監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 残業代請求対応、未払い賃金対応
従業員の時間外労働について、企業としては残業代を支払わなければならないことはもちろんですが、支払うべき残業代の計算にあたっては、割増賃金の割増率や適用範囲なども含め、正確に計算しなければなりません。
ここでは、残業代の計算方法について解説します。
目次
- 1 従業員の残業代を適正に計算する責務
- 2 割増賃金に該当する残業代の種類
- 3 残業代の計算式
- 4 残業代の計算例(月給制の場合)
- 5 手待時間・仮眠時間や持ち帰り残業の取り扱いについて
- 6 特殊な労働形態における残業代の考え方
- 7 定額残業代制による残業代の計算
- 8 残業代の計算に関するQ&A
- 8.1 計算した残業代に端数が出ました。どのように処理すべきでしょうか?
- 8.2 残業代の計算を30分単位で行っており、30分未満は切り捨てて計算しています。法的には問題無いでしょうか?
- 8.3 割増賃金の基礎となる「1時間当たりの賃金」には賞与も含まれますか?
- 8.4 割増賃金の割増率について、会社が引き下げることは可能ですか?
- 8.5 割増賃金の割増率について、会社が引き上げることは可能ですか?
- 8.6 残業代に上限を設けることは可能ですか?
- 8.7 給料が最低賃金を下回っている場合、残業代は賃金ベースと最低賃金のどちらで計算すべきですか?
- 8.8 欠勤を残業代で相殺することは可能ですか?
- 8.9 遅刻した時間を補うために行った残業についても、割増率が適用されるのでしょうか?
- 8.10 残業代の計算を誤り多く払い過ぎてしまいました。返してもらうことは可能でしょうか?
- 8.11 時給制の残業代の計算方法について教えてください。
- 8.12 日給制の残業代の計算方法について教えてください。
- 8.13 出来高払制(歩合制)の残業代の計算方法について教えてください。
- 8.14 年俸制の社員に対する残業代は、どのように計算したらいいでしょうか?
- 9 残業代の計算方法で不明な点があれば、労働問題に強い弁護士にご相談ください。
従業員の残業代を適正に計算する責務
企業には、賃金支払義務や労働時間を適切に管理する責務の一環として、従業員に残業代が発生する場合には、残業代が発生する時間を正確に把握し、残業代の金額を適正に計算する責務があります。
割増賃金に該当する残業代の種類
割増賃金に該当する残業代には3種類あります。
時間外手当は、時間外労働の時間数により25%以上または50%以上の割増が必要となるものです。
深夜手当は、午後10時から午前5時の間に労働した場合に支払う必要があります。
休日手当は、法定休日の勤務につき生じます。ここでいう法定の休日は週1日であり、たとえば会社で土日が休日として定められている場合でも、適用されるのはそのうち1日です。
残業代の計算式
残業代は、「1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間」という計算で算出されます。
1時間あたりの基礎賃金を算出する方法
1時間あたりの基礎賃金は、「月給÷1か月あたりの平均所定労働時間」という計算で算出されます。
例えば、月給が21万円、1か月あたりの平均所定労働時間が176時間(1日8時間、平均所定勤務日数22日)の場合、1時間あたりの基礎賃金は、21万円÷176時間≒1193円となります。
家族手当などの各種手当は基礎賃金に含まれるのか?
上記の基礎賃金の計算の元になる「月給」には、家族手当、住宅手当、通勤手当などは含まれず、基礎賃金の算出にあたっては、実際の給与の額面からそれら手当の金額を差し引く必要があります。
時間外・休日・深夜労働の割増率
時間外手当は、1日8時間及び週40時間という法定労働時間を超えたとき、または時間外労働が月間45時間、年間360時間という法定の時間外労働の上限を超えたときには25%以上、時間外労働が月間60時間を超えたときには、60時間を超えた部分について50%以上の割増率としなければなりません。
深夜手当の割増率は25%以上とする必要があります。深夜かつ時間外の労働については、時間外手当と深夜手当の割増率を合計しなければなりません。
休日手当は、35%以上の割増率となります。
例えば、1時間あたりの基礎賃金が1200円の場合、25%の時間外手当が割増された労働時間について、1時間の残業代は1200円×(100%+25%)=1500円となります。
また、たとえば午後10時以降に法定労働時間を超える労働を行った場合の1時間の残業代は、1200円×(100%+25%(時間外手当の割増)+25%(深夜手当の割増))=1800円となります。
残業代の計算例(月給制の場合)
月給が22万円で家族手当などの差し引くべき手当の合計が2万円、1か月あたりの平均所定労働時間が168時間(1日8時間、平均所定勤務日数21日)の場合、1時間あたりの基礎賃金は、(22万円―2万円)÷168時間≒1190円となります。
この1190円に、時間外手当、深夜手当、休日手当という各種時間外手当の割増率を掛けた金額が、時間外労働の1時間あたりの賃金となり、それに時間外の労働時間数を掛けた金額が残業代となります。
1か月あたりの平均所定労働時間
「1時間あたりの基礎賃金を算出する方法」で述べたように、1時間あたりの基礎賃金は、「月給÷1か月あたりの平均所定労働時間」という計算で算出されます。
ここでいう1か月の労働時間とは、「1日の所定労働時間×1か月の勤務日数」で計算されますが、月により元々の日数や土日祝日などが異なり、勤務日数も異なってきますので、年間の勤務日数を12で割った1か月あたりの平均勤務日数を、上記の1か月の勤務日数とします。
そのため、「1日の所定労働時間×1か月の平均勤務日数=1か月あたりの平均所定労働時間」となります。
手待時間・仮眠時間や持ち帰り残業の取り扱いについて
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指すと解釈されています(三菱重工業長崎造船所事件・最高裁判決)。
同事件では、労働者が実作業に従事していない仮眠時間が労働時間に該当するか否かについて、労働者がその時間内に労働から解放されることが保証されていれば使用者の指揮命令下に置かれていないといえるが、同事件で労働者が仮眠時間中も仮眠室での待機や警報や電話への対応を義務付けられていることから、労働からの解放が保証されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれており、仮眠時間は労働時間にあたるとされました。
このように、休憩時間のようではあっても会社・上司から指示があればすぐ業務に従事しなければならないことになっている時間(仮眠時間や手待時間)については、会社の指揮監督下にあるため、労働時間に含まれます。
また、持ち帰り残業をした時間が労働時間に該当するか否かについても、上記事件が示した「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間か否か」という判断基準に照らして判断されます。
職場外での、一見、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえなさそうな時間・場所での持ち帰り残業であっても、持ち帰り残業について上司の指示がある場合や、明確な指示がなくとも業務量などの事情からして残業について黙示の指示があったといえる場合、労働時間として認められます。
特殊な労働形態における残業代の考え方
変形労働時間制の場合
年、月または週ごとの所定労働時間と1日ごとの労働時間を決められる変形労働時間制では、日ごと、週ごと、設定期間ごと(年または月ごとの変形労働時間制の場合の年または月)の労働時間のうち法定労働時間を超えている分(法定労働時間を超える所定労働時間を設定している日、週、月については、当該所定労働時間を超えている労働時間)を合計して残業時間を算出します。
このような方法が採られるのは、1日ごとや毎月ごとの所定労働時間が定められている場合(固定時間制)と同様に法定労働時間を超える労働時間について明らかにし、その分の残業代を支給するためです。
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制の場合、1週間から3か月の期間(清算期間)内での所定労働時間を設定し、その時間内で自由に働けるため、1日8時間や週40時間という法定労働時間を超えて働くことができ、その場合も残業にはなりません。
上記の清算期間内での所定労働時間を超えた労働時間について、残業代が発生します。
裁量労働制の場合
裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず契約にある労働時間分働いたとみなすもので、原則として残業代は発生しませんが、深夜手当と休日手当は発生します。
定額残業代制による残業代の計算
定額残業代制は、実際の時間外労働時間にかかわらず、一定額の時間外労働に対する割増賃金を支給するものです。
月々の給与の中に定額残業代が含まれると認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分が明確に区別できること、割増賃金部分について定額残業代として支給されているという趣旨が明らかにされていることが必要です(テックジャパン事件最高裁判決)。
また、定額残業代を支払うこととされている分の所定の時間外労働時間(毎月それだけの時間は残業したとみなされている時間)を超えた労働時間については、定額残業代とは別途、残業代を支給しなければなりません。
残業代の計算に関するQ&A
計算した残業代に端数が出ました。どのように処理すべきでしょうか?
計算した1時間あたりの基礎賃金額や割増賃金額、また1か月間の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は切り上げるようにします。
なお、1か月の賃金に100円以下の端数が生じた場合、50円未満の端数は切り下げ、50円以上の端数は切り上げることも認められています。
残業代の計算を30分単位で行っており、30分未満は切り捨てて計算しています。法的には問題無いでしょうか?
1日ごとの労働時間は1分単位で計算しなければならず、切り捨てることはできません。
1か月の時間外労働時間の合計に1時間未満の時間が生じた場合、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げるという運用を行うことは認められています。
割増賃金の基礎となる「1時間当たりの賃金」には賞与も含まれますか?
賞与も含めての年俸制など、賞与の額が定まっている場合は賞与も含めた上で「1時間当たりの賃金」を計算しますが、多くの場合、賞与は控除した上で計算されることが多いです。
割増賃金の割増率について、会社が引き下げることは可能ですか?
労働基準法に定められている割増率を下回る引下げはできません。
会社でもともと定めている割増率が法定の割増率を上回るものである場合、法定の割増率まで引き下げることは可能ですが、労働者にとって不利益な変更になりますので、会社と労働者の間での合意が必要となります。
割増賃金の割増率について、会社が引き上げることは可能ですか?
法定の割増率を上回るものにすることや、それをさらに引き上げることは可能です。
残業代に上限を設けることは可能ですか?
残業代に上限を設けることはできません。定額残業代制で所定の時間外労働時間を超えた場合にも、超えた分の残業代を支払わなければなりません。
給料が最低賃金を下回っている場合、残業代は賃金ベースと最低賃金のどちらで計算すべきですか?
給料が最低賃金を下回っている場合、残業代の計算の基礎となる基礎賃金自体が違法であるため、残業代は賃金ベースではなく最低賃金で計算しなければなりません。
欠勤を残業代で相殺することは可能ですか?
欠勤による控除と残業による残業代の支給(加算)は別物ですので、相殺はできません。
1か月の給与の総額の中で前記の控除分と加算分が相殺されるような形になることはありますが、当然ながら残業代に含まれる時間外手当などの割増賃金部分まで相殺されることはなく、仮に割増賃金部分が支払われなければ違法となります。
遅刻した時間を補うために行った残業についても、割増率が適用されるのでしょうか?
遅刻により始業が遅くなった分、残業を含む終業までの労働時間が、残業代の発生する所定労働時間や法定労働時間の範囲内であれば、割増賃金を適用する必要はありません。
残業代の計算を誤り多く払い過ぎてしまいました。返してもらうことは可能でしょうか?
原則として払い過ぎた分の返還を受けることが可能です。
なお、今後支給される給与からすでに払い過ぎた分を控除すること(調整的相殺)については、賃金全額払いの原則(労働者の生活の安定のため、発生した給料は全額支払うというルール)があることから、原則としては認められません。
しかし、過払い賃金の調整的相殺を行えるという内容の労使協定がある場合には認められるほか、そうした協定がなくとも、控除の金額や時期等からみて労働者の生活を不安定にさせるおそれがない場合などに例外的に認められることがあります(福島県教組事件)。
時給制の残業代の計算方法について教えてください。
時給制の場合、定められた時給に、時間外手当の種別(時間外手当、深夜手当など)ごとの割増率を基礎賃金部分に加えた割合(例えば深夜手当の場合、100%+25%=125%)と残業代の発生する時間をかけて計算します。
例えば、時給が1200円の場合、深夜手当が割増される残業が2時間行われたとすると、1200円×(100%+25%)×2時間=3000円の残業代が発生します。
日給制の残業代の計算方法について教えてください。
日給制の場合、日給を1日の労働時間で割ることで時給を算出し、その時給に時間外手当の種別ごとの割増率を加えた割合と残業代の発生する時間をかけて計算します。
例えば、日給が10000円で1日の労働時間が8時間の場合、1時間あたりの基礎賃金(時給)は1250円となり、深夜手当の発生する午後10時以降に法定労働時間を超える労働が2時間あった場合、残業代は、1250×(100%+25%+25%)×2=3750円となります。
出来高払制(歩合制)の残業代の計算方法について教えてください。
出来高払制(歩合制)の場合も、法定労働時間を超えた労働については残業代が発生します。もっとも、歩合給の金額が残業代も含んだものになっていると認められる場合には、重ねて残業代が発生するものではありません。
また、歩合制といっても、純粋な歩合給のみを給与とすることが認められることは例外的で、ほとんどの場合、基本給と歩合給からなる給与体系となります。
歩合制の残業代を計算するには、基本給部分を所定労働時間、歩合給部分を総労働時間で割ってそれぞれの時給を算出します。
その上で、基本給部分の残業代については割増率を加え(たとえば時間外手当の場合、100%+25%=125%)残業代の発生する労働時間をかけて算出します。歩合給部分の残業代については割増率のみ(たとえば時間外手当の場合、25%)と残業代の発生する労働時間をかけて算出します。こうして計算した基本給部分の残業代と歩合給部分の残業代の合計が、歩合制の場合の残業代となります。
例えば、25万円の月給のうち20万円が基本給、5万円が歩合給であり、1か月の所定労働時間が176時間、総労働時間が200時間、うち24時間は時間外手当の発生する残業であった場合、基本給の時給は20万円÷176時間≒1136円、歩合給の時給は5万円÷200時間=250円となります。
基本給部分の残業代は、1136円×(100%+25%)×24時間=34080円、歩合給部分の残業代は250円×25%×24時間=1500円となり、基本給部分の残業代34080円と歩合給部分の残業代1500円の合計額である35580円が、歩合制の残業代となります。
年俸制の社員に対する残業代は、どのように計算したらいいでしょうか?
1年間の給与(年俸)を、1年間の所定労働時間で割ることで、時給が算定できます。
その時給に、割増率(基礎賃金部分との合計による割合)と残業代の発生する時間をかけて計算します。
例えば、年俸が400万円で1年間の所定労働時間が2016時間の場合、時給は、500万円÷2016時間≒1984円となります。
時間外手当の発生する残業が20時間あった月の残業代は、1984円×(100%+25%)×20時間=49600円となります。
残業代の計算方法で不明な点があれば、労働問題に強い弁護士にご相談ください。
残業代の計算は、勤務体系や給与体系により計算方法が異なり、複雑な計算を要するものもあります。残業代の計算方法で不明な点があれば、労働問題に強い弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
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- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
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