遺言書が無効となるケース

相続問題

遺言書が無効となるケース

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

遺言書が存在することにより、相続人が受け取ることのできる遺産に多大なる影響を及ぼす可能性があります。もっとも、遺言書については、民法上厳格な要件が規定されているため、要件を充足しない場合には、遺言書が無効となってしまいます。
ここでは、遺言書が無効になるケース等をご説明いたしますので、少しでも、皆様のお役に立つことができればと存じます。

遺言書に問題があり、無効になるケース

遺言書には、民法上厳格な要件が定められており、当該要件をみたしていない場合には、遺言書自体が無効となってしまう場合があります。
ここでは、自筆証書遺言が無効になる場合についてご説明いたします。

日付がない、または日付が特定できない形式で書かれている

自筆証書遺言の場合、遺言書が作成された日付を記載されていなければならず、遺言書に作成された日付がない場合には、遺言書が無効となってしまいます。 例えば、「〇年〇月」のみが記載され、「〇日」の記載がない場合や、「吉日」などと記載されていた場合には、日付が記載されていないと評価され、遺言書が無効となってしまいます。 他方、「〇年〇月末日」と記載されていた場合には、遺言書が有効となったケースがあります。

遺言者の署名・押印がない

民法970条1号には、自筆証書遺言に遺言者の署名押印がなければならないと定められているため、遺言者の署名・押印がなければ無効となってしまいます。もっとも、通称や芸名が記載されていた場合で、人物を特定することができる場合には、有効となるケースもあります。
また、押印については、実印でなくとも認印でも有効となります。

内容が不明確

何を誰に相続させるか等、遺言書の内容が不明確であり、当該内容を確定できない場合、遺言書が無効となってしまう可能性があります。
他方、遺言書の内容が不明確であった場合、最高裁判所(昭和58年3月18日集民138号277頁・判時1075号115頁等)は、「遺言書の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり」、「遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言書の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものである」と判断しました。そうすると、仮に、遺言書の内容が不明確であったとしても、無効とならない場合があります。

訂正の仕方を間違えている

すでに記載している遺言内容を変更・訂正したい場合には、適切な方法によって変更・訂正を行わなければならず、不適切な方法により変更・訂正を行った場合には、変更・訂正が認められない場合があります。
修正テープによる訂正や二重線による訂正を行った場合は、適切な訂正とはなりませんので、ご注意ください。

共同で書かれている

共同で遺言書が作成されているとは、例えば、甲さんが乙さんに〇という遺産を相続させ、丙さんが丁さんに△という遺産を相続させるということが記載されていることをいいます。
民法975条には、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定められており、共同で遺言書を作成することができません。

認知症などで、遺言能力がなかった

認知症になっている人が遺言書を作成したとしても、無効となる可能性があります。なぜなら、民法963条に、遺言書を作成する段階において、遺言能力を有していなければならず、認知症になっている場合、遺言能力がないと判断される可能性が高いからです。

誰かに書かされた可能性がある

遺言書が存在していたとしても、誰かに強迫されて書かされていたり、誰かに騙されて書かされていた場合、無効となる可能性があります。
遺言書の作成についても、民法の一般原則が適用されるため、錯誤(民法95条)や詐欺・強迫(民法96条)が適用されることになります。

証人不適格者が立ち会っていた

秘密証書遺言や公正証書遺言を作成するにあたり、証人の立会いが必要とされております。しかし、誰でも証人になれるわけではなく、民法974条において、遺言の証人又は立会人になることができない者が定められています。遺言の証人又は立会人になることができない者とは、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人のことをいいます。
これらの者が遺言の証人又は立会人になっていた場合には、遺言が無効になる可能性があります。

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遺言書の内容に不満があり、無効にしたい場合

遺言書の内容を確認したところ、内容に不満がある場合、どのような手段で遺言書について争うことができるでしょうか。例えば、内容に不満がある場合とは、遺言者が相続人4人いるにもかかわらず、1人のみに相続させる内容だった場合等です。遺言書が無効である主張が認められた場合、他の相続人は法定相続分を受け取ることができるようになります。
以下では、遺言書を無効にする手段についてご説明いたします。

遺言無効確認調停

遺言書が無効であることを主張したい場合、遺言無効確認調停を申し立てることが考えられます。遺言無効確認調停とは、家庭裁判所において、遺言書が無効であるかどうかを協議する手続です。
遺言書が無効であるかについては、調停前置主義という考え方を採用しているため、原則として、調停を経ることなく訴訟を提起することはできませんが、調停を経たとしても解決できないことが明らかな場合には、調停を経ることなく、訴訟を提起することができます。 遺言無効確認調停における話し合いで解決できる場合には、調停が成立することになりますが、解決できなかった場合には、調停が不成立として遺言無効確認調停が終了することになります。

遺言無効確認訴訟

遺言無効確認調停が不成立になる、若しくは、遺言無効確認調停を経たとしても不成立になることが明らかな場合には、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言書が無効であるかどうかについては、話し合いではなく、裁判官が提出された証拠等から無効であるかどうかについて判断することになります。

時効は無いけど申し立ては早いほうが良い

遺言書が無効であるかを確認するにあたり、民法は時効について規定していないため、いつでも遺言無効確認調停を申し立てたり、遺言無効確認訴訟を提起することができます。
もっとも、遺言書が作成されてから多くの時間が経過してしまうと、遺言書が無効である事情の証明が難しくなったり、証拠等が処分されたりする可能性があるため、できるだけ早い段階で遺言無効確認調停を申し立てたり、遺言無効確認訴訟を提起することを検討するべきです。

遺言書を勝手に開けると無効になるというのは本当?

結論から述べますと、遺言書を勝手に開封したとしても遺言書の効力が無効になることはございません。
もっとも、遺言書の保管者がいない場合で、相続人が遺言書を発見した場合には、家庭裁判所において遺言書の検認手続を経なければ、遺言書を開封することができません(民法1004条1項、3項)。家庭裁判所の検認手続を経ないで、遺言書を開封してしまった場合、5万円以下の過料に処されることになります(民法1005条)。
このように、検認手続を経ないで開封してしまった場合、過料に処せられることはありますが、遺言書の効力には影響ありません。

遺言書が無効になった裁判例

遺言者が作成した平成24年9月5日の自筆証書遺言及び同年10月18日の公正証書遺言には、遺言者の遺産全部を被告が相続する旨が記載されていた。原告らは、遺言書が作成された時点では、遺言者に遺言能力がなく、いずれも遺言者の医師に基づかずに作成されたものであるとして、遺言無効確認訴訟を提起した事案(東京地裁平成30年1月30日判決)をご紹介いたします。
裁判所は、平成25年7月1日に遺言者が成年後見開始の審判がされており、遅くともその時点では、重度のアルツハイマー型認知症に罹患しており、事故の財産の管理・処分をする能力を有していなかったと判断した。次に、遺言者のアルツハイマー型認知症がいつの時点から発症し、本件遺言書作成時点において、遺言者の判断能力をどの程度低下させていたのかについて、遺言者が平成24年6月頃から夜間徘徊を繰り返していたことや遺言者の施設での言動等から判断して、平成25年5月13日時点でアルツハイマー型認知症は発症しており、本件遺言の作成段階でのアルツハイマー型認知症は相当程度進行していたとし、本件遺言は無効であると結論付けました。

遺言書が無効かどうか、不安な方は弁護士にご相談ください

遺言者が作成した遺言書が有効か無効かによって、相続人の受け取ることができる遺産は大きく異なることがあります。しかし、当該遺言書が有効か無効かの判断は、容易ではありません。
遺言書に関する知識や経験を有している弁護士に、依頼した上で、遺言書の有効性を判断してもらうといいでしょう。
弊所では、これまで数多くの遺言書に関する事件を取り扱ってきました。
弊所の弁護士であれば、少しでもご依頼様のお力になることができると存じます。
お気軽にお問い合わせください。

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。