労務

残業命令が違法となるケースと対処法

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

  • 残業

使用者は、法定労働時間を超えてまたは法定休日に労働をさせることができないのが原則ですが、その例外として、労基法は、一定の場合に時間外労働・休日労働をさせることができるとし、この時間外労働・休日労働に対し割増賃金を支払わなければならないとされています。
以下では、使用者が労働者に対し、残業を命じるための要件や残業命令が違法となるケースとその対処法などを解説いたします。

会社が残業を命じるために必要な要件とは?

使用者が労働者に対し残業を命じるためには、①労使協定(36協定と呼ばれています。)の締結・届出という労基法上の要件を満たすことに加え、②労働契約や就業規則に労働者の時間外・休日労働義務を基礎づける契約上の根拠があるという2つが必要です。

36協定を締結している

使用者は、事業場の過半数(それがない場合は過半数代表者)と書面による協定(36協定)を締結し、これを行政官庁に届け出た場合には、その協定で定めるところにより、時間外・休日労働をさせることができます。

労働契約や就業規則に残業の規定がある

使用者が労働者に対し残業を命じるためには、上記36協定の締結・届出などの労基法上の要件を満たすことに加えて、労働契約上、労働者の時間外・休日労働義務を規定する必要があります。

残業命令が違法となるケースとは?

36協定の締結や労働契約により、残業を命じることができる条件であったとしても、残業命令が違法となるケースがあります。

法律が定める上限時間を超えている

平成30年の働き方改革関連法は、36協定による時間外労働について法律上罰則付きで上限を設定するという重要な法改正を行いました。
したがって、法律が定める上限時間を超えている残業命令は違法となります。

残業代を支払わない(サービス残業)

いわゆるサービス残業は違法です。時間外労働・休日労働をさせる場合には、この時間外労働・休日労働に対し割増賃金を支払わなければなりません。

残業命令がパワハラに該当する

厚生労働省によると、職場におけるパワハラは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものの3つの条件を満たすものと定義されています。
残業命令が上記の条件を満たす場合は、パワハラと評価されます。
例えば、①業務上の必要性がない、②不当な動機・目的からなされている、③労働者に著しい不利益を負わせる残業命令は、パワハラと評価される可能性が高いでしょう。

労働者の心身の健康を害するおそれがある

会社には労働者の安全・健康に配慮する義務、いわゆる安全配慮義務があります。
したがって、体調が悪い労働者に残業をさせるなど労働者の心身の健康を害するおそれがある長時間労働を強要することはできません。
なお、長時間労働と健康障害の関連は、時間外労働が月間45時間を超えると健康障害のリスクが少しずつ上昇するとされいています。
健康障害を発症した直近1ヶ月の時間外労働が100時間を超えていた場合、もしくは2〜6ヶ月間の平均で80時間を超えていた場合は、業務との関連性が強く指摘され労働災害として認定される可能性が高くなります。

妊娠中または出産から1年未満の労働者への残業命令

妊産婦が請求した場合には、時間外労働や休日労働、深夜業をさせてはなりません。
また、妊娠中の女性が請求した場合においては、従前から従事していた業務を、他の軽微な業務に転換させなくてはなりません。

育児・介護中の労働者への残業命令

育児・介護休業法では、小学校就学前までの子を養育する労働者及び要介護状態にある対象家族の介護を行う労働者が育児や介護のために請求した場合には、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、その労働者を深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはならないこととされています。

違法な残業命令をした会社が負う不利益・罰則

会社が違法な残業命令をした場合には、刑事罰を負う可能性もあります(労基法119条等)。
また、仮にサービス残業をさせていた場合、当然、従業員から未払い残業代の請求をされるリスクがあります。労働審判や裁判で残業代が争われた場合、残業代に加え遅延損害金や付加金の支払いが命じられ、多額の金員を支払わなければならなくなる可能性がありますので注意が必要です。
さらに、従業員が労働基準監督署に訴えると、労働基準監督署の調査が行われる場合があります。

残業命令が違法とならないための対処法

これまで述べてきたとおり、36協定の締結や労働契約により、残業を命じることができる条件であったとしても、残業命令が違法となるケースがあります。

残業命令の適法性を確認する

残業命令が違法とならないためには、当然のことではありますが、育児・介護が必要な場合や、妊娠中や出産後の残業については、法律で残業が制限されていることなど、残業命令の適法性を確認する必要があります。

正当な理由がある場合は残業を強制しない

また、法律上の規定はありませんが、体調不良は残業を断る正当な理由になります。
労働者に残業を断る正当な理由があると考えられる場合には、残業を強制すべきではありません。

労働時間を適正に把握・管理する

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有しています。
労働時間を適正に把握・管理できていない場合、事後的に多額の残業代を請求されるリスクや長時間労働により労働者の健康障害が発生した場合に多額の損害賠償義務を負うリスクがあります。

残業命令を拒否した従業員の懲戒処分や解雇は違法か?

以下で紹介する裁判例で詳しく述べますが、残業拒否に対しては懲戒処分や懲戒解雇を行うことも違法ではありません。
ただし、まずは、残業命令の趣旨を説明して、従業員の理解が得られるよう努めるべきです。十分な説明をしないまま従業員を解雇した会社を敗訴させている事案も存在します。
それでも従わない場合は、文書やメールで記録に残る形で残業の業務命令をだすことが必要です。
文書やメールでの命令にも従わないときは、懲戒処分を検討します。
一般的には、直ちに懲戒処分という重い処分を検討するのではなく、軽い懲戒処分、戒告または譴責・訓告、減給等から検討すべきでしょう。

残業命令の違法性が問われた裁判例

残業命令の違法性が問われた裁判例として日立製作所武蔵工場事件判決(平成3年11月28日)があります。

事件の概要

トランジスタの品質管理の業務に従事していた労働者が、その算出した選別後の歩留まり率より低い結果が出たため、上司に原因の追求と対策のために残業を命じられたのに対して、それを拒否して懲戒処分(出勤停止処分)を受けたが、労働者には残業命令に従う義務はないとの考え方を変えず、始末書の提出命令を拒否して、就業規則の「しばしば懲戒・訓戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込みがない」として懲戒解雇されたため、その効力を争った事例です。なお、その労働者は、過去2年間ほどの間に出勤停止、譴責等3回の懲戒処分を受けていました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

最高裁は、使用者が就業規則に36協定の範囲内で時間外労働をさせることができる旨を定めており、その規定の内容が合理的なものである限り、労働者はその定めるところに従い時間外労働をする義務を負うと判示したました。

ポイント・解説

本件は、いわゆる36協定が締結された場合に、労働者は当初の労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負うかが争点となりました。
最高裁は、使用者が就業規則に36協定の範囲内で時間外労働をさせることができる旨を定めており、その規定の内容が合理的なものである限り、労働者はその定めるところに従い時間外労働をする義務を負うことを明確にしました。

残業命令や残業代に関するお悩みは、弁護士までご相談ください。

上記判決では言及されておりませんが、就業規則の合理的な規定によって使用者の時間外労働命令権の存在が根拠づけられる場合でも、これまで述べてきたとおり、残業命令が違法となるケースがあります。
また、事後的に労働者に残業命令や残業代を争われた場合、多額の損賠賠償金、未払い残業代に加え遅延損害金や付加金を支払わなければならない可能性があります。
残業命令や残業代に関するお悩みは、弁護士までご相談ください。

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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