
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
事故の怪我によって仕事を休んだ場合、保険会社に「休業損害」を請求することができます。
しかし、治療途中にもかかわらず、保険会社が休業損害の打ち切りを打診してくるケースもあります。一方的に休業損害を打ち切られると、被害者は収入がなくなり、生活が困窮してしまう可能性が極めて高く、早急に対応しなければなりません。
本記事では、保険会社から休業損害を打ち切ると言われた場合の対処法、打ち切りをされやすいタイミング、弁護士に依頼するメリットなどを詳しく解説していきます。
目次
休業損害が打ち切られるのはどのタイミング?
休業損害は、怪我の治療のために仕事を休むことを余儀なくされ、発生した損害について支払われるものです。
そのため、「これ以上の治療は不要」と判断されやすい以下のようなタイミングで、休業損害の打ち切りを宣告される傾向があります。
- 医師が症状固定と判断した時
- 医師が職場復帰できると判断した時
- 治療内容に変化がみられない時(飲み薬や湿布の処方のみなど)
- 事故とは無関係な症状が悪化した時
- 一般的な治療期間の目安が終了した時
どのくらいの期間で打ち切られることが多い?
保険会社は、怪我の種類によって治療期間の目安を設けており、その期間が経過したタイミングで休業損害の打ち切りを打診してくる可能性が高いです。これは「DMK136」と呼ばれており、それぞれ以下の期間が治療終了の目安とされています。
打撲(D):1ヶ月
むちうち(M):3ヶ月
骨折(K):6ヶ月
ただし、この期間は目安に過ぎないため、症状が残っている場合には安易に打ち切りに応じるべきではなく、交渉する必要があります。打ちどころによっては治療が長引くケースもあるため、適切な治療期間は医師と相談しながら決めるのが重要になってきます。
保険会社に休業損害を打ち切ると言われたときの対処法
打ち切りには安易に同意しない
一度打ち切りに同意すると、それ以降休業損害を受け取ることはできなくなります。そのため、仕事復帰が難しい場合は安易に打ち切りに応じないようにしましょう。
保険会社は、被害者の症状や治療状況を考慮せず、一般的な目安のみを参考に打ち切りを打診してくるケースも存在しています。そのため、打ち切りを主張する保険会社に対して、なぜこのタイミングで打ち切りなのか理由を聞き、書面などで説明を求めておくことをおすすめします。
理由がわかる書面があれば、主張するべき内容も明確になり、弁護士に依頼した際も延長交渉がスムーズに進む可能性があります。
まだ休業が必要なら医師から説明してもらう
医師が「まだ仕事に復帰すべきではない。治療に専念すべきだ」などと認めてくれれば、保険会社も休業損害の支払いに応じる可能性が高くなります。例えば、以下のような事項を記載した医師の診断書や意見書を提出すると効果的です。
- 現在の怪我の状況
- 治療の必要性
- 今後の治療方針や改善の見込み
- 仕事復帰が難しい旨とその理由
- 日常生活への具体的な影響
適切な治療期間を判断できるのは、保険会社ではなく“主治医”なので、治療が必要な場合は医師の協力を仰ぐことも重要です。
他の制度による補償を受ける
保険会社に休業損害の支払いを拒否された場合、裁判所に「仮払い仮処分の申立て」を行うのもひとつの方法です。
仮払い仮処分の申立てが認められると、裁判所から保険会社に対し、被害者へ一定の休業損害を先払いするよう命じてもらうことが可能です。仮払いの仮処分が認められれば、仕事に復帰するのが難しい状況でも安心して治療を継続できます。
ただし、仮払い仮処分の申立ては“裁判を前提とした制度”なので、以下の要件を満たす場合にのみ認められるのが一般的です。
- 訴訟を提起すれば、被害者が勝訴する可能性が高いこと
- 賠償金が早く支払われないと、被害者の生活が困窮する可能性が高いこと
これらの証明には多くの専門知識が求められるため、仮払い仮処分の申立てを行う際は弁護士に任せるのがいいでしょう。
後遺障害等級の申請をする
症状固定日を迎えたにもかかわわらず、未だ痛みが消えていない場合、残った症状に関して「後遺障害等級申請」を行うのが一般的です。
後遺障害等級申請の結果、1~14級のいずれかの後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を請求できるため、賠償金が大幅に増額する可能性が高いです。
なお、ここでいう「後遺障害」とは、残った症状を医学的に証明または説明できるものに限られます。
一方、“痛みがある”“身体が動かしにくい”といった自覚症状は「後遺症」にあたるため、後遺障害と区別されることに注意が必要です。
適切な等級を獲得するためにも、後遺障害等級申請を検討する際は弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害等級認定の申請方法弁護士に相談する
弁護士に相談することで、適切な治療についてアドバイスをもらえるため、休業損害の打ち切りを回避できる、若しくは、休業損害の支払いの延長をしてもらえる可能性があります。
休業損害は「怪我の治療のために仕事を休んだ期間」に対してのみ支払われる補償なので、慢性的な治療をしていたり、通院頻度が少なかったりした場合、保険会社から早々に打ち切りを打診される可能性が高いです。
弁護士のアドバイスを受けながら適切な治療を続けることで、このようなリスクを抑えることができるでしょう。
また、仮に打ち切りを打診されても、弁護士は主治医と連携しながら診断書や意見書を作成し、休業損害の支払いを延長するよう保険会社と交渉することができます。
もっとも、弁護士でも打ち切り後の延長交渉は難しいため、ご不安な方は、保険会社から打ち切られる前に相談されることをおすすめします。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
休業期間を延長した事例・裁判例
【事故の概要】
ご依頼者様が赤信号で停車中、加害車両に後ろから追突された事故です。この方は事故によって、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩関節捻挫などを負い、事故2日後に休業損害の先払いなどを求めて相談に来られました。
【弁護士の対応】
弁護士は、「ご依頼者様は今後仕事を休業する可能性が高い」と判断し、速やかに保険会社へ休業損害の先払いを請求しました。
休業期間について、保険会社は当初「1ヶ月のみ」と主張してきましたが、ご依頼者様の怪我の状態などを踏まえると、より長期の休業が必要だと判断できました。そこで、弁護士が保険会社と粘り強く交渉したところ、最終的には「4ヶ月」もの休業期間が認められました。
これにより、休業損害だけでなく、慰謝料などの賠償金についても大幅に増額させることができました。
休業損害の打ち切りについてお困りなら、交通事故に強い弁護士にご相談ください
弁護士は一般的な目安にとらわれず、個々の怪我の状況に応じて適切な休業期間を判断します。そのため、保険会社からの休業損害の打ち切りに対して、安易に応じることなく、説得力のある主張を行いながら延長交渉を進めることが可能です。また、早めにご相談・ご依頼いただくことで、通院や治療方法についてもアドバイスできるため、打ち切りを回避できるメリットも期待できます。
休業損害の打ち切りは突然行われることも多く、事故の交渉に不慣れな被害者は、パニックに陥りやすいといえます。弁護士法人ALGには、交通事故事案の経験豊富な弁護士が多数在籍しているため、ご相談者様のご不安にしっかり寄り添い、示談までトータルサポートすることが可能です。
「休業損害を打ち切られそう」「示談交渉が心配」などとお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)