監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故で怪我をした場合、相当期間の治療を行っても関節が事故前のように動かないなどの後遺症が残ってしまうことがあります。ここでは、このような後遺障害(可動域制限)について解説します。
目次
可動域制限とは
可動域制限とは、交通事故によって怪我をしたことにより、関節の動きが制限され、曲がらなくなってしまうことです。交通事故の後遺障害認定では、可動域制限が後遺障害として認められる場合があります。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故による可動域制限が生じるのはどのような場合でしょうか。交通事故により、骨折、脱臼、靭帯損傷など関節の動きに関わる器官を損傷した場合や、神経麻痺により関節を動かすことができなくなった場合、関節を損傷して人工関節を挿入した場合など、関節周辺に大きな怪我をした場合には可動域制限が生じる可能性が出てくるといえます。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
可動域制限が後遺障害として認定されるには、所定の要件を満たす必要があります。制限の程度により、関節の「用を廃したもの」、関節の「著しい機能障害」、関節の「機能障害」という要件に当てはまるかが問題となります。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」というのは、関節が強直またはこれに近い(可動域が10%以下に制限された)状態にあるもの、関節が完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの、人工関節を挿入した場合に可動域が2分の1以下に制限されているものをいいます。
関節の「著しい機能障害」
関節の主要運動が健側(怪我をしていない方の関節)の2分の1以下の可動域に制限されていれば著しい機能障害とみなされます。
関節の「機能障害」
関節の主要運動が健側の4分の3以下の可動域に制限されていれば機能障害とみなされます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
可動域制限の後遺障害等級と慰謝料
上肢または下肢の各関節の可動域制限の度合いに応じて、以下のような等級が定められています。また、各等級に該当した場合の後遺障害慰謝料(弁護士基準)はそれぞれ図の右のような金額となっています。
上肢(肩・腕)
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢(脚)
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた裁判例
可動域制限が認められた裁判例を紹介します。(東京地判令和 3年 9月15日)
原告は、横断歩道を歩行中に被告の運転する普通乗用自動車に衝突され、下半身に受傷しました。左股関節の人工股関節置換術を受けましたが、症状固定後も左股関節の可動域制限(4分の3以下)が残り、後遺障害10級11号に該当すると判断されました。
原告の変形性股関節症の進行には原告の既往症も寄与しているとされ、3割の素因減額が相当とされたほか、個人事業の基礎収入がマイナスと判断されたために休業損害と逸失利益は認められませんでしたが、治療費や慰謝料などの損害について、約676万円(控除された既払い金約144万円を加えると約820万円)が認められました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
交通事故の後遺症として可動域制限が残った場合、それが後遺障害として認定されるためには、関節の動きが制限されているという計測結果だけでなく、可動域制限の原因となる画像所見等の証拠や客観的な根拠が必要となり、認定のハードルは高い傾向にあります。認定される可能性を上げるためには、治療中から必要な検査を行うなどして画像などの証拠を残すとともに、後遺障害診断書の作成においても後遺障害の認定基準に照らして必要な事項を医師に記載していただく必要があり、できるだけ早い段階から弁護士が介入することが重要です。弁護士法人ALGでは、経験豊富な弁護士が後遺障害認定に向けたサポートをさせていただきますので、可動域制限のことでお悩みであれば、ぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)