監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
交通事故で被害に遭ってしまったら、その損害・被害に応じて示談金を請求し、受け取ることができます。多くの場合、相手側の契約している保険会社の担当者と交渉して示談金の額を決めることになりますが、示談交渉に臨むにあたっては、注意すべき点が多くあります。
このページでは、示談交渉の概要、また、交通事故被害者の方が示談交渉を進める際に注意すべきポイント等を解説していきます。
目次
交通事故における示談とは
交通事故における示談とは、事故の当事者同士が協議によってお互いの責任の割合を決め、支払うべき賠償金額(示談金額)を定めるものです。示談が成立すると、その内容は法的な効力をもちます。つまり、その事故における賠償の内容が確定することになります。示談金が支払われた後に追加で請求したい損害があったとしても、新たに請求を行うことは基本的にできません。示談を行う際は、自身の損害について請求漏れがないように十分注意する必要があります。
示談金に含まれているもの
示談金には、さまざまな損害に対する補償が含まれます。以下で、代表的なものを紹介します。
(1)治療費とその関連費用:診療費や入院費のほかにも、通院のための交通費、車いすや義手などの装具費、付き添いやヘルパーが必要な場合の付添看護費などがこれにあたります。
(2)消極損害:負傷したことで労働できない間、本来なら受け取れるはずだった賃金が得られなかったことについての損害(休業損害)や、事故によって後遺症が残った結果、就労が不可能になったり、仕事を変えなければならなくなったりした場合に、将来にわたって得ることができたはずの収入が失われたことについての損害(後遺障害逸失利益)、被害者が死亡してしまったために将来の収入が失われたことについての損害(死亡逸失利益)がこれにあたります。
(3)慰謝料:事故によって生じた怪我や障害の精神的苦痛を和らげるために支払われる金銭を慰謝料といいます。慰謝料は大きく入通院慰謝料と後遺障害慰謝料に分けられます。入通院慰謝料は、入院や通院によって生じた精神的苦痛のため、後遺障害慰謝料は、後遺症が残ったことによって生じた精神的苦痛のために支払われます。もし交通事故によって被害者が死亡してしまった場合は、死亡慰謝料が支払われます。
(4)物損の賠償金:自動車に損害が出た場合、修理費用や代車の費用がこれにあたります。
交通事故の示談金に相場はある?
では、交通事故の示談金の相場はいくらなのでしょうか。
これは、一概に言うことができません。治療費や慰謝料の額は事故の状況や被害の内容によってまったく異なりますし、休業損害や逸失利益は事故に遭った人の収入にも依存するので、ケースバイケースです。
ただし、それぞれの内容に関する相場はある程度決まっています。例えば、通院が何ヶ月なら慰謝料はどれくらいになるかといったことや、年収500万円の人がむちうちで14級の後遺障害が認定されたら逸失利益はどれくらいになるかといったことは、相場から算定することができます。
示談交渉の流れ
交通事故の示談交渉の流れをステージで分けて解説すると、以下のようになります。
ステージ1:事故が発生したら、警察に届け出るとともに、被害者・加害者はそれぞれ自分の加入している保険会社に連絡します。
ステージ2:加害者の保険会社の担当者は、事故が起きた時の状況を当事者双方にヒアリングして確認します。
ステージ3:加害者の保険会社の担当者は、被害者本人や病院に連絡するなどして、被害者に生じた確認します。
ステージ4:怪我を負った被害者の治療が終了するか、後遺症が残ったとして後遺障害等級の認定が行われると、損害の内容を決定できる時期とみなされて示談交渉が始まります。示談交渉では、事故の過失割合や賠償する損害の内容などが話し合われることになります。通常、示談は加害者が加入している保険会社の担当者が加害者の代理人となり、被害者と交渉します。
ステージ5:双方合意のうえで示談が成立すると、示談金額等を記した示談書または免責証書が取り交わされます。成立した示談は法的な効力を持つので、成立後に追加で新たに賠償を求めることは原則としてできません。
示談にかかる期間
示談にかかる期間は、示談金の額と同様にケースバイケースです。事故発生から治療の完了、あるいは後遺障害等級の認定まで時間がかかればそもそも示談が始まるまでの期間が長引きますし、示談交渉が始まった後も、保険会社の考える示談金の額と被害者の考える額があまりにもかけ離れていれば、成立まで時間がかかるでしょう。
一般的にいえば、人身事故より物損事故の方が示談交渉は早く終わります。慰謝料や逸失利益について争う必要がなく、客観的な修理費や車両時価額、代車費用などの算定だけで終わることが多いからです。一方、死亡事故の場合、被害者が亡くなられた後から示談を開始することは可能ではありますが、遺族の感情を考慮して四十九日の法要の終了を待ってから示談交渉が開始されるのが一般的です。
示談交渉が進まない場合の対処法
過失割合や慰謝料など、保険会社と被害者のあいだで損害の評価が大きく食い違った場合、示談交渉が難航することがあります。このような場合はどうすればよいのでしょうか。
まず、民事裁判を提起することが考えられます。この場合、裁判官によって判決が下されるので、争いは確実に解決されます。しかし、裁判のための準備にはきわめて多くの手間と費用が必要で、弁護士に依頼することが必須です。
最も有効な解決策は、弁護士に交渉を依頼することです。保険会社の提示する慰謝料に比べて、弁護士が交渉で提示できる慰謝料の額の方がはるかに高額です。裁判になれば保険会社の提示した金額より高額の示談金が認められる可能性が高いので、保険会社は裁判を嫌って、被害者に有利な金額を改めて提示してくることになります。弁護士に依頼する費用を考えても、メリットは大きいと言えます。
加害者が無保険だった場合の示談交渉
加害者が任意保険に加入していない場合、加害者と被害者が直接やり取りすることになります。しかし、加害者と連絡が取れなくなったり、双方が感情的になったりして交渉が難航することもよく見受けられます。このような場合は、どうすればいいのでしょうか。
まず、任意保険には未加入でも、強制加入である自賠責保険には、ほとんどの場合加入しているでしょう。その場合、被害者は自賠責保険に直接請求することができます。ただし、請求に必要な書類等を自分で作成しなければならないなど、被害者に多くの負担がかかります。また、自賠責保険で補償されるのは人身の損害のみなので、物損についてはやはり加害者に直接請求する必要があります。
加害者が自賠責保険にも加入していないことがあるかもしれません。そのようなケースでは、加害者の側に支払い能力がない場合がほとんどです。この場合、政府保障事業から自賠責保険に準じた金額が支払われる可能性があります。自身が加入している保険会社に相談するなどして、政府保障事業の活用を考えましょう。
なお、加害者が任意保険や自賠責保険に加入していない場合、自身の加入している任意保険に人身傷害保険や車両保険がついていれば、その使用も検討すべきでしょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の示談交渉で注意すべきこと
示談交渉をすることになった際に、注意すべきことを以下で解説します。
示談交渉は「人身事故」で行いましょう
交通事故に関する警察への届出は、物損事故と人身事故に分けられます。
人身事故として届け出た場合、警察が事故の状況を検分して詳細な実況見分調書を作成しますが
当初は物損事故として届け出ていたものを、後から人身事故に切り替えることもできます。ただし、事故が起きてから日が開きすぎてしまうと、人身事故として受け付けてもらえなかったり、正確な実況見分が行われなかったりというリスクがあります。交通事故に遭ったら、できるだけ人身事故として届け出るのが賢明です。
示談成立してしまうと撤回は困難です
示談が成立すれば、その内容は法的な効力を持ちます。つまり、示談書あるいは免責証書に記載された損害賠償の支払いをもって解決とし、それ以外はお互いに何も請求しない・できないということです。支払われていない費目について、成立後に気づいて後悔しないよう、示談の際は請求・支払いの内容に不足がないか十分に注意しなければなりません。
例外として、示談の際には予想できなかった症状の悪化や後遺症の発症など、新しい損害が生じた場合、後から損害賠償を請求することも不可能ではありません。しかし、その損害の発生と事故との因果関係などについて証明しなければならず、示談をやり直すことや、追加の請求が認められるハードルは非常に高いものになります。そこで、示談内容に、成立後に症状の悪化や後遺症が発症した際には再び協議を行うという条項を入れておけば、相手方の保険会社が話合いにすら応じないという事態は防ぐことができます。
示談を相手任せにしたり、焦ったりすると不利な結果となる場合があります
相手が任意保険に加入している場合、保険会社の担当者と交渉することになります。保険会社の交渉担当者は示談交渉に慣れており、自社に有利な示談成立に向けて被害者を説得しようとします。例えば、当事者が早期の解決を望んで焦る心理をよく知っており、「普通はこれ以上の額は出ない」、「だいたいこれくらいが相場です」といった言葉で説得するなどしてきます。しかし、保険会社は中立の第三者ではなく、相手方と自社のために動いています。気づいたら不利な条件で示談成立していたといったことにならないために、十分な注意が必要です。
損害賠償請求権には時効があります
損害賠償請求権には、時効があります。
時効は、被害者が、事故が起こったことを知った時からカウントが始まります。物損事故の場合は3年、人身事故の場合は5年です。ただし、示談がまとまらず、交渉中に時効が近づいてきたとしても、加害者に損害を賠償する意向があり、協議が続いていることが書面などで確認できれば時効は成立しません。
成立前の示談書チェックポイント
示談書または免責証書を作成し、それに署名と捺印をすれば示談が成立します。
一度成立した示談書を撤回することは極めて難しいので、示談金額は適切か、示談金の内訳はどうなっているかなどをチェックするとともに、支払いの期日や方法が明記されるかなども改めて確認しましょう。相手方が任意保険に加入しておらず、本人の支払い意思に疑問がある場合は、公証役場で示談書を公正証書としてもらうことで、強制執行をしやすくすることもできます。
交通事故の示談交渉で、不安に思うことがあれば示談成立前に一度ご相談下さい
交通事故の示談交渉では、交渉に慣れた保険会社の担当者を相手にしなければならず、相手方に都合よく言いくるめられ、本来もらえるはずの適正な額よりもずっと少ない示談金しか受け取れないおそれがあります。
弁護士法人ALGに在籍している弁護士は、法的知識と豊富な過去の事例から、保険会社が最初に提示する金額よりずっと多くの示談金を受け取れることを熟知しており、保険会社の担当者との交渉にも被害者の方を第一に考えて臨むことができます。また、後遺障害等級認定についても、ご依頼者さまの状態に適切な等級が認定されるためのお手伝いをすることができます。
交通事故の示談交渉をしなければならず不安を抱いていらっしゃる方は、適正な示談金を受け取るために、示談交渉を始める前でも、示談途中でも、成立させてしまう前に、ぜひ一度、弊所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)