監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
被相続人の遺産についてどのように分配するのかを相続人間で協議したものの、分割方法を合意できなかった等により、遺産分割協議が成立しない場合があります。そのような場合、遺産分割調停を申し立てることになります。
目次
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、全員の相続人が、被相続人の遺産をどのように分配するのかということを、家庭裁判所において話し合う手続のことをいいます。「調停」とは、話し合いを行うことにより、当事者の意見を摺り合わせていく手続です。
遺産分割調停の流れ
遺産分割調停は、以下のような流れで行われます。
①申立人が遺産分割調停申立書を作成し、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをする
②家庭裁判所が申立書の内容を確認する。
③家庭裁判所が申立人と第1回調停期日の日程調整をする。
④申立人及び相手方が、第1回調停期日に家庭裁判所へ出頭し、調停委員会を通じて話し合いを行う。
⑤第1回調停期日で調停が成立しなかった場合、次回の調停期日を設定する。
⑥調停が成立した場合、「調停調書」が作成され、事件が終了する。
調停が成立しなかった場合、遺産分割審判に移行する。
必要書類を集める
家庭裁判所に対して、遺産分割調停を申し立てるためには、以下のような書類を提出しなければなりません。
①被相続人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③相続人全員の住民票又は戸籍の附票
④不動産の登記簿謄本や預金通帳の写しなど、被相続人の遺産に関する資料
⑤被相続人の子(及びその代襲相続人)が亡くなっている場合、その子(及びその代襲相続人)が出生してから亡くなるまでの戸籍謄本
相続人全員の住所が必要なことに注意が必要
遺産分割調停を申し立てるにあたり、相続人の全員が確定されていることが必要となります。そして、相続人のうち、住所不明の人物がいる場合、遺産分割調停の申立書は受理されないので、注意が必要です。
したがって、相続人が確定できない場合には、遺産分割調停を申し立てる前に、相続人の調査を行うことをおすすめします。
未成年・認知症の相続人がいる場合は代理人が必要
相続人の中に、未成年者や認知症の相続人がいる場合、遺産分割調停に参加することができません。なぜなら、未成年者や認知症の相続人には十分な判断能力が備わっていないからです。
このような場合、未成年者の相続人には「特別代理人」を、認知症の相続人には「成年後見人」を選任し、遺産分割調停を行わなければなりません。
管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
遺産分割調停を申し立てるためには、家庭裁判所に遺産分割調停申立書を提出することが必要となりますが、どこの家庭裁判所に遺産分割調停申立書を提出すればいいわけではありません。提出するべき家庭裁判所は、申立人以外の相続人の居住地を管轄する家庭裁判所若しくは、相続人間で合意した家庭裁判所になります。
また、上記の家庭裁判所の窓口に持参する方法や郵送により申し立てることができます。
申し立てにかかる費用
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる場合、手数料として、被相続人1人につき1200円分の収入印紙と、家庭裁判所から各相続人に郵送する郵便切手が必要となります。なお、家庭裁判所によって郵便切手の金額が異なるため、申し立てる家庭裁判所にお問い合わせください。
2週間程度で家庭裁判所から呼出状が届く
申立人が家庭裁判所に対して、遺産分割調停申立書を提出し、内容に間違いがなかった場合、家庭裁判所から各相続人に対して、呼出状が届くことになります。
申し立てから呼び出し状が届くまで約2週間程度かかります。また、呼出状と一緒に遺産分割調停申立書の写し等が含まれています。
調停での話し合い
調停期日では、申立人と相手方はそれぞれ別の待合室で待機し、交互に調停室に入るため、原則として申立人と相手方が顔を合わすことはありません。調停委員は、申立人と相手方双方から主張を聞き取り、遺産分割調停の合意に向けた調整を行います。
第1回調停期日で合意できなかった場合には、第2回、第3回と期日が指定され、話し合いが続行されます。
調停成立
申立人と相手方の話合いがまとまった場合、遺産分割調停が成立することになり、その結果、調停調書が作成されます。
調停調書は、民事訴訟等における確定判決と同じ効力を持つため、相手方が調停調書に記載されている内容に従わない場合には、この調停調書をもとに強制執行をすることができます。
成立しなければ審判に移行する
申立人と相手方の話合いがまとまらず、調停が不成立になった場合、遺産分割調停から遺産分割審判に移行することになります。遺産分割審判は、遺産分割調停とは異なり、申立人と相手方の主張立証から客観的に判断を下すことになります。
遺産分割調停が不成立になった場合には、自動的に遺産分割審判に移行することになります。
調停不成立と判断されるタイミング
申立人と相手方の話合いがまとまらなかった場合には、調停が不成立となります。調停委員会が調停を不成立にするかどうかを判断しますが、何回目の調停で不成立になるかについては、事案によって異なります。
遺産分割調停にかかる期間
遺産分割調停を申し立てた場合、1~2か月程度の開催で、申立時より半年から約1年後に調停が終了することが多いのです。もっとも、個別の事案によって異なるため、1回目の調停で終わる場合もあれば、1年以上かかる調停も存在します。
1回の調停にかかる時間は、1~2時間程度のことが多いです。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割調停のメリット
ここでは、遺産分割調停におけるメリットをご説明いたします。
冷静に話合いを行うことができる
当事者同士で話し合う遺産分割協議は、感情的になることが多く、話し合いがまとまりにくく、解決までに多くの時間を要することがあります。
他方、遺産分割調停は、調停委員会が間に入って協議するため、遺産分割協議に比べ、冷静に話し合いを行うことができます。
遺産分割を進めることができる
遺産分割協議の場合、当事者同士で話し合いがまとまらなければ、遺産分割を行うことはできません。
他方、遺産分割調停は、調停委員会が間に入って話合いを行うため、期日を重ねることにより少しずつ問題を解決することができます。遺産分割調停が不成立になったとしても、遺産分割審判に移行し、裁判所が客観的に判断することになり、最終的な解決を図ることができます。
遺産分割調停のデメリット
ここでは、遺産分割調停におけるデメリットをご説明いたします。
希望通りの結果になるとは限らない
遺産分割調停は、第三者である調停委員会が間に入り話し合いを行うものであるため、申立人と相手方の主張を摺り合わせることが必須となります。
したがって、自らの主張が全て認められるとは限らず、申立人と相手方が互いに譲歩しなければならないことになります。
長期化する恐れがある
遺産分割協議は、当事者同士が都合のいいときに何度も話し合いをすることができるため、場合によっては早期に遺産分割協議を成立させることができる可能性があります。
他方、遺産分割調停は、裁判所を通じて話し合いを行うため、調停の頻度は1~2か月に1回となり、遺産分割協議に比べ長期化する可能性があります。場合によっては、遺産分割調停が成立するまで1年以上かかるケースもあります。
基本的に法定相続分の主張しかできない
遺産分割協議は、相続人間で自由に設定することができるのに対し、遺産分割調停は裁判所を通じて話し合いを行うため、法律に則った主張が必要不可欠となります。
遺産分割調停で取り扱えないもの
遺産分割調停において取り扱うことができないものが存在しています。
取り扱うことができないものとして、使途不明金があります。使途不明金については、調停において遺産分割の対象になるかどうかを判断することができないため、遺産分割調停で取り扱うことができません。
また、遺言書の効力についても遺産分割調停で扱うことができません。遺言書が存在している場合には、遺言書に記載されている通りに遺産を分割することが原則となります。
遺言書の効力について争いたい場合には、遺産分割調停ではなく、遺言無効確認という方法によらなければなりません。
遺産分割調停を欠席したい場合
遺産分割調停は、平日の日中に開催され、平日の夜や土日祝日に開催されることはないため、仕事等の関係で調停に出席できないという方もいらっしゃるでしょう。
遺産分割調停は、あくまで相続人間で協議を行うものなので、原則として相続人が調停に出席しなければなりません。しかし、やむを得ず調停に参加できない場合には、例外的に弁護士を代理人として出席させることも可能です。
また、調停の日程を変更してほしい場合には、事前に管轄の家庭裁判所に連絡し、日程変更を申し出てみましょう。もっとも、日程変更を申し出たとしても必ず認められるものではないので注意が必要です。
遺産分割調停の呼び出しを無視する相続人がいる場合
遺産分割調停を申し立てたものの、遺産分割調停の呼び出しを無視する相続人がいる場合どのようにしたらいいのでしょうか。
遺産分割調停は、家庭裁判所において話し合いを行う手続であるため、参加しない相続人がいる場合には、話し合いを進めることができません。何度呼び出しても調停に参加しない場合には、遺産分割調停が不成立となり、遺産分割審判に移行することになります。
遺産分割調停は弁護士にお任せください
これまで遺産分割調停についてご説明しました。遺産分割調停は、遺産分割協議とは異なり、冷静に話し合いをすることができる等のメリットが存在しているのに対し、長期化する等のデメリットも存在しています。そして、家庭裁判所を通して話し合いを行うことで、法律的な主張も必要不可欠となります。
ご依頼者様にとって少しでもいい結果を得るためには、弁護士に依頼することを検討するといいでしょう。弊所の弁護士であれば、これまで遺産分割調停を数多く行ってきた実績があるため、少しでもご依頼者様の力になることができます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)