従業員の犯罪行為:起訴休職処分について

姫路法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛

監修弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 所長 弁護士

  • 休職

従業員が犯罪行為を行った疑いにより起訴された場合に命じることのある起訴休職処分の留意点について説明します。

犯罪行為で起訴された従業員の「起訴休職処分」について

起訴休職処分とは、刑事事件に関し起訴された従業員を一定期間又は判決が確定するまでの間休職させるものです。

起訴休職処分を命じる必要性とは?

起訴休職処分は、①企業の社会的信用の維持、②企業内の対内的な職場秩序の維持、③不安定な労務提供に対処して企業活動の円滑な遂行に支障が生じることを防止するといった観点から命じる必要性があります。

「自宅待機命令」とは何が違うのか?

業務命令としての自宅待機命令の場合は、会社には、原則として賃金支払義務があります。
他方で、起訴休職が適用された場合は、労働者に帰責事由があるといえるため、会社には、原則として起訴休職中の賃金を支払う必要はありません。

起訴休職処分を開始・終了するタイミング

起訴休職は、就業規則において「起訴された者はその事件が裁判所に継続する間はこれを休職とする」等と規定されますが、明確な開示・終了時期の定めがないことが多いと思います。
以下のとおり、起訴休職処分を開始・終了するタイミングについては、就業規則を形式的に適用することは危険であり、慎重な判断が求められます。

どの時点で命じることができるのか?

起訴休職処分は、起訴されたことで業務への支障が生じることから認められた制度ですので、起訴前に命じることはできず、起訴された時点から命じることができます。 ただし、企業の社会的信用の低下や企業活動の円滑な遂行への障害のおそれ等が実際になければ、起訴休職処分を命じることができないとする裁判例が多くみられますので、起訴された時点で就業規則を形式的に適用し、起訴休職を命じることは危険です。

起訴休職が終了する事由とは?

刑事事件の判決が確定すれば、当該判決の確定をもとにどのような懲戒処分を行うかの問題ですので、終期は刑事事件の判決が確定するまでとすることが必要です。
ただし、上記のとおり企業活動の円滑な遂行への障害のおそれ等が実際になければ、起訴休職は違法になることがありますので、保釈され身柄が解放された場合、1審で無罪になった場合等には、起訴休職を終了させることを検討する必要があります。

起訴休職処分を命じるための要件について

裁判例においては、従業員が起訴された事実のみで、形式的に起訴休職の規定の適用が認められているわけではなく、一般的には次の3要件のうち少なくともひとつが必要です。
①企業の社会的信用の維持に障害が生ずるおそれ
②企業内の対内的な職場秩序の維持に障害が生ずるおそれ
③当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれ
また、上記3要件に加えて
④休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないこと
が要件とされています。

会社は起訴休職中の賃金を支払う必要があるのか?

上記1-2に記載のとおり、起訴休職が適用された場合は、労働者に帰責事由があるといえるため、会社には、原則として起訴休職中の賃金を支払う必要はありません。ただし、上記3の要件を欠き、起訴休職処分が無効である場合には、会社に帰責事由があるといえるため、起訴休職期間中の賃金を支払う必要があります。

起訴休職中に懲戒解雇とすることは可能か?

起訴休職中に懲戒解雇とすることも可能です。
ただし、刑事事件の判決が確定する前に会社が懲戒処分を行うと、事後的に無罪となった場合は当然ですが、有罪の場合でも事件や判決の内容によっては、懲戒処分が無効となる可能性があるため注意が必要です。

起訴休職処分後に無罪判決が確定した場合は?

それでは、起訴休職処分後に無罪判決が確定した場合、起訴休職処分に影響はあるのでしょうか。

会社が違法性を問われることはあるか?

起訴休職処分は、起訴された事実が有罪となることを前提とするものでないので、処分時に上記3に記載の要件を満たしている場合には、その後に無罪判決が確定したとしても、遡って起訴休職処分が違法となることはありません。

起訴休職中、無給だった賃金を支払わなければならない?

起訴休職処分が適法である以上、休職中の賃金を支払う義務はありません。

起訴休職処分を就業規則に定める際のポイント

上記のとおり、会社は、原則として起訴休職中の賃金を支払う必要はありません。ただし、事後的な紛争を防止するために起訴休職中の給与が無給であることについて就業規則に明記しておくべきでしょう。

起訴休職処分の有効性が問われた裁判例

東京地裁平成11年2月15日判決(全日本空輸事件)

事件の概要

私生活において傷害事件を起こして起訴された航空機機長Xが定期航空運送事業等を業とするY会社に対し、無給の長期の起訴休職処分の有効性を争った事案

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、上記3記載の起訴休職処分を命じるための要件(①~④)を明示のうえ

①及び②の要件(企業の社会的信用の維持・企業内の対内的な職場秩序の維持に障害が生ずるおそれ)については、
Y会社の業務とは関係のないこと、会社の業務外の時間・場所で生じた偶発的トラブルによって、機長と客室乗務員との信頼関係が維持不能な状況になるとはいえないこと等を指摘し

③の要件(当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれ)については、
Xは身体拘束を受けておあず、出頭は有給休暇の取得でカバーすることができること、Xの労務の継続が安全運行に影響を与える可能性を認めるに足りる証拠がないこと等を指摘し

④の要件(休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないこと)について
本件刑事事件が仮に有罪となった場合にXに付される可能性のある懲戒処分の内容も、解雇は濫用とされる可能性が高く、他の懲戒処分の内容も、降転職は賃金が支給され、出勤停止も1週間を限度としており、減給も賃金締切期間分の10分の1を超えないこととされることと比較して、無給の休職処分は著しく均衡を欠くことを指摘し

結論として、休職処分を無効と判断しました。

ポイント・解説

Y会社の就業規則には、「社員が次の各号に該当するときは休職させることがある・・「業務以外の事由で刑事上の訴追を受けたとき」との規定が存在しました。
しかし、本件裁判例は、上記就業規則を形式的に適用することを認めず、起訴休職の要件を明示したうえで、企業の社会的信用の低下や企業活動の円滑な遂行への障害のおそれ、休職によって被る従業員の不利益の程度等を詳細に検討した結果、起訴休職処分を無効と判断しました。

起訴休職処分を命じるかどうかについては、慎重な判断が求められます。起訴された従業員の対応でお悩みなら弁護士にご相談下さい。

以上のとおり、起訴休職処分については、就業規則を形式的に適用することは危険であり、処分を命じるか否か、その終期についても慎重な判断が求められます。起訴休職処分を開始・終了するタイミングについては、就業規則を形式的に適用することは危険であり、慎重な判断が求められます。起訴された従業員の対応でお悩みなら弁護士にご相談ください。

姫路法律事務所 所長 弁護士 西谷 剛
監修:弁護士 西谷 剛弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:55163)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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