監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 退職・解雇
離職票の離職理由には、「自己都合」と「会社都合」の2種類がありますが、離職理由に不服のある退職者から異議申し立てがなされることがあります。
今回は、退職者から離職票の離職理由に関する異議申し立てがなされた時にどのように対応すれば良いかご紹介します。
目次
離職理由に関する労働者からの「異議申し立て」とは
離職理由に関する異議申し立てとは、離職理由に不服のある退職者がハローワークに異議を申し立てる手続きです。審査によって離職理由が「会社都合」から「会社都合」に訂正されることがあります。
なぜ離職票の離職理由に関するトラブルが多いのか?
そもそも会社と退職者の離職理由の認識が異なるケースは少なくありません。
また、以下で説明しますが、退職者としては、離職理由が「自己都合」より「会社都合」の方が失業保険給付の取扱いにおいて優遇されることになり、他方で、会社としては、「会社都合」退職の場合、一定期間は雇用関係の助成金の支給してもらえないという不利益が生じます。
そのため、離職票の離職理由に関するトラブルが多いのです。
離職理由は失業給付の金額や支給期間に影響する
会社都合退職の場合、労働者に責任なく職を失うことから、失業保険給付の取扱いにおいて、失業手当の支給時期が早く、支給期間も長く設定されており、自己都合退職よりも優遇されています。
具体的には、失業保険の支給日について、自己都合退職の場合は、労働者は失業保険を受け取るために待機期間7日+給付制限期間2~3ヶ月間を待つ必要があるのに対し、会社都合退職の場合は、待機期間7日間の経過を待てば失業保険給付を受けられます。
また、支給期間についても、自己都合退職の場合は被保険者であった期間に応じて原則90~150日であるのに対し、会社都合退職の場合は90~330日あります。上記のとおり、支給期間が異なりますので、全期間を通しての給付金額は大きな差があります。
会社が受給する助成金との関係
雇用関連の各種助成金には、各々受給要件が設けられています。
ここで注意が必要なのは、雇用関連助成金が労働者の雇用の安定や労働者の処遇改善を促すために設けられた制度であり、会社都合退職があった事業所は、一定期間は雇用関係の助成金の支給してもらえないという不利益を受けます。
ただし、助成金を受給していない(受給する予定もない)企業にとっては、会社都合退職とすることに上記のデメリットはありません。
離職票の離職理由に異議を申し立てられたらどう対応すべき?
退職者から異議申し立てがあった場合、ハローワークが会社や退職者から事情聴取を行い、それをもとに「自己都合」か「会社都合」か判断することになっています。
ハローワークから事情聴取される内容は、事案によって異なりますが、基本的なスタンスとしては、自己都合退職として扱った会社の認識が正しいことを説明して、退職者からの申し立てに反論する必要があります。
離職理由の訂正には必ず応じなければならないのか?
離職理由の訂正には必ずしも応じる必要はありません。
上記のとおり、離職理由が正しいことを具体的にハローワークに説明しましょう。
訂正する場合は離職票の再発行が必要
訂正届と補正する内容の証明となる書類を添付して訂正することになります。
ハローワークによる調査の対応について
上記のとおり、ハローワークは、会社や退職者から事情聴取を行い、「自己都合」か「会社都合」か判断します。ハローワークによる調査に対しては、会社の認識が正しいことを具体的に説明するためにも協力すべきです。
会社が準備しておくべきものとは?
ハローワークの調査事項に関する会社の主張や会社の主張を基礎付ける証拠を準備しておくべきでしょう。
調査に応じなかった場合はどうなる?
退職者の主張が一方的に調査されることになり、会社側の主張が伝わらないため、不利な判断が下される可能性が高くなります。
離職理由を正しく選択するためには
離職票の離職理由を正しく選択するためには、離職理由を正確に把握することが大切です。
特に会社と退職者の離職理由の認識が異なる可能性があるケースにおいては、事後的なトラブルを避けるためにも、退職届を記載してもらうなど離職に至る経緯等について資料として残しておくべきでしょう。
また、離職証明書の事情記載欄に、具体的な離職理由を記載し、退職前に退職者本人に確認してもらいましょう。
離職理由の判断基準
離職理由は、基本的には離職票の記載により判断されます。
しかし、退職者から離職票の離職理由に関する異議申し立てがなされた時には、労働者の意思で退職したのか(自己都合退職)、労働者が意思に反して退職を余儀なくされたのか(会社都合退職)、双方の主張や根拠資料等を基に実質的に判断されることになります。
特定受給資格者・特定理由離職者における注意点
特定受給資格者とは、倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者です。特定理由離職者とは、特定受給資格者以外の者であって期間の定めのある労働契約が更新されなかったことその他やむを得ない理由により離職した者です。いずれも厚生労働省に要件が定められているため、失業給付などの優遇措置を受けるためには要件を確認する必要があります。
また、労働者の申し出によって離職しているので自己都合退職と見れるケースにおいても特定受給資格者に該当するケースがあるため注意が必要です。
例えば、労働者の申し出によって離職しているが、実際はセクハラやパワハラの嫌がらせを受けたことによって離職せざるをえなかったケースのように離職に至った原因が会社側にあると判断されれば、特定受給資格者に該当します。
会社が虚偽の離職理由を記載するとどうなる?
会社が離職票に意図的に虚偽記載を行った場合、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります(雇用保険法7条、83条参照)。
また、会社が虚偽の離職理由を記載し、それにより退職者が損害を被った場合、退職者から損害賠償請求をされるおそれがあります。訴訟に発展すれば、認定された損害賠償責任を負うだけではなく、対応に時間と労力を要します。
離職理由の異議申し立てがなされた判例
離職理由が争点となった裁判例を紹介します。
事件の概要
自己都合退職と扱われた労働者が、自己都合退職として算出された退職金及び失業給付と会社都合退職として算出される退職金及び失業給付の差額を会社に損害賠償請求を行った事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
大阪地方裁判所判決/平成18年(ワ)第5385号、平成18年(ワ)第12937号
会社から,今後の身の振り方を考えるようにと告げられたことを契機に提出された退職願を,会社が会社都合退職ではなく自己都合退職として処理したことに過失があり,不法行為に当たると判断しました。
ポイント・解説
本件は、労働者が退職届を会社に提出していた事案ですが、労働者生活状況(子どもの学費や住宅ローンの状況)、退職願の提出経緯(退職願が労働者自ら書面を持参したのではなく会社主導で作成されたものであったこと)等を考慮して、労働者が自発的に退職届を申し出るとは考えがたく、会社が解雇等の処分に代えて退職を促した結果であるとして、会社都合退職であると判断しました。
離職理由について異議を申し立てられたら、弁護士に解決を委ねることが得策です。まずは一度ご相談下さい。
会社と退職者の離職理由の認識が異なるケースは少なくありません。
そして、離職理由に関するトラブルは、会社が受給する助成金に影響するだけでなく、退職に伴う金銭的な紛争を招きやすいものです。
離職理由について異議が申し立てられた場合、弁護士に解決を委ねることが得策です。まずは一度ご相談下さい。
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