監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 労働基準法違反
トラックドライバーなどの物流・運送業は、慢性的な人手不足を原因として、長時間労働をはじめ、労働基準方などの違反が多く存在しています。
このような事情に鑑み、2024年4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が規制されることになりました。以下では、物流・運送業に関する労働基準法違反についてご説明いたします。
目次
物流・運送業における労働基準法違反
監督指導をした事業場 | 法違反が認められた事業場 | 改善基準告示違反が 認められた事業場 |
---|---|---|
271 | 220 (違反率81.2%) | 153 (違反率56.5%) |
道路貨物運送業に対する監督指導結果(平成30年)【厚生労働省 東京労働局】
東京都内の道路貨物運送業を含む事業所に対して、東京労働局が実施した調査によると、指導を実施した271の事業場のうち、法令違反が認められた事業場は、220も存在しています。労働基準法等の違反状況については、139の事業所が労働時間に関する違反がもっとも多く、続いて98の事業所が割増賃金に関する違反、18の事業所が最低賃金に関する違反、14の事業所が休日に関する違反があったと報告されています。
36協定違反
36協定とは、時間外労働・休日労働を労働者にさせる場合に、労働者と使用者との間で締結する協定のことをいい、特別条項付き36協定とは、繁忙期など特別な事情がある場合に、通常の36協定で定められている時間外労働時間の上限を超えることが予想されるときに、再度労働者と使用者との間で締結する協定のことをいいます。
物流・運送業に従事しているトラックドライバーは、時間外労働の上限が規制されていませんでしたが、2024年(令和6年)4月より、物流・運送業に従事しているトラックドライバーにも時間外労働の上限が規制されることになりました。
36協定は、法定労働時間の例外として定められているため、36協定で定めた時間を越えた場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法119条)に処される可能性があります。
就業規則の作成・届出違反
労使関係を適正に管理するために、労使間でルールのようなものを作成する必要があります。そのようなルールを作成することにより、トラブルを防止するとともにリスクマネジメントをすることができます。
そこで、労働基準法89条において、労働者が10人以上の一定規模以上の事業場には、就業規則を作成しなければならないことが規定され、さらに、労働基準法106条においては、就業規則を備え付け、労働者に周知しなければならないことが規定されています。そして、就業規則に規定した労働条件を、労働者にとって不利益に変更する場合には、原則として労働者に同意を得なければなりません。
また、作成した就業規則を労働基準監督署に届け出なければならず、届け出ていない場合には、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働基準法120条1号)。
このように就業規則は会社にとって重要なものですが、それについての違反も多く存在しているのです。
長時間労働
労働基準法において、労働時間は原則として「1日8時間、1週40時間」を上限としており、これを法定労働時間(労働基準法32条)といい、当該時間を越えて働かせるためには労使間において36協定が不可欠です。もっとも、36協定を締結したとしても、月45時間、年360時間を超えて労働させてはいけません。
物流・運送業のトラックドライバーについては、上記の労働時間の上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年(令和6年)4月から特別条項付きの36協定を締結した場合での時間外労働時間の上限が年960時間になります。それに加え、改善基準告示も見直されました。すなわち、1年の拘束時間を原則3300時間(最大3400時間)、1か月の拘束時間を原則284時間(最大310時間)、1日の休息期間は、継続11時間を基本とし、9時間下限とし、運転時間は、2日を平均し、1日あたり9時間、2週を平均して1週あたり44時間を超えないものとされました。
残業代の未払い
物流・運送業のトラックドライバーについては、労働時間の把握が困難であり、トラックドライバーの労働時間を管理できていないことが多く存在しております。そのため、使用者からトラックドライバーへの未払い残業代が存在している可能性があるといえます。
使用者からトラックドライバーへの未払い残業代が存在している場合、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(労働基準法119条)に処せられる可能性があるので注意が必要です。
強制労働
労働基準法5条は、「暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」と規定しており、強制労働が禁止されています。トラクターに対し、労働を強制した場合、長時間労働などの法令違反に加え、強制労働として法令違反となる可能性があります。
強制労働させた場合、労働基準法の中で最も重い刑罰である「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処」(労働基準法117条)せられる可能性があります。
労働基準法と改善基準告知の違い
改正前 | 改正後 (2024年4月1日以降) | |
---|---|---|
時間外労働 | 条件規制なし | 【労働基準法にて規制】 年960時間 |
1年の拘束時間 | 3,516時間 | 原則3,300時間 最大3,400時間 |
1か月の拘束時間 | 原則293時間 最大320時間 |
原則284時間 最大310時間 |
1日の休息期間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、 継続9時間 |
改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」のことをいい、トラックなどの自動車運転者について、労働時間等の条件の向上を図ることを目的として、拘束時間の上限や休息期間についての基準が定められています。
上記表のとおり、2024年4月から改善基準告示が見直されますので、ご確認下さい。
なお、改善基準告示は、労働基準法とは異なり、法律ではなく、あくまで労働時間に関する基準であるため、違反に対する罰則等は存在しておりません。しかし、改善基準告示に違反した場合、労働基準監督署から是正を求められ、最終的には行政処分を下されることもあります。
運送業における労働基準法違反のリスク
以下では、運送業において、労働基準法を違反した場合のリスクなどについてご説明いたします。
労働者からの損害賠償請求
長時間労働や強制労働を強いられたことによって、トラックドライバーが健康を害してしまった場合や交通事故を起こしてしまった場合には、長時間労働や強制労働を強いられた等を理由に、使用者に対し、損害賠償請求を行う可能性があります。
これらの請求に加えて、遅延損害金等も発生する可能性がありますので、ご注意ください。
刑事罰の適用
これまで見たとおり、労働基準法には、刑事罰が規定されています。したがって、トラックドライバーが警察に被害届の提出や刑事告訴をした場合には、刑事罰が適用される可能性があります。
そのような場合、物流・運送業の会社は、経済的・社会的にも大きな影響を受ける可能性がありますので、ご注意ください。
労働基準監督署と運輸局の相互通報制度
労働基準監督署と地方運輸機構の相互通報制度とは、それぞれが行った監督等の結果を相互通報し、これに基づき、それぞれが調査の上、所要の措置を講じ、自動車運送事業に従事する自動車運転者の労働条件の改善を図ることを目的としています。
労働基準監督署から地方運輸機構への通報事案としては、道路交通法及び貨物自動車運送事業法の運行管理に関する気鋭に重大な違反の疑いがあると認められた事案で、主に、改善基準告示違反や最低賃金法違反、労働安全衛生法違反などがあります。
他方、地方運輸機構から労働基準監督署への通報事案としては、監査の結果、自動車運送事業者について労働基準法、最低賃金法、労度安全衛生法、改善基準告示について重大な違反の疑いがあると認められた事案があります。
運送業が行うべき労働基準法違反への対策
物流・運送業が労働基準法違反にならないようにするために、以下のような対策をしていく必要があります。
36協定の締結・就業規則の見直し
2024年4月から、年間残業時間の上限が960時間になったことから、これまでの労使関係を見直す必要があります。したがって、労使間において36協定を締結したり、これまで運用していた就業規則を見直す必要があります。
どのように見直せばいいか不明な場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
労働時間の管理
労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、物流・運送業における労働時間は、運転・整備・荷扱い等の作業時間と、荷待ち等の手待ち時間を含みます。これまでみたように、物流・運送業についての労働時間の上限規制は猶予されていましたが、2024年4月より、年960時間の時間外労働の上限規制が課されることになりますので、物流・運送業の使用者としては、トラックドライバーの労働時間を適正に管理しなければならなくなります。
そのためには、トラックドライバーの労働時間の管理を強化する必要があります。現代ではスマートフォンなどのGPS機能を用いることもできるでしょう。また、労働生産性を向上し、積み下ろしの時間を短縮させるなどして、業務の効率化を図ることも効果的であるといえます。
なお、時間外労働における賃金は、適切な割増率で算出される割増賃金の支給が必要となりますので、ご注意ください。割増賃金率については、下記ページをご参照ください。
ドライバーの時間外労働の上限規制 (2024年4月適用)
働き改革の一環として労働基準法が改正されたことにより、2019年以降から労働時間に上限規制が設けられました。
もっとも、物流・運送業については、人手不足等の理由から、当該上限規制を5年間猶予されていました。
5年間の猶予が終了する2024年4月から、以下のとおり、物流・運送業にも時間外労働の上限規制が適用されることになりました。
改正前 | 改正後 (2024年4月1日~適用) | |
---|---|---|
時間外労働 | 上限なし | 年960時間 |
上記でご説明いたしましたが、これまでも改善基準告示は存在しており、労働時間等に関する基準は設けられていましたが、この度、改善基準告示の見直しも行われました。もっとも、改善基準告示は法律ではないため、基準に違反していたとしても、罰則はありませんが、行政処分が下される可能性はあります。
時間外労働の上限規制が設けられたことによって、労使間の36協定を再度締結したり、就業規則を見直す必要がありますので、その際は弁護士にご相談ください。
休日取得の管理
2024年4月から適用されるのは、時間外労働の上限規制ですが、その他の問題についても適正な管理を行う必要があります。
例えば、トラックドライバーの休日、有給休暇取得などで、これらについても適正な管理が必要となります。現在は、IT化が進んでいるため、スマートフォンやパソコン等を駆使して、有給休暇が取得できていないドライバーがいるかどうかを簡単に調査できる仕組み作りが必須であるといえます。
福利厚生などを整備しドライバーを配慮することにより、ドライバーの不満を取り除くことができ、より働きやすい環境を作ることができます。
-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)