監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
人が亡くなってしまった場合、相続が発生します。相続が発生した場合、誰がどのくらいの被相続人の有していた遺産を受け取るのかということを話し合うことになります。当事者同士で話し合う遺産分割協議のほか、家庭裁判所で行う調停や審判が存在しています。
今回は、遺産分割審判についてご説明いたします。
目次
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、法定相続人らが話し合って遺産の分け方を決めるのではなく、家庭裁判所が客観的に遺産分割方法を決定する手続となります。遺産分割協議・遺産分割調停を行っても遺産の分け方を決めることができない場合に遺産分割審判が行われるため、遺産分割審判は、遺産の分け方を決める最終手段ということとなります。
遺産分割調停との違い
分割方法 | 調停委員の関与 | 当事者全員が同席するのか | |
---|---|---|---|
遺産分割審判 | 裁判所による判断 | なし | 一方当事者の参加で足りる |
遺産分割調停 | 当事者間の話し合い | あり | 全員の出席が必要 |
遺産分割調停は、遺産の分割方法について協議する手続であるため、遺産の分割方法などに制限がなく、当事者が納得すれば、その納得した分割方法で分割されることになります。もっとも、そのためには、全員が出席しなければなりません。
他方、遺産分割審判は、遺産分割調停で遺産の分割方法が決まらなかった場合に行われますが、裁判所が客観的に分割方法を決めることになります。遺産分割審判は、全員の出席は必要ではなく、一方当事者の参加でたります。
遺産分割審判の効果
遺産分割審判によって裁判所が下した判断は、いわゆる民事訴訟等における判決と同様の効力を有しています。遺産分割審判の効果には、以下のようなものがあります。
強制執行を行うことができる
遺産分割審判によって下された判断については、審判が確定するとその内容に従う義務があります。その審判の内容に従わない当事者に対しては、その審判に基づいて、強制執行を行うことができます。強制執行とは、国の権力に基づいて強制的に債権の回収を実現することができます。
不動産の名義変更などができる
裁判所が下した審判によって、被相続人名義であった不動産の名義変更や、被相続人名義の預金の解約をすることができます。その手続に必要な資料については、関係機関に確認しておくとよいでしょう。
遺産分割審判の流れ
遺産分割については、調停前置主義という考え方が採用されており、原則として、遺産分割審判における話し合いをする前に、遺産分割調停を行わなければなりません。
先に行った遺産分割調停が不成立になった場合、遺産分割審判を申し立てることなく、自動的に遺産分割審判に移行することになります。したがって、遺産分割審判を申し立てる必要はありません。
遺産分割審判の1回目期日が決まる
遺産分割調停が不成立になると、遺産分割審判に移行することになります。遺産分割審判に移行すると、遺産分割審判の第1回期日が設定されます。その際、裁判官から、第1回期日までに補充する主張や証拠を提出するように指示されることもあります。その場合には、第1回期日までに、ご自身の主張及びその主張においての証拠を提出することになります。
期日当日
第1回期日については、裁判官と当事者が1つの部屋に集まり、第1回期日までに提出された書面や証拠の確認がされます。基本的に、遺産分割調停のような話し合いがされることはありませんが、裁判官から和解案を提示される可能性があります。
審判が終結するまでの期間に定めはありませんが、裁判官が判断することができると判断した場合には、審判終結日が設定されることとなります。早ければ、第1回期日で審判終結日が設定されることもありますし、長ければ、さらなる期日が設定されることになります。
審判が下される
遺産分割審判において、審判が下される場合には、民事裁判などのように、公開の法廷で判決が読まれることはなく、裁判所から審判書が郵送されることになります。審判書を受け取った場合には、審判書の内容をよく読みましょう。なお、審判書を受け取った際から、即時抗告の期間が進行することとなりますので、受け取る際には、そのことも念頭に入れましょう。
審判に不服がある場合
審判書に記載されている内容に不服がある場合には、管轄の高等裁判所に対し、即時抗告をすることができます。即時抗告は、審判書を受け取った翌日から起算して2週間以内に、即時抗告状を原裁判所に提出しなければなりません。
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遺産分割審判を有利に進めるためのポイント
遺産分割審判を有利に進めるためのポイントは、①適切な主張と証拠の提出、②弁護士への依頼といえます。
遺産分割審判は、裁判所を説得するためには、適切な主張を行い、その主張を支える証拠の提出が必要となります。そして、弁護士に依頼することで、適切な争点を抽出することができ、それに対して、適切な主張、適切な証拠の提出をすることができます。
遺産分割審判を欠席した場合のリスク
遺産分割審判の審問期日を欠席してしまうと、ご自身の言い分を主張する機会がなくなってしまい、そのまま審判が進んでしまうこととなります。遺産分割調停において主張していた事柄は、当然考慮されるわけではないため、遺産分割審判において主張しなければなりません。
欠席したい場合の対処法
遺産分割審判の期日に出席することができない場合、ひとまず家庭裁判所の担当書記官に連絡し、期日に出席ができないこと、出席ができない理由を伝え、期日の変更を申し出てみましょう。また、家庭裁判所に出席することはできないものの、電話による参加ができる可能性もありますので、そのことも伝えてみましょう。
遺産分割審判で解決した事例・裁判例
遺産である建物を特定するよう、裁判官から釈明をされたにもかかわらず、費用負担ができないことを理由として、当事者が釈明に応じなかったところ、申立を不適法として却下した事案(熊本家庭裁判所平成10年3月11日)をご紹介いたします。
この事案において、裁判所は、「遺産分割事件は、相続財産の分配という私益の優越する手続であい、司法的関与の補充性が要請される性質を有するところ、特に遺産の特定については家事審判規則104条の趣旨から当事者主義的審理に親しむ事項であり、遺産分割事件の当事者は、当事者件の実質的保障を受けて主体としての地位を認められる反面として、手続協力義務ないし事案解明義務を負う」と述べ、当事者に対し、建物の特定をするよう釈明したにもかかわらず、その釈明に応じないことは、本件申立てを維持する意思のないことを表明したものであると解し、申立人の事案解明義務違反として、本件申立は不適法として却下しました。
審判期日等において、裁判所から明らかにしてほしい事項と伝えられた場合には、できる限り主張・立証しなければならず、主張・立証しない場合には、申立てが不適法として却下される可能性があるということが本件裁判例からいうことができます。
遺産分割審判を検討されている場合は弁護士にご相談ください
遺産分割審判は、遺産分割協議や遺産分割調停とは異なって、話し合いではなく、裁判官が客観的に判断することになります。
裁判官は、適切な法律を適切な解釈により、審判を下すため、当事者も適切な主張・立証を行わなければなりません。そのため、当該事件では、何が問題で、何を主張・立証しなければならないかという点を分析する必要があります。
弁護士に依頼することで、適切な争点を抽出することができ、それに対して、適切な主張、適切な証拠の提出をすることができます。
弊所所属の弁護士であれば、遺産分割事件を多数経験しているため、少しでもご依頼様のお力になれると存じます。
まずはお気軽にお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)