「残業代」とは何か? 割増賃金が発生する3つの「労働」

公開日:2020年8月26日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

「残業代」という言葉をよく耳にするという方は多いのではないでしょうか。実は、労働時間について規定している労働基準法を見ても、「残業代」という文言は存在しておらず、法律用語ではないのです。

ここでは、割増賃金が発生する①時間外労働、②深夜労働、③法定休日労働についてご紹介し、割増賃金について理解を深めていただきたいと思います。

残業代割増賃金の定義

割増賃金とは、会社で定められた所定の労働時間を超えて働いた場合に、得ることのできる対価のことをいいます。

割増賃金の発生と36協定の関係

労働基準法32条1項では、法定労働時間として1日8時間、1週40時間以上「労働させてはいけない」こと、労働基準法35条では、毎週少なくとも1回の休日を与えること(1項)、4週間のうち4日以上の休日を与えること(2項)を規定しているため、原則として、時間外労働・休日労働をさせることは禁止されています。

しかし、例外として、使用者と労働者の間で協定(いわゆる「36(サブロク)協定」)を結ぶことにより、労働者に時間外労働や休日をさせることができます(労働基準法36条)。

使用者が労働者に対して時間外労働や休日労働を命令するためには、①使用者と労働者との間で、時間外労働・休日労働について36協定を締結すること、②36協定を労働基準監督署長に届出をすること、③就業規則において、時間外労働・休日労働に関する定めを記載することが必要となります。

割増賃金はどの時点で発生するのか?

労働基準法37条は、時間外労働、休日労働、深夜労働(午後10時から午前5時の労働のこと)に対しては割増賃金を支払わなければならないことを定めています。

したがって、割増賃金は、時間外労働をしたとき、休日労働をしたとき、深夜労働をしたときに発生するということができます。

以下で、それぞれの割増賃金について詳しく見ていきましょう。

労働基準法で定められる労働時間

労働基準法32条1項は、1日8時間、1週40時間以上労働させてはいけないと規定しています。これを法定労働時間といいます。

時間外労働の割増賃金

時間外労働の割増賃金は、法定労働時間を超過した場合に発生します。つまり、1日8時間、1週40時間以上の法定労働時間を超過した場合に、割増賃金が発生することになります。 時間外労働をした場合の割増率は、2割5分以上と規定されています(労働基準法37条1項)。

例えば、時給1,000円という契約内容の労働者が9時間の労働をした場合、時間外労働時間1時間×時給1,000円×割増率1.25=1,250円に加え、法定労働時間の賃金8,000円を合計した9,250円の賃金が発生していることになります。

法定内残業には割増賃金が発生しない

割増賃金は、法定労働時間を超過したときに発生するのであり、所定労働時間を超えたとしても法定労働時間以内であれば、割増賃金は発生しません。

例えば、会社の就業規則に定められた所定労働時間が1日7時間で、ある日の労働時間が7時間半だったケースを想定します。労働時間が7時間半であるため、所定労働時間は超過していますが、法定労働時間は1日8時間なので、その日の労働時間は法定労働時間を超過しておらず、割増賃金は発生していないことになります。

深夜労働の割増賃金

深夜労働の割増賃金は、深夜労働(午後10時から午前5時の間の労働)を行った場合に発生します。 深夜労働をした場合の割増率は、2割5分以上と規定されています(労働基準法37条4項)

例えば、時給1,000円という契約内容の労働者が午後10時から午前5時の間に労働をした場合、労働時間7時間×時給1,000円×割増率1.25=8,750円の賃金が発生していることになります。

深夜労働に該当する労働時間とは

これについては、所定労働時間が設定されている場合など時間外・休日労働に該当しない場合であっても、深夜労働に対して深夜割増賃金を支払う義務があります。

例えば、所定労働時間が午後10時から午前5時という契約内容の労働者が、所定労働時間通り労働をした場合、労働時間7時間×時給1,000円×割増率1.25=8,750円の賃金が発生していることになります。深夜労働(午後10時から午前5時の間の労働)に労働すれば、必ず深夜労働の割増賃金を支払わなければならないことになります。

なお、管理監督者(労働基準法41条)は、時間外労働及び休日労働に対する規制が及ばないため割増賃金の適用を受けることができませんが、深夜労働に関しては割増賃金の適用をうけることに注意が必要です。

法定休日労働の割増賃金

割増賃金が発生する法定休日労働は、法定休日(1週1日若しくは4週4日の休日)の労働についてのみ該当します。法定休日労働をした場合の割増率は、3割5分以上と規定されています(労働基準法37条2項)。

例えば、時給1,000円という契約内容の労働者が法定休日に午前9時から午後5時の間に労働(休憩時間1時間)をした場合、労働時間7時間×時給1,000円×割増率1.35=9,450円の賃金が発生していることになります。

法定休日と法定外休日の違い

割増賃金は法定休日の労働に発生しますが、法定休日とはどのような休日のことをいうのでしょうか。「法定休日」とは、労働基準法で定められた最低水準の休日のことをいいます。労働基準法35条は、「毎週少なくとも1回の休日を与えること」(1項)、「4週間を通じて4日の休日を与えること」(2項)を定めています。したがって、法定休日とは、1週1日若しくは4週4日の休日ということになります。

他方、「法定外休日」とは、企業が定めた法定休日の数を上回る日数の休日のことをいいます。週休二日制を導入している企業の場合、2日の休日のうち、どちらかが「法定休日」に該当し、残りの休日は「法定外休日」に該当することになります。

そうすると、企業が定めた休日が毎週土曜日、日曜日の場合、土曜日に労働させた場合であっても、日曜日(法定休日)に休日が確保されているため、休日労働に該当せず、割増賃金は発生しないことになります。

時間外・深夜・休日労働が重なる場合の割増賃金

労働基準法37条各項において、時間外労働・休日労働・深夜労働の3つの場合について規定し、割増率を定めていますが、これらが重なる場合があります。

その場合には次のような割増率になります。①時間外労働と休日労働が重複した場合は3割5分増以上、②時間外労働と深夜労働が重複した場合は5割増以上(1か月60時間を超える時間外労働の場合は7割5分増以上)、③休日労働と深夜労働が重複した場合は6割増以上となります。

ここで気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、深夜労働の場合(上記②と③)は、それぞれの割増率に加算することができます。他方、時間外労働と休日労働が重複した場合は割増率が加算されているわけではないことに注意が必要です。法定休日の労働時間は労使協定で決定されており、法定労働時間という概念が存在していないからです。

ここで、典型的な①の場合の具体例を挙げますと、時給1,000円という契約内容の労働者が法定休日に午前9時から午後7時の間に9時間労働(休憩時間1時間)をした場合、労働時間9時間×時給1,000円×割増率1.35=12,150円の賃金が発生していることになります。

割増賃金に関する裁判例

ここで、労働時間に関して判断した最高裁判例をご紹介いたします。

事件の概要

XらはY社の従業員として、ビルの設備の運転や点検、設備、ビル内の巡回監視等の業務に従事していました。Xらは、1か月に数回程度、午前9時から翌朝午前9時まで24時間勤務することがあり、その間に合計2時間の休憩時間と連続7時間ないし9時間の仮眠時間を与えられていました。

24時間勤務中は、原則としてXらは外出することができず、仮眠時間中は、ビルの仮眠室で待機し、呼出し等があれば直ちに所定の作業を行うことを義務付けられていました。

就業規則には、仮眠時間中に所定の作業を行った場合には、その時間に対する時間外労働賃金や深夜労働賃金を支給することが記載されていましたが、仮眠時間中に所定の作業を行わなかった場合には、時間外労働賃金や深夜賃金は支払われないこととされていました。

そこで、XらはY社に対して、仮眠時間中に所定の作業を行わなかったとしても、それらの時間は「労働時間」に該当することから、時間外労働賃金ないし深夜労働賃金の支払いを求めました。

裁判所の判断(事件番号:最高裁判決平成14年2月28日―大星ビル管理事件)

裁判所は、「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間が労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の使用命令下に置かれているかと評価できるか否かによると述べました。

そして、不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているとはいえず、労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、使用者の指揮命令下に置かれていないと評価することができると述べました。

当該事件については、仮眠時間中であっても、ビルの仮眠室で待機し、呼出し等があれば直ちに所定の作業を行うことを義務付けられており、実作業を行うのはその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しい等、実質的に所定の作業を行う義務がないと認めるような事情もないことから、本件仮眠時間は、全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労務の提供が義務付けられていると評価しました。

したがって、仮眠時間中は、不活動仮眠時間も含めて使用者の指揮命令下に置かれているといえ、労働時間に当たるとしました。

ポイントと解説

本判例のポイントは、実作業に従事していない仮眠時間についても労働時間に該当する場合があると判断したところにあります。

本判例の判断を分けたのは、ビルの仮眠室で待機し、呼出し等があれば直ちに所定の作業を行うことを義務付けられ、仮眠時間中においても労働から解放されていなかったことです。

実作業に従事していない場合でも、使用者の指揮命令下から離脱しているといえない場合には「労働時間」にあたり、賃金を支払わなければならない可能性があります。

割増賃金に関するQ&A

これまで割増賃金についてご説明してきましたが、ここからは割増賃金についてのよくある質問、それに対する回答をご紹介いたします。

残業代を毎月定額で支払うことは可能ですか?

結論として、可能です。いわゆる固定残業代という給与制度であり、一定の残業代を予め給与として支給しています。この制度を取り入れている企業も多く存在しますが、一定の注意が必要です。

固定残業代が許容されるにあたり、最高裁判例(テックジャパン事件の補足意見)は、①雇用契約上に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間の残業手当が算出されていることが明確にされていること、②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること、③一定時間を超えて残業が行われる場合には別途上乗せして残業手当を支給する旨をあらかじめ明らかにしていることという3つの要件を満たさなければならないと述べました。

固定残業代制度を導入するメリットとしては、企業側としては給与計算が簡明になること、労働者側としては労働者間の不公平さが解消されることです。

早朝出勤に対しても割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?

結論として、一定の要件をみたした場合には割増賃金を支払わなければなりません。その一定の要件とは、①早朝出勤し、労働した内容が業務に関連していること(業務関連性)、②早朝出勤について使用者の明示又は黙示の指示があったこと(黙示又は明示の指示)です。

したがって、労働者が通勤ラッシュを避けるために自発的に早く出勤した場合でも、始業時間まで私的な時間を過ごしていた場合には、割増賃金を支払わなくていいということになります。

近年、始業時間前に朝礼を行っている企業が増えていますが、朝礼に参加しないと何らかの不利益を受ける場合や、朝礼内で業務上不可欠な業務連絡が行われる場合には、朝礼に参加することが不可欠であったと認定され、割増賃金が発生してしまう可能性があります。

未払い残業代が発生した場合、会社にはどのような罰則が科せられますか?

労働基準法に違反した場合、労働基準法117条以下で罰則を設けています。残業代を支払っていない場合には、労働基準法37条に違反したことになりますので、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになります(119条1号)。

また、裁判所は、労働者の請求により未払いの残業代の他に、これと同額の付加金の支払いを使用者に対して命じることができるとされています(労働基準法114条)。この規定は、裁判所が未払い残業代の支払いに加えて、付加金の支払いを命じることができるとすることで、未払い賃金の支払いを確保することを目的とした規定といえます。

したがって、裁判所から賦課金の支払いを命じられる前に対処しておく必要があります。

定額残業代制の労働者が深夜労働をした場合、割増賃金は発生するのでしょうか?

定額残業代制とは、一定時間分の時間外労働、法定休日労働、深夜労働にかかる割増賃金分を、基本給の中に組み込んでいる制度です。

基本給の中に一定時間分の割増賃金を組み込んで給与を支払うという制度であるため、労働者が固定残業代として明示している労働時間を上回る時間外労働等を行った場合などは当然その差額分を支払わなければならなくなります。

就業規則において、割増賃金は支払わない旨を定めることは可能ですか?

労働基準法に違反する就業規則を定めた場合には無効となりますので、労働基準法の適用を受けることになり、割増賃金を支払わなければならなくなります。

したがって、就業規則にいて、割増賃金は支払わない旨を定めることは不可能といえます。

法定休日労働の後に代休を与えました。この休日労働に割増賃金は発生しますか?

法定休日労働後に代休を与えたとしても、あくまでも休日労働を行わせたことに変わりはありません。

法定休日労働後に代休を与えたとしても、休日労働に対する割増賃金(3割5分以上)は発生しているといえます。

割増賃金が適用されない管理監督者とは、どのような者のことを言うのでしょうか?

管理監督者は「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条2号)といいます。管理監督者に割増賃金が適用されないのは、労働管理において経営者と一体的立場にあると考えられており、労働時間の規制になじまないからです。

そこで、管理監督者に該当するのはどのような者をいうのかが問題となります。下級審では、①経営方針の決定への参加ないし労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるかどうか(経営者との一体性)、②自己の勤務時間に対する自由裁量を有するかどうか(労働時間の裁量性)、③その他に相応しい処遇を受けているかどうか(賃金等の待遇)を主要な判断要素として、管理監督者に該当するかどうか決定しています。

日本マクドナルド事件は、直営店の店長が過去2年分の法定外労働に対する割増賃金の支払いを求めた事件で、当該店舗の店長は、店舗のアルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営については重要な責務を負っているといえるものの、その権限は店舗内の時効に限られ、企業経営上の必要から経営者との一体的な立場において、労働時間等の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないといえるような重要な責務と権限を付与されているとはいえず、その賃金も管理監督者に対する処遇として十分とは言えず、管理監督者に該当しないと判断しました。

出張の移動時間にも割増賃金を支払う必要はあるのでしょうか?

最高裁判所(平成12年3月9日判決・三菱重工長崎造船所事件)は、「労働時間」とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるかどうかによって決まると述べました。したがって、「労働時間」に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかを客観的に判断して決まることになります。

出張の移動時間については、使用者から出張を命じられているため、「労働時間」に該当するように思えますが、原則として出張の移動時間は労働時間に該当せず、割増賃金を支払う必要はないのです。なぜなら、出張の移動時間を睡眠時間に充てたり、労働に関係ない本を読む時間に充てたりと労働者の自由裁量により判断でき、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないからです。

したがって、出張の移動時間については、割増賃金を支払う必要はないといえます。

祝日を休日と定めています。祝日に労働させた場合は割増賃金が発生しますか?

原則として、法定休日(1週1日若しくは4週4日の休日)が確保されている場合には、祝日に労働させたとしても、法定休日労働に該当せず、3割5分以上の割増賃金の支払いは不要です。

もっとも、休日労働をすることにより、週40時間を超過する場合には、時間外労働として、2割5分以上の割増賃金を支払わなければならなくなることに注意が必要です。

フレックスタイム制の場合でも割増賃金は発生しますか?

フレックスタイム制とは、労働者が始業・終業時刻を自らの裁量で決定し労働することのできる制度のことをいいます(労働基準法32条の3)。フレックスタイム制の場合、使用者はある一定期間(例えば1か月等)を清算期間として労働時間を把握します。そこで、清算期間における総労働時間と実際の労働時間を比較し、実際の労働時間が超過している場合には、時間外労働を行っていたとされます。

また、フレックスタイム制の場合であっても、深夜労働や法定休日労働をした場合には、割増賃金は発生します。

割増賃金に関する様々な疑問に弁護士がお答えします。不明点があれば一度ご相談ください。

これまで割増賃金についてご説明させていただきました。労働者に対して割増賃金を支払わなければならないかどうか判断に困るケースも多々あると思います。残業代という言葉が、世の中に広まっている昨今では、労働者が企業に割増賃金を請求することは少なくありません。労働者側の割増賃金についても経験豊富な弊所であれば、使用者側の立場として適切なアドバイスができると存じます。

不明点等ございましたら、気軽にご相談ください。

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