行を目撃されていたり、店内や町中の防犯カメラに犯行や逃走の様子が記録されていたりなど、犯罪事実や犯人の特定につながる証拠が存在する可能性は大いにあります。そのため、後日の捜査によって犯人として特定され通常逮捕されることや、捜査を進めている警察官にたまたま発見されて緊急逮捕されることもありえます。
緊急逮捕の場合、警察が家に上がり込むことはあるのでしょうか?
逮捕状や自宅内の捜索差押を認める令状がある場合には警察が家に上がり込むことが認められますが、緊急逮捕の場合、逮捕にあたって警察が家宅内に立ち入ることはあるでしょうか。 通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕のいずれにおいても、警察官は逮捕に必要な場合に人の住居や建造物内に立ち入ることができます(刑事訴訟法220条1項1号)。
また、逮捕の現場では令状が無くとも捜索、差押えや検証の手続を行うことが認められています(同条同項2号)。したがって、緊急逮捕の際に逃走する被疑者を追いかけて警察が被疑者の自宅内に立ち入ったり、自宅を現場とする逮捕に伴い自宅内で捜索・差押えを行ったりすることはありえます。
再逮捕とはなんですか?
ある事件で逮捕され、その判決が出る前に、別の被疑事実(事件)で逮捕されることを再逮捕といいます。
同じ事件で2度目の逮捕を受けることも極めてまれにあり、それも再逮捕といいますが、ここでは省略します。再逮捕の例を挙げると、覚せい剤の所持で逮捕された後、尿検査の結果から使用で再逮捕される例、強制わいせつ事件で逮捕された後、別の被害者からも被害申告があり、その被害者に対する事件について再逮捕される例などです。
弁護士への依頼が被疑者の命運を分けます
逮捕されてしまった場合に何の対応も行わないと、そのまま勾留され、起訴され、有罪判決を受けるという可能性が高いです。
逮捕後早い段階で弁護士に依頼することで、勾留を防ぐことが出来たり、被害者との示談等により不起訴となったり、正式な裁判の起訴ではなく略式手続による罰金刑で済んだりする可能性が見えてきます。逮捕されてしまったら、出来るだけ早く弁護士にご相談、ご依頼ください。
この記事の監修
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兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。