監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
親や配偶者、きょうだいなど、身近な人が亡くなった場合、法定相続人に該当する可能性があります。
その場合、法定相続人は、亡くなった方(被相続人といいます。)の財産を相続することになります。
被相続人の財産は、様々なものが考えられますが、今回の記事で取り上げるのは、被相続人が所有している不動産です。
不動産は、預貯金などとは異なり、そもそも当該不動産の適正な価値を算定することが困難であることに加え、相続人が複数いる場合はどのように分割するかなど、相続人間で非常にもめやすい財産です。
そこで、本記事では、相続人間でもめやすい不動産の相続について、以下、詳しく解説していきます。
目次
相続した不動産はどうやって分ければ良いの?
被相続人の財産の中に不動産がある場合、相続人としては、当該不動産をどのように分割すれば良いのでしょうか。
本項では、当該不動産をどのように分割していけばよいのか、解説していきます。
遺言書があるなら内容を確認しましょう
被相続人の財産の中に不動産がある場合、まずは、被相続人が遺言書を作成していないか確認しましょう。
被相続人が遺言書を作成している場合は、当該不動産の分割方法が記載されている可能性があります。
遺言書は、被相続人の意思が記載されているものですので、当該不動産の分割方法が記載されていれば、その内容に従って当該不動産を分割すればよいでしょう。
なお、遺言書の中でも、被相続人が自筆で作成した自筆証書遺言の場合、遺言書の中身を確認するためには、家庭裁判所で検認という手続をとる必要があります。
検認をしないと、他の相続人から遺言書の偽造等を疑われる可能性がありますので、自筆証書遺言の中身を確認する際には注意してください。
売却・現金化して相続人で分ける(換価分割)
換価分割とは、当該不動産を売却等で換金した後、代金を分配する方法のことをいいます。
換価分割は、不動産をお金に換えて分割するというものですので、不動産の価値でもめる可能性が低く、相続人間の公平性を確保しやすいという意味でメリットがあります。
もっとも、当該不動産を換価する際には、最低売却価額、売却期限、売却担当者、売却から控除する費用の項目など、細かい部分を取り決めてから行わないと、後でトラブルになる可能性があります。
また、需要のある不動産であれば良いですが、需要がなく売却できない不動産の場合、売却できなかったときにどうするかという問題点は依然として残ることになります。
相続人の一人がそのまま相続する(現物分割)
現物分割とは、個々の財産の形状や性質を変更することなく分割することをいいます。
遺産分割は、その性質上、できる限り現物を相続人に受け継がせるのが望ましいと考えられているため、現物分割は、遺産分割の原則的方法といえるでしょう。
不動産を現物分割する場合は、もともと1つの不動産を分筆・区分して取得することになりますので、その登記手続を行う際には、地積測量等を行った上で行う必要があります。
遺産分割の原則的方法ではありますが、不動産の現物分割の場合は、地積測量等を行った上で分筆等の登記を行う必要がありますので、その手続が煩雑であるという問題点があります。
相続する人がほかの相続人にお金を払う(代償分割)
代償分割とは、一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上、他の相続人に対する債務を負担させる方法のことをいいます。
例えば、相続人がA及びBの2人、相続財産が1000万円の価値のある不動産のみの場合、Aが当該不動産を取得した上で、AがBに対し代償金として500万円を支払うという形で分割することを代償分割といいます。
代償分割が認められるには、①特別な事情が認められること、②代償金支払義務者に資力があることが必要とされます。
①の特別な事情としては、㋐現物分割が不可能である、㋑現物分割をすると分割後の財産の経済的価値が著しく損なわれる、㋒対象財産に対する特定の相続人の占有ないし利用状態を特に保護すべきである、㋓相続人間で代償分割をすることに争いがない等が挙げられる。
代償金の支払時期は、原則として即時ですが、事情によっては分割払いや期限の猶予等も可能です。
複数の相続人で共有する(共有分割)
共有分割とは、遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする方法のことをいいます。
例えば、相続人A及びBがおり、相続財産が不動産のみの場合、A及びBがそれぞれ2分の1ずつの割合で当該不動産の持分を相続することを共有分割といいます。
不動産を共有分割すると、当該不動産を売却したいと考えたときに手続が煩雑となる、共有状態を解消したいと考えたときに他の共有者が非協力的だと共有物分割訴訟によってしか共有状態を解消できないなど、後々トラブルとなる可能性があります。
かかる観点から、共有分割は、現物分割・代償分割・換価分割が困難な状況にある場合、当事者が共有による分割を希望しており、それが不当であるとは認められない場合等に限定されるべきと考えられていますので、可能な限り、共有分割は避けた方が良いでしょう。
不動産の相続には名義変更が必要
相続登記はいつまでにやればいい?
不動産の相続登記は、①相続開始後の登記申請義務、②遺産分割後の登記申請義務が課されています。
まず、①の義務は、相続によって所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないというものです(不登76条の2第1項)。
①の義務を果たすには、遺産分割前であれば法定相続分での相続登記の申請を、遺産分割後であれば遺産分割によって取得した割合での相続登記の申請をする必要があります。
次に、②の義務は、法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割がされた場合、当該遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならないというものです(不登76条の2第2項)。
いずれの登記申請義務においても、正当な理由がないのにこれを怠った場合は、10万円以下の過料に処せられますので、相続財産の中に不動産がある場合は、必ず登記を申請してください。
相続登記に必要な書類
相続登記をするために必要とされる主な書類は、以下のとおりです。
- 登記申請書
- 遺言書(存在する場合)
- 遺産分割協議書ないし遺産分割調停等の謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続関係説明図
- 不動産の相続人の住民票
- 不動産の相続人の印鑑証明書
- 被相続人の戸籍謄本(生まれてから死亡するまでの全て)
- 被相続人の住民票の除票
- 不動産の固定資産評価証明書
- 委任状(専門家に依頼する場合)
提出先
相続登記は、相続した不動産の所在地を管轄する法務局で行います。
したがって、上記必要書類は、不動産の所在地を管轄する法務局に提出することになります。
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不動産の相続時に発生する税金
相続税
不動産を相続する場合、相続税が発生する可能性があります。
もっとも、相続税には、基礎控除という制度があり、基礎控除額を相続財産が上回った場合にのみ、相続税が発生することとなります。
基礎控除は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)という計算式で導き出すことができます。
例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4800万円となりますので、当該不動産の価格が4800万円を下回っていれば、相続税は発生しないこととなります。
相続税が発生するにもかかわらず、相続税を申告しなかった場合は、無申告加算税、延滞税等の税金が追加で発生することになりますので、注意してください。
登録免許税
登録免許税とは、不動産の名義を相続人の名義に変更する相続登記を行う際に発生する税金のことです。
登録免許税の金額は、当該不動産の固定資産税評価額×0.4%という計算式で導き出すことができます。
例えば、不動産の固定資産税評価額が1000万円であれば、登録免許税は、1000万円×0.004=4万円となります。
相続したくない不動産はどうすればいい?
相続したくない不動産がある場合は、他の相続人が取得を希望していないか確認しましょう。
取得を希望する相続人がいる場合は、その相続人に不動産を取得させ、代償金を貰うという代償分割で対応することが可能です。
また、他の相続人が取得を希望しない場合は、不動産を売却して代金を分配する換価分割で対応することも可能です。
さらに、不動産以外の相続財産についても相続しなくてよいのであれば、相続放棄という手続を行うことで対応することも可能です。
加えて、近年、新たに相続土地国庫帰属制度というものが導入されましたので、かかる制度を用いて不動産を国庫に帰属させることで対応することも可能です。
不動産を相続したくないという方の場合でも、様々な方法で対処することができます。
ご自身にとって一番良い方法はどれか分からないという方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
不動産の相続に関するQ&A
父が亡くなったのですが、不動産の名義人が祖父になっていました。この場合、私たちは相続できないのでしょうか?
結論から申し上げると、相続することは可能です。
ただし、正確には、祖父→父→相談者という経緯で不動産を相続することになりますので、相談者が相続登記を行うためには、まず祖父の遺産分割協議を行い、当該不動産を父が取得することとした上で、父の遺産分割協議を行い、当該不動産を相談者が取得することとする必要があります。
不動産の相続は弁護士へ依頼するのがおすすめ
いかがだったでしょうか。
これまで解説してきたとおり、不動産の相続は、相続人間でトラブルとなる可能性が高い分野ですので、不動産の相続に関してどうすればよいか分からないという方は、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。
また、すでに相続人間でトラブルになってしまったという方もいらっしゃると思います。
トラブルになってしまうと、当事者間ではなかなか折り合いがつかず、時間だけが経過してしまうというケースも多々見受けられるところです。
弊所には、相続案件を多数こなしてきた弁護士が在籍しておりますので、相続手続を円滑に進めるためにも、不動産の相続で困っている方は、ぜひ一度、弊所へご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)