労務

企業がとるべき無期転換ルールへの変更対応

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

    「無期転換ルール」とは?

    無期転換ルールは、平成24年における労働契約法の改正により導入された制度で、一定の要件を満たしていることを前提として、有期として契約していた社員が、期間の定めのない労働契約の締結の申込みがあったときには、会社がその申込みを承諾したとみなす制度です(労働契約法18条)。

    その要件は、①同じ使用者との間で、2つ以上の有期労働契約が締結されていること、②2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えること、③有期労働契約の期間満了までの間に労働者から無期契約の申込みがあること、となります。

    問題社員の無期転換を拒否することは可能か?

    無期転換ルールは、上記①ないし③の要件を充足した場合に、有期として契約していた社員を無期契約に転換させる制度のことをいいますので、会社側が、問題社員の無期転換を拒否することはできません。

    無期転換回避を目的とした雇止めは有効か?

    上記のように、問題社員の無期転換を拒否することができないため、無期転換を回避するために雇止めができないかと聞かれることがあります。

    結論としては、無期転換申込前に雇止めをすることは不当な目的による雇止めと判断され、雇止め行為が無効と判断される可能性があるため、注意が必要です。

    すなわち、①実質的には無期労働契約を締結したとみなされる場合や、②労働契約の更新を期待することに合理的な理由があるような場合には、契約の更新があったとみなされる可能性があり、雇止めが無効となる可能性があります。

    懲戒処分に値する行為があった場合は?

    社員に懲戒処分に相当する行為があった場合、直ちに無期転換回避を目的とした雇止めができるわけではありません。

    なぜなら、無期転換ルールが適用されることと、懲戒処分を行うということは別の制度であるからです。

    しかし、懲戒処分に相当する行為があったということは、懲戒解雇等に関して重要な事実にあたるため、専門家に相談し、慎重に判断するようにしましょう。

    問題社員の無期転換を回避するには

    問題社員が無期転換となることを防ぐためには、どのような方法があるでしょうか。

    初めから5年の有期契約社員として採用する

    無期転換になる要件は、①同じ使用者との間で、2つ以上の有期労働契約が締結されていること、②2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えること、③有期労働契約の期間満了までの間に労働者から無期契約の申込みがあることですので、問題社員に対し、初めから5年の有期契約社員で労働契約を締結し、更新することなく、契約を満了させることができれば、無期転換の適用を回避することができます。

    もっとも、5年の有期契約社員で労働契約を締結した場合であっても、解雇するには、「やむを得ない事由」が必要となるため(民法628条)、容易に解雇できるとは限らないことに注意が必要です。

    クーリング期間について

    クーリングとは、契約期間の計算を途中でリセットし、また最初から契約期間の算定をするということをいい、契約期間のリセットを生じさせるための有期労働契約期間が存在しなくなる期間をクーリング期間といいます。

    クーリング期間を適切に利用することにより、無期転換ルールが適用できないようにすることができます。制度としては、分かりにくいところもあるため、弁護士等の専門家に相談していただくことをお勧めします。

    企業が無期転換の対応を取らないことのリスク

    企業が無期転換の対応を取らなかった場合に、どのようなリスクが生じるでしょうか。考えられるリスクについて、以下のとおり、ご説明いたします。

    無期転換ルールに違反した場合の罰則

    企業が無期転換ルールに応じず、問題社員からの無期転換の申し込みに応じなかった場合でも、無期転換に応じなかったことについての罰則は存在しておりません。

    もっとも、無期転換の対応をせず、雇止めや解雇をした場合には、その社員から、雇止めや解雇行為の効力が争われたり、賃金の支払いを求められたり、損害賠償請求等を請求される可能性があるため、慎重に対応するべきであると言えます。

    無期転換後の労働条件に関する注意点

    以下では、無期転換後の労働条件に関する注意点をご説明いたします。

    就業規則を整備する必要性について

    無期転換ルールが適用され、有期労働契約から無期労働契約に転換された後の労働条件は、就業規則等に別段の定めがない限り、転換される前の有期労働契約と同一の労働条件となります。

    転換前の有期労働条件が適用されることが会社にとって不都合な場合も存在するため、社内で十分検討した上で、変更するべき場合には、就業規則を整備しておく必要があります。

    もっとも、転換前の有期労働条件よりも下回る労働条件を規定することについては、無期転換ルールを定めた趣旨に反することになってしまうため、注意が必要です。

    有期労働契約にまつわる裁判例

    ここで有期労働契約に関する裁判例をご紹介いたします。

    事件の概要

    本件は、労働契約法18条1項に基づき有期労働契約から期間の定めのない労働契約に転換した労働者Aらが、転換後の労働条件について、雇用当初から無期労働契約を締結している労働者(以下、「正社員」といいます。)に適用される就業規則(以下、「正社員就業規則」といいます。)によるべきであると主張して、被告会社Bに対し、正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権として、無期労働契約に転換した後の賃金の支払いを求めた事案です。

    ここでご紹介する主な争点は、無期労働契約に転換後、正社員就業規則を適用するか、正社員就業規則を適用するのではなく、契約社員就業規則を適用するかどうかでした。

    原告Aらは、「無期契約社員規定の追加により無期転換後の原告らに契約社員就業規則を適用することは、無期転換後は正社員としての地位を得るとの原告らの合理的期待を侵害し、労働条件の実質的な不利益変更に当たるから、労契法10条の類推適用(なお、無期契約社員規定は、原告らの無期転換前から実施されている。)により無効である旨」を主張していました。

    7-2 裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

    これに対し、大阪地方裁判所(事件番号:平成31年(ワ)第3718号、判決日:令和2年11月25日)は、「そもそも労契法18条は、期間の定めのある労働契約を締結している労働者の雇用の安定化を図るべく、無期転換により契約期間の定めをなくすことができる旨を定めたものであって、無期転換後の契約内容を正社員と同一にすることを当然に想定したものではない。そして、無期契約社員規定は、労契法18条1項第2文と同旨のことを定めたにすぎず、無期転換後の原告らに転換前と同じく契約社員就業規則が適用されることによって、無期転換の前後を通じて期間の定めを除き原告らの労働条件に変わりはないから、無期契約社員規定の追加は何ら不利益変更に当たらない。」と述べ、原告Aらの主張を排斥しました。

    ポイント・解説

    有期労働契約から無期労働契約への転換後、どのような労働条件が適用されるかどうかが問題となった事案で、本件裁判所は、正社員就業規則及び契約社員就業規則の文言等を詳細に検討し、どちらの就業規則を適用するかどうかを検討しました。

    転換後に適用される労働条件が不利益変更にあたるかどうかについては、多くの事例で争点となるため、詳細な検討が不可欠になってきます。

    不利益変更にあたるかどうかについて専門家に相談し、就業規則の見直しを行っておくべきといえるでしょう。

    問題社員への無期転換対応についてお悩みなら、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい。

    ここまで、問題社員の無期転換に対する対応についてご説明してきました。

    問題社員の無期転換の対応をせず、雇止めや解雇をしたにもかかわらず、その社員から、雇止めや解雇行為の効力が争われ、雇止めや解雇行為が無効であると判断された場合、会社にとって多大なる損失が生じてしまう可能性があります。

    そのような事態を回避するためには、早期に労働問題に詳しい弁護士に相談し、慎重に対応しておくべきでしょう。

    弊所の弁護士であれば、これまで多くの労働問題を取り扱った経験があるため、企業様のお力になれることと存じます。

    まずは、お気軽にお問い合わせください。

    姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
    監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
    保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
    兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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