
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 問題社員
企業活動においては、社員の行動や態度が職場全体の雰囲気や業務効率に大きな影響を与えます。
その中でも、業務命令に従わない、ハラスメントを行うなどの問題行動を繰り返す「問題社員」は、企業にとって大きな悩みの種です。
こうした社員を放置しておくと、他の社員の士気や生産性に悪影響を与えるだけでなく、会社の法的責任を問われる可能性もあります。
本記事では、問題社員の典型的な特徴や、それに対する適切な対応、解雇の方法とリスクについて、法的観点から詳しく解説します。
目次
問題社員(モンスター社員)とは?6つの特徴
「問題社員」とは、法律上の用語ではありませんが、業務の遂行に著しい支障をきたす言動を繰り返す社員のことを指し、近年では「モンスター社員」とも呼ばれます。
業務命令を無視したり、他の従業員に対してハラスメントを行ったりするなど、その問題行動は多岐にわたります。
会社としては、業務の円滑な遂行や社内秩序の維持のためにも、こうした問題社員に対して的確に対処することが求められます。
以下では、問題社員に共通する6つの特徴を紹介し、それぞれについて具体的に説明します。
業務命令に従わない
1つ目の特徴は、会社の業務命令に従わないというものです。
業務命令とは、就業規則や業務内容に則った指示・命令であり、従業員には、原則としてこれに従う義務があります。
上司の正当な業務命令に対して従わず、無視や拒否を繰り返す問題社員は、組織の一体性を損なう存在となりますので、職場環境の悪化を防ぐためにも、早期に対応することが重要です。
ハラスメントを行う
2つ目の特徴は、他の従業員に対してハラスメントを行うというものです。
同僚や部下に対してパワハラ・セクハラ・モラハラといったハラスメント行為を行う社員は、職場環境を著しく悪化させます。
近年、企業におけるハラスメント防止の取り組みが強化されており、厚生労働省の指針でも適切な対応が義務付けられています。
会社がハラスメントを放置すると、被害者が退職するなどの人的損失だけでなく、会社自体が損害賠償請求や社会的信用の失墜といったリスクを抱えることになりますので、早期に対応するようにしてください。
仕事を怠ける
3つ目の特徴は、仕事を怠けるというものです。
無断欠勤・遅刻・早退の常習化や、勤務中に私的な用事を行うなど、職務怠慢の傾向がある問題社員は、会社の生産性に大きな影響を及ぼします。
こうした行動は、問題社員の評価を下げるだけでなく、周囲の従業員の士気にも悪影響を与えるため、早期の是正が必要です。
素行・私生活に問題がある
4つ目の特徴は、素行・私生活に問題があるというものです。
たとえ勤務時間外の行動であっても、問題社員による違法行為や反社会的な行動が発覚した場合には、所属している会社の信用を損なうおそれがあります。
例えば、SNSでの不適切発言、反社会的勢力との交際など、私生活上の問題が会社の評判や取引先との関係に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
素行・私生活に問題がある問題社員についても、早期に適切な対応を取る必要があるでしょう。
協調性がない
5つ目の特徴は、協調性がないというものです。
職場は、集団で業務を行う場であるため、チームワークを無視して独断的に行動する問題社員は、組織全体の効率や雰囲気を損なう原因となります。
他人の意見を聞かず、報告・連絡・相談を怠る社員は、結果として重大なミス・トラブルを引き起こすことがありますので、早期に適切な対応が必要となります。
能力不足
6つ目の特徴は、能力不足というものです。
入社後、業務に必要なスキルや知識を身につけられず、成果を出せない従業員については、「能力不足」として対応を検討する必要があります。
もっとも、まずは、教育訓練や指導、配属転換といった手段を通じて改善の機会を提供することが原則ですので、即解雇など誤った対応を取らないようご注意ください。
問題社員を放置しておくことのリスク
問題社員を放置すると、他の従業員のモチベーション低下や業務の停滞、さらには社内秩序の崩壊といった深刻な事態を招くおそれがあります。
また、ハラスメントを見過ごせば、被害者が会社に損害賠償請求をする可能性もあります。
さらに、会社が注意・指導を怠ったことで、会社の管理責任が問われる場合もあります。
そのため、問題社員の言動には早期に対応し、必要に応じて証拠を残しつつ、段階的に対処していくことが重要です。
問題社員への適切な対応方法
問題社員に対しては、まずは業務上の指導を通じて改善の機会を与えることが原則です。
その上で、具体的な問題行動が継続する場合には、口頭注意や書面による指導、始末書の提出を求めるなど、段階的に処分を強化していくことが望まれます。
状況によっては、配置転換や職種変更などの柔軟な対応も有効です。
法的トラブルを回避するためにも、対応の過程を記録し、就業規則等に基づく手続を厳格に行うことが不可欠といえるでしょう。
①まずは業務指導を行う
会社が問題社員の存在に気づいた段階で、まず行うべきは、業務上の指導です。
本人に問題のある行動や態度を明確に伝え、どのように改善すべきか具体的に説明することで、自覚を促します。
また、改善状況を定期的に確認し、証拠として記録に残すことも重要です。
これにより、後の注意処分や懲戒手続の際に証拠となり得ます。
改善の余地がある限り、丁寧な指導を重ねる姿勢が会社側の誠実さとして評価されやすくなります。
②問題行動に対して注意処分する
業務指導を行っても改善が見られない場合は、注意処分に移行します。
注意処分には口頭注意、文書による警告、始末書の提出などがあります。
特に文書による注意は、後に法的措置を講じる際の証拠としても有効です。
処分の内容は、就業規則に基づいて適切に行う必要があります。
形式的な注意にとどまらず、本人に問題行動の重大性を自覚させ、改善を促すための措置であることを理解させることが大切です。
③程度によっては懲戒処分を行う
注意処分を経ても改善が見られない場合や、問題行動が重大な場合には、懲戒処分を検討する必要があります。
懲戒処分には戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などがあり、いずれも就業規則に明記されていることが必要です。
懲戒処分を実施する際には、本人に弁明の機会を与え、公平な手続を踏むことが求められます。
違法・不当な懲戒とならないよう、社内手続と証拠保全を徹底することが不可欠です。
問題社員を辞めさせることはできるのか?
問題社員への対応として、最終的に「辞めさせる」判断をする場合、法的な手続を踏まないと不当解雇とされるリスクがあります。
解雇は、取りうる処分の中で最も重大な処分とされており、いわゆる最終手段であるため、まずは改善指導や配置転換、退職勧奨など段階的な対応が必要です。
本人の言い分を十分に聴き取りながら、証拠としての記録を残し、合理的な対応を積み重ねることが、後の紛争を防ぐ上で重要です。
まずは自主退職を促す「退職勧奨」を行う
退職勧奨とは、会社が社員に対して退職を提案する手続です。
解雇とは異なり、退職に関する強制力はなく、あくまで合意に基づく退職が前提です。
退職勧奨を行う際には、本人の自由意思を尊重する姿勢が求められます。
執拗な退職勧奨や威圧的な言動は、違法な退職勧奨と評価されるおそれがあり、トラブルに発展する可能性があります。
そのため、退職勧奨の実施時には、双方の発言内容を記録して証拠化するなど、慎重な対応が必要です。
退職勧奨に応じないときは「解雇」を検討する
退職勧奨に応じない社員に対しては、最終的に解雇を検討する場合があります。
ただし、解雇には、客観的合理性と社会的相当性が求められ、これを欠くと無効と判断されます(労働契約法16条)。
また、解雇する際には、就業規則に従った手続を行う必要があり、懲戒解雇を行う場合は、弁明の機会を設ける必要があります。
会社は、注意・指導の履歴や証拠を十分に蓄積した上で、法的リスクを踏まえた慎重な対応が求められるといえるでしょう。
不当解雇と判断された場合の会社側のリスク
解雇が無効と判断された場合、会社は、従業員に対して、従業員としての地位確認請求や未払賃金の支払義務を負う可能性があります。
また、精神的損害に基づく慰謝料請求や、労働審判・訴訟への対応が必要になることもあります。
さらに、解雇をめぐるトラブルは、社内外に悪影響を及ぼし、他の社員への不信感にもつながります。
こうしたリスクを避けるためには、事前に専門家に相談し、正当な手続を踏むことが重要です。
問題社員の解雇の有効性に関する裁判例
問題社員の解雇が有効かどうかは、個別具体的な事情に応じて判断されます。
過去の裁判例では、業務命令違反や協調性欠如などの理由でも、会社が注意指導を重ねた上で適切な手続を経ていれば、解雇が有効と認定されることもあります。
一方で、指導履歴や証拠が不十分な場合、解雇が無効とされるケースも多く見られます。
裁判例を参考にしつつ、慎重に対応することが求められるといえるでしょう。
事件の概要
例えば、東京地裁平成29年7月18日判決(平成28年(ワ)第7178号)では、従業員がメールを送信する際、「上司をCCに入れるように」という業務命令に繰り返し従わなかったことを理由とする解雇の有効性が争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、従業員が業務命令に従わなかった点について、
「社長が従業員に対して行った、業務に関連する電子メールのCCに必ず上司のメールアドレスを入れるようにとの指示は、上司が部下である従業員の担当する業務の内容やその進捗状況等を、従業員の主観的な判断による取捨選択や報告を待たずに、早期かつ全般的に把握できるようにするという目的において合理的なものと解され、また、従業員に大した労務負担を生じさせるものでないことに照らせば、社長の従業員に対する業務上の指示として不合理なものとは認められず、会社にとって、その従業員に遵守させる必要性のある合理的な指示と認められる。したがって、従業員としては、特段の正当な事由がない限り、この業務上の指示に従ってしかるべきであったと解される。」
とし、従業員に特段の正当な事由がない限り、業務命令に従う義務があったと判示しています。
また、裁判所は、従業員に対して行った解雇の有効性について、
「従業員は、業務上の指示、命令違反を繰り返した結果、社長から本社への電子メールの送信等を禁じられた後ですら、社長らの指示には従うといいつつも、「様子を見る」との旨述べ、ここに及んでもなお、社長の上記指示及び命令に無条件には従わない姿勢を明らかにしていたことが認められる。そして、従業員が本件解雇当時33歳という分別のあるべき年齢であったことを併せて考慮すれば、既に述べた本件解雇に至った経緯をもって、従業員に対する指導や教育等が従業員を解雇するに不十分であったとは認められない。また、以上に述べたところのほか、会社が社長を含めて従業員20名弱という小規模な会社であることに照らせば、会社が従業員に対し本件解雇以外の手段をとることは困難であったと認められる。」
として、従業員の解雇を有効と判示しました。
ポイント・解説
問題社員の解雇が認められるかは、本人の問題行動の内容だけでなく、会社側がそれにどう対応してきたかが問われます。
本件では、上司をメールのCCに入れないという比較的軽微な違反行為のように思いますが、①会社側が再三にわたって指示したにもかかわらず改善がなされなかったこと、②従業員の年齢からみて分別のあるべき年齢であること、③会社が小規模であり解雇以外の措置(配置転換等)が取れなかったこと等の事情から、解雇が有効と判示されたものと考えられます。
問題社員であったとしても、解雇は最終手段であることを常に意識し、会社として段階的対応を行っていくことが重要といえるでしょう。
問題社員(モンスター社員)への対応で注意すべき点
会社側としては、感情的・即時的な対応ではなく、冷静で証拠を伴う対応が基本です。
問題行動を確認したら、その都度内容を記録し、就業規則に基づく処分を検討しましょう。
また、面談記録や始末書の保管も重要となります。
本人に改善の機会を与えつつ、必要に応じて専門家の助言を受けながら対応するようにしてください。
会社側の対応のミスが、後に不当解雇等の主張につながるリスクがありますので、適正な手続を行うよう注意しましょう。
従業員の問題行動を未然に防ぐためには
問題社員の発生を防ぐためには、採用時の適性評価や就業規則の明確化が重要となります。
また、入社後も定期的な研修や個別面談を通じて、職場内での意思疎通を図り、早期に問題の兆候を発見できる体制を整えることも重要です。
加えて、従業員同士の信頼関係や報告・相談のしやすい雰囲気づくりも、問題社員の問題行動の予防に効果的です。
問題社員の対応でお悩みの際は弁護士法人ALGにご相談下さい。
問題社員に関する対応は、法的知識と実務経験を要する複雑な分野です。
誤った手続や不適切な対応をしてしまうと、会社側が不利になるおそれもあります。
そうしたリスクを回避するためには、労働法に精通した弁護士に早期に相談することが最も有効です。
弁護士法人ALGでは、豊富な実績と知見をもとに、企業の実情に応じた最適なアドバイスを提供しています。
問題社員対応にお困りの際は、ぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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