監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
さまざまな段階を踏んで「取り決めがなされた養育費」は、後々変更することができるのでしょうか?
民法880条には、養育費を支払う側(義務者)や受け取る側(権利者)に、“相応の事情”が生じた場合には、養育費の変更や取消しができると定められています。
では、“相応の事情”とは何なのか。
ここでは、養育費の減額について、認められる条件や減額請求するための手続き、減額請求された場合の対応など、多様な視点で解説していきます。
目次
理由があれば養育費の減額は認められている
離婚する際に取り決めた養育費は、子供のためにきちんと支払う“義務”がありますし、受け取る“権利”があります。養育費のやりとりは、義務者も権利者も、子供の養育のために徹底しなければなりません。
しかし、養育費の“金額”については、“相応の事情”が認められると変更できる可能性があります。
理由があれば養育費の減額は認められますので、まずはこの点を押さえておきましょう。
養育費の減額が認められる条件
では、養育費の減額が認められる“相応の事情”には、どのような条件があるのでしょうか?
具体的にみていきましょう。
義務者が再婚した場合
養育費を支払う側が再婚すると、単純に扶養する対象が増える可能性があるため、養育費の減額が認められる場合があります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 再婚相手が専業主婦で収入がない
- 再婚相手との間に子供が生まれた
- 義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組をした
再婚時に減額し、子供ができたらさらに減額する場合もあれば、途中で義務者の再婚相手が就職し、世帯年収が上がれば増額する場合もあるなど、状況に応じて養育費の金額を変更できる可能性があります。
権利者が再婚した場合
養育費を受け取る側が再婚した場合は、世帯年収が増えるなどの理由で、養育費の減額が認められる可能性があります。
特に、子供と再婚相手が養子縁組をした場合には、義務者にくわえて再婚相手も子供の扶養義務を負うこととなりますので、養育費の金額を見直す大きなきっかけとなり得るでしょう。
「養育費を取り決めた当初と比べてどのような変化が起きたか」という点は、非常に重要です。
義務者の年収の減少・権利者の年収の増加
養育費の金額は、義務者・権利者の年収の変動にも大きく影響を受けます。
簡単に整理しておくと、「義務者の年収が減少した場合」と「権利者の年収が増加した場合」は、養育費の減額が認められる一因といえます。
義務者側の事情としては、例えば、予期しないリストラに遭った、病気や怪我で休職・退職せざるを得ず収入がなくなった、転職により年収が一気に下がってしまったなどがあります。
一方、権利者側としては、就職により収入を得ることや、転職・昇給などで増収したなどの事情が例としてあげられます。
養育費の減額請求をしたい場合の方法と注意点
実際、養育費の減額請求をしたい場合は、どのように事を進めれば良いのでしょうか?
基本的には、離婚をするときと同じですが、プラスアルファの注意事項があります。
詳しくみていきましょう。
まずは話し合う
まずは、第一段階として話し合いを行いましょう。
直接会うことに抵抗がある場合は、電話やメールはもちろん、Zoomなどのオンラインビデオ通話なども活用できます。備忘や証拠保存のために録音・録画などをしておくと、より安心できるでしょう。
また、話し合いで折り合いがついたら、必ず“合意書”を作成してください。
「言った・言わない」の問題は、養育費の減額をめぐっても生じうることです。録音・録画は、あくまでも安心材料としてとっておき、合意書を取り交わすようにしましょう。
なお、より効力のある“公正証書”を作成することもおすすめです。
話し合いを拒否されたら内容証明郵便を送る
養育費の減額請求は、される側からしたらあまり応じたくはない内容ですので、話し合いを拒否されたり、音信不通になったりすることも珍しくありません。
この場合は、第二段階として“内容証明郵便”を作成・送付しましょう。
内容証明郵便ときくと抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、誰でも出すことができますので、郵便局のHPや窓口などで気軽に確認してみることをおすすめします。
内容証明郵便は、音信不通の相手に「養育費を減額してほしい」という意思が届いたことを、「郵便局が証明してくれる」ので、今後の手続きでも有用です。
ただし、話し合いもせずいきなり送ることは不利にはたらくおそれがありますので、段階を踏んで対応するように注意しましょう。
決まらなかったら調停へ
内容証明郵便が届いているはずなのに「話し合いに応じてくれない」「話し合いを進めたものの折り合いがつかない」などの場合は、第三段階として裁判所の力を借りて手続きを進めていきましょう。
具体的には、養育費減額請求の“調停”を申し立てて、話し合いを進めることとなります。
第一段階の当事者間の話し合いと比べて、①裁判所で行う、②調停委員会に間に入ってもらう、といった点が大きく異なります。
調停でもまとまらない場合は、裁判官に判断をあおぐという“審判”に自動的に移行することとなります。
踏み倒しは絶対にしないこと
どんな事情であれ、養育費の“踏み倒し”は絶対にしてはなりません。
理不尽に感じるかもしれませんが、権利者が養育費減額の話し合いに応じてくれないなかでも、義務者には養育費の支払いを続ける義務があります。
この義務を怠ると、強制執行されるおそれがありますので、結果的に受けるダメージが大きくなってしまいかねません。
大事なのは、養育費の踏み倒しは絶対にしないこと、そして正当な段階を踏んで養育費の減額請求をしていくことです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費の減額請求をされた方の対応
では、養育費の減額請求をされた側は、どのように対応すべきなのでしょうか?
大切なのは、逃げずに話し合いなどに応じて、できるだけ減額されないように工夫をしつつも、「子供の幸せ」を一番に考えることです。
詳しくご説明します。
減額請求されたら無視しないこと
養育費減額請求の連絡や話し合いを持ちかけられたら、無視しないで応じることをおすすめします。
なぜなら、「減額は認められない」というよほどの確信がない限り、請求を無視してしまうと、調停を申し立てられ最終的に裁判所に減額を認められてしまうリスクがあるためです。
一時的な感情で請求を無視すると、これから長期的に受け取る養育費が減額してしまうおそれがありますので、慎重な対応を心がけましょう。
養育費をできるだけ減額されないためにできること
当事者間の話し合いから、調停委員会を間にはさむ調停になった場合は、「仲介する調停委員」がカギとなります。養育費をできるだけ減額されないために、調停委員に“こちら側”がいかに困っているかを分かってもらうことで、有利に話合いを進められる可能性があります。
とはいえ、やむを得ない事情により、相手が本当に支払いを継続するのがむずかしい場合もあるでしょう。
養育費の金額にこだわるのではなく、子供が成長するまでといった「長期的な支払いを滞りなく受け取ること」にこだわりをシフトするのも大切です。
「子供の幸せ」を考えて、程よい落としどころを見つけることが重要であり、親としての責務となります。
養育費の減額についてお困りなら弁護士にご相談ください
養育費の減額をめぐっては、請求する側・される側双方の事情があるため、揉めやすいトピックといえます。
離婚しているにもかかわらず、相手方と話し合いで連絡をとったり、顔を合わせたりしなければならないことに、苦痛や負担を感じる方も少なくないはずです。
お困りの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士はどちらの立場にたっても、法的な観点からのアドバイスや、実務上の経験を活かした交渉をすることができます。なにより、“代理人となれる”という弁護士の特権を活かして、依頼者に代わって相手方と交渉や手続きを進めることが可能です。
お一人で抱え込まずに、ぜひ一度弁護士法人ALGにお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)