監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- ハラスメント
近年、セクシャルハラスメントという言葉が有名になっていることもあり、聞いたことのある人が多いのではないでしょうか。セクシャルハラスメント(以下では、「セクハラ」といいます。)という問題は、企業にとって軽視できない問題であり、ここでは、セクハラ問題が生じた場合の対処方法をご説明いたします。
目次
- 1 セクシャルハラスメント(セクハラ)が企業にもたらす損失
- 2 男女雇用機会均等法による「セクハラ」の定義
- 3 職場のセクハラ発生時に取るべき対応とは
- 4 セクハラの相談者・行為者等に対するプライバシー保護
- 5 セクシャルハラスメントに関する裁判例
- 6 法改正によるセクシャルハラスメント等の防止対策の強化
- 7 セクハラに関するQ&A
- 7.1 就業規則でセクハラに関する規定を設けたいのですが、どのようなことを記載しておけば良いでしょうか?
- 7.2 セクハラがあった際は解雇処分とすることを、就業規則に記載することは可能ですか?
- 7.3 セクハラ防止措置を講じない会社に対する罰則規定はありますか?
- 7.4 セクハラの目撃者など、第三者から事情聴取をする際に気を付けることはありますか?
- 7.5 セクハラ加害者に対する処分について、社内で公表することは問題ないでしょうか?
- 7.6 被害者と隔離するために加害者を配置転換することは、不利益取り扱いに該当しますか?
- 7.7 セクハラで解雇処分とする場合でも退職金の支払いは必要でしょうか?
- 7.8 LINEやメールのやりとりは、セクハラを裏付ける証拠として有効ですか?
- 7.9 匿名でのセクハラ相談にはどのように対応したら良いでしょうか?
- 7.10 セクハラ相談者が虚偽の申し立てをしていた場合の解決法を教えてください。
- 7.11 再発防止として、セクハラに関する研修を男性社員のみに受講させることは可能ですか?
- 7.12 取引先からセクハラを受けたと相談がありました。社外の人からのセクハラ被害にはどう対処すべきでしょうか?
- 7.13 女性から男性への性的な言動も、セクシャルハラスメントにあたるのでしょうか?
- 7.14 LGBTに対するセクハラがあった場合、会社ではどのような対応を取るべきでしょうか?
- 8 職場におけるセクシャルハラスメント問題の早期解決は、法律の専門家である弁護士にお任せください。
セクシャルハラスメント(セクハラ)が企業にもたらす損失
セクハラ問題が生じた場合、企業としては、①被害者に対して、使用者責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償支払債務、②加害者に対する懲戒処分等の対応、③企業イメージの低下や取引先との関係性等に対する対応を余儀なくされます。
上記の点に対応するために、時間と労力を割かなければならなくなり、セクハラが企業にもたらす損失は計り知れないということができます。
男女雇用機会均等法による「セクハラ」の定義
セクハラの定義として、男女雇用機会均等法第11条1項では、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と定義されています。
職場のセクハラ発生時に取るべき対応とは
もし、会社内で「セクハラをされた」との相談を受けた場合など、どのような対応をとるべきでしょうか。以下のような手順で行うべきであるといえます。
被害者と加害者の隔離
セクハラに関する事件が発生した、セクハラに関する相談を受けた場合、まず被害者と加害者を物理的に隔離するようにしましょう。被害者と加害者を隔離しないと、セクハラ事件が継続してしまう危険性もありますし、精神的な苦痛が増大する危険性もあります。したがって、セクハラ事件が起きてしまった場合には、被害者と加害者を隔離するようにしましょう。
ヒアリングなどによる事実調査
まずは、ヒアリングにより事実調査をする必要があります。なぜなら、セクハラといっても明確に判断できる事例が多いわけではありません。したがって、まずは事実確認をする必要があります。メールや文書などの証拠がある場合には、証拠等の調査をし、目撃者がいる場合には、その者に対する聞き取り調査を行うべきであります。
なお、セクハラに関する調査等で呼び出しを行う際には、プライバシーに配慮するべきでしょう。
加害者に対する処分の検討
ヒアリングによる事実調査の結果、セクハラの事実が確認できた場合、加害者には、就業規則に定められた処分が下されることになります。そのためには、就業規則に規定されている処分内容を確認(処分の種類等)し、本件セクハラに対して、どの処分を下すことが適切かを判断しなければなりません。就業規則には、その判断基準等を規定しておくといいでしょう。
就業規則に懲戒処分等が規定されていない場合には、就業規則の見直しをする必要があります。
被害者へのフォロー
セクハラにより被害者が負った精神的な苦痛は、計り知れません。そのため、企業側としては、被害者へのフォローも必要不可欠となります。被害者に対する調査も重要な事項ですが、被害者に対する精神的なケアも重要な事項であるため、同性が対応するなどの方針を協議しておかなければなりません。
再発防止のための措置
会社内でセクハラ事件が起きてしまった場合には、再犯防止に向けた措置を講じなければなりません。例えば、定期的に勉強会や研修を開催する、社内報やチラシなどを用いてセクハラが決して許されないものであることを告知する等です。そのようなことをすることによって、被害者の会社に対する信頼も獲得することができます。
セクハラの相談者・行為者等に対するプライバシー保護
セクハラ事件が起こり、当事者や周囲の人物から聴取した事項は、各人のプライバシーにかかわる内容であるため、各人のプライバシーを保護しなければなりません、プライバシー保護といっても何をどのようにすればいいのか不明なところも多いと思いますので、プライバシー保護に関するマニュアルを作成し、研修等を実施するといいでしょう。
会社がおこなうべき研修等を行わずして、当事者のプライバシー情報が流出してしまった場合、会社にも法的責任が生じる可能性がありますので、注意してください。
セクシャルハラスメントに関する裁判例
ここでセクシャルハラスメントに関する裁判例をご紹介いたします。
事件の概要
派遣先の役員らが派遣労働者の肩に手をまわした行為及び役員と共に食事に行くことなどを内容とするくじ引きを派遣労働者にさせた行為は、それぞれ人格権を侵害する違法行為であるとして、役員らに対して損害賠償請求をするとともに、会社に対し、就業環境配慮・整備義務を怠ったとして、損害賠償請求をした事案です。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所(東京地方裁判所・平成30年(ワ)第4347号・令和2年3月3日判決)は、それぞれ役員らのセクハラ行為について認定し、不法行為責任を肯定しましたが、会社の就業環境配慮・整備義務を怠ったことについての不法行為責任を否定しました。
ポイントと解説
日頃から、会社としてセクハラの研修や適切な指導を行っている場合には、当該裁判例のように、会社の就業環境配慮・整備義務を怠ったことについての不法行為責任が否定されることもあります。
どのような整備をするべきか、少しでも不安がある場合には、弁護士に相談するなど、専門家の意見を聞くようにするといいでしょう。
法改正によるセクシャルハラスメント等の防止対策の強化
令和元年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、男女雇用機会均等法等が改正されました(令和2年6月1日施行)。そこで、企業としてセクハラに対する防止対策の強化がされました。具体的には、①事業主及び労働者の責務、②事業主に相談等をした労働者に対する不利益取り扱いの禁止、③自社の労働者が他社の労働者にセクシャルハラスメントを行った場合の協力対応等です。
法改正に向け企業に求められる取り組み
企業に求められる取り組みとしては、大きく分けて4つに分類されます。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクシャルハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応、④プライバシーの保護や不利益な取り扱いをしないようにするための措置等です。
セクハラに関するQ&A
以下では、セクハラに関してよくあるご質問をご紹介いたします。
就業規則でセクハラに関する規定を設けたいのですが、どのようなことを記載しておけば良いでしょうか?
セクハラに該当する行為を行った場合に、懲戒処分の対象になることを記載するようにしましょう。上記で見てきたように、セクハラに該当する行為があったとしても、当該行為に対する処分が就業規則に記載されていない限り、加害者に対して処分することができません。
セクハラがあった際は解雇処分とすることを、就業規則に記載することは可能ですか?
セクハラがあった際に解雇処分とすることを就業規則に記載することは事実上可能です。
もっとも、セクハラがあれば直ちに解雇処分とすることはできず、セクハラの内容が強制性交等罪の犯罪行為に該当され有罪判決が下されたりする場合やセクハラの中でも悪質性が高いものについては、解雇処分を下せる可能性が高いといえます。
セクハラ防止措置を講じない会社に対する罰則規定はありますか?
セクハラ防止措置を講じないことを理由に、会社に対して、罰則を科す規定は存在しておりません。
もっとも、厚生労働大臣は、男女雇用機会均等法の施行に関し必要があると認めるとき、事業主に対して報告を求めることができ、事業者が報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料に処せられることがあります(男女雇用機会均等法33条、同29条1項)。
セクハラの目撃者など、第三者から事情聴取をする際に気を付けることはありますか?
セクハラの現場を目撃した人などの第三者から事情聴取をする際、被害者のみならず加害者のプライバシーに配慮するようにしなければなりません。例えば、どのような処分が行われるとか、当事者がどのような供述をしている等に関しては、第三者に教えてはなりません。
第三者に対しては、あくまで事情聴取のみに徹するようにしましょう。
セクハラ加害者に対する処分について、社内で公表することは問題ないでしょうか?
セクハラを行った加害者に対する処分については、社内で公表することが一般的です。なぜなら、企業としてセクハラ問題に対し厳しく対応することを表明することにもなりますし、公表されることにより抑止力となるからです。
もっとも、被害者名やセクハラの具体的内容については、被害者のプライバシーの観点から公表しない方がいいのではないかと考えております。
被害者と隔離するために加害者を配置転換することは、不利益取り扱いに該当しますか?
被害者と隔離するために加害者を配置転換することは望ましい処分であるといえます。なぜなら、セクハラの被害が拡大しないようにするためには、自宅待機や配置転換を行うべきであるからです。
セクハラで解雇処分とする場合でも退職金の支払いは必要でしょうか?
就業規則の退職金に関する規定に、「懲戒解雇処分の場合には、退職金の一部又は全部を支給しない」旨の記載がある場合には、退職金の支払をしないことも考えられますが、当該規定がない場合には、退職金を支払わなければならない可能性があります。
LINEやメールのやりとりは、セクハラを裏付ける証拠として有効ですか?
LINEやメールのやりとりは、セクハラを裏付ける証拠となり得ます。当該内容の発信者・日時等がわかるようにスクリーンショットや印刷をしておき、証拠を無くしてもいいようにバックアップを取っておくといいでしょう。
匿名でのセクハラ相談にはどのように対応したら良いでしょうか?
相談者が匿名を希望している場合には、匿名希望であることを尊重し、できる限り、相談者が特定されるような質問は控え、相談者のプライバシーに配慮するようにしましょう。
被害者は、セクハラの被害に遭っているということすらも言いたくないほど精神的苦痛を感じ、名前を伝えることに抵抗を感じる人も多いのです。
セクハラ相談者が虚偽の申し立てをしていた場合の解決法を教えてください。
セクハラの相談を受け、それを前提にセクハラの調査をしていた際に、当該相談が虚偽であった場合、当該相談者を呼び出し、当該申出に関して、適切な事実聴取をする必要があります。それに加えて、加害者として主張された者に対しても、適切に事実説明をする必要があります。
そして、当該虚偽相談者には、就業規則に基づき相応の処分を下すべきでしょう。
再発防止として、セクハラに関する研修を男性社員のみに受講させることは可能ですか?
これまでセクハラ問題は、男性社員が女性社員に対して行うことが圧倒的に多かったため、セクハラに関する研修を男性社員のみに限定することは可能です。
しかし、近年、女性社員から男性社員に対するセクハラ問題も増えてきているため、男性に限定するのではなく、社員全員に受講させるようにしましょう。
取引先からセクハラを受けたと相談がありました。社外の人からのセクハラ被害にはどう対処すべきでしょうか?
既にご説明したとおり、令和2年6月の改正により、企業としてセクハラに対する防止対策の強化がされ自社の労働者が他社の労働者にセクシャルハラスメントを行った場合の協力対応等をしなければならなくなりました。したがって、取引先の担当者に連絡し、セクシャルハラスメントに関する調査等についての協力を仰ぐようにしましょう。
女性から男性への性的な言動も、セクシャルハラスメントにあたるのでしょうか?
セクハラは、「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件において不利益を受けたり、性的な言動にとり就業環境が害されること」を言うため、男性から女性に限定するものではありません。
したがって、女性から男性への性的な言動もセクシャルハラスメントに該当しますし、近年増加しております。
LGBTに対するセクハラがあった場合、会社ではどのような対応を取るべきでしょうか?
LGBTとは、Lesbian Gay By-Sexual Transgenderを指し、性的マイノリティの総称です。LGBTに対するハラスメントについては、セクハラ・パワハラにならんで重要な権利侵害であるとして、会社としては適切な対応を取るべきです。
そのためには、現場の人間がLGBTに対する正しい知識を取得する必要があり、研修等を行い、会社として社会的責任を果たすべきでしょう。
職場におけるセクシャルハラスメント問題の早期解決は、法律の専門家である弁護士にお任せください。
これまでみてきたように、企業側としてセクハラを防止すること、仮にセクハラが発生したとしてどのように対処するべきかどうかの判断は容易ではありません、企業によっては、セクハラ問題に力を入れたいという企業もあると思います。
そのような場合には、企業側の労働問題を多く取り扱ってきた弁護士に相談するべきであるといえます。弊所の弁護士であれば、これまで数多くの企業側の労働問題を多く扱ってきたため、できる限り、企業のニーズに合わせたアドバイスをすることができると存じます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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