監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 有期雇用契約
人材を採用する際に、社員としての適性を評価判断するために試用期間を設けている会社は多いかと思います。しかし、本採用を拒否することは簡単には認められません。
そこで、期間満了により労働契約が当然終了する有期雇用契約を試用期間として使う企業が時折見受けられます。このような試用期間としての有期雇用契約は認められるのでしょうか。
本日は試用期間と有期雇用について、ご説明いたします。
目次
試用期間と有期雇用の法的性格
試用期間は、一般的に解約権留保付労働契約と解されています。本採用前とはいえ労働契約が成立しており、従業員に適正がないと判断した場合に本採用を拒否できる解約権が留保されていることが特徴です。
他方で、有期雇用契約とは、労働期間(1年間、6カ月間など)の定めのある労働契約です。
試用期間を設けるメリット
履歴書や面接だけでは、応募者の能力や適正を見極めるのは難しいものです。試用期間を設けることで、実際に就労させてみて従業員としての適格性を観察し、本採用するかどうかを判断できることはメリットといえるでしょう。
また、試用期間終了時の本採用拒否については、実際の就労状況等を観察して従業員の適格性を判定するという趣旨・目的に照らし、本採用した後の解雇に比べると、解約権行使(解雇)が認められる範囲は広くなります。
有期雇用契約をするメリット
いわゆる正社員の雇用契約には期間の制約はありません。定年、自主退職、解雇などの理由が生じた場合に契約終了となります。
そのため、一時的に労働力が必要な場合、一定期間のみスキルある人材を雇用したい場合などに、有期雇用契約を活用し人材の補填を行うことができれば、長期的な雇用をさけ人件費を削減することが可能です。
また、有期雇用契約は、期間満了により終了するため、通常は解雇権濫用法理が及ばず、試用期間のように解約権行使の制限を受けることはありません。
試用期間としての有期雇用契約は認められるか?
労働契約に期間を定める場合、それがいかなる目的によるべきかについて法律上の規制はありません。
しかし、有期労働契約が締結されている場合であっても、その期間設定の趣旨・目的が労働者の適格性の評価・判定にあたる場合、この期間は、原則、試用期間とみなされてしまうため注意が必要です。
試用期間として有期雇用契約した場合、期間満了による雇止めは可能か?
以上のとおり、有期労働契約が締結されている場合であっても、その実態等に照らし、試用期間とみなされることがあります。
試用期間とみなされた場合には、純粋な有期労働契約のように期間満了により契約関係が当然終了するのではなく、解約権の行使(期間満了による契約関係の終了)は、客観的に合理的な理由があり社会的通念上相当として是認できる場合にのみ許されることになります。
試用期間満了による本採用拒否は解雇と同等の扱い
試用期間中も解約権留保付の労働契約が成立しており、本採用拒否は留保された解約権の行使(解雇)にあたります。本採用後の解雇と同様に簡単には認められませんが、本採用後の解雇に比べれば、認められやすい傾向にあります。
有期雇用契約でも試用期間と判断される可能性がある
以上に述べたように、有期雇用契約を締結していたものの、その期間設定の趣旨・目的が労働者の適格性の評価・判定にあたる場合には、原則、試用期間とみなされます。
試用期間を有期雇用契約とする際の留意点
そこで、試用期間を有期雇用契約として利用する際には、以下の点に留意が必要です。
契約期間満了により労働契約が終了する旨の合意が必要
使用者として、労働者の適格性を判定する目的で有期雇用契約を締結し、期間満了により契約を終了させようとする場合には、期間満了により労働契約が当然に終了する旨を労働者との間で明確に合意する必要があります。
かかる合意が無ければ、有期雇用契約ではなく、試用期間と判断されてしまう可能性が高くなります。
有期雇用契約は期間途中での解除が困難
有期雇用契約は、「やむを得ない事由がある場合」でなければ中途解約はできません(労契法17条)。この要件は、無期雇用契約の従業員を解雇する場合よりも厳しいとされています。
試用期間と有期雇用に関する裁判例
神戸弘陵学園事件
事件の概要
私立高校に1年の有期雇用契約書を交わして講師として採用されたが、採用面接の際に理事長から、「契約期間は一応1年とする」「1年間の勤務の状態をみて再雇用するか否かの判定をする」旨を口頭で説明されていた事案です。講師は、再雇用されることが無かったため、教論の地位の確認と期間満了による雇止め以降の賃金の支払いを求めて訴えを提起しました。
この事案においては、労働者の新規採用契約においてその適性の評価・判断のために設けられた期間が、試用期間なのか、あるいは雇用の存続期間なのかが争点となりました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
最高裁平成 2 年 6 月 5 日第三小法廷判決(平成元年(オ)第 854 号:地位確認等請求事件 )は、「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」と判示しました。そのうえで、本件契約は、その実態等に照らすと、解約権留保付労働契約であると解するのが相当であり、その解約権の行使(期間満了による契約関係の終了)は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認できる場合に許されると判断しました。
ポイント・解説
本判決は、雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるとき、この期間は、原則として、契約の存続期間ではなく、試用期間であると解されると判断しています。ただし、「期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合」は例外としています。
結局、本判決によると、試用目的の有期労働契約は、期間満了による契約の終了についての明確な合意が成立していなければ、その期間は試用期間として解釈され、期間満了により当然に契約が終了するということにはなりません。
また、本判決が「特段の事情」として挙げている「期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意」が認められるような試用労働関係は極めて限定的なケースに限られるのではないかと思われます。
試用期間や有期雇用に関するお悩みは、労働問題に詳しい弁護士にご相談下さい。
以上に述べたように、労働契約上設定された期間がどのような法的性質を持つか(純粋な有期雇用契約か、無期雇用契約につながる試用期間か)については、契約の文言や形式にとらわれず、具体的な事実関係に即して両当事者の真意を探究することによって判断されています。つまり、名目だけを有期雇用契約としても、その実態が試用期間であるのであれば、試用期間として認定されてしまいます。
会社としては、有期雇用契約であるから大丈夫と考えていたとしても、裁判所から試用期間と判断されて、期間の定めのない労働契約を締結していたということにもなりかねません。
このような法的判断を含む事項については、自社のみで悩まず、労働問題に詳しい弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
試用期間や有期雇用にお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates姫路法律事務所にご相談ください。
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