監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 労働審判
労働審判は、労使双方の主張、争点及び証拠を整理して、原則として3回以内の期日で審理を終結させる短期集中型の制度です。
また、基本的には第1回期日までに労使双方の主張立証を尽くすことが求められており、裁判所の心証が第1回期日で決まることが多いため、第1回期日までの主張立証でほぼ勝負が決まるといっても過言ではありません。
そこで、今回のコラムでは、労働審判に対応するうえでの初動対応の重要性を解説いたします。
目次
労働審判で初動対応が重要視される理由
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結させる短期集中型の制度であり、基本的に第1回期日までに労使双方の主張立証を尽くすことが求められています。
そのため、裁判所は、第1回期日で事実認定と心証形成がなされることが多く、第1回期日までに的確な主張立証を行うことが極めて重要となります。
労働審判への初動対応を誤ると、裁判所には、会社側の主張を理解してもらえないまま、社員側の主張どおりの審判が下されてしまうおそれがあります。
労働審判は準備できる期間が短い
裁判所は、労働審判の申立後、特別の事由がある場合を除き、申立てがされた日から40日以内の日に第1回の期日を指定し,当事者双方を呼び出します。
また,被申立人には,期日呼出状と共に,申立書の写し(申立人側の主張)等が送付されます。
そして、相手方は,裁判所が定めた期限までに,答弁書(被申立人側の主張)等を提出しなければならないのですが、裁判所は、会社側の主張を答弁書から把握しますので、第1回労働審判手続期日の1週間前には裁判所に届くように提出する必要があります。
そのため、答弁書の作成・証拠書類の準備できる期間は、実質3週間程度しかありません。
第1回期日を変更することは可能か?
労働審判期日は、第1回の重要性にもかかわらず、原則として変更できず、会社の都合は反映されません。
労働審判には、労働審判官だけでなく、労働審判員 2 名の日程調整をしなければならないため、第1回期日の延期を認めてしまうと労使紛争を迅速に解決できなくなってしまうからです。
そのため、労働審判員の選任が完了していない時期に、期日変更を申し出れば、裁判所が期日変更に応じてくれることもあります。
なお、労働審判員の選任は、裁判所が申立書を相手方に発送してから1週間から10日程度で行われていることが多いため、期日の変更が必要な場合には、申立書が届いてから1週間以内(できるだけ早いタイミングで)に申し出た方が良いでしょう。
労働審判はどのような流れで行われるのか?
労働審判は以下①~⑥の流れで行われます。
- 申立て
労働審判は,労働者からの申立てにより始まります。
労働者は、地方裁判所(本庁又は一部の支部)に申立書等を提出する必要があります。 - 期日指定・呼び出し
裁判所は,特別の事由がある場合を除き,申立てがされた日から40日以内の日に第1回の期日を指定し,当事者双方を呼び出します。
また,相手方には,期日呼出状と共に,労働者側が作成した書面(申立書)の写しや証拠等が送付されます。 - 答弁書等の提出
使用者側は、裁判所が定めた期限までに、労働者側が作成した書面(申立書)に対する使用者側の主張を記載した書面(答弁書)や証拠を提出しなければなりません。 - 期日における審理
裁判所は,原則3回以内の期日のなかで,労使双方の言い分を聴いて,争点を整理し,必要に応じて労働者や使用者側の関係者(会社の代表者や従業員)などから直接事情を聴取するなどの審理を行います。
また,話合いによる解決の見込みがあれば,和解を試みます。 - 調停成立
労使双方の和解が成立すると手続は終了します。
和解した内容は裁判所が作成する調書に記載され,条項の内容によっては,強制執行を申し立てることもできるようになります。 - 労働審判
労使の和解が成立しない場合は,労働審判委員会が,双方の主張・立証を踏まえ、判断(労働審判)を示します。
この労働審判に対し2週間以内に労使のいずれかから異議の申立てがなければ,労働審判は確定し,その内容によっては強制執行を申し立てることもできるようになります。
一方,労働審判に対し2週間以内に異議の申立てがされれば,労働審判は効力を失い,訴訟手続に移行します。
労働審判に対応するうえでの初動対応
労働審判に対応するうえでの初動対応としては、次のようなものがあります。
第1回労働審判期日の確認
期日呼出状や答弁書の提出期限を確認する必要があります。
上記のとおり、労働審判は、第1回の重要性にもかかわらず、原則として変更できず、労働審判に対応する時間的猶予がありませんので、お早めに労働問題に詳しい弁護士に相談をすることをご検討ください。
第1回期日を欠席するデメリット
労働審判においては、一方当事者が欠席した場合においても、出頭している他方当事者から主張等を聴いて審理を進めることが可能です。
そのため、会社側が連絡することなく労働審判期日を欠席した場合は、申立人に主張・立証を行わせ、申立人の言い分が相当と認められるのであれば、申立人の意向を確認した上で、申立人の言い分どおりの労働審判が行われる可能性があります。
また、正当な理由なく第1回期日を欠席すると、5万円以下の罰金に処せられる場合があります。
労働審判が行われる裁判所の確認
一般の民事訴訟では、地方裁判所の中でも、本庁と支部に事件が配分されていますが、労働審判手続においては、一部の地域を除き、地方裁判所の本庁で行われることとなっています。
期日呼出状には、出頭場所が記載されていますので、出頭場所を間違えないように労働審判が行われる裁判所の場所を確認してください。
会社側が労働審判を行う裁判所を選べるか?
労働審判を行う裁判所は、当事者間で合意しない限り、相手方の住所や居所、営業所、事務所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄しますので、会社側の一方的な判断で労働審判を行う裁判所を選ぶことはできません。
答弁書の作成
答弁書の作成・証拠書類の準備できる期間は、実質3週間程度しかありません。
また、裁判所は、第1回期日で事実認定と心証形成がなされることが多く、第1回期日までに的確な主張立証を行うことが極めて重要となります。
答弁書の出来や証拠で勝負がほぼ決まると言っても過言ではありません。
このように非常にタイトな期限のなかで、充実した答弁書を作成するには労働問題に関する高度な法的知識が必要となるため、早めに労働問題に詳しい弁護士に作成を依頼することをお勧めします。
指定された期限までに提出できない場合
指定された期限までに提出できない場合には、労働審判委員会に不誠実だと評価され、会社側の言い分を十分に把握してもらえないまま期日を迎えてしまうリスクがあります。
指定された提出期限までに答弁書作成がどうしても間に合わないときは、早めに裁判所に連絡したうえで、すべての作成が間に合わないとしても、間に合う範囲で書面を提出しておくようにしてください。
反論のための証拠書類を収集
会社側の主張がいかに合理的であったとしても、その証拠を裏付ける証拠の収集、提出を行わなければ、会社側の主張する事実を裁判所には認定してもらえません。
そのため、労働審判は第1回期日までに、会社側に有利な証拠は全て出し切ることが極めて重要です。
会社側の出席者を決定
労働審判の第1回期日においては、裁判所は出席者に対して直接質問をすることで争点に関する心証を形成します。
そのため、争点となる事実関係に密接に関わる人物を慎重に選定する必要があります。
また、第1回期日において、裁判所からの質問に対して会社側の出席者が適切な受け答えできるように入念に準備をする必要があります。
労働問題に精通している弁護士であれば、第1回期日前に裁判所からの質問を想定して回答の準備をすることもできますし、第1回期日においても、会社側の出席者に対する質問に対して適切なタイミングで助け船を出して的確な回答を引き出すサポートを行うことができます。
社長や取締役などの出席は必須か?
労働審判を弁護士に依頼せず、会社で対応する場合においては、中小企業など社長が労働者の人事も担っているようなケースでは社長の出席が必須です。
弁護士を依頼している場合は、弁護士が会社の代理人として参加するため、必ずしも社長の出席は必須ではありません。
むしろ、事件の解決に必要な決裁権限を持つ人物(人事部長など)が出席することが通常です。
和解による解決を望む場合に準備すべきこと
労働審判においては、殆どのケースにおいて、どこかのタイミングで労働審判委員会から心証の開示がなされたうえで和解の検討を促されることになります。
労働審判で和解による解決を望む場合は、労働審判委員会に少しでも会社側に有利な心証を持ってもらうことが、会社側にとって少しでも有利な和解による解決に繋がります。
そのためには、繰り返しになりますが、第1回期日までに的確な主張立証を行うことが極めて重要となります。
労働審判を申立てられた場合、いかに迅速に対応できるかが重要となります。まずは弁護士にご相談下さい。
以上のとおり、労働審判を申立てられた場合、いかに迅速に対応できるかが極めて重要なポイントとなります。
また、非常にタイトな期限のなかで、的確な主張立証を行うには労働問題に関する高度な法的知識が必要となるため、早めに労働問題に詳しい弁護士に作成を依頼することをお勧めします。
弁護士法人ALGは労働法務に精通する弁護士が在籍し労働審判を扱った経験も豊富です。
労働審判を申立てられた場合には、ぜひお早めにご相談ください。
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