監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- 懲戒処分
従業員が会社のお金を横領した場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。
ここでは、従業員が会社のお金を横領した場合の対処法などについて、ご説明いたします。
目次
- 1 従業員の横領が発覚した場合の対応
- 2 横領した従業員を懲戒解雇とすることは可能か?
- 3 民事上の責任追及「損害賠償請求」
- 4 刑事上の責任追及「刑事告訴」
- 5 刑事措置と民事措置どちらで解決すべきか?
- 6 従業員の横領を防ぐためにすべきことは
- 7 横領による懲戒解雇の判例
- 8 よくある質問
- 8.1 横領した従業員を懲戒解雇とした場合、退職金を不支給にできますか?
- 8.2 懲戒解雇としない代わりに、退職金の放棄を求めることは可能ですか?
- 8.3 横領について本人から聴取する場合、事前に予告すべきでしょうか?
- 8.4 横領金の返還請求の話し合いには、身元保証人も同席させるべきでしょうか?
- 8.5 損害賠償請求では、横領されたお金を全額請求できますか?
- 8.6 横領した従業員に対し、刑事告訴と損害賠償請求を並行して行うことはできますか?
- 8.7 横領の証拠が揃ったらすぐに損害賠償を請求すべきでしょうか?
- 8.8 横領された金額が少なかった場合でも、懲戒解雇とすることは可能ですか?
- 8.9 会社のお金を横領した従業員にも、弁明の機会を与える必要はありますか?
- 8.10 横領に関わった従業員が複数いる場合、一方のみを懲戒解雇とすることは可能ですか?
- 8.11 金銭管理を従業員に任せきりにしていた場合でも懲戒解雇は認められますか?
- 9 従業員の横領が発覚した場合は弁護士にご相談下さい。会社にとって最善な方法をアドバイスいたします。
従業員の横領が発覚した場合の対応
従業員が会社のお金を横領していたことが発覚した場合、会社としては、どのような対応をすればいいのでしょうか。以下のような対応が考えられます。
自宅待機命令
従業員の横領が発覚した場合、まずは、従業員に対し、自宅待機命令を発することが考えられます。なぜなら、これ以上、従業員に横領行為をさせないようにすることに加え、証拠隠滅等を阻止するために必要であるからです。
通常、自宅待機している場合、賃金が発生していますが、従業員の横領行為によって自宅待機をしている場合には、賃金の支払いを免れる場合もあります。
事実関係の確認
従業員の横領行為が発覚し、従業員を自宅待機処分にしたあとは、把握している事実関係の確認をする必要があります。その上で、不足している証拠や不明な点等がある場合には、以下のように、横領の証拠や他の従業員の証言を収集することになります。
横領の証拠・証言の収集
従業員が会社のお金を横領したという証拠や他の従業員の証言を収集することも不可欠です。なぜなら、その後、横領した従業員に聞き取りをする際、矛盾している点を明らかにすることができるからです。
周囲の従業員から聞き取りをする際のリスク
周囲の従業員から聞き取りを行う際、注意しておくべき事項があります。
横領行為をした従業員と繋がっていたり、共犯関係にある従業員も存在するため、情報を過度に与えすぎると、証拠隠滅等を行われる可能性が高くなってしまいます。
横領した従業員へ聴取
横領した従業員に対して聴取することになりますが、聴取すべき事項は以下のとおりです。
- 横領行為を認めるのか。
- 横領行為を認めるとして、謝罪する意思はあるのか。
- 横領行為の具体的内容(いつ、いくら、どのようにして)
- 横領した金額を返還する意思があるのか。
- 横領した金額を返還する意思があるとして、いつ返還することができるのか。
- 横領行為に関与した人物がいるのか。
- 横領行為に関係する書類の収集
横領した従業員に対する聴取は、複数人で行い、聴取内容を録音しておくといいでしょう。
横領した従業員を懲戒解雇とすることは可能か?
横領した従業員を懲戒解雇することができるのでしょうか。
就業規則における懲戒解雇事由
横領した従業員を懲戒するためには、会社の就業規則において懲戒解雇事由が存在しているかを確認する必要があります。
就業規則において懲戒解雇事由が存在しているとして、「従業員の横領行為」が懲戒解雇事由に該当するかどうかが問題となります。そもそも、従業員の横領行為が懲戒解雇事由に該当しないと、横領した従業員を懲戒解雇することができません。
次に、懲戒解雇事由に該当するとして、従業員を懲戒解雇とするにはどのような手続が必要かを確認しなければなりません。適正な手続によって懲戒解雇をしないと、懲戒解雇自体が無効となる可能性があるからです。
解雇予告の除外認定について
従業員を解雇するには、原則として30日前に予告するか、あるいは、30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません(労基法20条1項)。もっとも、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合や労働者の責に帰すべき事由等が存在する場合、行政官庁の除外認定をうけることができれば、予告も予告手当もなしに解雇することができます(労基法20条3項、同法19条2項)。
民事上の責任追及「損害賠償請求」
従業員が横領した場合、従業員が横領した行為によって、会社に損害を与えたことになりますので、民事上の責任として、損害賠償請求をすることが考えられます。
従業員に対し、損害賠償請求をした場合、次のような問題点があります。
給与から天引きすることは認められるか?
給与は、労基法24条1項により、全額支給しなければなりませんが、当該従業員の同意があれば、従業員の給与から天引きすること、すなわち、損害賠償請求権と給与とを相殺することが可能となります。
身元保証人に返還を求めても良いのか?
従業員が横領に関する金銭を返還しない場合には、従業員の親族等の身元保証人に返還を求めることが考えられます。
その際、身元保証人から、「従業員の行為により会社に損害を与えた場合には、身元保証人も責任を負うものとする。」等の記載がある身元保証書を作成しておくといいでしょう。
刑事上の責任追及「刑事告訴」
上記において民事上の責任追及の方法をご提案しましたが、その他、従業員に対し、刑事上の責任追及をすることが考えられます。
具体的には、業務上横領罪について、警察署若しくは検察庁に刑事告訴をすることが考えられます。
刑事告訴をするメリット
刑事告訴をすることにより、捜査機関による従業員への捜査が開始されることになるため、横領行為に関する証拠が集まりやすくなります。また、従業員側からすると、刑事罰を避けるために、示談を行おうとするため、民事上の解決を獲得できる可能性があがります。
他方、従業員が刑務所等に収監された場合、収入を得ることができなくなり、賠償金を獲得できない可能性があります。
刑事措置と民事措置どちらで解決すべきか?
刑事措置と民事措置のどちらで解決すべきかについては、民事措置によって解決する方をおすすめします。なぜなら、民事措置によって解決した場合、従業員の横領行為によって与えられた会社の損害を回復することができるからです。
もっとも、刑事措置によっても損害賠償を受けることができますので、どちらの措置によっても解決することは可能です。
従業員の横領を防ぐためにすべきことは
従業員の横領を防ぐためには、まず、従業員が会社のお金を動かしにくくすることです。従業員に会社の金銭を自由に引き出すことができないような仕組みを構築することが考えられます。例えば、預金通帳と印鑑の管理を分けるとか、預金を引き出すのに必要なパスワードの管理を厳重に行う等です。
その他には、経理担当以外の従業員が会社の通帳の出金履歴を短期的かつ定期的に確認するということも考えられます。そのようにすることで不正な出金に対する抑制が働くと考えられるからです。
横領による懲戒解雇の判例
ここで、従業員が横領行為を行い、懲戒解雇され、その有効性を争った裁判例をご紹介します。
事件の概要
本件は、タクシー乗務員が、メーターを倒すことなく送迎し、その対価として金銭を受領する、いわゆるメーター不倒行為を行い、その行為が乗務員服務規律に違反するとして、タクシー会社が懲戒解雇を」行った事件です。タクシーが会社は、タクシー乗務員を懲戒解雇する際、就業規則に基づき、乗務員から事情を聴取し、他の乗務員から意見書の提出を受け、解雇の意思表示を行いました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
上記のタクシー乗務員の行為について、裁判所(東京高裁平成15年4月24日判決)は、メーター不倒行為は、タクシー会社の収入源を奪う極めて重大な行為であって、タクシー会社の就業規則の懲戒解雇事由に該当するとした一審判決を維持しました。そして、タクシー会社が行った解雇手続についても、就業規則所定の解雇手続を履行していることから、当該懲戒解雇は、解雇権濫用には該当しないとした一審判決を維持しました。
ポイント・解説
タクシー会社の就業規則には、料金メーターを作動させないで、送迎してはならないことを規定しており、本件においては、メーター不倒行為が「タクシー会社の収入源を奪う極めて重大な行為」と認定し、懲戒解雇事由であると判断しました。
就業規則には、解雇手続についても規定しているところ、本件においては、解雇手続も履行していると判断し、解雇手続に関しても判断しております。
よくある質問
以下では、従業員の横領事件についてよくある質問をご紹介いたします。
横領した従業員を懲戒解雇とした場合、退職金を不支給にできますか?
まず、就業規則において、懲戒解雇した従業員に対し、退職金を支給しない旨の規定があるかどうかが重要となります。
判例上、退職金を支給しないという対応について、従業員に、長年にわたる勤労の功を抹消してしまうほどの背信行為があったかどうかを基準としており、本件のような横領行為が回答すると判断しています。
したがって、懲戒解雇した従業員に対し、退職金を支給しない旨の規定があり、横領した従業員に対して、退職金を支給しないということは可能ということとなります。
懲戒解雇としない代わりに、退職金の放棄を求めることは可能ですか?
退職金も賃金に該当しますので、賃金の全額払いの原則が適用され、原則的には退職金を支払わなければなりません。もっとも、従業員が自由な意思に基づいて退職金を放棄した場合には、支払わないという選択も可能となります。
横領について本人から聴取する場合、事前に予告すべきでしょうか?
本人が横領したという証拠がそろっていて、本人が当該証拠を隠滅する可能性が限りなく低い場合には、事前に告知することも可能だと思います。 もっとも、本人が横領したという証拠がそろっていない段階で、本人に対し、横領行為について聴取したいということを伝えると、本人しか知り得ていない証拠等を隠滅する可能性が極めて高いといえます。
横領金の返還請求の話し合いには、身元保証人も同席させるべきでしょうか?
横領金の返還請求の話し合いには、身元保証人も同席させるべきであると考えます。なぜなら、身元保証人も同席させることで、本人が行った行為の重大性を認識してもらえる上、身元保証人にも返還請求に協力してもらえるからです。
損害賠償請求では、横領されたお金を全額請求できますか?
民事事件における損害賠償請求が認められるためには、横領行為と会社の損害との間に因果関係が必要です。そうすると、横領行為と会社が被った損害の全額と因果関係が認められれば、全額請求することができます。
横領した従業員に対し、刑事告訴と損害賠償請求を並行して行うことはできますか?
刑事告訴と民事事件における損害賠償請求とは別の手続になりますので、並行して行うことが可能です。
そして、従業員としては、刑事罰を恐れる傾向にあるため、民事事件において示談できる可能性が高くなります。
横領の証拠が揃ったらすぐに損害賠償を請求すべきでしょうか?
横領の証拠が揃ったら早期に損害賠償請求を行うべきであると考えます。
なぜなら、早期に損害賠償を請求した場合、横領した従業員が未だ横領金を所持している可能性があり、費消を防ぐことができるからです。時間が経ってしまうと、横領した従業員が横領金を使い果たしてしまう可能性があります。
横領された金額が少なかった場合でも、懲戒解雇とすることは可能ですか?
横領された金額が10万円等少額であったとしても、業務上横領に該当することは争いなく、会社に対する背信行為であることは明白であるため、就業規則に規定されている懲戒解雇の対象になると考えられます。
会社のお金を横領した従業員にも、弁明の機会を与える必要はありますか?
就業規則において、懲戒解雇するためには、「弁明の機会を与える」という旨の規定がされている場合、弁明の機会を与えた方がいいでしょう。
なぜなら、就業規則に規定されている手続を踏まないと、懲戒解雇が無効となってしまう可能性があるからです。
したがって、就業規則に弁明の機会が規定されている場合には、弁明の機会を与えた方が無難といえます。
横領に関わった従業員が複数いる場合、一方のみを懲戒解雇とすることは可能ですか?
横領に関わった従業員が複数いるにもかかわらず、横領に関わった従業員全員を懲戒解雇するのではなく、特定の従業員を懲戒解雇にした場合、「平等の原則」に反する可能性があります。横領行為についての関わり合いの濃淡で判断を分けることはやむを得ない可能性もありますが、その判断については慎重に行うべきといえます。
金銭管理を従業員に任せきりにしていた場合でも懲戒解雇は認められますか?
金銭管理を従業員に任せきりにしていたとしても懲戒解雇は認められます。なぜなら、任せきりにしている事情は、横領行為が許されるという理由にはならないからです。
従業員の横領が発覚した場合は弁護士にご相談下さい。会社にとって最善な方法をアドバイスいたします。
従業員の横領が発覚した場合、従業員が横領を行ったかどうかについて調査等を行う必要があり、ある程度調査した後には、横領した従業員から聴取する必要があります。それらの行為については、専門家である弁護士が関与することで従業員から自白を引き出せたり、より決定的な証拠を確保できる可能性があります。
また、横領した従業員を懲戒解雇するとしても、適正な手続を経ているかの判断も慎重に行う必要があります。 このようなことから、専門家である弁護士が関与することにより、会社にとって利益になる可能性があります。
弊所の弁護士であれば、会社にとって利益となる方法を選択できるものと存じます。 まずは、お気軽にお問い合わせください。
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