
監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
近年、相続をめぐる紛争を未然に防ぐ手段として、遺言の作成が重要視されています。
その中でも、自筆証書遺言は、比較的手軽に作成できる遺言として、広く利用されています。
もっとも、自筆証書遺言には、時間が経つことによって紛失するリスクや、遺言書によって不利益を受ける親族等によって破棄・偽造されるリスクが伴います。
これらの自筆証書遺言が持つ課題を解消するため、導入されたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。
本稿では、自筆証書遺言書保管制度の概要やメリット・デメリット、注意点について、実務上の観点から解説します。
目次
自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書保管制度とは、遺言者が自筆で作成した遺言書を、法務局において、原本のまま保管してもらうことができる制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律等参照)。
同法は、令和2年7月10日から導入された制度であり、遺言書の紛失・偽造等のリスクを軽減するとともに、相続手続の円滑化を図ることを目的としています。
保管期間はいつまで?
遺言書の保管期間について、遺言書の原本は、遺言者が死亡してから50年、遺言書に関するデータは、遺言者が死亡してから150年保管されます。
保管されている遺言書を生前に閲覧できるのは遺言者のみになりますので、相続人等の誰かに遺言書の内容を見られてトラブルになることはほとんどありません。
自筆証書遺言書保管制度のメリット
遺言書の形式をチェックしてもらえる
法務局では、自筆証書遺言書を保管する際、遺言書の様式が法令に適合しているかどうかを確認します。
この確認は、あくまで形式的なものであり、内容の有効性や遺言能力の有無まで踏み込むものではありませんが、書式不備による無効のリスクを軽減する効果があるとされています。
紛失や盗難、偽造を防げる
上記のとおり、自筆証書遺言書保管制度では、法務局が遺言書の原本を厳重に保管するため、家庭内での保管に比べて、紛失や第三者による改ざん・盗難といったトラブルを防ぎやすくなります。
遺言書を見つけてもらいやすくなる
遺言者が亡くなった後、相続人が遺言書の存在を知らなかったために、遺言者の意思に沿う内容が実現されなかったという事例がしばしば見られます。
この点について、自筆証書遺言書保管制度を利用していれば、法務局で保管された遺言書は、相続人等が申請することで閲覧や写しの取得が可能となるため、遺言の発見漏れのリスクを下げる効果が期待されます。
検認が不要
検認とは、相続人に遺言書が存在することを知らせる、遺言書の偽造等を防止する目的で家庭裁判所が行う手続のことをいいます。
通常、自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続が必要ですが、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、検認手続が不要となります。
これにより、相続開始後の手続が迅速に進められる可能性があります。
自筆証書遺言書保管制度のデメリット
本人が法務局に行く必要がある
この制度を利用するには、遺言者本人が直接法務局に出向いて申請手続を行う必要があり、代理人による申請や郵送による申請が認められていません。
そのため、遺言者本人が高齢や身体的事情、遠方に住んでいる場合など、本人の来庁が困難なケースでは、自筆証書遺言書保管制度の利用が制限される可能性があります。
遺言書の内容まではチェックしてもらえない
法務局では遺言書の形式面のみを確認するにとどまり、内容の適法性や有効性については判断されません。
そのため、内容に不備があった場合、保管されていたからといって、その遺言が確実に執行されるとは限らず、後日遺言書が無効と判断されたり、登記等の手続に使えなかったりするおそれがあります。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点
制度を利用するにあたっては、いくつかの注意点があります。
以下、主な注意点をご説明します。
定められた様式を守っている必要がある
遺言書は、法律で定められた要件を満たしている必要があります。
例えば、遺言書の全文を自筆で書き、署名押印を行う必要があり、様式不備があると無効となります。
法務局では、遺言書の様式のチェックは行いますが、細かな内容にまでは踏み込まないため、弁護士等の専門家の確認を受けておくことが望ましいでしょう。
手続きには予約が必須
遺言書の保管申請を行うには、事前にオンラインや電話ないし窓口で予約をすることが必要です。
予約なしでの受付は行っていないため、あらかじめ上記方法で予約を取り、日時を調整しておく必要があります。
遺言書や申請書は事前に作成しておく必要がある
法務局では、遺言書の作成そのものを代行してくれるわけではなく、申請時には遺言書及び所定の申請書を完成させて持参する必要があります。
記載内容に誤りがあったり、そもそも作成していなかった場合には、受付ができなかったり予約時間内に手続が終わらず再度来庁しなければならない可能性もあるため、事前に様式や記入方法を法務省のホームページ等で確認しておくことが重要です。
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自筆証書遺言書を法務局へ預ける手順・流れ
制度を利用する際のおおまかな手続の流れは以下のとおりです。
- ①保管を希望する遺言書を自筆で作成する。
- ②保管の申請をする法務局を決め、事前予約を行う。
- ③所定の申請書を作成する。
- ④遺言者本人が予約日時に法務局へ出向く。
- ⑤本人確認及び遺言者の形式を確認した後、遺言書の保管手続が完了。
- ⑥保管証が交付される
このように、複数の準備が必要となるため、手続を円滑に進めるには事前準備が肝要です。
遺言書の内容を変更したくなったら
保管された遺言書の内容を変更したい場合、既に保管された遺言書を撤回する旨の申し込みを行えば、遺言書の原本を返還してもらうことができます。
また、変更内容の一部修正は認められておらず、原則として新しい遺言書を作成し直す必要がありますので、ご注意ください。
保管された遺言書を相続人が見る方法
遺言者が亡くなった後、相続人等が遺言書の内容を確認するためには、「遺言書情報証明書」の交付請求を行う必要があります。
この請求は、相続人・受遺者・遺言執行者など一定の利害関係者に限られ、請求には遺言者の死亡の事実を証する戸籍等の書類が必要です。
なお、閲覧の方法には、以下の3つがあります。
- ①遺言書情報証明書の交付請求
- ②遺言書の画像等の閲覧
- ③遺言書の原本の閲覧
遺言書など相続でのご不明点は弁護士にご相談ください
自筆証書遺言書保管制度は、形式的な不備や手続の不徹底によって、せっかくの遺言が無効とされるおそれがあります。
遺言書の作成に不安がある場合や、相続人間での紛争を未然に防ぎたいとお考えの方は、早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
弁護士であれば、遺言内容の法的有効性や将来的な相続リスクについても総合的にアドバイスすることが可能です。
弁護士法人ALGには、相続の専門的知識を有する弁護士が多数在籍しておりますので、相続関係でお悩みの方は、ぜひ一度弊所へご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)