監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故には様々なケースがあり、中には、被害者に落ち度が一切ないと考えられる場合もあります。そして、本当に被害者に過失がなければ、加害者と被害者の過失割合は10対0となります。
過失割合が0であれば、過失相殺がないため、十分な損害賠償を受け取れると考えてしまいがちです。しかし、警戒することなく加害者側からの示談の申入れを受けてしまうと、思わぬ損をしてしまうリスクがあるので注意が必要です。
ここでは、過失割合が10対0の交通事故について解説します。
目次
過失割合10対0の事故とは
過失割合10対0の事故とは、被害者に過失がないと考えられる事故です。典型的なのが、自動車同士の事故で、被害者が赤信号で停車しているときに加害者に追突されたケースです。
他にも、過失割合が10対0になりやすいケースがいくつか存在します。
過失割合の修正要素について
過失割合には、基本過失割合と修正要素があります。基本過失割合が10対0の事故であっても、修正要素によって被害者の過失割合が加算され、過失があるとされる場合があります。例えば、自動車同士の事故でいうと以下のようなケースです。
- 被害者がスピードを出し過ぎていた場合
- 被害者が飲酒運転をしていた場合 等
「動いている車同士で10対0はありえない」は本当か
動いている車同士の事故でも、センターラインを越えた加害車に正面衝突されたケース等であれば、過失割合10対0はありえます。
また、加害者側の過失割合が加算される修正要素(飲酒運転等)があれば、基本過失割合が9対1などの事故であっても、結果として過失割合が10対0になる場合もあります。
車同士、または車とバイクの事故で過失割合10対0になる例
車同士や車とバイクの事故では、被害者側にも何らかの過失があると考えられる場合が少なくないため、過失割合10対0にはなりにくいのですが、明らかに加害者だけが悪い場合等では10対0として扱われることがあります。
直進同士
交差点で2台の直進車が衝突したケースにおいて、一方が青信号で一方が赤信号だった場合には、赤信号であった側の過失割合が10割となることが多いです。
赤信号の直進と青信号の右折
交差点において、直進車が赤信号であり、右折車が青信号であったときには、直進車の過失割合が10割となることが多いです。
直進とセンターラインオーバー
直進車とセンターラインオーバーした車両が正面衝突してしまったケースにおいては、センターラインオーバーした側の過失が10割となることが多いです。
駐車・停車車両に追突
駐停車中の車両に他の車両が追突したケースにおいては、基本的に追突側の過失割合が10割とされます。ただし、駐停車中の車両にも過失(ハザードランプをつけていなかった等)があれば、過失割合が修正されることがあります。
自動車と自転車で過失割合10対0になる事故事例
自動車と自転車では、自転車の方が交通弱者であることから、自動車側の過失割合が高くなるケースが多いです。
以下で、自動車と自転車で過失割合が10対0になるケースについて解説します。
左折自動車と直進自転車
直進している自転車を自動車が追い越して左折するケースにおいて、自動車が自転車にぶつかった場合(いわゆる巻き込み事故)には、自動車の過失割合が10割とされることが多いです。
センターラインオーバーの自動車と自転車
センターラインオーバーの自動車と自転車が衝突した事故では、自動車側の過失割合が10割になるのが原則です。ただし、自転車がセンターライン付近を走行していたケース等では過失割合が修正されることがあります。
自動車と歩行者で過失割合10対0になる事故事例
自動車と歩行者で交通事故が発生したケースでは、交通弱者にあたる歩行者の過失割合が低くなることが多いです。
路肩を歩く歩行者と自動車
路肩を歩いている歩行者に自動車が衝突した場合、自動車と歩行者の過失割合は基本的に10対0となります。これは、歩行者が歩いていた路肩が道の右側であっても左側であっても変わりません。
歩車道の区別がない道路の右側を歩く歩行者と自動車
歩車道の区別がない道路において、自動車が歩行者と衝突した場合には、歩行者が道の右側を歩いていたケースでは自動車と歩行者の過失割合が10対0になります。一方で、歩行者が道の左側を歩いていたときには、歩行者の過失が5%程度認められることがあります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
自転車と歩行者の事故
自転車と歩行者の事故については、基本的に自転車の過失割合が高くなります。自転車は自動車に対しては交通弱者ですが、歩行者に対しては交通強者だからです。
青信号、または信号のない横断歩道を歩く歩行者との衝突
歩行者が青信号で横断歩道を歩いているときや、信号のない横断歩道を歩いているときに自転車が衝突したら、自転車と歩行者の過失割合は10対0です。このとき、自転車が直進していたか右左折していたか、あるいは、歩行者の横断中に信号が変わったことは過失割合に影響しません。
歩道外・路側帯外から出てきた自転車との衝突
自転車が、歩道の外や路側帯の外から歩行者に衝突したときには、自転車と歩行者の過失割合は10対0となることが多いです。
歩車道の区別がない道路の右側を歩く歩行者と自転車
歩道と車道の区別がない道路において、歩行者が道路の右側を歩いていたところ自転車と衝突したケースでは、自転車と歩行者の過失割合は10対0になることが多いです。
過失割合10対0の場合、自身の保険会社が交渉してくれない点に注意
過失割合が10対0である場合、被害者は自ら加害者側の任意保険会社と交渉しなければなりません。
被害者にも過失割合がある交通事故では、被害者側の任意保険会社は加害者に対して保険金を支払う立場になることから、当事者として示談交渉を代行することが可能です。しかし、被害者に過失割合がない場合には、被害者側の任意保険会社は保険金を支払う立場でないため、示談を代行すれば弁護士法違反になりかねません。そのため、被害者が自ら相手方と交渉する必要が生じるのです。
多くのケースで、被害者は示談交渉の経験がないため、加害者側の任意保険会社との交渉は大きな負担となるおそれがあります。
弁護士なら代わりに示談交渉できる
被害者に過失がないため、保険会社に示談を代行してもらえない状況であっても、弁護士であれば示談交渉を代行することが可能です。加入している保険の契約内容によっては、弁護士費用を出してもらえるケースもあります。
相手方の保険会社との交渉に自信がない場合や、怪我の治療等に専念するために交渉で煩わされたくない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
保険会社の提案をその場で受け入れない
加害者側の保険会社は、なるべく支払いを抑えようとするため、相手方から言われるままに損害賠償額を決めてしまうと損をするリスクが高いです。大半の被害者は初めての示談交渉となりますが、保険会社は交渉に慣れているため、言いくるめられてしまうケースも珍しくありません。弁護士であれば、保険会社との交渉に慣れているだけでなく、慰謝料の請求を裁判例に基づいた金額で行うことも可能であり、賠償金の上積みが期待できます。
過失割合を10対0に修正できた事例
交差点で自動車同士が衝突した事故において、双方が「相手方が赤信号だったのに交差点に侵入した」と主張した裁判例をご紹介します。
当該裁判例では、自動車を運転していた原告X1が低速で交差点に進入しており、被告Yは交差点に時速50km~60kmで侵入していたことや、目撃者がいたこと等から被告の主張は採用されず、原告側の主張が採用されたことにより、原告と被告の過失割合は0対100とされました。そして、X1の入通院慰謝料として160万円、後遺障害慰謝料として110万円等、合計約615万円の損害が認められ、X1が運転していた自動車の所有者であるX2の損害として合計約165万円が認められました。そして、被告Yの請求は棄却されました(神戸地方裁判所 令和元年10月29日判決)。
過失0といわれても、一度は弁護士にご相談ください
過失割合が10対0とされて、予想以上に大きな金額の賠償金を提示されたときであっても、示談に応じる前に弁護士にご相談ください。
示談に応じてしまうと、後になって、もっと賠償金を受け取ることができたと気付いても、交渉をやり直すことは困難です。過失がない事故は、賠償金が高額になりやすい事案だからこそ、慎重に対応するべきだと言えるでしょう。
交通事故の示談交渉に慣れた弁護士であれば、請求することが可能な損害の漏れ等を見落とさずに交渉することが可能です。また、慰謝料の計算方法は保険会社よりも高額になる基準を用いるため、大幅な増額が可能なケースがあります。
より多くの賠償金を求めることについて、躊躇してしまうかもしれません。しかし、事故の影響で働けない期間が長引くリスク等があります。後悔しないようにするためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)