残業代請求対応、未払い賃金対応

未払賃金、特に残業代の問題は、労使者間で多く発生する問題の1つです。現在働いている労働者からの請求もあれば、すでに退職した労働者から請求されることもあります。

従業員から残業代を請求された場合、請求を無視してはいけません。支払われるべき残業代が支払われていないということが明らかになれば、労基署からの是正勧告を受けることとなり、さらには書類送検され刑事罰を受ける可能性も出てきます。

そのため、まずは従業員から請求されている未払残業代の有無やその金額について事実関係を調査した上、適切に対応しなければなりません。

未払い賃金・残業代請求のリスク

従業員(あるいは元従業員)から残業代を請求された場合、現実に発生している(支払義務のある)残業代は払わなければなりませんが、従業員からの請求の中には、不必要な時間外労働が含まれていたり、労働時間を実際より長めに申告していたりするものもあります。使用者側としては、正確な未払賃金の金額について、賃金の定めや、労働者が実際に労働した時間などの根拠をもとに、明らかにしなければなりません。 また、時間あたりの賃金や労働時間が明らかになったとしても、たとえば固定残業代を含む所定労働時間が長すぎる場合など、賃金に関するルールの有効性が争われることもあります。

このように、残業代トラブルへの対応は予想以上に時間や労力を要し、一筋縄ではいかないことが多いですが、従業員側との交渉を弁護士に依頼することにより、適正な残業代を算出した上、従業員側からの請求に対して適切な反論を行い、事件を解決に導きます。

賃金の支払いに関する法律上の定め

労基法32条では、労働時間は原則として「1日8時間、1週40時間」を上限としています。これを法定労働時間といいます。これを超えた労働時間に対しては、原則として、割増賃金を支払わなければならず(時間外労働)、その他にも休日労働、深夜労働(午後10から午前5時の労働)に対して、割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。

残業代支払いの事前防止策

・変形労働時間制の導入
繁盛期と閑散期がある事業については、繁盛期の所定労働時間を長くし閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑に応じて労働時間を配分できれば残業代の支払いを押さえることができます。このような場合を想定して、労基法は、一定の期間について、平均して、1週間あたり40時間以内となるように所定労働時間を定めることを認めています。これを変形労働時間制といいます。

・定額残業制の導入
定額残業代とは、毎月定額で支払われる残業代のことで、「みなし残業代」「固定残業代」とも呼ばれます。通常の残業代は、実際の残業時間に連動して毎月の額が変わります。しかし、必要事項を定め的確な運用を行うことで、残業代を固定の額で支払うことが認められています。この制度は、①経営者が的確に人件費を把握できる②労働者の雇用環境整備(給与の安定)③時間外労働の抑制につながる④不測の残業代請求への備えることができる等のメリットがあります。

・事業場外のみなし労働時間制の導入
労働基準法38条の2第1項本文は、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなすとしています。(事業場外労働に関するみなし労働時間制)。この制度は、外勤者のように実労働時間を把握し労働時間を算定することが困難な場合に、残業代の支払いを押さえることができます。

・裁量労働制の導入
労働基準法38条の3は、業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行委の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務について、書面による労使協定を交わすなどすることにより、協定で定めた時間労働したものとみなすことができると規定しています(専門業務型裁量労働制)。また、同様に、同法38条の4は、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査及び分析の業務についても、協定で定めた時間労働したものとみなすことができると規定しています(企画業務型裁量労働制)。この制度は、業務の性質上、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、その遂行方法や時間配分の決定等の具体的な指示をすることが困難な業務について、みなし労働時間分を労働したものとみなすことで、残業代の支払いを押さえることができます。

未払い残業代の支払い義務と罰則

残業時間の立証責任

残業代を含む賃金請求において、賃金を請求する根拠=労働した事実の主張立証責任は労働者側にあります。つまり、「〇年〇月〇日に、18:00~20:00までの2時間残業した」ことを、証拠をもって立証していかなければなりません。逆に、立証できなかった場合は、残業しなかったものと認定されることになります。このように、立証責任を負っている労働者側としては、残業したことの証拠を提出しなければ、自らの主張が認められません。

未払い賃金請求の対応

初動対応の重要性

まず、従業員が、どのような根拠に基づいて、未払の残業代の請求をしているのか、確認する必要があります。事案によっては、従業員側の残業代請求に法的な根拠がなかったり、過大な請求をされている場合もあります。そのため、まずは正当な請求かを見極めることが重要といえます。

請求を放置した場合のリスク

ただし、正当な請求かを見極めると言っても、あまり長い間放置してしまうと以下のリスクが発生するため、注意する必要はあります。

①従業員が労働基準監督署へ申告する
労働基準監督署は、会社が労働基準法を遵守しているかどうか監視する機関です。会社への立入検査ができるなどの強い権限があり、会社に対し、指導を行うことができます。本件に関連した労働法違反などがある場合には、労働基準監督署による調査や指導の対象となります。

②従業員が労働審判を起こす。
労働審判は、通常の裁判と異なり、3回以内の期日で決着しなければならないという制度で訴えられた会社は、従業員が裁判所に訴えてから、原則40日以内に全ての主張と証拠を提出しなければなりません。

会社側が主張すべき反論

未払い賃金・残業代は発生していない

残業代が支払われるべき労働者であった場合には、支払われるべき未払いの金額については、支払う必要があります。しかし、労働者側からの請求は、実際よりも過大に請求されることが多くあります。本当に正しい時間・金額で計算されているかを確認する必要があります。

会社の許可なく残業をしていた

会社の許可なく残業していた場合には、会社としては残業代を払う必要はありません。もっとも、会社の明示の許可は無かったとしても、黙示の指示があるような場合、つまり、労働時間内で終わらないような大量の業務を命じた場合や、残業していることを知りながら、会社側がそれを黙認していたような場合には、黙示の指示があったものとして、残業代の支払義務が生じます。

管理監督者からの請求である

労働基準法41条2号は、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者は労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないと規定しています。そのため、当該労働者が管理監督者に該当すれば、会社に割増賃金(深夜手当は除く)の支払義務は生じません。

定額残業代として支払い済みである

定額残業など、そもそも残業代を支払わなくてもよい労働条件の労働者もいます。当該労働者との間の雇用形態を、必ず確認するようにしましょう。

消滅時効が成立している

未払賃金などの労働債権の時効は2年ですから、消滅時効の完成時期に注意してください。
労働者側の弁護士から送付される書面には、勤務期間全ての未払残業代の請求が記載されている場合があります。2年以上前の未払い残業代に関しては、時効であるため、支払う義務はありません。

未払い賃金請求の和解と注意点

労働基準法24条1項では、賃金は、その全額を労働者に直接支払わなければならないと定められており、判例上も、和解で賃金債権を放棄する場合には、一定の制約が掛けられています。具体的には、労働者が賃金債権を放棄したと認められるためには、それが自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在している場合にはじめて有効なものとなります。(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)

そのため、未払い賃金請求の和解において大事なことは、労働者とのやり取りを客観的に残しておく、ということになるかと思います。そうすれば、後に労働者から無理やり和解させられたと主張されたとしても、労働者の自由な意思に基づく和解であったことが裁判所に認定されやすくなります。

付加金・遅延損害金の発生

会社が残業代を支払わない場合、労働者は、会社に対して、その未払いの残業代の他にその未払い額と同額を請求することができます。これを付加金と言います。
また、未払い残業代については、年利6パーセントの遅延損害金を請求することができます。
このように、会社が残業代を支払わない場合、未払い残業代の他に付加金や遅延損害金も支払わなければいけなくなります。

弁護士に依頼すべき理由

未払賃金問題の発生を防ぎ、また問題が発生した場合にできるだけスムーズに解決するためには、雇用契約書や就業規則の中で基本となる賃金の金額や所定労働時間と割増賃金が適用される労働時間との区別を明確にすることが重要です。また、時間外労働時間数を明らかにするための勤怠管理もきちんと行わなければなりません。

また、せっかく明確なルールを定めても、たとえば長時間の時間外労働を前提とする固定残業代の定めが労働者の健康を損なう危険のあるものとして無効であると判断されてしまう場合もあります。賃金や労働時間に関するルールは労働環境の適正さという点で問題を含むものであってはなりません。

弁護士は、残業代問題発生後の交渉・訴訟対応だけでなく、トラブルを未然に防ぐための就業規則の整備、職場環境の調整などについて、法的な見地から適切なアドバイスを行うことができますので、ぜひご相談ください。

この記事の監修

弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 所長弁護士 西谷 剛
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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