監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 労働審判
労働審判は、労働者と使用者との間に生じた労働トラブルを、迅速かつ適正に解決するために設けられた裁判所の手続です。
労働審判の大きな特徴は、原則として3回以内の期日で審理が終結する点にあります(労働審判法15条2項)。通常の労働関係訴訟の平均審理期間が1年以上に及ぶことと比較すれば、極めて迅速な手続であるといえるでしょう。
もっとも、すべての事案が短期間で終結するとは限りません。事案の性質や当事者の対応次第では、想定以上に期間が長引いたり、訴訟へ移行したりするケースもあります。
本記事では、労働審判の手続の各段階にかかる期間を解説するとともに、審理が長引きやすいケースの特徴や、早期解決に向けた具体的な方法について詳しく説明します。
目次
労働審判の解決までにかかる期間は?
労働審判は、申立てから解決に至るまで、概ね2か月半から3か月半程度の期間を要するのが一般的です。以下では、手続の各段階ごとに、具体的な期間の目安を解説します。
申立て~第1回期日の指定
労働審判手続は、申立人が地方裁判所に申立書を提出することにより開始されます。
労働審判官(裁判官)は、特別の事由がある場合を除き、申立てがなされた日から40日以内の日に第1回期日を指定し、当事者双方を呼び出すこととされています(労働審判規則13条)。
相手方(多くの場合は使用者側)には、期日呼出状とともに申立書の写しが送付されます。
申立てから呼出状の到達までには郵送期間を要するため、相手方が実際に呼出状を受領するのは、申立てがなされた日から1週間ないし10日程度経過した後となるのが通常です。
この段階で重要なのは、相手方(多くの場合は使用者側)にとって、呼出状を受領してから第1回期日までの準備期間が約1か月弱と極めて短い点です。
答弁書の作成や証拠書類の準備を含め、迅速な対応が求められます。
第1回期日
第1回期日は、労働審判手続において最も重要な期日です。労働審判委員会(労働審判官1名と労働審判員2名で構成)が、当事者双方から直接事情を聴取し、争点の整理や証拠調べを行います。
第1回期日の所要時間は、通常2時間から3時間程度です。事案の複雑さや証拠の量によっては、それ以上の時間を要することもあります。
統計データによれば、約30%の事案が第1回期日で終結しており、この段階で調停が成立するケースも少なくありません。労働審判委員会は、第1回期日においておおよその心証を形成し、調停による解決の可能性を探ります。
そのため、証拠調べや当事者の主張・反論のほとんどは、この第1回期日で完了させることが予定されています。
第2回・3回期日
第2回期日は、第1回期日から概ね2週間から1か月程度後に設定されるのが一般的です。第1回期日で確認しきれなかった事実関係の補充や、調停に向けた交渉が中心となります。
第2回期日以降は、労働審判委員会がすでに形成した心証をもとに、各当事者と交互に面談し、和解の落としどころを模索する進行となることが多くなります。
事前の協議が整っている場合には、第2回期日の所要時間は1時間以内で終了することもあります。
第3回期日まで進む事案は比較的少数ですが、第3回期日でも合意に至らない場合には、労働審判委員会が審理の結果を踏まえた審判を下すことになります。
なお、当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回期日が終了するまでに主張及び証拠書類の提出を終了させなければなりません(労働審判規則27条)。
異議申し立て
労働審判委員会による調停が成立せず、審判が下された場合、当事者は審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます(労働審判法21条1項)。
この2週間の期間内に適法な異議申立てがなされると、労働審判はその効力を失い(労働審判法21条3項)、手続は自動的に訴訟に移行します(労働審判法22条1項)。
一方、2週間以内に適法な異議申立てがなければ、労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を有することになります(労働審判法21条4項)。
したがって、労働審判の申立てから最終的な確定までの期間は、審理が終結して審判の告知を受けた日から最大2週間が加算されることになります。
労働審判の期間が平均より長引くケースとは?
労働審判は迅速な解決を目指す制度ですが、事案の性質によっては、平均的な期間よりも長期化する場合があります。以下のようなケースでは、審理が長引く傾向にあります。
1つ目は、争点が複雑で証拠が膨大な事案です。
たとえば、労働時間が争点となる残業代請求事件では、大量のタイムカードや業務記録を精査する必要があり、3回の期日内で十分な審理を行うことが困難な場合があります。
2つ目は、多数の関係者から事情聴取が必要な事案です。
ハラスメント事案などでは、被害者・加害者のみならず、複数の同僚から事実関係を確認する必要が生じることがあり、限られた期日では審理が尽くせないこともあります。
3つ目は、労働者と使用者の主張が大きく対立し、調停の見込みが立たない事案です。
たとえば、労働者が復職を強く希望する一方で、使用者が解雇の有効性を譲らないケースなどでは、和解の接点を見出すことが難しく、期日を重ねても解決に至らないことがあります。
4つ目は、高度な専門的知識を要する事案です。
職務発明の対価請求など、技術的な評価を伴う紛争では、3回以内の期日で結論を出すことが困難な場合があります。
これらのケースでは、労働審判委員会が労働審判法24条1項に基づき、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、事件を終了させることができます(いわゆる「24条終了」)。
この場合、手続は自動的に訴訟へ移行するため、解決までの期間はさらに長期化することになります。
労働審判の早期解決を目指すべき理由
労働審判において早期解決を目指すことは、労働者にも使用者にも大きなメリットがあります。
まず、紛争が長期化すれば、当事者双方に多大な負担がかかります。使用者側にとっては、期日ごとの証拠収集・資料準備・関係者のスケジュール調整など、業務への影響が長期間に及びます。
一方、労働者側にとっても、生活の不安定さや精神的な負担が続くことは望ましくありません。
また、紛争が長引くことで、職場内の他の従業員にも情報が広まり、組織全体の士気やパフォーマンスに影響が及ぶ可能性もあります。
早期に解決することで、こうした二次的な悪影響を最小限に抑えることができます。
さらに、労働審判の段階で調停を成立させることができれば、当事者双方が納得した上での柔軟な解決が可能となります。
審判や判決のように画一的な判断を下されるよりも、双方の実情に即した合意を形成できる点は、調停による解決の大きな利点といえます。
訴訟へ移行するとさらに長期化する
労働審判で解決に至らず訴訟に移行した場合、解決までの期間は大幅に長期化します。通常の労働関係民事訴訟の平均審理期間は約16か月前後とされており、1年以上を要するケースが多くを占めます。
訴訟では、期日回数に制限がなく、双方が主張・立証を十分に尽くすまで審理が繰り返されます。
証人尋問を経て判決に至るまで、相当な時間と労力が必要となります。加えて、判決に対してさらに控訴がなされれば、紛争はさらに長期化することになります。
また、訴訟移行後の手続では、労働審判で提出した申立書や答弁書の記録はそのまま引き継がれず、当事者は改めて準備書面や証拠を提出する必要があります。
そのため、労働審判に費やした時間や労力の一部が無駄になってしまうことも否定できません。
これらの点からも、可能な限り労働審判の段階で紛争を終結させることの重要性がお分かりいただけるかと思います。
労働審判の期間を短縮するための3つの方法
労働審判において、できるだけ短い期間で有利な解決を実現するためには、以下の3つの方法が有効です。
①事前準備を入念に行う
労働審判の成否を左右するのは、何よりも事前準備の質と量です。前述のとおり、労働審判では第1回期日においてほとんどの審理が行われ、労働審判委員会はこの段階でおおよその心証を形成します。
第1回期日までにどれだけ説得力のある主張と証拠を用意できるかが、結果を大きく左右します。
具体的には、申立人側であれば、事実経過を時系列で整理し、各事実を裏付ける証拠を漏れなく準備することが重要です。
相手方(使用者)側であれば、申立書の内容を精査し、的確な反論と反証を答弁書にまとめる必要があります。加えて、期日当日に労働審判委員会からの質問に対して的確に回答できるよう、事案の経緯を十分に把握しておくことも欠かせません。
会社の代表者や事実関係をよく知る担当者が期日に同席し、直接事情を説明できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
答弁書には提出期限がある
相手方が提出する答弁書には、裁判所が指定する提出期限があります。一般的には、第1回期日の1週間から10日前に提出期限が設定されます。
答弁書の記載事項は労働審判規則16条に定められており、申立ての趣旨に対する答弁、事実に対する認否、答弁を理由づける具体的な事実、予想される争点及び関連する重要な事実、予想される争点ごとの証拠、当事者間の交渉経緯の概要を記載しなければなりません。
答弁書は、期日前に労働審判委員会に配布され、事前に内容が精査されます。
提出期限に遅れると、労働審判官や労働審判員が答弁書を十分に検討する時間を確保できず、相手方の主張が適切に伝わらないまま期日を迎えるおそれがあります。提出期限の遵守は、有利な結果を得るために重要といえます。
②労働問題に強い弁護士に依頼する
労働審判は、通常の訴訟と比較して、短期間に集中的な準備と対応が求められる手続です。
限られた期日で的確な主張・立証を行い、調停交渉においても適切な判断を下すためには、労働問題に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
労働問題を多数取り扱った経験のある弁護士であれば、類似事案における解決水準や労働審判委員会の傾向を踏まえた適切な方針を立てることができます。
答弁書の作成や期日でのプレゼンテーション、調停交渉における落としどころの見極めなど、あらゆる場面で専門的知見が活きることになります。
特に、呼出状を受領してから第1回期日までの準備期間が約1か月と短いことを考えると、早期に弁護士に相談し、速やかに準備に着手することが極めて重要でしょう。
③調停成立(和解)を目指す
労働審判の期間を短縮する最も効果的な方法は、調停を成立させることです。
調停は、当事者双方の合意に基づく解決方法であり、審判の言渡しや異議申立てに伴う訴訟移行のリスクを回避することができます。
裁判所の統計によれば、労働審判事件の約65%以上が調停成立により終了しています。
調停を成立させるためには、自らの主張を適切に行いつつも、相手方の立場や労働審判委員会が示す見通しを踏まえ、柔軟な姿勢で交渉に臨むことが求められます。
特に解雇事案においては、金銭的解決(解決金の支払い)による合意形成が図られることが多く、解決金の相場や落としどころについて事前に見通しを立てておくことが、円滑な調停成立に繋がります。
調停が成立した場合、その内容は調書に記載され、確定判決と同一の効力を有します。
強制執行の申立ても可能となるため、実効性のある解決手段といえるでしょう。
労働審判の早期解決を目指すなら、法律の専門家である弁護士にご依頼ください。
以上のとおり、労働審判は原則として3回以内の期日で審理が終結し、通常の訴訟に比べて格段に迅速な手続です。
しかし、この迅速さは、裏を返せば、短期間に集中的な準備と対応が求められることを意味します。
入念な事前準備を行い、答弁書の提出期限を厳守し、調停による柔軟な解決を模索することが、労働審判を短期間で有利に終結させるための鍵となります。
そして、これらすべてを限られた期間内で適切に行うためには、労働問題に精通した弁護士の支援が不可欠です。
労働審判を申し立てられた場合や、申立てを検討している場合には、できるだけ早い段階で弁護士にご相談いただくことを強くお勧めいたします。
早期にご相談いただくことで、見通しを立てた上で適切な方針を決定し、万全の態勢で手続に臨むことが可能となります。
弁護士法人ALGは、労働問題に精通した弁護士が数多く在籍しておりますので、労働審判に関するご相談のある方は、ぜひ一度弁護士法人ALGへご相談ください。

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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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