
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 退職・解雇
ローパフォーマーの社員が組織に与える問題点は、単に成果が出ないという範囲にとどまらず、チーム全体・組織全体の生産性や風土に悪影響を及ぼす可能性があります。
そこで、今回は、ローパフォーマーの社員を解雇できるかも含めて、人事・役職者が注意すべき点を解説いたします。
目次
ローパフォーマー社員の特徴
ローパフォーマー社員とは、職務において期待される成果や行動を継続的に満たしていない社員のことを指します。以下で、ローパフォーマー社員の特徴を説明します。
仕事に主体性がない
ローパフォーマー社員には、仕事に主体性がないという特徴があります。
仕事に主体性がない社員が存在することにより、当該社員の業務の質やスピードの問題だけではなく、組織全体の活力の低下につながります。
同じミスを繰り返してしまう
ローパフォーマー社員には、同じミスを繰り返してしまう特徴があります。
同じミスが何度も起こると周囲の負担が増加するだけではなく、社内外からの信頼が低下してし まるため、重要業務を任せられなくなります。
勤務態度に問題がある
ローパフォーマー社員には、勤務態度に問題があるという特徴があります。
勤務態度に問題がある社員が組織に存在することにより、企業の秩序やチームの雰囲気を損なう重大なリスク要因になります。
コミュニケーション能力が著しく低い
ローパフォーマー社員には、コミュニケーション能力が著しく低いという特徴があります。
コミュニケーション能力が著しく低い社員が存在することにより、当該社員の成果が低下するだけ ではなく、組織全体の生産性・雰囲気・信頼関係にも大きく影響を及ぼす恐れがあります。
なぜローパフォーマー社員が生まれるのか?
ローパフォーマー社員が生まれる理由は、本人の個人要因に加え、組織やマネジメントの影響も関係しているケースがあります。
仕事に対する成長意欲がない
仕事に対するモチベーションが欠如している社員は、上記1に記載のローパフォーマー社員の特徴が全て現れる可能性が高いです。社員の個人要因であることもありますが、以下2-3,2-4の記載のとおり、会社側の配置や指導に問題があるケースもあります。やる気がないからと突き放すのではなく、原因を丁寧に見極めながら社員が前向きに働けるようにマネジメントを行う必要があるでしょう。
知識やスキルが不足している
業務遂行に必要な知識・技術が不足している場合、仕事に対する主体性がなくなり、同じミスを繰り返すなどローパフォーマー社員の特徴が表れる可能性が高いです。
会社としては、個人で勉強しろと突き放すのではなく、段階的に成長しやすい環境を整備することが重要でしょう。
採用段階でミスマッチが生じている
本人の適正・スキルと業務内容にミスマッチが生じている場合、個人の力を活かせないばかりか、仕事に対する主体性がなくなり、 同じミスを繰り返すなどローパフォーマー社員の特徴が表れる可能性が高いです。
会社側の指導に問題がある
社員の個人要因に加え会社側の教育研修・OJT・フィードバックが機能していないことにより、仕事に対するモチベーションの低下、知識やスキル不足に繋がっていることがあります。
ローパフォーマー社員を放置するリスク
ローパフォーマー社員を放置するリスクとしては、以下のようなリスクが存在します。
組織としての生産性が低下する
他の社員が尻ぬぐいをせざるを得ない状況が続くと、他の社員の不満が募り、モチベーションが連鎖的に下がることにより、組織全体の生産性が低下してしまいます。
他の従業員の負担が増える
他の社員が尻ぬぐいをせざるを得ない状況が続くと当然他の社員の負担が増えます。頑張る人が損をする、不公平な職場と感じた人材ほど、より良い環境を求めて辞めていくことにもなりかねませんし、優秀な社員の離職にもつながります。
ローパフォーマー社員に対してまずやるべき対応
会社としてローパフォーマー社員に対してまずやるべき対応としては以下の事項が考えられます。
本人に問題点を伝える
まず、個人面談の機会などに本人に具体的に生じている問題を伝えたうえで改善を求め、その原因を丁寧に見極めながらパフォーマンスの低さを改善する対策を会社としても取ることが必要です。
本人が達成すべき目標を設定する
本人が達成すべき具体的な目標を設定しましょう。
社員本人に達成すべき目標を設定することは、社員の主体性を引き出し、成長意欲を喚起する有効なマネジメント手法です。また、当該社員の上司が期待役割を明確にして、目標の方向性を示し、成長段階が共有することが重要です。
評価・報酬制度を見直す
評価報酬制度の見直しは、社員のモチベーション・行動・成長・離職率に直結する重要な施策です。会社側に努力が報われない風土が存在すると仕事に対するモチベーションが欠如している社員が増え、組織の活力を損ないますので、評価基準・組織貢献度を正しく評価できる制度を作り直し、努力が報われる風土に変えていくことが重要です。
定期的な面談の機会を設ける
社員との定期的な面会の機会を設けることは、業務状況だけでなく、不満・人間関係などの兆候をキャッチすることで問題の早期発見・対応が可能になりますし、上司との信頼関係の構築にも繋がり、モチベーションの向上、離職率の低下、社員の不満の解消に有効なマネジメント手法です。
ローパフォーマーの社員を解雇できるのか?
ローパフォーマー社員を解雇できるかについては、原則として非常に困難です。
使用者による解雇は、法律により厳しく制限されており、「能力不足」「成績不良」「協調性の欠如」などの理由だけでは、通常、正当な解雇と認められません。以下に記載のとおり、指導を十分に重ねたが改善されなかったという記録が残っており、解雇以外の選択肢(配置転換、降格など)を試みたが、改善されなかったような例外的なケースに限り、解雇が有効とされることがあります。
ローパフォーマー社員を解雇する際の注意点
ローパフォーマー社員を解雇する際の注意点は、以下のとおりです。
指導が十分されているか
「能力不足」「成績不良」「協調性の欠如」などの理由だけで即時解雇することは、原則として認められません。適切な指導が十分になされているにもかかわらず、改善されなかったという事実が必要になります。
指導をしても改善されなかった証拠が残っているか
裁判では、「十分な指導がなされたのに改善されなかった」という事実自体が労使間で争われることが多く、解雇の有効性については、会社側に立証責任が存在するため、指導した記録、目標設定・フィードバックなどの記録の有無が極めて重要になります。
可能であれば配置転換を検討する
また、解雇の有効性の判断要素として、会社が解雇を回避する努力をしたかについても重視されます。十分な指導をしたにもかかわらず改善されず、解雇以外の選択肢(配置転換、降格など)を試みても改善されなかったという事実は、解雇の有効性の判断にプラスに働きます。
解雇の前に退職勧奨を行う
会社が、上記注意点を実施したとしても、解雇の有効性が争われる法的リスクは残ります。
そこで、ローパフォーマーの社員に対して、解雇の前に退職勧奨を行うことは、企業として法的リスクを抑えつつ、柔軟に関係を整理する現実的な手段です。
ただし、退職勧奨の方法によっては、違法な退職強要、パワハラになりかねないため、慎重な運用が必要になります。
ローパフォーマー社員の解雇に関する裁判例
能力不足を理由とする解雇に関する裁判例(ブルームバーグ・エル・ピー事件 東京高裁平成25年4月24日判決)
事件の概要
Y社がXの能力不足を理由に解雇したところ、Xが解雇は無効であるとして、労働契約上の地位確認及び平成22年8月分以降の賃金支払を求めて提訴した事案です。事案の概要については、以下のとおりです。
Yは、アメリカに本社を置く通信社であり、Xは、他の通信社の記者として約13年勤務後、平成17年11月にY社に中途採用されました。
その後、Xは、平成18年11月の勤務評価で「期待に満たない」との評価を受けましたが、平成19年6月から3カ月間、Xの課題改善のために実施されたアクションプランが実施され、その設定された目標については、全て達成しました。
しかし、平成21年12月10日、XはY社から課題点の改善を目的とするPIP(従業員のパフォーマンスが期待水準に達していない場合に、その改善を目的として実施される計画)を命じられましたが、すべての目標を達成するには至らなかったと評価され、引き続き同内容の第2,第3回PIP実施後、平成22年4月に自宅待機を命じられました。
その後、Y社は、Xに対して、平成22年7月20日付で、同年8月20日をもって解雇する旨の解雇予告通知を送付しました。同通知書には、解雇理由として就業規則に規定されている「社員の自己の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」「その他やむを得ない場合」に該当するとの記載がなされていました。
ポイント・解説
同裁判例は、職務能力の低下を理由とする解雇の「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条)の該当性について、労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し努力反省の機会を与えたのに改善されなかったか、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきであるとの判断枠組みを示しました。
そして、XがY社において求められる職務遂行の内容及び態度は、それまでの通信社と勤務経験におけるものとは異なる面があることは否定できないとしつつも、本件全証拠によれば、中途採用の記者職種限定の従業員に求められる水準以上の能力が要求されているとは認められないと判断しています。要するに、職種や職位が特定され、期待される能力が明確な中途採用者等の場合、社員の改善可能性や雇用維持努力の吟味が軽減され、当該職種・地位に求められる能力・適格性が欠ければ、解雇を緩やかに認める裁判例が存在するなかで、そもそも本件は、必要とされる職務能力が明らかにされている事案ではないと判断されているのです。
そのうえで、 Xの上司・同僚との関係、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さのいずれについても、労働契約の継続を期待できない程に重大なものとまでは認められず、また、Yの指示に従って改善を志向する態度を示しており、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠くものとして無効であると判断しています。
Y社は、アクションプランとして達成目標を示し、課題をフィードバックするという対応をしており、会社として指導及び改善するための努力をしましたが、それでも解雇が有効とは認められていません。能力不足を理由とする解雇が難しいことが分かります。
ただし、他の裁判例においては、雇用契約締結の具体的状況に照らして、職種や職位が特定され、期待される能力が明確な中途採用者等の場合には、雇用の際に要求されていた能力が不足していれば解雇を緩やかに認める裁判例も存在します。例えば、外資系金融企業に上級の専門職として特定の職種・部門のために即戦力として高待遇で中途採用された労働者の能力不足解雇についき、長期雇用システムにおけるような解雇回避措置を取らなかったとしても相当性を欠くことにはならないとして解雇の有効性を認めた事件(ドイツ証券事件)も存在します。
本件及び他の裁判例を考察すると、会社が求める能力・水準というのは、明確に示しておくということが重要であることが分かります。また、会社は目標を示してフィードバック面談をするだけでなく、どのように改善していくかを十分に労働者に示すことが求められていることが分かります。
ローパフォーマーの対応でお困りなら弁護士法人ALGにご相談下さい。
ローパフォーマー社員の対応を誤るとパワハラ・不当解雇と見なされるリスクもあります。また、そのような社員を放置することで組織全体の生産性の低下、優秀な社員の離職にも繋がります。早めの適切な対処と正しい手順が会社を守ることになります。
「何度注意しても改善されない」、「能力不足や仕事に対する姿勢に問題があるが、どのように指導すべきか分からない」などローパフォーマー社員の対応でお困りの場合には、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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