監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
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ここでは、秘密保持義務・競業避止義務に対する誓約書の効力とテンプレートについてご説明いたします。秘密保持義務・競業避止義務については、従業員にとって重要なものとなりますので、ぜひお役に立てていただければと思います。
目次
秘密保持義務・競業避止義務とは?その必要性について
以下では、秘密保持義務・競業避止義務の定義、その必要性についてご説明いたします。
秘密保持義務
秘密保持義務の根拠は、労働契約法3条4項にあり、その内容は、「労働者は、在職中、使用者と締結した労働契約に付随して、信義則上、使用者の営業上の秘密(企業秘密)を第三者に漏洩することや、目的外使用をしてはならない。」と規定されています。
秘密保持は、情報漏洩対策、特許申請、不正競争防止、退職時の競業避止に必要であるといえます。
競業避止義務
競業避止義務とは、在職中若しくは退職後に、その会社の事業と競合する行為をしてはならないという義務のことをいいます。
競業避止は、勤務している会社や勤務していた会社と競合関係にある会社に転職することを防ぐ必要があります。
誓約書を作成する際の注意点
秘密保持義務・競業避止義務について規定した誓約書を作成する際、どのようなことについて注意するべきでしょうか。
誓約書はどのタイミングで取得すべきか?
秘密保持義務や競業避止義務について規定した誓約書については、一般的には入社時に取得するべきであります。
もし、誓約書を取得する前に、会社の情報を開示してしまった場合には、開示された情報を含めて誓約書を作成するべきです。
また、従業員が昇進することにより、取り扱うことのできる情報が増加した場合には、その情報も含めた誓約書を作成するといいでしょう。
さらに、従業員の退職時にも誓約書を取得することも有効です。ただし、入所する前に比べて、拒否される可能性はあります。
秘密保持義務や競業避止義務の誓約書に法的効力はあるのか?
秘密保持義務に関する誓約書の効力
秘密保持義務に関する誓約書に法的効力が認められれば、秘密保持義務に違反した従業員に対し、損害賠償請求等を行うことができます。そのためには、秘密保持義務に関する誓約書が法的効力を持っていなければなりません。
秘密保持義務の有効性を判断する要素
秘密保持義務に関する誓約書が法的効力を持つためには、まず、秘密情報の定義が明確でなければなりません。なぜなら、秘密情報の定義があいまいな場合、従業員が秘密情報に何が含まれるのかを判断することができないからです。
次に、秘密情報の取り扱い方法を明確にする必要があります。なぜなら、何がダメで禁止されているかを判断できないからです。その他は、退職後の秘密保持義務を規定し、違反した場合の罰則も規定しておくとよいでしょう。
競業避止義務に関する誓約書の効力
労働契約が存続し、従業員として勤務している場合には、当該誓約書が無効ではない限り、有効であるといえます。有効である以上、秘密保持義務に関する誓約書と同様、違反した従業員に対し、損害賠償請求等を行うことができます。
他方、労働契約が終了している場合、労働契約が終了していても、競業避止義務が存在している旨の内容を記載した誓約書の効力が問題となります。これは、国民には、憲法において職業選択の自由が認められているため、退職した元従業員に競業避止義務を課すことは、職業選択の自由との関係で問題になります。
競業避止義務の有効性を判断する要素
そこで、労働契約終了後の競業避止義務の有効要件について、裁判例(フォセコ・ジャパン・リミティッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日)では、①使用者の正当な利益、②労働者の在職中の地位や職務内容、③競業禁止の期間や地域の範囲、④労働者のキャリア形成の経緯、⑤労働者の背信性、⑥代償措置などを総合的に考慮して、有効性の判断をしています。
秘密保持義務や競業避止義務の誓約書が無効になるケースとは?
秘密保持義務や競業避止義務に関する誓約書が無効になるケースは、以下の場合が考えられます。
秘密保持義務の誓約書が無効になるケース
秘密保持義務を記載した誓約書を作成した場合であっても、当該誓約書を作成するにあたって、会社側が詐欺・脅迫的な行為をした場合には、当該誓約書が無効となる可能性があります。
また、「誓約書に署名・押印しなければ、退職金を支払わず、没収する。」など公序良俗に反する行為を行った場合も同様です。
競業避止義務の誓約書が無効になるケース
競業避止義務を記載した誓約書を作成した場合であっても、上記の秘密保持義務のケースと同様、当該誓約書を作成するにあたって、会社側が詐欺・脅迫的な行為をした場合には、当該誓約書が無効となる可能性があります。
また、「誓約書に署名・押印しなければ、退職金を支払わず、没収する。」など公序良俗に反する行為を行った場合も同様です。
法的効力が認められる誓約書の作成方法
誓約書を作成したとしても、法的効力が認められないと意味がありません。ここでは、秘密保持・競業避止の誓約書に記載する内容とポイントをご説明します。
秘密保持の誓約書に記載する内容とポイント
秘密保持義務の誓約書には、①秘密情報の定義に関する項目、②秘密情報の管理に関する項目、③秘密保持義務の内容に関する項目、④秘密保持義務の例外に関する項目、⑤秘密情報の権利・義務に関する項目、⑥秘密保持契約の有効期間に関する項目、⑦違反した際の制裁などを設ける必要があります。
秘密情報の管理(②)については、ⅰ複製をすることを禁止したり、ⅱ秘密保持契約の期間満了後には、秘密情報の返還及び破棄することを規定したりします。
秘密保持義務の内容をできるだけ網羅的に記載することがポイントとなります。
競業避止の誓約書に記載する内容とポイント
競業避止の誓約書に記載する内容については、先ほどご紹介したフォセコ・ジャパン・リミティッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日で判断された考慮要素に注意して作成するべきです。
すなわち、①使用者の正当な利益、②労働者の在職中の地位や職務内容、③競業禁止の期間や地域の範囲、④労働者のキャリア形成の経緯、⑤労働者の背信性、⑥代償措置などです。
テンプレートをそのまま使用することは問題ないか?
専門書などの書籍には、秘密保持義務・競業避止義務に記載した誓約書のテンプレートが存在しております。そのテンプレートを使用する際、その契約書が自社に適したものかどうかをしっかりチェックする必要があります。
インターネットには誓約書のテンプレートが多く出回っていますが、内容の不正確なものや、誓約書としての体裁をなしていないものも存在していることが多いため、使用する際には十分注意する必要があります。
いずれにしても、誓約書を作成しているものの、当該誓約書では効力がない等の事態を避けなければなりません。
誓約書だけでなく就業規則に盛り込んでおくことも重要!
秘密保持義務や競業避止義務について、誓約書だけでなく就業規則に盛り込んでおくことも重要となります。就業規則に規定し、従業員に周知することにより、従業員に秘密保持義務や競業避止義務を遵守しなければならないと思わせることができるからです。
秘密保持義務や競業避止義務に関する裁判例
以下では、秘密保持義務・競業避止義務に関する裁判例をご紹介いたします。
従業員の秘密保持義務について争われた判例
元従業員が秘密保持に関する合意に反して機密情報を使用して営業活動を行った行為について損害賠償請求した事案(東京地裁平成29年10月25日)をご紹介します。その事件で、裁判所は、秘密保持条項の有効性について「(使用者は)被用者との間で被用者が在職中に知り得た営業秘密等の情報を退職後に外部に開示又は漏洩等しない旨の合意をすることは、被用者の退職後の行動に一定の制約を課すものであることに照らすと、こうした合意は、その内容が合理的で、使用者の退職後の行動を過度に制約するものでない限り、有効と解されるべきである」と述べ、当該秘密保持条項を有効とし、会社の元従業員に対する損害賠償請求を認容しました。
退職後の競業避止義務について争われた判例
元従業員が、原告会社を退職して1年以内に、原告会社と主たる業務内容において直接競合する関係にある会社に転職した行為について、損害賠償請求した事案(東京地裁平成19年4月24日)をご紹介します。その事件で、裁判所は、「会社の従業員は、元来、職業選択の自由を保障され、退職後は競業避止義務を負わないものであるから、退職後の転職を禁止する本件競業避止条項は、その目的、在職中の被告の地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして有効性が否定される」と述べ、当該競業避止条項を有効と判断し、会社の元従業員に対する損害賠償請求を認容しました。
法的に効力のある誓約書を作成するなら、弁護士に相談することをおすすめします。
以上のとおり、従業員や元従業員に秘密保持義務・競業避止義務を記載した誓約書を作成したとしても、その誓約書の内容や作成する経緯に問題がある場合には、当該誓約書が無効となる可能性があります。
そして、どのような内容を記載すればいいかについては、簡単に判断できるものではなく、高度の専門性が求められます。
弊所の弁護士であれば、これまで秘密保持義務・競業避止義務に関する誓約書のアドバイスを行ってきましたので、少しでもご依頼者様のお力になれると思います。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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