
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
離婚をする夫婦に子どもがいる場合、非養育者が養育者に対して、養育費として月額〇万円を支払うという内容で定めることが一般的です。
しかし、夫婦関係によっては、非養育者が毎月決まった金額を支払い続けることが期待できないため、養育費を一括で支払ってほしいという希望をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、養育費を一括で請求することができるか、一括で請求することのメリット・デメリットはあるのかという点について、解説していきます。
目次
養育費の一括払いや請求は認められる?
養育費は、経済的に未成熟である子供が経済的に自立するまで、養育義務者(父母など)が負担すべきである子供の生活費、教育費、医療費等のことをいいます。
これらの費用は、子供が日々生活する上で必要とされるものですので、毎月一定額が支払われる方が望ましいと考えられます。
もっとも、養育費は必ず毎月分割して支払わなければならないという法律の定めはありませんので、父母の間で、養育費を一括で支払うことに関して合意が成立した場合は、養育費を一括で支払うことも認められると考えられています。
養育費の一括払いのメリット
養育費の一括払いのメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。
①養育費が支払われないなど、養育費が未払という状態が発生しない。
②養育費に関して、相手方と連絡を取る必要がない。
特に、①のメリットが、養育費の一括払いの最大のメリットであると考えられます。
養育費を分割払いとしてしまうと、養育費の支払いが終わるまで、養育費が支払われないというリスクを背負い続けることとなりますので、養育費の一括払いを選択すると、未払のリスクを回避することができます。
養育費の一括払いのデメリット
他方で、養育費の一括払いのデメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。
①収入の増減など、養育費の取り決め時からの事情変更による増額が難しくなる。
②受け取る金額によっては贈与税が課される可能性がある。
特に、①のデメリットは、きちんと念頭に置いておく必要があります。
養育費は、子供の年齢によっては10年以上も支払を継続していくものになりますので、双方の収入変動等の事情変更が生じる可能性が高いです。
しかし、養育費を一括で支払うとの合意は、これらの事情変更をある程度予測した上で行われたものと評価される可能性がありますので、一括払いの金額を定める際には注意してください。
養育費一括の場合の計算方法
月額の合計を出す
まずは、養育費の月額を決定する必要があります。
月々の養育費の額は、裁判所が使用している「算定表」を見れば、大体の目安の金額を算出することができます。
「算定表」は、裁判所のサイトから見ることが可能であり、ご自身の子供の人数、年齢よって用いる算定表が変わりますので、ご注意ください。
養育費の月額が決まったら、次は養育費の支払期間を決定します。
養育費の支払期間は、当事者間で自由に決めることができますが、実務上は、子供が満20歳になるまでとされることが多いです(成人年齢が18歳に引き下げられた現在でも同様)。
子供が大学等に進学している場合は、20歳ではなく、大学を卒業する年の3月までとされることも多いです。
合計金額から減額する(中間利息の控除)
一括の養育費の金額は、「算定表」から算出した養育費の月額と支払期間から算出した合計額全額と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現時点で一括して受け取ることができるお金の価値と長期間にわたって受けとることができるお金の価値は、たとえ受け取る額自体が変わらなくても、同じではないと考えられますので、上記合計額から一定程度減額する必要があります。
具体例をもとに考えてみましょう。
15歳の子供について、20歳になるまでの5年間、毎月5万円の養育費が発生するケースで考えてみましょう。
毎月養育費が支払われる場合、単純な合計額は、5万円×12か月×5年間=300万円となります。
一方で、上記のとおり、将来受け取る金銭の価値を現在の価値に直した上で一括払いの金額を決める場合(ライプニッツ係数を用いる場合)は、5万円×12か月×4.5797(支払期間5年のライプニッツ係数)=274万7820円となります。
このように、養育費の一括払いの場合、単純に養育費の月額を合計するのではなく、ライプニッツ係数を用いて将来の金銭の価値を現在の価値に引き直す必要がありますので、一括払いの金額を計算する際は注意してください。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を一括請求する方法
養育費を一括で請求する方法としては、①交渉、②調停、③審判などが挙げられます。
もっとも、養育費を一括で請求する場合は、家庭裁判所を介して行う②調停、③審判ではなく、①の交渉を行い、裁判所を介さず合意の成立を目指すべきであると考えます。
裁判所は、養育費について、原則として毎月支払われるべきであると考えており、特段の事情がない限り、養育費の一括払いを認めない傾向がありますので、裁判所を介さない①の交渉こそ、一括払いが認められる可能性が高いといえます。
養育費一括で請求する際の注意点
課税対象になる可能性がある
養育費は、基本的には非課税であり、課税対象とはなりません。
しかし、養育費を一括で受け取る場合は、それ相応の金額となることが通常ですので、受取額が「子供の生活に必要な範囲を超えている」と判断された場合、贈与に該当するとして、贈与税が課される可能性があります。
贈与税はいくらから対象?
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計が110万円を超えた場合、その超えた部分が対象となります。
贈与税の税率は、贈与を受けた財産の価額によって異なる税率が定められており、基礎控除後の課税価格が200万円以下であれば10%の税率となりますが、基礎控除後の課税価格が4500万円を超える場合は55%の税率となりますので、10%~55%の間で税率が設定されています。
贈与税がかからない方法はある?
贈与税がかからない方法としては、「養育信託」という制度を利用することが考えられます。
「養育信託」とは、養育費を一括して信託銀行に預け、子供を受益者とする金銭信託契約を締結するというものです。
養育信託を行う場合は、養育費の支払義務者の同意がない限り、信託契約を解除することができないため、養育費の支払義務者としても、権利者が一括で支払った養育費を私的に用いて子供に使われないといった不安を払拭することができます。
贈与税の観点からはもちろん、養育費の一括払いを義務者から拒否されている方にとっても、「養育信託」はおすすめの方法といえるでしょう。
追加請求が難しくなる可能性がある
養育費の一括払いを受けた場合、その後に養育費が不足したとしても、義務者に対して養育費を追加で請求することは難しくなります。
もっとも、養育費の一括払いを受けた際に前提とされていなかった事情、例えば、養育費の一括払い後、子供の怪我や病気等により、特別な医療費が必要となったときには、事情変更が生じたものとして、養育費の追加の請求が認められる可能性があります。
再婚で返金が必要となる場合がある
権利者が再婚し、再婚相手が子供と養子縁組をした場合は、一次的に再婚相手が養育の義務を負うこととなり、義務者が養育の義務を免れることとなるため、養子縁組以降に相当する養育費については、返金しなければならない可能性があります。
また、義務者が再婚した場合、再婚相手との子供が生まれた場合などは、義務者が扶養義務を負う者が増加することになりますので、養育費の減額事由となり、結果的に減額分について返金を行わなければならない可能性があります。
これらの返金は、突然生じる支出となってしまいますので、養育費の一括請求を検討されている方は、注意してください。
養育費の一括払い・請求をお考えの方は弁護士にご相談ください
養育費の一括請求に関するメリット・デメリットは、以上のとおりです。
一括払いの金額も含め、注意すべき点が多々ありますので、養育費の一括請求をお考えの方は、ぜひ一度弁護士法人ALGにご相談ください。
弊所には、離婚に関する専門的な知識や知見から、ご依頼者の方の利益に沿う提案をさせていただきます。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)