監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
遺言という言葉を聞いたことがある方は、大勢いらっしゃると思います。
中には、「遺言は公正証書にしといた方がいいよ!」という話を耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、公正証書遺言を作成する方法やメリット等について解説していきます。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言書を公正証書によって作成したものを指します。
公正証書とは、公証役場という場所で、証人、本人、公証人の立ち合いのもと、公証人が作成する書面のことをいいます。
公正証書遺言を作成する際には、遺言者、公証人、2人以上の証人が必要となります。
遺言書といえば、遺言者自身が自分で作成するものというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、自分で遺言を作成したものは自筆証書遺言といわれるもので、公正証書遺言とは異なるものです。
公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成し、遺言者が署名捺印することで完成します。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言の方がめんどくさそう、自筆証書遺言の方が自分だけで作成できるし簡単そう、という感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、公正証書遺言には、以下のようなメリットがありますので、ご紹介します。
紛失、偽造、変造のおそれがない
上記のとおり、公正証書遺言は、公証人が遺言書の内容を作成するだけでなく、公証人が公的書類(免許証等)に基づいて遺言者の本人確認を行います。
そのため、本人以外の者(例えば被相続人の同居家族)が作成するなどの偽造のおそれがないというメリットがあります。
また、公正証書遺言は、公証役場という施設で保管されますので、紛失するリスクや、遺言書作成後に本人以外の者に書き換えられるリスクを回避することができます。
遺言書開封時の検認手続きが不要
自筆証書遺言の場合、遺言書を開封する際に、家庭裁判所での検認手続を行う必要があります。
検認手続とは、相続人に対して遺言が存在していたこと等を知らせ、遺言書の内容等を明らかにすることで、のちの遺言書の偽造や変造を防止することを目的とする手続です。
他方、公正証書遺言の場合は、上記のとおり、証人の立ち会いのもと、公証人が作成するものですので、そもそも偽造・変造のリスクがありません。
そのため、公正証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続を行わなくてよいというメリットがあります。
自筆できない人でも作成できる
自筆証書遺言の場合は、遺言を作成したい本人が遺言の内容を自書しなければなりません。
他方で、公正証書遺言の場合は、上記のとおり、公証人が遺言書の内容を作成しますので、文字が上手に書けない等の事情があって遺言書を自書できない方でも、遺言を有効に作成することができるというメリットがあります。
公正証書遺言のデメリット
作成に時間や費用がかかる
公正証書遺言を作成するためには、遺言者本人の意思を公証人が聞き取った上で遺言書の内容を作成しなければならず、かつ、公証役場との間で日程を調整したうえで作成する必要がありますので、公正証書遺言の完成までに時間がかかるというデメリットがあります。
また、公正証書遺言の作成をするには、公証役場に作成費用を納めなければならず、費用がかかってしまうというデメリットがあります。
なお、費用の金額については、遺言の目的とする財産の金額によって変わるため、目的とされる金額が高い場合は費用も高くなります。
2名以上の証人が必要となる
公正証書遺言を作成する際には、証人が2人以上立ち会う必要があります。
証人は、基本的には誰でもなれますが、2人以上用意しなければならないという手間がかかるというデメリットがあります。
なお、以下の3つについては、証人としては不適切とされています。
- 未成年者(適切な判断能力を有しないため)
- 推定相続人、受遺者及びそれらの配偶者と直系血族(利害関係を有するため)
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人(公正証書遺言の公正性を担保するため)
公正証書遺言を作成する流れ
公正証書遺言のメリットやデメリットを踏まえて、公正証書遺言を作成したいと考えた方もいらっしゃると思います。
以下では、公正証書遺言を作成する際の流れについてご説明します。
遺言書に書きたい内容のメモを作成する
公正証書遺言は、上記のとおり、公証人が遺言書の内容を作成しますので、遺言者本人の意思を公証人に伝える必要があります。
そこで、遺言書に記載したい内容を遺言者本人でまとめてメモにしておきましょう。
具体例としては、「○○の不動産はAが取得する」、「○○の預貯金はBが取得する」「遺言執行者はBとする」等が挙げられます。
必要書類を集める
遺言書に書きたい内容のメモを作成したら、その内容に応じて必要な書類を用意しましょう。
よくある内容とその必要書類については以下のとおりです。
なお、必要書類はこれに限られるものではないので、公証人に事前に確認しておく方が良いでしょう。
内容 | 必要書類 |
---|---|
遺言者本人を証明するもの | ①印鑑登録証明書と実印 ②運転免許証と認印 ③マイナンバーカードと認印 ④住民基本台帳カード(写真付)と認印 ⑤パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印 のいずれか |
相続人との続柄が分かるもの | 戸籍謄本 |
不動産がある場合 | 固定資産税納税通知書又は固定資産評価証明書 登記簿謄本 |
預貯金がある場合 | 通帳又はその写し |
証人の確認資料 | 免許証の写しなど |
免許証の写しなど
必要な書類が集まったら、公正証書遺言作成に必要な2人以上の証人を探しましょう。
もっとも、以下に記載する方は、証人になれませんのでご注意ください。
証人になれない人
証人になれない人は、以下のとおりです。
-
未成年者
遺言の内容を理解するだけの判断能力がないと考えられるため。 -
推定相続人等
遺言について利害関係を有するため。 -
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
公証証書遺言の公正性を確保するため。
証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する
証人が見つかったら、一緒に公証役場に行って公正証書遺言を作成しましょう。
遺言書を作成する公証役場はどこ?
公証役場であれば、ご自宅の最寄りでも旅行先でも公正証書遺言を作成することができます。
もっとも、遺言を作成される方は、高齢の可能性が高く、公証役場へ行くことの負担も大きいと考えられますので、可能な限りご自宅の最寄りの公証役場で作成することをおすすめします。
公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法
言語機能や聴覚に障害がある場合
公正証書遺言の作成には、遺言者が希望する遺言の内容を公証人に口述し、公証人が遺言の内容を遺言者に読み聞かせ、内容を確認する必要があります。
そこで、遺言者本人が言語機能や聴覚に障害があり、上記のような手続を行うことが難しい場合には、以下の対応を行うことが可能です。
-
言語機能に障害がある場合
通訳人が手話又は筆談で遺言の内容を公証人に伝える -
聴覚に障害がある場合
通訳人が手話で通訳して遺言の内容を遺言者本人に伝える
署名できない場合
遺言者本人が病気や高齢によって自分で署名できない場合は、公証人がその旨遺言書に付記することで、遺言者本人の署名に代えることが可能です。
公証役場に行けない場合
遺言者が病気で入院中である、怪我で動けない等の理由で、公正証書遺言を作成したくても公証役場に行けないという方もいらっしゃると思います。
このような場合には、公証人が遺言者の自宅や病院を訪問して公正証書遺言を作成することができます。
もっとも、公証人が出張する場合は、その分の日当や交通費が必要となるほか、公正証書作成の手数料も加算されますので、ご注意ください。
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公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット
遺言内容の相談ができる
1つ目のメリットは、遺言内容の相談ができるという点です。
遺言書の作成にあたっては、その内容について法的な問題がないかどうかを確認する必要があります。
法的に問題があると、相続人間でトラブルに発展してしまったり、遺言者の意思が適切に反映されずに遺産分割がされてしまう等のリスクがあります。
公証人において、遺言書のチェックは行われますが、基本的には方式のミスがないかという観点から行われるものであって、遺言者の意思を適切に反映するためにはどのような記載にすべきといったチェックは行われません。
遺言者の意思を適切に反映したいという方は、弁護士に依頼することをおすすめします。
書類準備などの手間が省ける
2つ目のメリットは、必要書類の準備などの手間が省けるという点です。
上記のとおり、公正証書遺言を作成する際には、さまざまな必要書類が必要となりますが、戸籍謄本等の必要書類については、弁護士でも取得することができますので、遺言者の手間が省けます。
遺言執行者として選任できる
3つ目のメリットは、弁護士を遺言執行者として選任できるという点です。
遺言書を作成する際には、遺言の内容を実現するためにも、遺言執行者を選任した方が良いです。
遺言執行者とは、遺言者が作成した遺言書に記載されている内容での相続が実現できるように、遺言者が亡くなった後、遺言者の代わりに相続手続を進める人のことをいいます。
弁護士に依頼していれば、遺言書の内容を把握している弁護士を遺言執行者として選任することができますので、遺言書の内容をスムーズに実現することができるでしょう。
任意後見契約を結ぶことができる
4つ目のメリットは、弁護士と任意後見契約を締結することができるという点です。 任意後見契約とは、被後見人が、判断能力が十分なうちに後見人になってほしい人を事前に選び、被後見人が後見を必要とする状態となった場合に、事前に選任した後見人に財産管理等を行ってもらうという契約で、公正証書によって締結することが必要です。 遺言書を作成される方は、高齢であることが多く、将来的に判断能力が不十分となってしまう可能性がありますので、公正証書遺言と併せて任意後見契約を締結することもおすすめです。公正証書遺言に関するQ&A
公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?
上記のとおり、公正証書遺言を作成する際に、公証人が方式(書式)の不備についてチェックしますので、方式不備によって遺言書が無効となることは考えにくいです。
もっとも、公証人は、内容の有効性についてまでチェックをするわけではありませんので、公正証書遺言にすれば必ず有効になるとは限りません。
公正証書遺言を作成する場合でも、弁護士に相談することをおすすめします。
一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?
公正証書遺言を作成した場合でも、内容の変更は可能です。
内容の異なる公正証書遺言を作成した場合、基本的には最終的に作成された公正証書遺言が優先されます。
なお、公正証書遺言の内容を変更するためには、最初に公正証書遺言を作成したときと同様、必要書類、手数料、証人等を準備しなければなりません。
公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?
公正証書遺言を作成した場合でも、遺言者が亡くなった後、公証役場から公正証書遺言が作成されていること等を相続人に通知されることはありません。
そのため、せっかく公正証書遺言を作成しても、その存在を知られることなく、相続人間で遺産分割がされてしまうこともあります。
公正証書遺言を作成された方は、事前に、公正証書遺言を作成したことを信用できる方に報告しておいた方がよいでしょう。
遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?
遺言者が亡くなった後、相続人から公正証書遺言を見せてもらえない場合は、ご自身で公証役場に開示請求を行うことができます。
どこの公証役場で作成したか分からない場合は、最寄りの公証役場で遺言検索の申出を行うことで、どこで作成したか調べることができます。
開示請求をする際には、遺言者が死亡した事実を証明する除籍謄本等、遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本等が必要となります。
公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください
以上のとおり、本記事では、公正証書遺言にはさまざまなメリットやデメリットが存在すること、公正証書遺言を作成するまでの流れ等について解説しました。
自筆証書遺言ではなく公正証書遺言で作成した方が、メリットが大きいと思われた方も多いのではないでしょうか。
もっとも、公証人のチェックはあくまで方式の不備がないかどうかを確認するものであり、内容面の確認はしてもらえませんので、自分自身の意向を適切に遺言書に反映させたいとお考えの方は、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGの姫路法律事務所の弁護士は、相続問題、遺言書作成に多数携わってきた実績等がありますので、公正証書遺言を作成しようと考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)