労務

カスタマーハラスメント対応について解説

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

  • ハラスメント

近年、ハラスメントという言葉をよく聞くようになりましたが、みなさんは、カスタマーハラスメントという言葉をご存じでしょうか。
カスタマーハラスメントとは、顧客の企業に対する嫌がらせのことをいいます。
ここでは、カスタマーハラスメントについてご紹介いたします。

目次

企業にはカスタマーハラスメントから社員を守る義務がある

企業は、従業員に対して安全配慮義務を負っています。具体的には、従業員が顧客からカスタマーハラスメントの被害に遭わないように配慮したり、万が一、カスタマーハラスメントに遭ってしまった従業員に対して適切な対応をする義務を負っています。
したがって、企業には、カスタマーハラスメントから従業員を守る義務があるといえます。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメントについて定義している法律は存在していないのですが、厚生労働省によると「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当のものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しております。

カスハラが増加した背景

インターネットが普及したことにより、カスハラは増加したと言われていますが、具体的にどれくらい増加したかについては、測定することは困難です。
全国民がストレスを感じるような状況になれば、よりカスハラは増加するといわれており、実際にも、新型コロナウイルスにより、カスハラは増加したとの結果があります。

カスハラとクレームはどう違うのか?

法律上、カスハラとクレームを明確に区別しているわけではありませんが、一般的には、企業や従業員に対して攻撃する意思があるかどうかが基準となります。
カスハラが企業や従業員に対する嫌がらせを目的とするものであるのに対し、クレームは、商品やサービスを改善することを目的とするものであります。

クレームの悪質性を判断する難しさ

上記のとおり、カスハラとクレームとは、企業や従業員に対して攻撃する意思があるかどうかによって判断することになりますが、その判断はとても専門的で難しいものといえます。
したがって、従業員がカスハラなのかクレームなのかを判断できない場合には、上司に相談したり、弁護士に相談するようにしましょう。

カスタマーハラスメントについて企業が取るべき対応

顧客によって、企業に対する要望は異なりますし、個別的な要望を予測することは不可能です。
しかし、企業としては、起こるかもしれないカスタマーハラスメントに対して、一定の対策を講じる必要があります。以下では、カスタマーハラスメントについて、企業がとるべき対応についてご説明いたします。

マニュアル・対応フローの作成

上記のとおり、顧客によって企業に対する要望は異なるため、それぞれの要望を予測して対策を講じることは容易ではありません。しかし、何らマニュアルがない状態で、カスハラに対する対応をすることは困難です。
したがって、カスハラに対するマニュアル・対応フローの作成をしておくといいでしょう。

カスハラに対応する従業員も、マニュアル・対応フローが存在していることにより、安心感を得ることができますし、そのマニュアルで解決できる事例も存在するからです。

カスハラ対策に関する研修

上記のとおり、カスハラに対するマニュアル・対応フローを作成した上で、カスハラ対応に関する研修を行いましょう。カスハラ対応に関する研修といっても、講義形式ではなく、ロールプレイ研修など、具体的な事案を基に、研修を行うといいでしょう。
実際に対応をしてみることで、従業員もカスハラに関する対応能力を備えさせることができます。

相談窓口の設置

カスハラに対する相談窓口を設置するようにしましょう。そうすることで、カスハラ対応を一括して対応し、早期に解決することが期待できますし、何より、従業員の心理的負担を緩和させ、最終的に従業員を守ることができます。

被害者のストレス対策

カスハラは、従業員に対し、心理的負担を与えるものです。雇用主は、従業員の労働環境を整備し、労働者の心理的負担を軽減するよう、配慮しなければなりません。
そのために、被害者である従業員に対し、カウンセリング等を行い、従業員のストレス対策を講じるようにしましょう。

カスタマーハラスメントに関する裁判例

ここで、カスタマーハラスメントに関する裁判例をご紹介いたします。

事件の概要

コールセンターで勤務していた原告が、第三者によるわいせつ発言や暴言を受けたが、被告がその者に対して刑事や民事上の法的措置をとることなどにより、第三者によるわいせつ発言や暴言等に触れさせないようにすべき安全配慮義務を怠り、これによって原告が精神的苦痛を受けたとして、損害賠償請求を行った事件です。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

上記事例について、裁判所は、被告が、視聴者のわいせつ発言や暴言、著しく不当な要求からコミュニケーターの心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って上記のような対処をしていること、被告は、NHKから業務委託を受けている立場にあり、被告の判断のみでは、受信料を支払っている視聴者に対して刑事告訴や民事上の損害賠償請求といった強硬な手段をとることは困難であること、また、視聴者によるすべてのわいせつ発言、暴言、理不尽な要求等についてかかる強硬な手段をとることは不可能であり、仮にそのような手段に出たときには視聴者の反感を買ってかえってクレームが増加し、コミュニケーターの心身に悪影響を及ぼすおそれすらあることなどを述べ、わいせつ発言や暴言、著しく不当な要求を繰り返す視聴者に対し、被告が直ちに刑事・民事等の法的措置をとる義務があるとまでは認められないと判断しました(横浜地方裁判所川崎支部令和3年11月30日)。

ポイントと解説

本裁判所は、第三者からのわいせつ発言等が生じた場合に、被告会社では、どのような対応をしているのかということを詳細に検討し、「視聴者のわいせつ発言や暴言、著しく不当な要求からコミュニケーターの心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って上記のような対処をしている」と判断しました。
したがって、従業員に対し安全配慮義務を負っている会社は、カスタマーハラスメントが生じた際、どのような流れで対処するか、従業員に対しどのような配慮をするかという点において十分な検討をしておく必要があり、そのような配慮がないと判断された場合には、損害賠償責任を負う可能性があるといえます。

職場におけるハラスメントの法改正と企業対応

厚生労働省のカスハラに対する指針

厚生労働省が発表したカスハラに対する指針では、カスタマーハラスメントの判断基準が挙げられており、①顧客等の要求内容に妥当性はあるか、②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして妥当な範囲かどうかという基準によりカスタマーハラスメントに該当するかどうかを判断します。
なお、殴る・蹴るといった暴力行為については、ただちにカスタマーハラスメントに該当すると判断するようです。

防止対策の強化に向けて企業が講ずべき措置

厚生労働省が発表したカスハラに対する指針では、カスハラ対策の基本的な枠組みが記載されております。
カスタマーハラスメントを想定した事前準備として、①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発、②従業員のための相談対応体制の設備、③対応方法、手順の策定、④社内対応ルールの従業員等への教育・研修が必要とされております。

また、カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応として、⑤事実関係の正確な確認と事案への対応、⑥従業員への配慮の措置、⑦再発防止のための取り組み、⓼①~⑦までの措置と併せて講ずべき措置(相談者のプライバシーを保護するための措置など)が必要と考えられています。

カスハラに関するよくある質問

ここで、カスハラに関してよくあるご質問をご紹介いたします。

カスハラで従業員が長時間拘束された場合の対処法を教えて下さい。

従業員が顧客から、長時間にわたって拘束された場合、カスハラに該当する可能性があります。
そのため、一定時間を超える場合には、お引き取りを願うか、電話を切るというような対応をするといいでしょう。電話を切ったあとでも、複数回電話がかかってくるような場合には、対応可能な時間を伝えて、それ以上対応しないようにしましょう。

カスハラ対策として会話の内容を録音・記録することは、法律上問題ないでしょうか?

結論として、問題ございません。民事裁判等になることに備えて、顧客からカスハラを受けた客観的証拠を収集するようにしましょう。

カスハラ問題で裁判に発展した場合、カスハラの事実を裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?

民事裁判等に発展した場合、顧客からカスハラが存在していたということを裁判官に認定してもらうためには、カスハラがあったという証拠が必要となります。
カスハラがあったことを証明するための証拠としては、電話の記録(録音等)や監視カメラ映像、メールなどが考えられます。

不良品など店側の過失に対するクレームもカスハラにあたるのでしょうか?

カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当のものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」といわれているため、店側の過失に対するクレームであっても、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不当のものであり、労働者の就業環境が害されるものについては、カスハラに該当するということができます。

悪質なクレームにより、従業員が土下座を強要されました。強要罪に該当しますか?

刑法223条1項は、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した」場合に、強要罪が成立すると規定されております。
したがって、顧客が従業員に対し、「謝罪しなければ、暴行を加える」などと言い、土下座を求めた場合などには、強要罪(刑法223条1項)が成立するといえます。

会社の名誉毀損に該当するネット上の書き込みは、削除してもらえるのでしょうか?

顧客からのネット上の書き込みが、会社の名誉を棄損するものであった場合には、適切な方法により、当該書き込みを削除することを求めることができます。

SNSへの書き込みによる誹謗中傷に対し、損害賠償を請求することはできますか?

顧客のSNSへの書き込みにより、会社の信用や名誉を棄損した場合には、その顧客に対し、損害賠償を請求することができる可能性があります。
その場合には、弁護士への相談をおすすめします。また、当該書き込みが削除される前に、写真を撮るなど、証拠化しておきましょう。

カスハラによる不当な金銭要求があった場合、金銭は支払った方が良いのでしょうか?

結論として、金銭を支払う必要はありません。当該要求が適切であるかどうかも含めて、早急に弁護士へ相談することをお勧めします。

取引先の企業からカスハラを受けた場合の対処法を教えて下さい。

相手が取引先の企業の場合、対応が困難となる可能性があり、従業員での判断では対応することは避けましょう。速やかに上司に相談し、どのように対処するべきかを協議することをおすすめします。

カスハラにより従業員がメンタルヘルス不調となった場合、会社はどのような措置を取るべきでしょうか?

まず、従業員から事実の調査を行うべきでしょう。ここで、当該従業員の精神状態に配慮しなければなりません。そして、今後の業務量等を調整し、従業員が職場復帰し、業務をこなせるように環境調整を行うべきです。
必要があれば、産業医等に対応を引き継ぐことも考えられます。

客から「家族を傷つけるぞ」などという暴言を浴びせられました。脅迫罪に該当しますか?

刑法222条1項は、相手に対して、直接「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合には、脅迫罪が成立すると規定されています。他方、222条2項において、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合にも、脅迫罪が成立すると規定しており、本件の場合には、「家族を傷つけるぞ」と発言し、家族の生命身体に対し害を加える旨を告知しているため、脅迫罪が成立するといえます。

カスタマーハラスメントには毅然とした態度が求められます。ハラスメント問題でお悩みなら、一度弁護士にご相談ください。

これまでカスタマーハラスメントについてご説明いたしました。カスタマーハラスメントに該当するかどうかという問題は、一般人には容易ではありません。また、カスタマーハラスメントが起きた場合の企業側の対応も容易ではなく、従業員への配慮も必要不可欠となります。


もし、カスタマーハラスメントの被害にあった場合には、弁護士に相談するようにしましょう。弊所の弁護士であれば、カスタマーハラスメントに悩む企業様のお力になれると考えます。 まずは、お気軽にお問い合わせください。

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姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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