
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故の怪我が完治せず、症状が残った場合、「後遺障害等級申請」を行うのが一般的です。
しかし、後遺障害等級は必ず認められるものではなく、「非該当」と判断されることも多いため、被害者としては不満を抱きやすいでしょう。
本記事では、後遺障害等級が認定されない原因や理由、等級を獲得するためのポイント、異議申立ての方法などを詳しく解説していきます。
交通事故の被害に遭われた方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
後遺障害等級が認定されない理由
痛みなどが残っても、後遺障害等級は認定されないことがあります。
というのも、後遺障害等級認定では自覚症状だけでなく、残った症状を医学的・客観的に証明する必要があるためです。
適切な等級が認定されない理由は、主に以下の5つです。
後遺障害診断書の記載が不十分
後遺障害診断書の記載が不十分だったり、不備があったりすると、適切な認定が認定されない可能性があります。
例えば、腰椎捻挫を負ったのに自覚症状に「腰痛」がない場合や、医師の見解が「特になし」とだけ書かれている場合、後遺障害等級非該当と判断されやすくなります。
ただし、後遺障害診断書を自分で修正・追記することはできません。
医師以外の者が作成した場合、偽造とみなされ無効となるおそれがあります。
症状を裏付ける他覚的所見・検査が不足している
他覚的所見とは、医師の診察や検査の結果により、客観的に認識できる症状のことです。
後遺障害等級認定を受けるには、以下のような検査をすべて行い、症状を裏付ける客観的な証拠を揃える必要があります。
- MRI、CT、レントゲンなどの画像検査
- 神経学的検査
特にむちうちの場合、自覚症状があっても検査では「異常なし」と判断され、後遺障害等級非該当となるケースが多いです。
他覚的所見がみられない時は、自覚症状をしっかり伝え、後遺障害診断書に詳しく記載してもらいましょう。
通院期間・通院日数が足りていない
通院期間や通院日数が少ないと、「軽傷だった」「怪我はもう治っている」と判断され、後遺障害等級非該当となる可能性があります。
むちうちの場合、後遺障害等級が認定されるには「6ヶ月以上、月10日以上」の通院が必要といわれているため、医師と相談のうえできるだけ通院を継続しましょう。
ただし、医師が“症状固定”と判断した場合、その時点で後遺障害等級申請を行うことになります。
症状固定後も自費での通院は可能ですが、後遺障害診断書における「通院期間」にはカウントされないため注意しましょう。
症状に連続性・一貫性がない
事故後の症状に連続性、一貫性がないと、後遺障害等級非該当となる可能性があります。
例えば、以下のようなケースです。
- 事故後しばらく経ってから痛みを訴え始めた
- 一度症状が治まったが、また痛み出したといって治療を再開した
- 事故直後は「首の痛み」、治療開始後は「腰の痛み」を訴えるなど、症状が頻繁に変わる
よって、事故後はすぐに診察を受け、傷病名を記録しておくことが重要です。
また、治療期間に空白があるのも望ましくないので、定期的に通院し治療を受けるようにしましょう。
交通事故の規模が小さい
軽微な事故の場合、事故と怪我の因果関係を疑われ、後遺障害等級が認定されないおそれがあります。
例えば、以下のような事故です。
- ミラー同士が接触した
- 極めて低速度で追突された
- 車両にかすり傷しか付いていない
これらの事故では、「身体への衝撃も小さい」「後遺症が残るほどの怪我ではない」と判断される傾向があります。
ただし、軽微な事故でも痛みや症状が残る可能性はあります。
自覚症状があれば、医師にしっかり伝えることが重要です。
交通事故で最も多い「むちうち」の後遺障害認定は特に厳しい
むちうちの場合、他覚的所見がみられず自覚症状にとどまるケースが多いです。
そのため、後遺障害等級の認定率も低いのが現実です。
そこで、むちうちを負った場合は以下のポイントを押さえておきましょう。
- 6ヶ月以上、月10日以上の通院を目指す
- 事故後はすぐに病院を受診する
- 必要な検査をすべて受ける
- 症状に一貫性をもたせる
- 自覚症状を細かく伝える(仕事や家事への影響など)
- 後遺障害診断書はできるだけ詳しく作成してもらう
後遺障害に認定されなかった場合は慰謝料をもらえない?
後遺障害等級が非該当でも、「入通院慰謝料」は受け取ることができます。
入通院慰謝料とは、事故の怪我で入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対して支払われるものなので、後遺障害の有無にかかわらず請求が可能です。
一方、「後遺障害慰謝料」は基本的に受け取ることができません。
後遺障害慰謝料は残った症状(後遺障害等級)の大きさに応じて支払われるため、非該当の場合は支払われないのが基本です。
ただし、後遺障害等級非該当でも、以下のようなケースでは例外的に後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。
- モデルなど外見が重視される人物の顔に傷が残った
- 幼児の身体に一生残る傷跡がついた
- 車の運転が難しくなり、退職を余儀なくされた
- 神経の痛みで不眠が続いている
後遺障害等級認定で「非該当」と通知されたときの対処法
異議申立てを行う
異議申立てとは、後遺障害等級申請の結果に不服があるとき、認定機関へ再審査を求める手続きです。
異議申立てが認められると、認定された等級に応じた後遺障害慰謝料などを受け取れるようになります。
ただし、一度出た結果を覆すのは容易ではないため、十分な対策が必要です。
例えば、症状について新たな証拠を揃えたり、自覚症状の説明を追加したりと、多くの専門知識が求められます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
後遺障害等級の異議申立てをする方法異議申立てには時効がある?
異議申立て自体に時効はありませんが、相手方への損害賠償請求権は「症状固定日の翌日から3年」で時効にかかります。
仮に異議申立てが認められても、時効を過ぎると賠償金を請求できなくなるため注意が必要です。
また、異議申立ても書類の精査や申請手続きには時間がかかります。
「3年もある」と考えず、後遺障害等級非該当になった場合はできるだけ早く異議申立てを検討しましょう。
紛争処理制度を利用する
紛争処理制度とは、後遺障害等級申請や異議申立ての結果に不服があるとき、認定機関とは別の第三者機関に再審査(調停)を求める手続きです。
具体的には、弁護士や医師、学識経験者などで構成される「紛争処理委員会」が申請内容を精査し、適切な後遺障害等級について判断を下します。
なお、保険会社は最終的な調停結果を守ることが義務付けられているため、等級が認定されれば被害者のメリットは大きいといえます。
ただし、紛争処理制度は一度しか利用できないためタイミングには注意が必要です。一般的には、異議申立ても通らなかった場合の“最後の砦”と位置付けられています。
紛争処理申請の流れ
①申請書の送付
申請書などの必要書類を最寄りの「自賠責保険・共済紛争処理機構」に送付します。
↓
②受理の判断
紛争処理機構が保険会社から書類を取り寄せ、受理の判断を行います。
↓
③受理通知の受領
申請が受理されたら、申請者や保険会社へ「受理通知」が送付されます。
なお、受理不可の場合も「不受理通知」が送られます。
↓
④紛争処理委員会による審査(調停)
申請書類や後遺障害等級申請時の資料などをもとに、紛争処理委員会が再審査(調停)を行います。
↓
⑤調停結果の通知
調停結果について、申請者や保険会社に書面で通知されます。保険会社はこの結果に異議を述べることはできません。
紛争処理申請の必要書類
紛争処理制度の申請時は、以下の書類を提出する必要があります。
- ①紛争処理申請書
- ②別紙(「紛争処理を求める事項」について詳しく記載するもの)
- ③同意書
- ④委任状と委任者の印鑑証明書
- ⑤添付書類
①~③は、紛争処理機構のホームページでダウンロードできます。
また、委任状については指定の書式はありません。
⑤の添付書類は、以下のようなものが挙げられます。
- 交通事故証明書
- 保険会社からの回答書(後遺障害認定通知書など)
- その他事故関係書類(レントゲン画像や車両の写真など)
なお、添付書類以外は返却されないため、必要であればコピーを取っておくことをおすすめします。
裁判を提起する
裁判を起こし、裁判所に後遺障害等級の判断を委ねる方法です。
裁判では病院のカルテや検査結果、医師の見解書などをもとにより精密な調査を行うため、交渉や調停よりも確実な結果が望めます。
ただし、裁判にはお金も時間もかかるため、「早く解決したい」「早く賠償金がほしい」といった方には不向きといえます。
また、多くの資料や証拠を集め、説得力のある主張を準備するなど手間が大きいため、最終手段といえるでしょう。
なお、後遺障害等級の争いでは“医学的知識”も求められるため、裁判を起こす際は交通事故事案の知識や経験豊富な弁護士を選ぶことをおすすめします。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害が非該当となった場合に弁護士に依頼するメリット
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スムーズに対応できる
非該当になった原因や理由を分析し、効率よく対策を練ることができます。例えば、不足していた資料や証拠をすぐに集め、異議申立ての準備をスムーズに進めることができます。 -
異議申立てが認められる可能性が高くなる
残った症状を医学的に説明し、説得力のある申立書を作成できるため、異議申立てが認められやすくなります。 -
賠償金が増額する
後遺障害等級が認定されると、「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」も受け取れるため、賠償金額が大幅にアップします。また、弁護士基準で請求するため、その他項目も増額するのが一般的です。
弁護士法人ALGは、後遺障害等級申請や異議申立てについて多数の実績があります。
お悩みの方はお気軽にご相談ください。
後遺障害等級認定の異議申立ての結果、等級が認定された事例
【事故の概要】
ご依頼者様が青信号で交差点を右折したところ、進行方向から直進してきた相手方車両と衝突した事故です。
ご依頼者様は、頚椎捻挫・腰椎捻挫・左上肢末梢性神経障害を負い、その後の対応について相談に来られました。
【弁護士の対応】
弁護士は通院中から治療の延長交渉などをしつつ、通院期間が半年を超えたところで後遺障害等級申請を行うこととなりました。申請時は担当医に手紙を書くなど、弁護士ならではのサポートも行っています。
1回目の申請結果は「非該当」でしたが、MRI画像の精査や分析を粘り強く行ったところ、異議申立てが認められ、「後遺障害14級併合」を獲得することができました。
弁護士の交渉によって賠償金額も大幅にアップし、ご満足いただけた事案です。
後遺障害認定されない・非該当の場合はご相談ください。弁護士が等級獲得に向けてサポートいたします。
後遺障害等級申請や異議申立てでは、交通事故の知識だけでなく“医学的知識”も求められます。また、むちうちなどの軽い怪我では、後遺障害等級が認定されないケースも多いのが現実です。
弁護士に依頼すれば、ポイントを押さえながら申請手続きを行えるため、適切な等級が認定される可能性が高くなります。また、必要な証拠や資料についても熟知しているため、スムーズに準備を進めることができます。
弁護士法人ALGは、これまで数多くの交通事故事案を解決してきました。豊富な知識と経験を活かし、納得のいく結果が得られるようしっかりサポートいたします。
「後遺障害等級が認定されなかった」「異議申立てをしたい」とお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)