監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 退職・解雇
社内にいる職務怠慢な社員を辞めさせたいにもかかわらず、どのような方法・手続を選択すればいいかわからないという方は多いのではないでしょうか。
やる気がない、遅刻が多いなどを理由に社員を解雇できるかどうかなど、職務怠慢な社員をやめさせることができるかどうかについて、ご説明いたします。
目次
- 1 職務怠慢の社員を解雇することは可能か?
- 2 職務怠慢とみなされる問題社員の例
- 3 問題社員でも簡単に解雇することはできない
- 4 職務怠慢は普通解雇・懲戒解雇どちらにあたるか?
- 5 職務怠慢による解雇が認められるには
- 6 問題社員を解雇する場合も「解雇予告」は必要か?
- 7 円満退職を目指すなら退職勧奨の検討も
- 8 問題社員による職務怠慢を防ぐために服務規律をどう充実させるべきか?
- 9 職務怠慢による解雇の有効性が問われた判例
- 10 よくある質問
- 10.1 職場の秩序を乱す行為を何度も繰り返していた場合、解雇することは可能ですか?
- 10.2 何度注意しても遅刻欠勤が改善されない場合、懲戒解雇としても問題ないでしょうか?
- 10.3 職務怠慢な社員に解雇を言い渡す際、解雇事由を明示しなければなりませんか?
- 10.4 解雇が認められず無効となった場合、解雇期間中の給与を支払う必要はありますか?
- 10.5 職務怠慢が他の従業員にも悪影響を及ぼしている場合、解雇は認められますか?
- 10.6 業務中の私用メールを禁止する旨について、就業規則で定めることは可能ですか?
- 10.7 解決金の支払いによる解雇は認められますか?
- 10.8 就業規則の解雇事由に包括規定を設けておけば、解雇は認められやすくなりますか?
- 10.9 仕事をサボっていると他の従業員から報告を受けた場合、どのように対処すべきでしょうか?
- 10.10 無断欠勤が何日以上続くと解雇できるのでしょうか?
- 11 問題社員の対応には人事労務の専門家である弁護士のサポートが必要です。 お悩みなら一度ご相談下さい。
職務怠慢の社員を解雇することは可能か?
社員を解雇するためには、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」(労働契約法16条)でなければ、権利を濫用したとして、解雇自体が無効となってしまいます。
解雇が、無効となってしまった場合、社員に対する給与を支払わなければならなくなり、いわゆる「バックペイ」という問題が生じてしまいます。
したがって、社員を解雇する場合には、適切な方法・手段を選択しなければなりません。
労働契約上の債務不履行とは
労働契約は、使用者と労働者との間で締結され、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」ものです(労働契約法6条)。
労働契約により、労働者は、使用者に対して、自身の労務を提供する義務を負い、それを怠った場合には、労働契約上の債務不履行があったと判断されることになります。
職務怠慢とみなされる問題社員の例
職務怠慢とは、与えられた職務を怠ったり、不適切な方法により職務を遂行することをいいます。
例えば、遅刻・早退・欠勤が多い、自席から離れている時間が多い、居眠りをしている、協調性に欠けており他の社員とのトラブルが多い、上司からの業務命令に違反している等です。
このような社員については、職務怠慢であると考えられます。
問題社員でも簡単に解雇することはできない
上記のような職務怠慢な社員は、自身の労務を提供しているとはいえず、与えられた職務を怠っているため、労働契約上の債務不履行があるといえるでしょう。
このような社員を解雇できるかというと、上述のとおり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)には、解雇することができません。
したがって、問題社員を解雇するための方法・手段を選択していく必要があるのです。
就業規則に解雇事由を定める必要性
労働基準法には、会社の就業規則に「解雇事由」を定めなければならないと規定されております(労働基準法89条3号)。
そうでなければ、問題社員に対して解雇処分を下すことが困難になってしまいます。
なお、一般的に、就業規則に規定される「解雇事由」には、様々な規定が設けられていますが、「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」という包括規定を定めておくことが多いのです。
職務怠慢は普通解雇・懲戒解雇どちらにあたるか?
職務怠慢を理由に問題社員を解雇する方法には、普通解雇という方法と懲戒解雇という方法があります。
懲戒解雇をするためには、職務怠慢が懲戒事由にあたること、職務怠慢により懲戒解雇となることを就業規則に規定されている必要があります。
また、普通解雇をするためには、職務怠慢が普通解雇事由に該当することを就業規則に明記する必要があります。
このような場合には、普通解雇・懲戒解雇のいずれの方法によっても解雇することが可能となります。
もっとも、懲戒解雇は、普通解雇よりも厳密に解雇の有効性を現れる可能性があります。
なぜなら、労働者としては、懲戒解雇による不利益の程度が大きく、有効性の判断が慎重になるからです。
したがって、使用者側としては、職務怠慢な社員を普通解雇によっても、懲戒解雇によっても解雇できるよう就業規則を規定しておくべきです。
もし、既に就業規則を規定しており、変更する必要がある場合には、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
職務怠慢による解雇が認められるには
職務怠慢による解雇を行うためには、上述のとおり、就業規則に規定されている必要があります。
そして、職務怠慢による解雇を行えたとしても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)に該当しない、すなわち、客観的に合理的な理由が存在しており、社会通念上相当であると認められなければなりません。
解雇された労働者が「会社が行った解雇は無効だ!」と訴訟などで解雇の有効性を争ってきた場合には、会社側としては、職務怠慢による解雇が有効であることを裁判所に認めてもらわなければなりません。
職務怠慢を客観的に証明できる
解雇された労働者が解雇の有効性を争ってきた場合、問題社員が「職務怠慢であった」ということを「客観的に証明」しなければなりません。
「客観的に証明」するためには、問題社員が、いつ、どのような職務怠慢を行っていたかがわかる資料等が必要となります。
例えば、勤怠が乱れている出勤簿やタイムカード、営業日誌、職務怠慢行為を注意する書面やメールなどです。
一つの証拠ではなく、様々な証拠があることにより、問題社員が職務怠慢であったことを客観的に証明することができるので、多くの証拠を準備しておくといいでしょう。
会社が解雇回避措置を講じている
職務怠慢による解雇が有効となるためには、労働者の職務怠慢の程度や内容に照らして、解雇という処分が相当でなければなりません。
職務怠慢な社員に対して懲戒解雇が不当に重いと判断された場合には、当該解雇は無効となってしまいます。
そこで、会社としては、職務怠慢な社員に対し、最初から懲戒処分をするのではなく、指導・注意など解雇を回避するための措置を講じる必要があり、そのような措置を講じたにもかかわらず、問題社員に改善が見られなかったという流れが必要となります。
したがって、職務怠慢による解雇が認められるためには、会社が問題社員に対し、初めから懲戒解雇処分をするのではなく、先行して解雇回避措置を講じていることが必要となります。
問題社員を解雇する場合も「解雇予告」は必要か?
一般的に、従業員を解雇するためには、使用者が従業員に対し、少なくとも30日以内に解雇予告をする必要があります(労働基準法20条)。
もっとも、懲戒解雇をする場合、解雇予告をすることなく、懲戒解雇をすることができます。
円満退職を目指すなら退職勧奨の検討も
これまで説明したとおり、解雇処分を行うためには様々な要件を具備しなければなりません。
そして、解雇された労働者から「解雇処分は無効だ!」などと争われることも少なくなく、そうなった場合、時間も費用もかかってしまいます。
そのような事態を避けるために、使用者と労働者との話し合いによる解決、すなわち、合意による退職若しくは、労働者からの退職意思の表明、すなわち、自主退職の方法が考えられます。
そこで、解雇処分をする前に、問題社員に対し、退職勧奨を行うことをご検討ください。
この場合、事態を円満に解決することができたと解釈されるため、退職後に、解雇が無効だなどと争われる可能性を低くすることができます。
したがって、問題社員に円満退職をしてもらうためには、退職勧奨を検討すべきといえます。
もっとも、執拗に退職勧奨を行ってしまうと、不必要に退職を強要した等と主張される危険性もあるため、過度な退職勧奨はお控えください。
問題社員による職務怠慢を防ぐために服務規律をどう充実させるべきか?
使用者は、会社・職場の秩序を維持するために、就業規則に、従業員に対する義務や禁止行為などを定めたルール、すなわち、服務規律を定めることができます。
そして、就業規則において、服務規律に反する行為をした場合には、解雇事由に該当する旨の規定を定めておくと、従業員は、服務規律の遵守を促すことができます。
例えば、無断で職場を離脱しない・業務上の指揮命令に従う・遅刻や早退や欠勤をしないなどの労務提供そのものに関することや、会社に関する秘密を保持することなどを規定するべきでしょう。
職務怠慢による解雇の有効性が問われた判例
ここで、職務怠慢を原因として解雇処分を行い、その有効性が争われた裁判例をご紹介いたします。
事件の概要
本件は、バドミントン用品の輸入・販売業を営む株式会社である甲社が、営業所を廃止したことに伴い、ある営業所の営業所長であったAを解雇したところ、Aが、甲社に対し、当該解雇が無効であると主張して、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇の意思表示後の賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。
就業規則には、①勤務成績または業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、ほかの職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき、②勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たし得ないと認められたとき、③事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の縮小・転換または部門の閉鎖等を行う必要が生じ、ほかの職務に転換させることが困難なときに解雇処分をすることができると定めています。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所(大阪地方裁判所平成25年3月8日判決)は、本件整理解雇について、「整理解雇が労働契約法16条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に当たり、無効となるか否かを判断するに当たっては、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたか否か、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性等を総合考慮して判断するのが相当」と述べ、①人員削減を行うことがやむを得ないといえるほどの高度の必要性があったとまでは認められない、②解雇を回避するための努力を十分に尽くしたということはできない、③人選の基準が合理的であったとはいえない、④甲社が、Aを解雇するに先立ち、解雇理由を説明するとともに、代表者がAの意見を聴取するなどして一定の手続を踏まえたことは認められると述べ、甲社が行った整理解雇を無効と判断しました。
ポイント・解説
本件において、裁判所は、整理解雇をするに先立ち職務の調整や希望退職者を募るなどして、解雇を回避するための努力を充分に尽くしていたかどうかなどを検討するべきだと述べています。
解雇という処分は労働者にとって、労働者の地位を奪う重大な処分であるため、慎重に行うべきで、解雇という処分を避けることができたかどうかについて詳細に検討しております。
したがって、従業員を解雇するためには、他に取りうる手段がなかったか、解雇を回避することができたかどうかについて十分に検討する必要があるでしょう。
よくある質問
以下では、よくある質問について、ご紹介いたします。
職場の秩序を乱す行為を何度も繰り返していた場合、解雇することは可能ですか?
企業は、従業員の協同の元、事業が遂行されているため、職場の秩序を乱す問題社員に対しては、何らかの処分をする必要があります。
そもそもの前提として、就業規則に服務規律が定められており、それに違反したものには、解雇処分を下す規定が必要です。
そして、職場の秩序を乱す者に対して、最初から解雇処分を行うと社会通念上相当ではないと判断される可能性があるため、①注意・指導、②配置転換などを行い、それでも改善されなかった場合に、解雇処分を検討するようにしましょう。
何度注意しても遅刻欠勤が改善されない場合、懲戒解雇としても問題ないでしょうか?
遅刻欠勤は、職務怠慢行為に該当しますので、遅刻欠勤を理由に懲戒解雇をするためには、職務怠慢が懲戒事由にあたること、職務怠慢により懲戒解雇となることを就業規則に規定されている必要があります。
そして、問題社員が解雇後に解雇の有効性について争ってきた場合に備えて、何度も注意したことが客観的に証明できるもの(書面など)を用意しておくといいでしょう。
職務怠慢な社員に解雇を言い渡す際、解雇事由を明示しなければなりませんか?
会社が従業員を解雇した場合、解雇の理由を記載した書面を従業員に交付することが義務付けられています(労働基準法22条)。
もっとも、解雇した際に交付する必要はなく、解雇された従業員から請求があったときに解雇理由証明書を発行する必要があります。
したがって、職務怠慢な社員を解雇し、当該社員から解雇理由証明書を請求された場合、解雇理由証明書を交付すれば足りるということになります。
解雇が認められず無効となった場合、解雇期間中の給与を支払う必要はありますか?
裁判所の判断により、問題社員に対する解雇が認められず無効となった場合、問題社員は従業員であるという地位が認められたことになりますので、解雇期間中の給与を支払わなければならなくなります。
そのようなことにならないためにも、問題社員に対する解雇処分は慎重に行わなければなりません。
職務怠慢が他の従業員にも悪影響を及ぼしている場合、解雇は認められますか?
職務怠慢の行為の内容にもよりますが、職務怠慢行為が他の従業員にも悪影響を及ぼしている場合には、適切な方法・手段により、当該従業員に処分を下さなければなりません。
悪影響を及ぼしているからといって、初めから解雇処分をすると、「社会通念上相当であると認められない」可能性があるため、指導・注意などを書面で行い、それでも改善しなかった場合には解雇処分を検討するべきでしょう。
業務中の私用メールを禁止する旨について、就業規則で定めることは可能ですか?
業務中の私用メールは、情報漏洩の観点から、会社に大きなダメージを与える可能性があります。
なぜなら、業務中にインターネットやメールを利用することにとって、悪質なサイトにアクセスしてウイルスに感染したり、ウイルス感染ソフトが仕込まれたメールを受信したりする可能性があるためです。
したがって、業務中にインターネットやメールの私的利用は、就業規則で禁止することは可能です。
解決金の支払いによる解雇は認められますか?
問題社員を解雇した場合、当該社員から「当該解雇は無効だ!」と争われる可能性があります。
そこで、問題社員と使用者との間で、協議した上で円満に解決することが効果的な場合があります。
なぜなら、使用者と問題社員との間で円満に解決することによって、問題社員が辞めた後に解雇の有効性について争いにならない可能性が高まるからです。
そこで、使用者が問題社員に対し、いくらかの解決金を支払うという内容で合意による退職をすることは認められます。
就業規則の解雇事由に包括規定を設けておけば、解雇は認められやすくなりますか?
就業規則の解雇事由に「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」という包括規定を定めておくことが多いことは上述のとおりです。
確かに、包括規定があれば、解雇事由該当行為の検討の幅は広がりますが、当該規定を定めたからといって、必ずしも解雇が認められやすくなるというわけではありません。
適切な手順に従って解雇するようにしましょう。
仕事をサボっていると他の従業員から報告を受けた場合、どのように対処すべきでしょうか?
まず、仕事をサボっている従業員に対して、今後の処分を下すために、慎重に行動するべきといえるでしょう。
初めに、他の従業員に対して、当該社員がどのような行為を行っているのかを聞き取った上で、客観的な証拠を収集するようにしましょう。
様々な調査の結果、当該社員が仕事をサボっていることが判明した場合、書面など証拠になる方法にて、注意・指導を行うようにしましょう。
何度も指導・注意をしたにもかかわらず、当該社員に改善がみられない場合には、懲戒処分を下すことを検討しましょう。
無断欠勤が何日以上続くと解雇できるのでしょうか?
一概には言えませんが、裁判例に基づくと、2週間以上無断欠勤が続く場合には、解雇することが認められる可能性があります(東京地方裁判所12年10月27日判決)。
個別具体的な事情によりますので、解雇する際には、客観的な証拠を集めた上で、弁護士に相談するようにしましょう。
問題社員の対応には人事労務の専門家である弁護士のサポートが必要です。 お悩みなら一度ご相談下さい。
これまで、問題社員の対応について、ご説明してきました。
企業において、問題社員への対応に困っていることが多いと思います。
問題社員に対して、適切な手段・方法によって適正な処分を下す必要があります。
適切な手段・方法で処分を下さなければ、後に、処分の有効性が争われ、企業が多大なる損害を被る可能性があります。
そのようなことにならないためにも、人事労務に詳しい弁護士に相談しましょう。
弊所の弁護士であれば、数多くの問題社員問題を対応した実績から、ご相談者のお力になれるかと存じます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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