強制わいせつとなる行動と
逮捕された場合の対処法
強制わいせつ罪 | 6ヶ月以上10年以下の懲役(刑法176条) |
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公然わいせつ罪 | 6ヶ月以下の懲役若しくは 30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条) |
強制わいせつ等致死傷罪
無期又は3年以上の懲役(刑法181条1項)
準強制わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法178条1項、176条)
監護者わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法179条1項、176条)
強制わいせつ罪とは他人に無理やり性的な行為を行うことにより成立する罪で、同じ性的な被害を与える行為でも、行為の内容によって迷惑防止条例違反(比較的軽度の痴漢など)や強制性交等罪とは区別されます。このページでは、強制わいせつ罪とはどのような罪か、強制わいせつ罪で逮捕された場合の対応などについて解説します。
目次
強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪とは、13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした時、又は13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした時に成立する罪です(刑法176条)。男女ともに被害者となりえますし、同性の加害者・被害者間でも成立します。
また上記のように、13歳未満の被害者に対しては、暴行や脅迫がなくともわいせつな行為をすれば本罪が成立します。「わいせつ」の定義などについては、後で解説します。
強制わいせつ罪の種類
公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は公共の場などでわいせつな行為をすることで成立する罪で、そのような行為により世間一般の健全な性道徳・秩序を乱すことを防ぐことを趣旨としており、強制わいせつ罪のように個人がわいせつ行為の被害者となるものではない点で異なります(意に反してわいせつ行為を見せられるなど、被害者的立場になる人は存在します)。
準強制わいせつ
準強制わいせつ罪は、心神喪失や抗拒不能、つまり眠っていたり酒に酔っていたりして抵抗できない状態にある被害者に対してわいせつな行為をすることにより成立します。
強制わいせつ罪は暴行又は脅迫により被害者を抵抗困難な状態にしてわいせつ行為を行うものであるのに対し、準強制わいせつ罪は被害者が精神的な障害や泥酔、昏睡状態にあることに乗じて、あるいは被害者を眠らせたり酔わせたりして抵抗できない状態にした上でわいせつ行為を行うものであるという違いがあります。
強制わいせつ等致死傷罪
強制わいせつ等致死傷罪は、強制わいせつ罪にあたる行為や準強制わいせつ罪にあたる行為によって被害者に怪我をさせたり死亡させたりしてしまった場合に成立します。
被害者に対してわいせつ行為を行い、さらには傷害や死亡という結果まで引き起こすという悪質な行為を罰するため、法定刑は無期又は3年以上の懲役という、強制わいせつ罪などと比較して思いものになっています。わいせつ行為自体は未遂に終わっても、加害者の行為により傷害や死亡の結果が生じた場合は、本罪が成立します。
刑罰について
強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役(刑法176条)、公然わいせつ罪の法定刑は6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条)、準強制わいせつ罪の法定刑は強制わいせつ罪と同じく6月以上10年以下の懲役(刑法178条1項、176条)、強制わいせつ致死傷の法定刑は無期又は3年以上の懲役(刑法181条1項)と定められています。
時効について
強制わいせつ罪の時効は7年です。ここでいう時効とは公訴時効、すなわち刑事事件として起訴するにあたっての期限です。なお、強制わいせつ行為の被害者への損害賠償は民事の問題となりますが、その時効(損害賠償請求の時効)は、強制わいせつによる損害と加害者を知った時から3年か、事件から20年です。
わいせつの定義とは
強制わいせつ罪は性的自由を保護法益とするものであることから、同罪にいう「わいせつ」とは、被害者の性的羞恥心を害する行為を指すとされています。胸や陰部などに触れる行為だけでなく、相手の意に反するキスなども「わいせつ」行為に該当します。
一方、卑猥な言動やセクハラなどは、被害者の性的羞恥心を害するものではあっても、相手の身体に触れる。
強制わいせつとなる行動とは
強制わいせつにあたる行為とは、上記1.4のように「わいせつ」、つまり被害者の性的羞恥心を害する行為で、かつ、被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫を手段として「わいせつ」行為を行うことも要件となります。
具体的には、胸や陰部など性的な部位を触る行為、意に反するキスなどが挙げられます。ハグ(抱きつき)については、わいせつ行為ではなく暴行罪にあたるとした裁判例もありますが、具体的状況によっては性的な目的・意味合いが強いと判断され、強制わいせつ罪が成立する可能性もあると考えられます。
他の犯罪との違い
痴漢との違い
痴漢行為は、行為態様によって迷惑防止条例違反にあたる場合と強制わいせつ罪にあたる場合があります。服の上から胸や下半身を触るなどした場合は迷惑防止条例違反、下着の中に手を入れて陰部を触るなどした場合は強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
痴漢について詳しく見る強制性交等罪との違い
強制性交等罪は、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交を行った場合に成立する罪であり、強制わいせつ罪とは、被害者に対する行為が異なります。
強制性交等罪について詳しく見る暴行罪との違い
暴行罪は殴る蹴るなどの行為のほか、人を押したり絞めたりといった行為によっても成立します。人に無理やり抱き着く行為のように、強制わいせつ罪のように見える行為でも、性的な意味合いや意図がないとされれば、強制わいせつ罪ではなく暴行罪にあたると判断されることもあります。
暴行罪について詳しく見る法改正による強制わいせつ罪の変化
親告罪から非親告罪へ
親告罪とは、被害者が告訴しなければ起訴できない罪のことで、被害者からの被害申告と処罰を求める意思表示が無ければ、刑事事件として捜査されることはありません。
非親告罪は、被害申告等の有無にかかわらず刑事事件として捜査し、起訴されうる罪です。強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は、被害者のプライバシー等への配慮から親告罪とされていましたが、平成29年の法改正により、非親告罪となりました。
監護者わいせつ罪の追加
監護者わいせつ罪は、平成29年の法改正により新しく定められた罪です。18歳未満の者を監護する者(親や祖父母、親戚等)が、監護者としての影響力があることに乗じてわいせつ行為をすることで成立する罪です。
未成熟な18歳未満の者は監護者に経済的・精神的に依存せざるを得ない状況にあることから、監護者からのわいせつ行為に対してはっきりと拒否できない・表面上同意があったとしても真に有効な同意とはいえないという事態も生じえます。そこで、そのような立場にある監護者の行為を処罰するために定められたものです。
強制わいせつ罪による逮捕
現行犯逮捕
強制わいせつ罪による現行犯逮捕は、事件の現場の目撃者や通報により駆け付けた警察官により、事件の最中・直後に逮捕されるものです。
事件発生から多少の時間・場所の隔たりがあっても、犯人として追いかけられていたり、服などに事件の痕跡が残っていたりなど、その人が犯人であることを示す事情があれば、逮捕状なくして逮捕することができます(準現行犯逮捕)。
現行犯逮捕以外の逮捕
事件当日ではなく、捜査により後日、犯人として逮捕される場合、裁判所から発せられた逮捕状を持った警察官に逮捕されることとなります(通常逮捕)。
強制わいせつ罪で加害者と被害者の間に面識がない場合でも、被害者や目撃者の証言、現場の遺留物などから犯人の捜査がなされるほか、近年では防犯カメラの映像から犯人が特定されることも多いです。
同意の有無について
性的な行為の際に被害者の同意があったと思っていても、逮捕されてしまう場合があります。 中には、実際には合意のもとでの行為であったにもかかわらず、相手を陥れるために無理やりわいせつなことをされたと被害申告され、いわば冤罪で逮捕されてしまう例もあります。
しかし、強制わいせつ罪の逮捕事例では、被害者の明確な拒否がないという認識から合意の上での行為であると思い込み、わいせつな行為に出てしまったが、実際は被害者が恐怖のため拒絶できなかったに過ぎないという例も少なくありません。相手の陰部などに触れる行為自体が相手の反抗を困難にする暴行にあたると判断されることもあることから、相手の意思をはっきりと確かめないまま性的な行為を行ったところ実際は相手の同意があったとはいえない場合、暴行を用いて相手の意思に反してわいせつな行為を行ったということで、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
相手が18歳未満の場合
13歳未満の者に対しては、暴行・脅迫という手段を用いることなく、また性的な行為を行うことについてその者の同意があったとしても、強制わいせつ罪が成立します。
13歳以上の者に対しては、性的な行為について相手の同意があれば強制わいせつ罪にはあたりません。
しかし、18歳未満の者に対する性的な行為については、強制わいせつ罪にはあたらない場合でも、青少年保護育成条例中の淫行処罰規定(いわゆる淫行条例)への違反により逮捕され、処罰される可能性があります。また、監護者わいせつ罪の項で述べたように、18歳未満の者を監護する者がその監護者としての影響力に乗じてわいせつ行為を行った場合、同意の有無に関わらず同罪が成立します。
逮捕された際の対処
起訴されてしまったら
強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役です。初犯であれば執行猶予が付くことも多いので、被害者との示談など、減刑や執行猶予の取得に向けて量刑上有利な事情を裁判に向けて作っていくことが必要であり、そのためには弁護士の関与が不可欠です。
起訴について詳しく見る強制わいせつについてよくある質問
セクハラは強制わいせつとなりますか。
性的な話をする、恋愛関係について根掘り葉掘り聞く、しつこく交際を迫ったり食事に誘うなど、相手の身体への接触を伴わない言動によるセクハラが、強制わいせつに該当することはあるでしょうか。 言動によるセクハラは、身体への接触などを伴わない以上、強制わいせつ罪の要件である「わいせつな行為をした」にあてはまらないため、強制わいせつ罪は成立しません。
ただし、しつこく交際を迫ったり食事に誘うなどの相手に何かを強いる行為は強要罪にあたる可能性がありますし、その他のセクハラも民事での損害賠償や職場内での問題に発展する可能性があります。
酒の席でついキスをしてしまったのですが、強制わいせつとなるのでしょうか。
相手も同意の上であれば強制わいせつにはあたりませんが、相手の同意なく無理やりキスをしてしまった場合、強制わいせつにあたります。酒が入っていれば通常以上に相手の態度等から同意の有無を汲み取るのは難しくなりますし、上司と部下、仲の良い知人同士など、人間関係によっては迫られる側が強くNOといえないことも少なくありません。
強制わいせつが成立するためには、暴行又は脅迫を用いてわいせつ行為が行われることが要件となりますが、わいせつ行為それ自体が暴行にあたるとされることもありますし、キスを迫る際の言動や態度が脅迫にあたると判断される可能性もあります。相手の同意なくキスをすることで強制わいせつ罪が成立する可能性は高いといえます。
相手が18歳未満だと知りませんでした。
相手との合意の上での行為であったことには争いが無いが、相手が18歳未満であったため、淫行条例違反に問われている場合、相手が18歳未満だと知らなかったという事情があれば、18歳未満の者に対して性的な行為をすること(淫行条例違反の行為)についての故意が無かったと主張する余地はあります。
しかし、行為時の状況から、18歳未満の可能性があることを認識した上での行為だったと認定されることも少なくありません。また、自治体によっては18歳未満だと知らなかったとしても処罰を免れることができないと定めているところもあり、年齢を知らなかったこと・18歳以上だと信じていたことについて過失のないことを行為者の方で立証しない限り罰せられることとなります。
弁護士への依頼で、日常生活への影響を最小限に抑えます。
強制わいせつ罪で逮捕されたり刑事裁判を受けたりすることとなると、「性」に関する犯罪であることから、他の犯罪以上に世間から厳しい目を向けられてしまいます。
そのような状況の中でも、弁護士に依頼することで、速やかに被害者との示談等の弁護活動を行い、早期釈放、不起訴、執行猶予の獲得など、可能な限り早期に日常生活に戻り、少しでも日常生活への影響を抑えられる可能性が出てきます。ぜひ、お早目に弁護士にご相談ください。
この記事の監修
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兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。