監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故により負傷し、後遺症が残ってしまったら、後遺障害等級認定(後遺障害をその重さにより14段階に分類した指標)の申請を行います。認定された等級により、相手方から支払われる慰謝料や逸失利益などの損害賠償金の額が大きく変わる、非常に重要なものです。
しかし、後遺障害等級認定を申請したものの、非該当とされたり、想定していた等級より低かったりしたときはどうすればいいのでしょうか。このページでは、そのようなときの対処法である異議申立てについて解説していきます。
目次
後遺障害等級の異議申立ての方法
交通事故に遭って後遺症(後遺障害)が残り、後遺障害等級認定の申請を行ったものの、非該当とされた、または想定していた等級より低いものとされたときは、異議申立てを行うことで再度審査をしてもらうことができます。
方法としては、自賠責保険会社への異議申立て、自賠責紛争処理機構への申請、裁判所への訴訟提起の3つがあります。
以下、それぞれの方法を解説します。
自賠責保険会社に異議申立てをする方法
自賠責保険に異議申立てをする方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。
「事前認定」は事故の加害者が加入している任意保険会社に必要書類を提出し、後の手続はすべて任せるという方法です。一方、「被害者請求」は、被害者自身ですべての手続を行う方法です。異議申立ての際に異なるのは、書類の送付先が相手方加入の任意保険会社か、自賠責保険会社かということになります。
なお、初回の後遺障害等級認定の申請を事前認定で行っていても、異議申立ての際は被害者請求に切り替えることも可能です。
異議申立て~審査完了までの流れ
自賠責保険会社への異議申立てから審査完了までの流れは、以下のようになります。
事前認定
被害者から相手方加入の任意保険会社に書類を送付
⇒任意保険会社が損害保険料率算出機構に書類を送付
⇒審査
⇒任意保険会社に結果が通知される
⇒任意保険会社から被害者に結果が通知される
被害者請求
被害者から自賠責保険会社に書類を送付
⇒自賠責保険会社から損害保険料率算出機構に書類を送付
⇒審査
⇒自賠責保険会社に結果を通知
⇒自賠責保険会社から被害者に結果が通知される
(被害者請求では、等級認定されると結果受領と同時に保険金が支払われます)
なお、申立てから審査が通知されるまで、一般的には2~3ヶ月、長ければ半年ほどかかります。
必要書類と入手方法
自賠責保険会社に異議申立てをする際、必ず提出しなければならない書類は異議申立書のみとなります。書式は決まっておらず、自由に記入することが可能ですが、任意保険会社から送ってもらうことも可能です。
必須であるのは異議申立書のみですが、以下のような書類もそろえて送る方が認定結果が変わる可能性があります。
- 医師による意見書
- 医師による診断書
- 医療照会に対する回答書
- レントゲン、CT、MRIなどの画像所見資料
- 症状を証明する検査の結果
- 治療過程が記入されたカルテ
これらはすべて、治療のために入院・通院していた病院に依頼して入手します。
また、弁護士に依頼してアドバイスをもらいながら、症状によってどのような不便があるかなどを記した陳述書を添付してもいいでしょう。
郵送先
送付方法は、郵便でも宅急便でも構いません。
送付先は、事前認定では相手方加入の任意保険会社です。審査の結果も、任意保険会社を経由して申請者に通知が送られます。
被害者請求では、相手方加入の自賠責保険会社に送付します。結果は自賠責保険会社から申請者に通知されます。
審査に時間がかかる理由
自賠責保険への異議申立ての審査は、初回の申請よりも細かく専門的に行われます。そのため、一般的には2~3ヶ月、長い場合には6ヶ月という長い時間がかかります。
審査には日本弁護士連合会推薦の弁護士、医師、交通法学者、学識経験者等の外部の有識者が参加し、客観性と専門性をもって行われるのも、時間がかかる理由として挙げられます。
自賠責紛争処理機構に申請する方法
以下のいずれかに該当する場合は自賠責紛争処理機構が使えない
自賠責紛争処理機構への申請は、以下のいずれかに当てはまる場合は行えませんので、ご注意ください。
- 民事調停または民事訴訟に係属中であるとき又は当事者間の紛争が解決しているとき
- 他の相談機関または紛争処理機関で解決を申し出ている場合
※他の機関での中断・中止・終結の手続きをされた場合には受け付けることができます。 - 不当な目的で申請したと認められる場合
- 正当な権利のない代理人が申請した場合
- 弁護士法第72条に違反する疑いのある場合
- 自賠責保険・共済から支払われる保険金・共済金等の支払額に影響がない場合
※例えば、既に支払限度額まで支払われている場合 - 機構によって既に紛争処理を行った事案である場合
- 自賠責保険・共済への請求がない場合あるいはいずれの契約もない場合
- その他、機構で紛争処理を実施することが適当でない場合
異議申立て~審査完了までの流れ
自賠責保険紛争処理機構への申請は、以下のような流れで行います。
必要書類を最寄りの自賠責保険紛争処理機構へ送付
⇒機構がまず受理可能かどうかを判断
⇒不受理となった場合は「不受理通知」が、受理となった場合は「受理通知」が申請者に送付される
⇒紛争処理委員会にて、医師、弁護士、学識経験者などにより審査が行われる
⇒結果が申請者、保険会社などに通知される
なお、紛争処理機構での審査には、おおよそ2~3ヶ月かかるといわれていますが、個別の事情によりますので、それよりも長引くこともあります。
また、自賠責保険会社への異議申立てと違い、紛争処理機構への申請は一度しかできないことに注意が必要です。
必要書類と入手方法
紛争処理機構への申請で必要な書類と入手方法は、以下になります。
- 紛争処理申請書
- 別紙(紛争処理を求める事項について具体的に記入したもの)
- 同意書
- 送付資料チェックリスト
以上4点は自賠責保険紛争処理機構のウェブサイトからダウンロードでき、必須のものとなります。
そのほか、交通事故証明書(警察署で交通事故証明書申込用紙をもらった後、交通安全センターやゆうちょ銀行で発行してもらうか、ウェブサイトから請求もできます)、弁護士が代理申請を行う場合は委任状と委任者の印鑑証明が必要になります。
また、自賠責保険に異議申立てをするときと同じく、主張の裏づけとなる、医師の意見書、診断書、医療照会に対する回答書、検査結果の資料など、病院に依頼して入手したものを添付します。
郵送先
紛争処理機構へ申請を行う際、書類の送付先は、お住まいの地域によって異なります。
近畿、中国、四国、九州、沖縄に住んでいる場合は大阪支部宛、それ以外の地域に住んでいる場合は東京本部宛に送付することになります。それぞれの住所は自賠責紛争処理機構のウェブサイトに掲載されています。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
裁判で異議申立てをする場合
自賠責保険会社への異議申立て、紛争処理機構への申請でも適正な等級を得られなかった場合は、裁判を提起し、こちらの主張する等級での慰謝料や逸失利益を相手方に請求することになります。
流れとしては、裁判所に訴状を提出すると第一回口頭弁論期日が指定されます。第1回口頭弁論期日の際、弁論準備手続に付されることが多く、弁論準備手続の中で、こちらの主張を補充したり、証拠を提出したりすることになります。弁論準備手続を何度か行った後、裁判所から提案される和解案に同意するか、尋問手続を経た場合にはその後に判決が下されることになります。裁判では、自賠責保険や紛争処理機構での結果に関係なく後遺障害等級が判断されるため、非該当から等級認定されたり等級が上がったりすることもあれば、下がってしまう可能性もあります。
訴訟の手続は専門的な知識がなければ非常に難しいものですので、一般的には弁護士に依頼し、すべての手続を任せることになります。
自分で後遺障害等級の異議申立てをするのは難しい
自賠責保険への後遺障害等級認定の異議申立てが認められる確率は、交通事故被害者全体の約9.4%ととても低いものになっています(損害保険料率算出機構「自動車保険の概況2018年度(2017年度統計)」より)。この数字だけで、異議申立てが認められることがいかに難しいことであるかおわかりいただけると思います。
自賠責保険への異議申立て、紛争処理機構への申請は、もちろんご自身で行うことは可能ですが、専門知識がなければ、認められる可能性は非常に低く困難なものであると言わざるを得ません。
異議申立ての書類に不足しているものや不備があるとまたやり直し
異議申立ては一度すでに出された結果を覆すために行うものですから、なぜ初回の結果が適切ではないのか、どのような理由で異議申立てをするのか、相応しいと思われる等級とその理由など、主義・主張をしっかりと裏づける書類を添付する必要があります。
異議申立てが認められるに足る資料が不足している場合はもちろん認められませんし、書類に不備があれば追完したり、場合によってははじめからやり直しになってしまいます。
異議申立ての審査には時間がかかる
自賠責保険への異議申立ても、紛争処理機構への申請も、結果が通知されるまではおよそ2~3ヶ月、長ければ半年ほどかかります。自賠責保険への異議申立ては制限なく何度でも行うことができますが、書類に不備があったり、主張を裏づける資料が不足していたりしてやり直しをすることになれば、かなり時間がかかってしまいます。
また、裁判となれば判決が出るまで1~2年ほどかかってしまうことも少なくありません。
後遺障害等級認定の異議申立ては、ご自身の負担を減らすためにも、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に後遺障害の異議申立てを依頼した場合
交通事故と医療の双方に詳しい弁護士にご依頼いただければ、適正な等級を得るために必要な資料はどのようなものか判断して収集し、万全の体制で異議申立てをすることができます。審査で重視されるポイントも熟知していますので、ご自身おひとりで異議申立てを行うよりも、等級を得られたり、等級が上がったりする可能性がかなり高くなります。
異議申立てを弁護士に依頼する際にかかる費用は弁護士事務所によって差がありますが、加入している任意保険に弁護士特約が付帯していれば、自己負担なしで依頼することができます。
異議申立てはいつまでにしなければいけないのか
自賠責保険への異議申立てに回数制限はありませんが(紛争処理機構への申請は一度のみです)、時効があります。医師に症状固定(それ以上治療を続けても症状が改善せず、後遺症が残る状態)と診断された翌日から5年間です。それ以上経過してしまうと、異議申立てはできなくなります。
ただし、加害者側が債務の存在を認めていたり、一時金を支払ったりしていれば、時効は中断する可能性があります。また、訴訟を提起したりやADR(裁判外紛争解決手続)を申し立てた場合でも、時効を中断できる場合があります。
後遺障害等級の異議申立ては弁護士にお任せください
一度出された後遺障害等級認定の結果を変えることは、容易ではありません。
しかし、交通事故・医療に精通している弁護士であれば、前回の後遺障害の認定結果を精査し、なぜ非該当だったのか、なぜ認定された等級が低かったりしたのかを分析し、異議申立てをする際には適正な等級を得るための資料を不足なく揃え、診断書等を記入してもらうためにご依頼者さまと共に医師と面談するなど、こちらの主張を論理的に立証することができます。また、後遺障害等級が認定されれば、弁護士基準という最も高額になる基準で賠償金を得ることができます。
弁護士法人ALGでは、交通事故チームと医療事故チームが協力体制をとり、後遺障害等級認定申請はもちろん、異議申立てにより非該当から等級を得たり、より高い等級を得られたりした実績が多数あります。
後遺障害等級認定の結果に納得がいかず、異議申立てをお考えの際は、ぜひ弊所までご相談ください。
-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)