監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- ハラスメント
パワーハラスメント、いわゆる「パワハラ」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法で言われるパワハラとは、職場において、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものと定義されています。
ここでは、企業側として、パワハラ問題をどのように対応したらいいかをご説明いたします。
目次
- 1 企業におけるパワーハラスメント対応の重要性
- 2 労働施策総合推進法改正によるパワハラ防止対策の法制化
- 3 パワーハラスメントに該当する言動例
- 4 パワハラ発生時に企業が取るべき対応とは
- 5 パワハラの事実を確認できなかったときの対応
- 6 パワーハラスメントに関する裁判例
- 7 プライバシーの保護・不利益取扱いに関する留意点
- 8 パワーハラスメントの予防に向け、企業はどう取り組むべきか?
- 9 パワハラに関するQ&A
- 9.1 部下を宗教に勧誘する社員をパワハラとして処分することは可能ですか?
- 9.2 部下から嫌がらせを受けていると相談がありました。部下から上司に対する嫌がらせもパワハラにあたるのでしょうか?
- 9.3 パワハラのヒアリングを会社近くのカフェで行うことは問題ないですか?
- 9.4 パワハラ加害者を解雇する場合も、解雇予告手当の支払いは必要でしょうか?
- 9.5 パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることは問題ないですか?
- 9.6 社員からパワハラの相談を受けましたが、自分だけでは解決できません。同僚に相談してもいいですか?
- 9.7 パワハラの実態を調査するために、社内アンケートを実施することは問題ないでしょうか?
- 9.8 パワハラ問題について、相談者と行為者の主張が一致しない場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか?
- 9.9 正当な指導かパワハラかを判断する基準はありますか?
- 9.10 パワハラの再発防止にはどのような取り組みが有効となりますか?
- 9.11 パワハラに関する社内ルールを、就業規則に規定することは可能ですか?
- 9.12 パワハラがあったことを裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?
- 9.13 社内に設置する相談窓口の担当者は、どのような人材を選任すべきでしょうか?
- 10 パワーハラスメントが発生した場合の対処法は、労働問題を専門的に扱う弁護士にお任せください。
企業におけるパワーハラスメント対応の重要性
企業におけるパワーハラスメントへの対応・取り組みは、極めて重要となります。一度企業内でパワハラ問題が生じてしまうと、優秀な人材を失ってしまう可能性があり、ひいては、企業内の生産性が著しく低下してしまう可能性があるからです。そして、企業内でパワハラ問題があったという情報が流出してしまうと、企業のイメージも低下することに繋がります。
したがって、企業にとってパワハラ問題は重要な問題であるのです。
重大な経営リスクになりかねないパワハラ問題
パワハラ問題が生じてしまった場合、パワハラを受けた被害者が退職するのみならず、被害者周囲の人なども退職する可能性があり、その場合、多くの人材を失うことになります。
また、被害者からパワハラを受けたことに対する損害賠償を請求される可能性があります。
さらに、パワハラ問題が生じたという情報が外部に流れてしまった場合、企業イメージが低下することになり、就職活動や企業価値に影響が及ぶことになります。
労働施策総合推進法改正によるパワハラ防止対策の法制化
労働施策総合推進法(以下、「パワハラ防止法」といいます。)が改正され、職場においてパワハラを防止する措置を講ずべきことが義務付けられ、2020年6月より施行されています。なお、中小企業については、2022年4月から義務化となりましたが、それまでは努力義務にとどまっています。
パワハラ防止法が成立した背景
上司から部下に対するパワハラやいじめが問題視されるようになったにもかかわらず、パワハラに関する法律が存在していませんでした。そのような経緯から、パワハラ防止法が制定されることになりました。
パワハラ防止法の施行に向けて企業はどう取り組むべきか?
パワハラ防止法の改正により、企業は「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならな」くなりました(パワハラ防止法30条の2第1項)。
具体的には、企業側としては、パワハラを防止するために、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の設備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応といった社内体制を整備しなければなりません。
パワーハラスメントに該当する言動例
パワハラとは、職場において、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいいます。
厚生労働省では、パワハラの言動例として、①精神的な攻撃(社員の面前で叱責、長時間にわたる説教など)、②身体的な攻撃(叩く、殴る、蹴る、物を投げるなど)、③過大な要求(やり方がわからないにもかかわらず、定時には終わるはずもない量の仕事を押し付けるなど)、④過小な要求(本来の仕事を与えられず、掃除等の本来の仕事とはかけ離れた仕事を命令される)、⑤人間関係からの切り離す行為(一人だけ部署とは離れた席に移される、一人だけ無視)、⑥個の侵害(プライベートの詮索、配偶者への悪口など)と6つの分類をしています。
パワハラ発生時に企業が取るべき対応とは
もし、会社内で「パワハラをされた」との相談を受けた場合など、どのような対応をとるべきでしょうか。以下のようなことが考えられます。
ヒアリングによる事実調査
まずは、ヒアリングにより事実調査をする必要があります。なぜなら、パワハラといっても明確に判断できる事例が多いわけではありません。したがって、まずは事実確認をする必要があります。
メールや文書などの証拠がある場合には、証拠等の調査をし、目撃者がいる場合には、その者に対する聞き取り調査を行うべきであります。
ヒアリングを行う前提として、従業員が相談しやすいような「相談窓口」を設置しておくといいでしょう。
就業規則の規定に基づく判断
パワハラ行為が存在していたとして、その者に対する処分はどのようなものが考えられるのでしょうか。それは、就業規則に規定されている内容に基づいて判断されなければなりません。なぜなら、会社における処分は就業規則にとって規定されている上、すでに従業員に告知されているものであるからです。
パワハラの加害者に対する処分について
ヒアリングによる事実調査の結果、パワハラの事実が確認できた場合、加害者には、就業規則に定められた処分が下されることになります。就業規則に規定されている処分内容を確認し、本件パワハラに対して、どの段階での処分を下すことが適切かを判断しなければなりません。就業規則には、その判断基準等を規定しておくといいでしょう。
パワハラの事実を確認できなかったときの対応
ヒアリングによる事実調査の結果、パワハラの事実が確認できなかった場合、加害者に対し、具体的な処分をすることはできません。だからとって、企業側として何らの対策が不必要となるわけではありません。パワハラを受けたと相談した従業員には、丁寧な説明をしなければなりませんし、加害者には、被害者がパワハラを受けたと相談に来たことを伝え、今後における指導等を行う必要があります。
今後、同じようなことが起きないような対応をしなければなりません。
パワーハラスメントに関する裁判例
以下では、パワハラに関する裁判例をご紹介します。
事件の概要
会社の営業所長Aが、事業成績を改ざんするという不正経理を行っていたところ、Aの上司であるXがAの不正経理を発見し、Aに注意をした。その後、Aは、営業所内で自殺した。
Aの相続人らがXに対し、Aの自殺は、Xから社会通念上許容される範囲を著しく超えた過剰なノルマ達成の強要や執拗な叱責を受けたことなどにより、心理的負荷を受けてうつ病を発症し、又は増悪させたためであるとして、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求、予備的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求を行った。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
当該請求に対し、裁判所(高松高等裁判所・平成20年(ネ)第258号・平成21年4月23日判決)は、①XからAに対する過剰なノルマ達成の強要があったと認めることはできない、②AはXから、架空の出来高の計上等を是正するよう指示を受けたにもかかわらず、これを是正することなく漫然と不正経理を続けていたことから、Xから再び指示及び注意を受けたこと、その後も必要な日報を作成しておらず、上司から作成するよう求められていたにもかかわらず、それに応じなかったこと、そのような経緯から、ある程度厳しい改善指導することは、Aの上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるものというべきであり、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものと評価することはできないと判断しました。
ポイントと解説
パワハラとは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものと定義されていますが、本件判決は、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」について、様々な事情を総合的に考慮して判断しております。具体的には、上司の発言を形式的に捉えて判断するのではなく、これまでの経緯を分析して「②業務上必要かつ相当な範囲を超え」ていないと判断しています。
プライバシーの保護・不利益取扱いに関する留意点
パワハラ防止法には、会社側は、「労働者が前項(パワハラに関する規定)の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱い」をすることを禁止している(パワハラ防止法第30条の2第2項)。この規定から、企業側が、パワハラの相談に来た労働者に対し、不利益な取り扱いをしてはいけませんし、労働者のプライバシーを保護しなければなりません。
パワーハラスメントの予防に向け、企業はどう取り組むべきか?
企業としては、パワハラがあったとして、早期に発見することが重要となります。したがって、労働者が簡単に相談できるような窓口を設置する必要があります。
そして、パワハラがあった場合、加害者に対して、適正な処分を下す必要がありますので、就業規則が適切に規定されているかどうかを弁護士等の専門家にチェックしてもらい、労働者に周知しておきましょう。
パワハラに関するQ&A
以下では、パワハラに関するQ&Aをご紹介いたします。
部下を宗教に勧誘する社員をパワハラとして処分することは可能ですか?
パワハラとは、職場において、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいいます。
上記の定義からすると、①上司という優越的な関係にある者から、②宗教という業務に関連性のないものを、相当な範囲を超えた必要な勧誘を受けている場合には、③労働者の就業環境が害されている可能性がありますので、そのような場合には、パワハラに該当し、処分することは可能であります。
部下から嫌がらせを受けていると相談がありました。部下から上司に対する嫌がらせもパワハラにあたるのでしょうか?
これまで述べたとおり、パワハラとは、職場において、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいいます。
「部下からの嫌がらせ」は、①「優越的な関係」を背景とした言動かどうかが問題となりますが、結論として、パワハラに該当する可能性があります。なぜなら、部下であっても、知識や経験等様々な事情から「優越的な関係」は作ることができるからです。上司から部下に対する嫌がらせがパワハラの典型例でありますが、それに限らないことに注意が必要です。
パワハラのヒアリングを会社近くのカフェで行うことは問題ないですか?
パワハラのヒアリングというものは、個人情報であり、周囲の人に聞かれたくない話がほとんどであるため、他の従業員が利用している可能性がある、会社近くのカフェで行わないようにするべきであるといえます。
パワハラ加害者を解雇する場合も、解雇予告手当の支払いは必要でしょうか?
解雇予告手当とは、原則として30日前に解雇予告をしなければならないところ、30日前の予告をしない場合に、30日から不足している賃金を支払う手当のことを言います。例外として、労働者の責めに帰すべき事由が存在している場合には、解雇予告手当を支払う必要はありません。
確かに、パワハラをしたという事情は、労働者の責めに帰すべき事由に該当する可能性がありますが、その判断は慎重に行うべきです。弁護士などの専門家に相談しながら判断しましょう。
パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることは問題ないですか?
就業規則等に配置転換に関する規定が存在していることが前提となりますが、パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることは問題ありません。パワハラは、人的要素に原因があることがほとんどであるため、人的要素の原因を取り除くことで解決できる可能性があります。
したがって、パワハラを行った社員に配置転換を行うことは可能です。
社員からパワハラの相談を受けましたが、自分だけでは解決できません。同僚に相談してもいいですか?
パワハラの問題を一人の従業員で解決することは困難であります。しかし、パワハラという問題は、周囲の人に知られなくないと考えるのが通常であるため、被害者の同意なく同僚に相談することはしないようにしましょう。
被害者には、自分一人では解決できないことを伝え、会社の相談窓口等に相談することを勧めましょう。
パワハラの実態を調査するために、社内アンケートを実施することは問題ないでしょうか?
相談窓口を設置したとしても、パワハラを受けている全員が相談できるとは限りません。
そのような場合、社内アンケート等により、パワハラの実態を調査することは有益であると言えます。
アンケートを実施する場合、アンケートの取り扱いには十分注意しましょう。
パワハラ問題について、相談者と行為者の主張が一致しない場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか?
相談者と行為者の主張が一致しない場合、周囲の従業員からの聞き取りやメール等の客観的な証拠がないかを調査しましょう。そして、どのような判断をすればいいかお悩みの場合には、弁護士等の専門家に意見を聞いてみるといいでしょう。
正当な指導かパワハラかを判断する基準はありますか?
これまで述べたとおり、パワハラとは、職場において、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいいます。
正当な指導かどうかということは、当該指導が「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうかということが問題となります。
業務上必要な指導かどうか、必要な指導だとしても、もっと効果的で、従業員によって緩やかな指導があったかどうか等の事情により、「正当な指導か」を判断することになるでしょう。
パワハラの再発防止にはどのような取り組みが有効となりますか?
会社内で、パワハラ事件が起きてしまった場合、再発防止に向けた取り組みを行わなければなりません。
再発防止のためには、当該事件の概要のみならず、処分結果についても全体に周知するべきでしょう。また、弁護士等を講師に呼び、定期的なパワハラに関する勉強会を実施するといいでしょう。
パワハラに関する社内ルールを、就業規則に規定することは可能ですか?
パワハラに関する社内ルールを就業規則に規定することは可能です。就業規則に規定することにより、従業員に周知することができ、「どのような行為がパワハラに該当するのか」どうかという判断をすることができます。その結果、従業員のパワハラ防止につながると考えます。
パワハラがあったことを裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?
パワハラ行為の手段であったメール、パワハラ発言の音声、パワハラ行為を聞いていた周囲の従業員の証言が有効な証拠となります。パワハラを受けた人の日記やメモも証拠になります。日記やメモを証拠とする場合、定期的に日記やメモを残しておくと
社内に設置する相談窓口の担当者は、どのような人材を選任すべきでしょうか?
パワハラ当事者は、社内にいることが多いため、相談窓口を社内の人物を割り当ててしまうと、パワハラの相談がしにくくなってしまうデメリットがあります。
パワハラの相談ができなくなるという事態をできる限り回避するためには、弁護士等会社外の人物にお願いするといいでしょう。
パワーハラスメントが発生した場合の対処法は、労働問題を専門的に扱う弁護士にお任せください。
これまでみてきたように、企業側としてパワハラを防止すること、仮にパワハラが発生したとしてどのように対処するべきかどうかの判断は容易ではありません、企業によっては、パワハラ問題に力を入れたいという企業もあると思います。
そのような場合には、企業側の労働問題を多く取り扱ってきた弁護士に相談するべきであるといえます。弊所の弁護士であれば、これまで数多くの企業側の労働問題を多く扱ってきたため、できる限り、企業のニーズに合わせたアドバイスをすることができると存じます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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