監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
妊娠中は、心身ともに大きな変化を迎える時期ですが、配偶者の不貞行為やDV等が原因で離婚を決意せざるを得ないケースも少なくありません。
妊娠中に離婚する場合、慰謝料は請求できるのか、養育費や親権はどうなるのかなど、多くの不安を抱える方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、妊娠中の離婚における慰謝料請求の可否や相場、親権・戸籍の取扱い等について、法的根拠を踏まえながら解説します。
目次
妊娠中の離婚で慰謝料を請求できるのか?
妊娠中に離婚したというだけでは、直ちに慰謝料が発生するわけではありません。
慰謝料とは、民法709条及び710条に基づく不法行為による精神的損害の賠償金です。
したがって、相手方に婚姻関係を破綻させた有責行為(不貞行為、DV、モラハラ等)が認められる場合に初めて請求が可能となります。
妊娠中であることは、精神的苦痛の程度を増大させる事情として考慮され、慰謝料額が増額される可能性があります。
慰謝料請求が認められるケース
具体的に慰謝料請求が認められ得る主なケースとしては、配偶者の不貞行為(浮気・不倫)、身体的暴力や精神的暴力(DV・モラハラ)、正当な理由のない悪意の遺棄(生活費を渡さない等)などが挙げられます。
妊娠中に離婚した場合の慰謝料相場はどれぐらい?
離婚慰謝料の一般的な相場は、100万円から300万円程度とされています。
もっとも、この金額はあくまで目安であり、婚姻期間の長さ、有責行為の態様・悪質性、子どもの有無など、個別の事情によって大きく変動します。
妊娠中の離婚の場合、妊娠という事情が精神的苦痛を増大させる要素として考慮されるため、通常よりも高額な慰謝料が認められる傾向にあります。
例えば、妊娠中に配偶者が不貞行為に及んでいた場合には、不貞行為の期間や態様に加え、妊娠中という心身ともに不安定な時期に精神的苦痛を受けたことが増額事由として斟酌されます。
なお、不貞行為が原因の場合には、配偶者のみならず不貞相手に対しても慰謝料を請求し得る点も押さえておきましょう。
中絶に至った場合の慰謝料は?
離婚に伴い中絶に至った場合でも、相手方に有責性があれば慰謝料を請求できます。
もっとも、夫婦双方の合意による性交渉で妊娠し、合意のうえ中絶した場合には、中絶のみを理由とする慰謝料請求は困難とされています。
これは、不法行為が成立せず、夫のみに責任を帰することができないためです。
ただし、同意なく性交渉を強いられた場合や、避妊すると偽って妊娠させた場合などは不法行為が成立し得るため、慰謝料請求が認められる可能性があります。
妊娠中の離婚で慰謝料以外に請求できるもの
養育費
養育費とは、子どもの監護・教育に必要な費用をいいます。
離婚後に子どもを引き取って育てる監護親は、非監護親に対して養育費を請求できます。
子どもが嫡出子であれば、元夫との間に法律上の父子関係が認められるため、当然に養育費の請求が可能です。
一方、非嫡出子の場合は、まず元夫による認知が必要となります。
養育費の金額は、家庭裁判所が公表する養育費算定表を参考に、父母双方の収入、子どもの年齢や人数等を考慮して決定されます。
財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を公平に分配する制度です。
妊娠中の離婚であっても、通常の離婚と同様に財産分与を請求することが可能です。
分与の割合は、原則として2分の1とされており、妊娠中であることを理由に特別に増額されるわけではありません。
財産分与は、あくまで婚姻中に形成された共有財産の清算であり、子どもの養育に要する費用は養育費として別途考慮される仕組みとなっています。
協議で合意できない場合は、家庭裁判所の調停・審判で決定されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
慰謝料以外に出産費用も請求することはできるのか?
婚姻中であれば、出産費用は婚姻費用の一部として、相手方に分担を求めることができます。婚姻費用とは、夫婦と未成熟子の生活に必要な費用をいい、その中には出産にかかる費用も含まれます。
しかし、離婚後においては、婚姻費用の分担義務は消滅するため、出産費用を元夫に請求することは原則として困難です。
そのため、出産費用に関する取り決めは、可能な限り、離婚成立前に合意しておくことが重要といえます。
なお、出産される際には、健康保険から支給される出産育児一時金等の公的支援も活用しましょう。
妊娠中の離婚で子供の親権と戸籍はどうなる?
親権はどちらが持つ?
妊娠中に離婚した場合、まだ子どもが出生していないため、離婚時に親権者を定めることはできません。
この場合、出生後の親権は、原則として母親が単独で行使することとされています。
もっとも、出生後に父母が協議のうえ、父親を親権者と定めることも法律上は可能です。
また、協議が調わない場合には、家庭裁判所に親権者変更の調停・審判を申し立てることもできます。
なお、離婚前に子どもが出生した場合は、離婚時に父母のいずれを親権者とするか定めなければなりません。
出産後に離婚した場合でも、家庭裁判所の実務では、乳幼児の監護は母親が適任とされる傾向が強く、約9割のケースで母親が親権者に指定されています。
子供の戸籍はどうなる?
嫡出子は、民法772条の嫡出推定により元夫の子と推定されるため、子どもは、原則として元夫の戸籍に入ることになります。
母親が旧姓に戻している場合、子どもと姓が異なる状態となるため、子の氏の変更許可の審判を家庭裁判所に申し立て、許可を得たうえで入籍届を提出することで、母親の戸籍に移すことができます。
一方、非嫡出子は、民法772条の嫡出推定が及ばないため、子どもは母親の戸籍に入ります。この場合、父親との法律上の親子関係は認知によって初めて発生します。
妊娠中の離婚でお困りなら弁護士に相談してみましょう
妊娠中の離婚は、通常の離婚に比べて考慮すべき事項が多岐にわたります。
慰謝料や養育費の算定、親権の帰属、戸籍の取扱い、出産費用の負担など、法的な論点が複雑に絡み合うため、ご自身のみで対応することには大きな負担が伴います。
特に妊娠中は心身ともに不安定になりやすい時期であり、相手方との直接交渉が精神的・身体的に困難な場合も少なくありません。
弁護士に相談・依頼することで、法的知見に基づく適切な助言を受けられるほか、相手方との交渉や裁判手続を代理人として遂行してもらうことが可能となります。
これにより、ご本人の負担を大幅に軽減しつつ、慰謝料や養育費等について適正な条件での解決を目指すことができるでしょう。
離婚後の生活設計も見据え、早い段階で専門家に相談されることをお勧めいたします。

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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
