監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 労働審判
未払賃金や解雇・退職などの労働問題について、使用者側と労働者側の当事者間の話合いでは解決しない場合には、裁判所での手続に移行することとなります。
その場合、採り得る手続としては、通常の訴訟があり得ますが、訴訟の場合は、解決まで1年以上かかってしまうこともあり、迅速に解決する必要がある労働問題では時間がかかり過ぎます。このような状況にならないように、迅速に労働問題を解決するための制度が労働審判制度です。以下では、この労働審判制度について具体的に解説させていただきます。
目次
労働審判手続はどのような流れで行われるのか?
労働審判は3回以内の期日で審理される
労働審判手続は、紛争の実情に応じた迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とした手続です。迅速な手続としての側面は、具体的には、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において審理を終結しなければならないことに表れています。また、適正かつ実行的な解決としての側面は、具体的には、調停による解決をいつでも試みることができるとして労働審判手続の中に調停を包み込んでいることに表れています。
労働審判手続の具体的な流れ
労働者からの申し立て
まず、労働審判を申し立てたい労働者は、裁判所に、申立ての趣旨及び原因を記載した書面を裁判所に提出し、労働審判手続の申立てをすることになります。この手続きは、使用者側の意向にかかわらず手続きを進行させるため、使用者は労働審判の申立てを拒否できません。
第1回期日の決定・呼び出し
裁判所は、労働者からの申立てを受理した後、第1回目の期日を決めます。その期日を記載した呼出状と申立書を、相手方となる会社に送ります。第1回目の期日は、原則として申立てから40日以内とされています。
期日までに準備しておくべきこととは?
労働者から労働審判を申し立てられた使用者側は、第1回の期日の前に(正確には期日の1週間ほど前に設定された書面提出期限までに)主張をまとめて証拠とともに提出する必要があります。第1回期日は約1か月後に指定されることが多く、裁判所から審判の書類が届いてから20日ほどの間に準備を行わなければなりません。
そのためには、迅速に事実関係を整理し、証拠を収集する必要があります。また、第1回期日までの双方の主張によって大まかな方向性が決まることから、労働者の主張に対して、抜かりのない適切な反論を法的観点から構築しなければなりません。 このように、使用者側としては労働審判に向け、早くかつ正確に動く必要があり、そして第1回期日前の準備は審判の結果を大きく左右します。そのためには専門家である弁護士の力が必要となる場合が多いです。
第1回期日
労働審判では労働者本人、使用者側の本人(社長や責任者)及びそれぞれの代理人弁護士、裁判官、労働審判員(2名)が出席し、事前に提出した書面や証拠の整理に加え、裁判官らから当事者への質問等の証拠調べを行います。これにより、裁判所の事件の結論に向けた考えが形成されていきます。
労働審判手続は公開されるのか?
労働審判手続は、原則として公開されません(16条本文)。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができます(16条ただし書)。傍聴が許される者としては、たとえば、事件について相当程度の利害関係を有する者が考えられます。
会社はどのような姿勢で臨むべきか?
審判は、裁判官から口頭で直接質問されるので、予想される質問に対する回答を準備しておきます。会社としては、そのようなやりとりがあることを想定して期日に臨むことになります。
第2・3回期日
第1回期日の時点でおおまかな方向性が決まり、第2、3回の期日では労使者間の合意による解決へ向けた調整も行われます。双方の歩み寄りにより合意が成立すれば、調停成立(裁判所での協議を経て合意が成立した)という形で終結します。当事者が合意による解決を望まない場合や協議が決裂してしまった場合は、裁判所が結論を決定(審判)する形で終結します。
労働審判が申し立てられ手続が進んでいく場合でも、上記のように双方の合意による調停成立という形で終結する方が、審判という形での終結よりも多くなっています。
調停が成立した場合
調停が成立した場合には、裁判所によって、成立した内容を記載した調書が作成されます。当事者は、その内容に従って義務を履行すれば、無事に紛争が解決したことになります。
調停不成立の場合
当事者が合意による解決を望まない場合や協議が決裂してしまった場合は、裁判所が結論を決定(審判)する形で終結します。
労働審判の確定
労働審判が確定すると、裁判上の和解と同一の効力を有するものとして扱われることになるので、労働審判には、法的強制力が認められることになります。
不服がある場合は異議を申し立てる
審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に異議の申立てをすることができます(21条)。異議申立てがあったときは、解決案を受け入れる意思がないとみて、労働審判は効力を失います。その場合には、労働審判の申立てがあったときに労働審判がなされた裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。
申し立てから解決までにかかる期間はどれくらい?
労働審判は、原則として3回以内の期日、期間にして70日から90日程度で終了します。その後、裁判所は、調停による解決の見込みがある場合にはこれを試みつつ、速やかに争点及び証拠の整理などを行って、審理を進め、調停が成立しない場合には、事件の内容に即した解決案を決することになります。
労働審判委員会が労働審判を終了させるケースとは?
労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができます。これはどのような場合かと言いますと、例えば、争点が多数あり又は多数の当事者が関与しているなど複雑困難な事案である場合が考えられます。
労働審判手続で不備が無いよう、労働問題の専門家である弁護士がサポート致します。
以上のように、労働審判が申し立てられた場合、使用者側としては、スピーディーかつ抜かりなく審判に向けた準備を進める必要があります。また、労働者側の主張に対する適切な反論、調停といういわば和解的な形での解決に向けた条件の検討など、あらゆる場面において専門家である弁護士の必要性が高いといえるでしょう。
また、弁護士に依頼した場合、期日間に労働者側との交渉を代理人として進めることができるため、よりスムーズに解決に向けて進めることができます。
労働審判を申し立てられたら、早期に弁護士に相談することをお勧めします。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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