監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
- マイノリティ
近年、多様性が許容されるべきであり、人種・年齢・性別・能力など様々な価値観を持った人々が組織や集団において共存することが重視されている傾向にあります。
他方で、性的指向等については、理解が及んでおらず、ハラスメントの問題に繋がることが少なくありません。ここでは、ダイバーシティ・LGBTに関する問題についてご説明いたします。
目次
- 1 企業がダイバーシティを推進する必要性
- 2 ダイバーシティ推進とLGBTに関するハラスメントの問題
- 3 LGBT問題に対する企業の法的責任
- 4 企業がLGBT施策を行うことのメリット
- 5 LGBT施策として企業が取るべき措置
- 6 LGBT(セクシャル・マイノリティ)をめぐる裁判例
- 7 LGBTへの理解を深めてダイバーシティを実現可能に
- 8 ダイバーシティ・LGBTに関するQ&A
- 8.1 面接の際にLGBTをカミングアウトされました。採用担当者はどう対応すべきでしょうか?
- 8.2 性同一性障害者であることを理由に解雇することは違法ですか?
- 8.3 エントリーシートの性別欄を無くすことはLGBT施策として有効ですか?
- 8.4 LGBTに関する研修は、管理職に向けても実施すべきでしょうか?
- 8.5 トランスジェンダーの社員がいる場合、名前の呼び方にも配慮すべきでしょうか?
- 8.6 LGBTに関する差別をした社員に対し、懲戒処分を下すことは可能ですか?
- 8.7 ダイバーシティには、ジェンダー関連以外にどのようなものが該当しますか?
- 8.8 最近「SOGI」という言葉を聞きますが、LGBTとは何が違うのでしょうか?
- 8.9 職場でLGBT問題を取り扱う際、プライバシー保護に関してどのような注意が必要ですか?
- 8.10 LGBTに対する会社の方針を、HP等で社外に周知することはLGBT施策として有効ですか?
- 9 LGBT施策や社内体制の見直しについて、労務管理の知識を有する弁護士がアドバイスさせて頂きます。
企業がダイバーシティを推進する必要性
企業には、様々な個性や考え方を持った人々が集合するため、そのような多様性を持った人々が働きやすい環境を整備する必要があります。
そのような環境を整備することにより、企業に努めている従業員のモチベーションや満足度に大きく影響することなり、ひいては企業の発展に大きく影響を及ぼすことになります。したがって、企業がダイバーシティを推進する必要性は高くなっているといえるでしょう。
ダイバーシティ推進とLGBTに関するハラスメントの問題
企業がダイバーシティを推進していくと、多様な人材が集まることになり、中には、LGBTである方も含まれます。そうすると、LGBTの方に対するハラスメントを行う人が出てくることが問題となってきます。
LGBTはセクシャルハラスメントの対象
セクシャルハラスメントという言葉から、これまで男性が女性に対して行われるものと考えられてきました。しかし、セクシャルハラスメントとは、男性から女性に対して行われるだけではありません。LGBTの方に対する言動も、当然、セクシャルハラスメントの対象になります。
職場におけるLGBTハラスメントの例
職場におけるLGBTハラスメントの例としては、LGBTの方に対し、「性的指向が異常、普通じゃない」と伝えたりすることは、当然LGBTハラスメントに該当します。また、職場内において、女性に対し、「女性らしくした方がいいよ」、とか、男性に対し、「男性らしくした方がいいよ」などと、発言することについても、職場内で、性的な言動をすることにとって、言われた方に不利益を与えることになるからです。
LGBT問題に対する企業の法的責任
LGBTに関するセクハラも、他のセクシャルハラスメント等と同様で、企業は、職場でセクシャルハラスメントが生じないような措置を講じなければならない義務を負っており、それはLGBTに関する問題も、当然対象となっております。
男女雇用機会均等法が定めるセクハラ防止措置義務
企業は、男女雇用機会均等法11条1項において、職場でセクシャルハラスメントが生じないような措置を講じなければならない義務を負っており、それはLGBTに関する問題も、当然対象となっております。
したがって、企業がセクシャルハラスメントを生じないような措置を講じていなかった場合には、労働者等から、法的責任を追及される可能性があります。
企業がLGBT施策を行うことのメリット
企業がLGBT問題に関して、施策を行うことのメリットとして、まず、LGBTに関するセクシャルハラスメントが減少し、損害賠償請求を回避することができるようになります。
他方、企業がLGBT施策を行うことによって、企業価値が高まることに繋がります。
企業価値が高まることになれば、当該企業で勤務したいと考える人も増加し、優秀な人材を確保することができるようになります。
LGBT施策として企業が取るべき措置
以下では、LGBT施策として、企業が行うべき措置をご説明いたします。
社内相談窓口の設置
まずは、企業内に、社内相談窓口を設置することが必要となります。これについては、男女雇用機会均等法11条1項にも記載されております。
自分がLGBTであることを周囲の人に知られたくない人が多いと思いますが、そのような人でも相談できるようにすることが必須であります。
LGBTに関する社内研修の実施
社内研修を実施することについては、義務ではなく、企業の努力義務とされています(男女雇用機会均等法11条の2第2項)。
しかし、多様性に順応できていない人にとっては、何がセクシャルハラスメントに該当するか理解できていない人も多く存在しております。そのような人に対し、LGBTとは何か、何が問題となるかなど、研修を実施することで、社内で周知することができ、LGBTの方に対するセクシャルハラスメントも防ぐことができるでしょう。
就業規則等でハラスメントの禁止を明記する
就業規則は、従業員に周知されるため、就業規則にハラスメントが禁止されていること、禁止されているハラスメント行為をおこなった場合の懲戒内容を明記することも必要な方法であるといえます。
そうすることにより、従業員に対し、ハラスメント行為を行ってはならないことを周知することができます。
ジェンダー・フリーな職場環境づくり
ジェンダー・フリーな職場環境づくりをすることにより、LGBTに対するハラスメントを防止することができます。
昨今、ジェンダー・フリーな職場環境をつくることが求められており、そのような環境を作り上げることにより、多様性をもった優秀な人材を確保することに繋がりますので、ジェンダー・フリーな職場環境をつくるよう努力するべきであると考えます。
LGBT(セクシャル・マイノリティ)をめぐる裁判例
ここで、LGBTに関する裁判例をご紹介いたします。
事件の概要
トランスジェンダー(身体的性別は男性、自認している性別は女性)である国家公務員のXが,自認する性別のトイレ(女性用トイレ)の使用を一定の範囲で制限されたことにつき,国に国賠法上の損害賠償責任を求めた事案です。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
当該事案について、裁判所(最高裁判所令和5年7月11日)は、「遅くとも本件判定時においては、Xが本件庁舎内の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、Xに対し、本件処遇による上記のような不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきである。そうすると、本件判定部分に係る人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、Xの不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びにXを含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない」と述べ、結論として違法であると判断しました。
ポイントと解説
本件では、トランスジェンダーの性自認に基づいて、社会生活を送る法的利益は重要なものであり、それを制限するためには、客観的かつ具体的な利害調整を行わなければならないと述べ、今後、使用者側に対し、労働者の適正な処遇が求められる、画期的な判決であるということができます。当該判決により、使用者側として様々な改革が求められる可能性があります。
LGBTへの理解を深めてダイバーシティを実現可能に
LGBTに対する理解を深めて、企業内において変革していくことで、優秀で多様性を有した人材を確保することができます。ひいては、ダイバーシティを実現することができるようになります。
昨今、LGBTに対する理解を深めようとする企業が増えていることから、LGBTに対する理解が乏しい企業には、優秀な人材を確保する機会を喪失することに繋がってしまいます。
そのようなことにならないよう、企業として、LGBTに対する理解を深め、ダイバーシティを実現可能にすることで、企業としての価値を高めていくことに繋がります。
ダイバーシティ・LGBTに関するQ&A
以下では、ダイバーシティ・LGBTに関するQ&Aをご紹介いたします。
面接の際にLGBTをカミングアウトされました。採用担当者はどう対応すべきでしょうか?
採用担当者としては、被面接者がLGBTであった場合、そのことを理由として採用するか否かを判断するべきではありません。当該被面接者が企業にとって必要な人材かどうかを適正な判断基準に基づいて判断することに尽きますので、LGBTではない他の人材と同様に判断するべきです。
性同一性障害者であることを理由に解雇することは違法ですか?
性同一性障害者であることを理由に解雇することは違法であると考えます。なぜなら、性同一性障害者であることをもって解雇するという就業規則が規定されている場合、それは、違法であり、そのことをもって解雇することについても違法であるからです。
エントリーシートの性別欄を無くすことはLGBT施策として有効ですか?
性別欄を無くすことについては、有効でありますが、重要なのは、ジェンダーという概念にとらわれることなく、採用活動をするかどうかです。形式的なことではなく、実質的な判断をするようにしましょう。
LGBTに関する研修は、管理職に向けても実施すべきでしょうか?
むしろ、管理職に対してLGBT研修を実施するようにしましょう。管理職にある立場の人が、ジェンダー・フリーな対応をすることにより、部下にいい影響を与えることに繋がります。
トランスジェンダーの社員がいる場合、名前の呼び方にも配慮すべきでしょうか?
呼び方だけでも、トランスジェンダーであることが周囲に知られる可能性があります。自分がトランスジェンダーであることを周囲に知られたくない人もいますので、そのような対応をするかどうかについては、ご本人とよく協議するべきでしょう。
LGBTに関する差別をした社員に対し、懲戒処分を下すことは可能ですか?
懲戒処分することができるかどうかは、就業規則に「LGBTに関して差別した場合に懲戒処分を下す」規定が存在しているかどうかによります。 今一度、就業規則を見直してみましょう。
ダイバーシティには、ジェンダー関連以外にどのようなものが該当しますか?
ダイバーシティとは、「多様性」ということを意味するものであるため、ジェンダー関連以外だと、人種、年齢、能力、価値観などが該当します。
最近「SOGI」という言葉を聞きますが、LGBTとは何が違うのでしょうか?
「SOGI」とは、「Sexual Orientation and Gender Identity」の頭文字をとったもので、意味としては、性的指向や性自認のことを意味します。 これに対し、「LGBT」とは「Lesbian Gay Bisexual Transgender」の頭文字をとったもので、意味としては、セクシャルマイノリティのことを意味します。 LGBTが、セクシャルマイノリティの当事者を指すのに対し、SOGIは、全ての人を対象にしており、対象範囲が異なります。
職場でLGBT問題を取り扱う際、プライバシー保護に関してどのような注意が必要ですか?
自身がLGBTであることを周囲の人に知られたくないという人は存在しているため、そのような人については、LGBTであることを周囲に悟られないようにする配慮が必要です。 そのためにも、LGBTの方が周囲に知られたくないかどうか、十分に協議する必要があります。
LGBTに対する会社の方針を、HP等で社外に周知することはLGBT施策として有効ですか?
結論として、有効であると考えます。HP等で社外に周知することにより、第三者に企業として、ジェンダー問題に配慮していることを認識してもらうことができますし、そのような企業に勤めたいという人材を確保することができます。 その結果、企業価値を挙げることができますので、LGBT施策としては有効であります。
LGBT施策や社内体制の見直しについて、労務管理の知識を有する弁護士がアドバイスさせて頂きます。
昨今、LGBTやダイバーシティ問題について、世間が注目しています。今後大きく法律改正が行われる可能性も十分考えられますし、その状況に企業側として順応していく必要があります。
これまでの企業の在り方から、大きな変化が求められる可能性もあります。会社の就業規則を見直したり、LGBTに関する研修をするなど、専門家の知識が不可欠です。
企業側としてどのような見直しをするべきかについて、労務に力を入れている弁護士の意見を参考にしてみるといいでしょう。弊所は、企業様の労務関係に力を入れており、少しでも、企業様の力になれるかと思いますので、少しでもお困りごとがございましたら、弊所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
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