
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
配偶者からモラハラを受けたことを理由に離婚を考えているケースにおいては、モラハラで離婚する場合に慰謝料は請求できるのか、慰謝料請求するにはどうしたら良いか、慰謝料相場はどれくらいかという点を気にされている方が多くいます。
そこで、今回は、モラハラで離婚する場合の慰謝料請求の可否、慰謝料相場、慰謝料請求の方法等についてご説明します。
目次
モラハラを理由に離婚したら慰謝料を請求できる?
モラハラは相手に精神的苦痛を与える不法行為であることから、モラハラ行為の存在を証明できれば慰謝料が認められる可能性があります。
ただし、夫婦喧嘩の範疇に留まるような言動ではなく、モラハラ行為の態様や手段が、社会通念に照らして許容される範囲を超えていることの証明まで必要になります。
慰謝料請求が認められるモラハラ行為とは
慰謝料請求が認められるモラハラ行為の具体例としては、以下の言動が挙げられます。
- 人格否定
- 暴言や侮辱
- 些細なミスを責め立てる
- 束縛や行動制限・行動の監視をする
- 家事や育児の全否定する
- 常に不機嫌な態度をとり、威圧するなど
上記のような言動の態様や手段が、社会通念に照らして許容される範囲を超えていることを証明できた場合には、モラハラ(不法行為)による慰謝料請求が認められる可能性があります。
モラハラの慰謝料請求が難しいとされる理由
しかし、一般的にモラハラによる慰謝料請求は難しいとされています。
その理由は、モラハラは、暴力を伴うDV等と異なり、被害が目に見えるものではないため、証拠を集めることが難しいことや、証拠があったとしても、その証拠から単なる夫婦喧嘩や不適切な言動を超えて、相手方の言動の態様や手段が、社会通念に照らして許容される範囲を超えている(違法性)を立証することが難しい点が挙げられます。
モラハラの証拠の集め方
モラハラの証拠の集め方としては、以下のようなものが考えられます。
- 録音・録画
日常的なモラハラを録音・録画したデータは、有力な証拠になると言えます。
相手方から一回限りの夫婦喧嘩の時のものといった反論を防ぐためにできる限り複数回録音・録画を取って証拠化しておくことをお勧めします。 - LINE等のSNS、メールでのやり取り
相手との日常のLINE等のSNSでのやり取りにおいて、モラハラと思われる内容が含まれる場合には、同内容のメッセージをできる限り多く保存しておくことをお勧めします。 - 精神科や心療内科等の通院歴や診断書
相手方のモラハラが原因で心療内科に通院されていて、精神疾患が発症しているような場合には、診断書やカルテ等も有力な証拠になります。 - 警察や公的な機関への相談履歴
警察や、配偶者暴力相談支援センターなどの公的機関へ相談履歴も有力な証拠となる可能性があります。 - 日記
手帳や携帯につけている日記等に相手方から受けた言動を残しておくことも有力な証拠となる可能性があります。
モラハラで離婚した場合の慰謝料相場
モラハラによる慰謝料の相場は、50万円~300万円程度です。
ただし、モラハラの内容や頻度、被害の程度、婚姻期間、子どもの有無などによって金額は異なります。
モラハラ慰謝料が高額になる要素とは?
モラハラ慰謝料が高額になる要素は、モラハラの内容が極めて悪質であり、その回数が多く、期間も長い場合において、実際にうつ病などの精神疾患を発症しているケースの高額になる傾向にあります。
モラハラ離婚で慰謝料を請求する流れ
モラハラ離婚で慰謝料を請求する際の一般的な流れを解説します。
①まずは別居を検討する
まずは、モラハラ被害を受けないようにすることが一番大切であり、まずはその環境から脱却することが重要です。
特に、モラハラを受けうつ病や適応障害等の精神疾患を発症しているケースにおいては、正常な判断ができなくなってしまっていることもありますので、別居することによって、相手方から心理的な圧力を受ける環境に脱却することをお勧めします。
別居を考えている方の中には、相手方より収入が少なく、経済的な不安を抱えている方が多くいますが、相手方に婚姻費用を請求することができますので、弁護士にご相談ください。
②話し合いで請求する
モラハラを理由に離婚したいこと、慰謝料や財産分与等の離婚条件を当事者間で話し合うことが考えられます。
もっとも、当事者同士の話し合いでは、相手方が任意に慰謝料の支払いなどに応じることは少なく、特にモラハラの被害を受けている方にとって、そもそものパワーバランスが相手方の方が上であることが多く、その相手と直接話をするという精神的負担はとても大きいものです。
そのため、離婚調停手続の利用や弁護士への依頼を検討されることを強くお勧めします。
③内容証明郵便で請求する
当事者間の話し合いが困難な場合には、内容証明郵便で請求することが考えられます。
内容証明郵便とは、郵便局が差出人や宛先、内容、差出日を証明する郵便です。
一般書留郵便物の内容を証明するサービスで、法律や契約に基づく通知や請求書などを送付する際に利用されます。
もっとも、当事者間の協議と同様、モラハラを行っていた相手方が任意に慰謝料を支払うことは殆どないでしょうし、内容証明郵便送付後に相手方と直接話をしなければならないという点は変わりがないため精神的負担はとても大きいものです。
そのため、離婚調停手続の利用や弁護士への依頼を検討されることを強くお勧めします。
④離婚調停で請求する
離婚調停とは、家庭裁判所で調停委員(男性1名、女性1名)に間に入ってもらって夫婦間の話し合いを行い、離婚や離婚条件について合意を目指す手続きです。
調停では、夫婦が直接話をするのではなく、別々の部屋で調停委員と話をするかたちで話し合いを進めることができますので、モラハラをする相手と直接話をしなくても大丈夫です。
しかし、離婚調停では、調停委員に対して、具体的なモラハラ行為の内容やどのくらい精神的苦痛を被ったかを詳細に分かりやすく説明する必要があります。
その際、やったやってないの話にならないように、上記2.1【モラハラの証拠の集め方】に記載した証拠を提出することが重要です。
調停委員にモラハラ被害の実態を証拠で把握してもらえれば、相手に慰謝料の支払いを勧めて説得してくれる可能性が高まります。
⑤離婚裁判で請求する
離婚調停は、あくまで合意で成り立つ手続ですので、調停でも折り合いがつかなければ、離婚調停は不成立となります。
調停で話がつかなかった場合には、離婚裁判で話を付けることになります。
裁判では、当事者双方の主張を聞いて、証拠などを精査した上で最終的に裁判官が離婚の可否や慰謝料をはじめとする離婚条件について判断を下します。
裁判では、慰謝料を請求する側に主張立証責任がありますので、モラハラ行為を裏付ける証拠を可能な限り提出して、相手方のモラハラ行為を説明する必要があります。
そして、相手方のモラハラ行為を立証できれば、その内容や頻度、被害の程度、婚姻期間、子どもの有無などによって金額は異なりますが、離婚慰謝料が認められることになります。
モラハラの慰謝料請求の時効はいつまで?
慰謝料の請求は、被害者が損害および加害者を知ってから3年という時効の制限があります。
したがって、モラハラ行為が終わった時点から起算して3年以内は慰謝料を請求することができます。
なお、夫婦間については、婚姻の解消の時から6か月間は時効は完成しないとされています(民法159条)。
したがって、モラハラが原因の離婚で慰謝料を請求する場合は、離婚成立日の翌日から3年以内が時効となります。
モラハラの慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
特にモラハラの被害を受けている方にとって、そもそものパワーバランスが相手方の方が上であることが多く、その相手と直接話をするという精神的負担はとても大きいものになります。
また、モラハラは客観的な証拠の残りにくいものであり、その証明も困難です。
弁護士に依頼していただければ、法的に慰謝料請求をできるように証拠を精査し、相手方との交渉も代わって行います。
よくある質問
姑からのモラハラを理由に、離婚や慰謝料を請求することは可能ですか?
姑からのモラハラを理由とする離婚や慰謝料を請求することは可能ですが、裁判所が夫婦間での話し合いや離婚調停で合意することができれば可能ですが、裁判所が裁判上の離婚事由(法定離婚事由)に該当すると判断して、離婚や慰謝料を認めることは難しいでしょう。
姑からのモラハラは、いくら相手の親であっても、基本的には、姑に対して不法行為に基づく慰謝料が請求できるかの問題にあります。
ただし、姑からのモラハラを夫が知って放置していた、夫自身も姑のモラハラに加わる言動をしていた場合等には、法定離婚事由のひとつである「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると判断されて離婚や慰謝料が認められる可能性はあります。
なお、離婚による慰謝料請求については、夫婦の問題であるため配偶者に対して行うもので姑に対して慰謝料請求はできません。
ただし、姑のモラハラ行為が不法行為と評価できる場合には、姑に対して不法行為に基づく慰謝料請求できる場合もあります。
旦那が子供にもモラハラをしていた場合、慰謝料の増額は期待できますか?
子供がモラハラを受けて精神的苦痛を被った場合、子供も夫に対して慰謝料を請求できます。
ただし、子供が未成年であれば、法定代理人として親であるあなたが代わりに慰謝料を請求することができます。
したがって、子供の法定代理人となって慰謝料請求するのであれば、ご自身と子供の慰謝料を一緒に請求する事になりますので、その意味で、慰謝料を通常より増額できる可能性があります。
妻からモラハラを受けていたことを理由に、養育費の支払いを減額してもらえますか?
養育費は、子どもを養育するための費用で、子どもの権利ですので、 モラハラに対する慰謝料の支払いを理由に養育費の支払いの減額(相殺)は認められません。
ただし、当事者間の話し合いや調停手続で合意することができれば、事実上、養育費の支払いを減額することは可能です。
モラハラで慰謝料請求するなら、離婚問題に強い弁護士に依頼することがおすすめです。
モラハラの被害を受けている方にとって、そもそもその相手と直接話をするという精神的負担はとても大きいものになります。
また、日常的なモラハラを受けている方は、相手方に対する恐怖心から正常な判断をできないおそれもあり、極めて不利な条件でも離婚してしまっているケースも多く見受けられます。
モラハラにより離婚を考えているケースにおいては、モラハラの慰謝料の問題だけではなく、その他の条件(財産分与、養育費等)も協議する必要もあることが多く、モラハラを行うような相手方とまともに当事者間で協議できることが少ないため、適正な条件で離婚を成立させるために離婚問題に強い弁護士への依頼することを強くお勧めします。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)