監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、労働者自身が出社時間と退勤時間を自由に決めることができる勤務体系であり、労働基準法32条の3に規定されています。労働者自身が勤務時間を調整できることから、時間外労働は存在しないのではないかと思っている方もいらっしゃると思いますが、フレックスタイム制であっても、時間外労働は存在し、割増賃金を支払わなければなりません。
ここでは、フレックスタイム制における時間外労働について、ご説明いたします。
目次
- 1 フレックスタイム制における時間外労働の考え方
- 2 フレックスタイム制の残業時間の計算方法
- 3 特例措置対象事業場の法定労働時間
- 4 労働時間に過不足があった場合の対処法は?
- 5 働き方改革による時間外労働の上限規制
- 6 フレックスタイム制における休日労働と深夜労働の取り扱い
- 7 よくある質問
- 7.1 総所定労働時間の超過分を、翌月の総所定労働時間から差し引くことは可能ですか?
- 7.2 フレックスタイム制のもとで、休日労働を行った場合の割増賃金率を教えて下さい。
- 7.3 フレックスタイム制の清算期間は、会社が自由に決めることができるのでしょうか?
- 7.4 時間外労働の上限を超えた場合、会社には罰則が科せられるのでしょうか?
- 7.5 フレックスタイム制を導入した場合、従業員に残業命令を下すことは可能ですか?
- 7.6 フレックスタイムにおける時間外労働について、就業規則にはどのように規定すべきでしょうか?
- 7.7 法定内残業が発生した場合でも割増賃金の支払いは必要ですか?
- 7.8 フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、50%以上となるのでしょうか?
- 7.9 総労働時間の不足分を繰り越した結果、翌月の総労働時間が法定労働時間を超えることは問題ないですか?
- 7.10 フレックスタイム制で休日労働を命じた場合、代休を付与することは可能ですか?
- 8 フレックスタイム制で時間外労働を適正に管理するなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。
フレックスタイム制における時間外労働の考え方
フレックスタイム制では、予め「総労働時間(働く時間の総量)」を決めなければなりません。なぜなら、フレックスタイム制では、日によって労働時間に差があり、労働時間が短い日や長い日が発生しているからです。週ごとや月ごとに労働時間を設定しますが、その期間を「清算期間」といいます。
労働者が自ら労働時間を配分した結果、清算期間における総労働時間がその期間における法定労働時間の枠を超えた場合には時間外労働に該当することになります。清算期間を平均して週の法定労働時間を超えない範囲で法定労働時間を超えて労働させることができ、法定労働時間を超えたとしても直ちに時間外労働とはなりません。
もっとも、下記で述べるように、時間外労働については、36協定で締結しておかなければなりません。
時間外労働が発生する場合は36協定の締結が必要
時間外労働をさせる場合には、時間外労働に関する協定を労使間で締結しなければなりません。この協定は、労働基準法36条で定められているため、36(サブロク)協定と呼ばれています。
フレックスタイム制の残業時間の計算方法
フレックスタイム制における残業時間の計算方法について、清算期間が「1ヵ月以内」の場合と「1ヵ月を超える」場合とに分けてご説明いたします。
清算期間が1ヶ月以内の場合
清算期間(1ヵ月)を通じて、法定労働時間を超えて労働した時間(実労働時間)が法定外残業時間となり、残業代が発生していることになります。
例えば、法定労働時間が177.1時間、実労働時間が180時間の場合、法定労働時間177.1時間を超えた2.9時間が法定外残業時間になり、その時間に対して残業代が発生していることになります。
清算期間が1ヶ月を超える場合
清算期間が1ヵ月を超える場合、清算期間が1ヵ月以内の場合と異なり、少し特殊になります。
法定外残業時間については、①1ヵ月ごとに週平均50時間を超えた場合の労働時間と②清算期間を通じて法定労働時間を超えた場合の労働時間の合計時間となります。
①1ヵ月ごとに週平均50時間を超えた場合について、各月の法定外残業時間として計算されることになります。フレックスタイム制は、法定労働時間を超えた分の労働時間を翌月に繰り返すことができますが、労働者を多く働かせることを防止するため、1月あたり週平均50時間を超える労働時間については、法定外残業時間として計上されることになります。
②清算期間を通じて法定労働時間を超えた場合については、清算期間の最終月の法定外残業時間に計上されることになります。
特例措置対象事業場の法定労働時間
特例措置対象事業場については、以下に掲げる業種に該当し、常時10人未満の労働者を使用する事業場のことをいいます。業種としては、卸売業や小売業などの「商業」、映画の映写や演劇などの「映画・演劇業」、病院、診療所や浴場業などの「保険衛生業」、旅館、飲食店、ゴルフ場などの「接客娯楽業」などが含まれます。
特例措置対象事業場の法定労働時間は、1日8時間、週44時間とされています。
労働時間に過不足があった場合の対処法は?
総労働時間に過不足があった場合、どのように対処されるのでしょうか。ここでは、総労働時間に過剰があった場合と総労働時間に不足があった場合とに分けてご説明いたします。
総労働時間に過剰があった場合
総労働時間に過剰があった場合、どのように清算されるのでしょうか。
過剰な労働時間があった場合、過剰分を次の清算期間に充当する方法は、清算期間内の労働の対価をその期間内に支払われなくなるということになり、労働基準法24条に違反することになります。
したがって、過剰な労働時間を翌月に充当して、翌月の所定労働時間を短縮することはできず、過剰な労働時間に対する割増賃金は、当期に清算することになります。
総労働時間に不足があった場合
総労働時間に不足があった場合には、不足時間分を、清算期間中の総労働時間に上積みすることになります。法定労働時間の枠内である限り、不足した時間分を次期に繰り越して加算することが可能となります。
働き方改革による時間外労働の上限規制
平成31年(2019年)4月1日から、「働き方改革」の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働に上限規制が設けられました。具体的には、時間外労働の上限が「月45時間・年360時間」とされました。これまでも、時間外労働の上限は定められていましたが、上限を超えたとしても何ら罰則もなく、法的拘束力はありませんでした。そして、36協定の届出があれば、会社の裁量で時間外労働をさせることが可能でした。
働き方改革により、時間外労働の上限を超過した場合には、「6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられ、時間外労働の上限を遵守することが求められるようになりました。
フレックスタイム制における休日労働と深夜労働の取り扱い
フレックスタイム制は、労働者自身が出社時間と退勤時間を自由に決めることができる勤務体系であり、休日労働や深夜労働が適用されないというものではありません。したがって、フレックスタイム制を採用していたとしても、労働者が休日労働や深夜労働を行った場合には、割増賃金を支払わなければなりません。
よくある質問
ここでは、フレックスタイム制における時間外労働について、よくある質問をご紹介いたします。
総所定労働時間の超過分を、翌月の総所定労働時間から差し引くことは可能ですか?
結論として、総所定労働時間の超過分を、翌月の総所定労働時間から差し引くことはできません。超過した労働時間に対する割増賃金を超過した月の賃金で清算することとし、翌月の労働時間から差し引くことはできないことになります。
フレックスタイム制のもとで、休日労働を行った場合の割増賃金率を教えて下さい。
フレックスタイム制を採用していたとしても、労働者が休日労働を行った場合、割増賃金を支払わなければなりません。その際の割増賃金率については、3割5分以上となります(労働基準法37条の2項)。
フレックスタイム制の清算期間は、会社が自由に決めることができるのでしょうか?
フレックスタイム制の清算期間が1ヵ月を超える場合には、労働者と使用者の間で協定を締結しなければならず、会社が自由に定めることができるわけではありません。そして、清算期間が1ヵ月を超える場合には、労使協定の労働基準監督署への届出が義務付けられています。
したがって、清算期間を会社が自由に決めることはできないことになります。
時間外労働の上限を超えた場合、会社には罰則が科せられるのでしょうか?
平成31年(2019年)4月1日から、「働き方改革」の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働に上限規制が設けられました。従来は、法的拘束力がなかったものの、当該改正により、時間外労働の上限を超過した場合には、「6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられることになりました。
フレックスタイム制を導入した場合、従業員に残業命令を下すことは可能ですか?
結論として、フレックスタイム制を導入している場合に、従業員に対して、残業命令を下すことはできません。なぜなら、フレックスタイム制は、労働者自身が出社時間と退勤時間を自由に決めることができる勤務体系であり、残業命令をすると、会社側が労働者の退勤時間をコントロールすることになり、フレックスタイム制の制度趣旨に反することになるからです。
フレックスタイムにおける時間外労働について、就業規則にはどのように規定すべきでしょうか?
フレックスタイム制を導入するためには、就業規則に労働者自身が出社時間と退勤時間を自由に決めることができる旨を記載しなければなりません。そして、労使協定において、①対象となる労働者の範囲、②清算期間とその起算日、③清算期間中に労働すべき総労働時間、④標準となる1日の労働時間、⑤コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合には、その開始及び終了時刻を定めることになります。
法定内残業が発生した場合でも割増賃金の支払いは必要ですか?
フレックスタイム制であっても、法定労働時間内の残業であれば、割増賃金の支払いは不要となります。
フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、50%以上となるのでしょうか?
フレックスタイム制においても、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金は、5割の割増率となります。
総労働時間の不足分を繰り越した結果、翌月の総労働時間が法定労働時間を超えることは問題ないですか?
総労働時間に不足があった場合には、不足時間分を、清算期間中の総労働時間に上積みすることになります。法定労働時間の枠内である限り、不足した時間分を次期に繰り越して加算することが可能となります。
したがって、総労働時間の不足分を繰り返した結果、翌月の総労働時間が法定労働時間を超えることはできません。
フレックスタイム制で休日労働を命じた場合、代休を付与することは可能ですか?
フレックスタイム制において休日労働を命じた場合、代休を付与することは可能です。もっとも、休日労働をさせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。
フレックスタイム制で時間外労働を適正に管理するなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。
フレックスタイム制を導入していたとしても、使用者は、労働者の労働時間を把握しなければなりません。労働時間管理の方法として、労働者の自己申告制によることも可能です。もっとも、フレックスタイム制の場合には、出社時間と退勤時間を労働者自身が自由に決めることができるため、労働時間管理の方法も自己申告制とすると、労働者による過大申告や過少申告等実態に沿わないケースが出てくる可能性があります。
そのような場合に備えるために、労働問題に強い弁護士に相談することが不可欠となります。弊所の弁護士は、労働問題を多く扱ってきましたので、より会社の実態に沿う管理方法をご提案できると思います。
まずはお気軽にご相談ください。
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