| 強制わいせつ罪 | 6ヶ月以上10年以下の懲役(刑法176条) |
|---|---|
| 公然わいせつ罪 | 6ヶ月以下の懲役若しくは 30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条) |
強制わいせつ等致死傷罪
無期又は3年以上の懲役(刑法181条1項)
準強制わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法178条1項、176条)
監護者わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法179条1項、176条)
強制わいせつ罪とは他人に無理やり性的な行為を行うことにより成立する罪で、同じ性的な被害を与える行為でも、行為の内容によって迷惑防止条例違反(比較的軽度の痴漢など)や強制性交等罪とは区別されます。このページでは、強制わいせつ罪とはどのような罪か、強制わいせつ罪で逮捕された場合の対応などについて解説します。
強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪とは、13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした時、又は13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした時に成立する罪です(刑法176条)。男女ともに被害者となりえますし、同性の加害者・被害者間でも成立します。
また上記のように、13歳未満の被害者に対しては、暴行や脅迫がなくともわいせつな行為をすれば本罪が成立します。「わいせつ」の定義などについては、後で解説します。
強制わいせつ罪の種類
公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は公共の場などでわいせつな行為をすることで成立する罪で、そのような行為により世間一般の健全な性道徳・秩序を乱すことを防ぐことを趣旨としており、強制わいせつ罪のように個人がわいせつ行為の被害者となるものではない点で異なります(意に反してわいせつ行為を見せられるなど、被害者的立場になる人は存在します)。
準強制わいせつ
準強制わいせつ罪は、心神喪失や抗拒不能、つまり眠っていたり酒に酔っていたりして抵抗できない状態にある被害者に対してわいせつな行為をすることにより成立します。
強制わいせつ罪は暴行又は脅迫により被害者を抵抗困難な状態にしてわいせつ行為を行うものであるのに対し、準強制わいせつ罪は被害者が精神的な障害や泥酔、昏睡状態にあることに乗じて、あるいは被害者を眠らせたり酔わせたりして抵抗できない状態にした上でわいせつ行為を行うものであるという違いがあります。
強制わいせつ等致死傷罪
強制わいせつ等致死傷罪は、強制わいせつ罪にあたる行為や準強制わいせつ罪にあたる行為によって被害者に怪我をさせたり死亡させたりしてしまった場合に成立します。
被害者に対してわいせつ行為を行い、さらには傷害や死亡という結果まで引き起こすという悪質な行為を罰するため、法定刑は無期又は3年以上の懲役という、強制わいせつ罪などと比較して思いものになっています。わいせつ行為自体は未遂に終わっても、加害者の行為により傷害や死亡の結果が生じた場合は、本罪が成立します。
刑罰について
強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役(刑法176条)、公然わいせつ罪の法定刑は6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条)、準強制わいせつ罪の法定刑は強制わいせつ罪と同じく6月以上10年以下の懲役(刑法178条1項、176条)、強制わいせつ致死傷の法定刑は無期又は3年以上の懲役(刑法181条1項)と定められています。
時効について
強制わいせつ罪の時効は7年です。ここでいう時効とは公訴時効、すなわち刑事事件として起訴するにあたっての期限です。なお、強制わいせつ行為の被害者への損害賠償は民事の問題となりますが、その時効(損害賠償請求の時効)は、強制わいせつによる損害と加害者を知った時から3年か、事件から20年です。
わいせつの定義とは
強制わいせつ罪は性的自由を保護法益とするものであることから、同罪にいう「わいせつ」とは、被害者の性的羞恥心を害する行為を指すとされています。胸や陰部などに触れる行為だけでなく、相手の意に反するキスなども「わいせつ」行為に該当します。
一方、卑猥な言動やセクハラなどは、被害者の性的羞恥心を害するものではあっても、相手の身体に触れる。
強制わいせつとなる行動とは
強制わいせつにあたる行為とは、上記1.4のように「わいせつ」、つまり被害者の性的羞恥心を害する行為で、かつ、被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫を手段として「わいせつ」行為を行うことも要件となります。
具体的には、胸や陰部など性的な部位を触る行為、意に反するキスなどが挙げられます。ハグ(抱きつき)については、わいせつ行為ではなく暴行罪にあたるとした裁判例もありますが、具体的状況によっては性的な目的・意味合いが強いと判断され、強制わいせつ罪が成立する可能性もあると考えられます。
他の犯罪との違い
痴漢との違い
痴漢行為は、行為態様によって迷惑防止条例違反にあたる場合と強制わいせつ罪にあたる場合があります。服の上から胸や下半身を触るなどした場合は迷惑防止条例違反、下着の中に手を入れて陰部を触るなどした場合は強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
痴漢について詳しく見る強制性交等罪との違い
強制性交等罪は、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交を行った場合に成立する罪であり、強制わいせつ罪とは、被害者に対する行為が異なります。
強制性交等罪について詳しく見る暴行罪との違い
暴行罪は殴る蹴るなどの行為のほか、人を押したり絞めたりといった行為によっても成立します。人に無理やり抱き着く行為のように、強制わいせつ罪のように見える行為でも、性的な意味合いや意図がないとされれば、強制わいせつ罪ではなく暴行罪にあたると判断されることもあります。
暴行罪について詳しく見る法改正による強制わいせつ罪の変化
親告罪から非親告罪へ
親告罪とは、被害者が告訴しなければ起訴できない罪のことで、被害者からの被害申告と処罰を求める意思表示が無ければ、刑事事件として捜査されることはありません。
非親告罪は、被害申告等の有無にかかわらず刑事事件として捜査し、起訴されうる罪です。強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は、被害者のプライバシー等への配慮から親告罪とされていましたが、平成29年の法改正により、非親告罪となりました。
監護者わいせつ罪の追加
監護者わいせつ罪は、平成29年の法改正により新しく定められた罪です。18歳未満の者を監護する者(親や祖父母、親戚等)が、監護者としての影響力があることに乗じてわいせつ行為をすることで成立する罪です。
未成熟な18歳未満の者は監護者に経済的・精神的に依存せざるを得ない状況にあることから、監護者からのわいせつ行為に対してはっきりと拒否できない・表面上同意があったとしても真に有効な同意とはいえないという事態も生じえます。そこで、そのような立場にある監護者の行為を処罰するために定められたものです。
強制わいせつ罪による逮捕
現行犯逮捕
強制わいせつ罪による現行犯逮捕は、事件の現場の目撃者や通報により駆け付けた警察官により、事件の最中・直後に逮捕されるものです。
事件発生から多少の時間・場所の隔たりがあっても、犯人として追いかけられていたり、服などに事件の痕跡が残っていたりなど、その人が犯人であることを示す事情があれば、逮捕状なくして逮捕することができます(準現行犯逮捕)。
現行犯逮捕以外の逮捕
事件当日ではなく、捜査により後日、犯人として逮捕される場合、裁判所から発せられた逮捕状を持った警察官に逮捕されることとなります(通常逮捕)。
強制わいせつ罪で加害者と被害者の間に面識がない場合でも、被害者や目撃者の証言、現場の遺留物などから犯人の捜査がなされるほか、近年では防犯カメラの映像から犯人が特定されることも多いです。
同意の有無について
性的な行為の際に被害者の同意があったと思っていても、逮捕されてしまう場合があります。 中には、実際には合意のもとでの行為であったにもかかわらず、相手を陥れるために無理やりわいせつなことをされたと被害申告され、いわば冤罪で逮捕されてしまう例もあります。
しかし、強制わいせつ罪の逮捕事例では、被害者の明確な拒否がないという認識から合意の上での行為であると思い込み、わいせつな行為に出てしまったが、実際は被害者が恐怖のため拒絶できなかったに過ぎないという例も少なくありません。相手の陰部などに触れる行為自体が相手の反抗を困難にする暴行にあたると判断されることもあることから、相手の意思をはっきりと確かめないまま性的な行為を行ったところ実際は相手の同意があったとはいえない場合、暴行を用いて相手の意思に反してわいせつな行為を行ったということで、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
相手が18歳未満の場合
13歳未満の者に対しては、暴行・脅迫という手段を用いることなく、また性的な行為を行うことについてその者の同意があったとしても、強制わいせつ罪が成立します。
13歳以上の者に対しては、性的な行為について相手の同意があれば強制わいせつ罪にはあたりません。
しかし、18歳未満の者に対する性的な行為については、強制わいせつ罪にはあたらない場合でも、青少年保護育成条例中の淫行処罰規定(いわゆる淫行条例)への違反により逮捕され、処罰される可能性があります。また、監護者わいせつ罪の項で述べたように、18歳未満の者を監護する者がその監護者としての影響力に乗じてわいせつ行為を行った場合、同意の有無に関わらず同罪が成立します。
逮捕された際の対処
起訴されてしまったら
強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役です。初犯であれば執行猶予が付くことも多いので、被害者との示談など、減刑や執行猶予の取得に向けて量刑上有利な事情を裁判に向けて作っていくことが必要であり、そのためには弁護士の関与が不可欠です。
起訴について詳しく見る強制わいせつについてよくある質問
セクハラは強制わいせつとなりますか。
性的な話をする、恋愛関係について根掘り葉掘り聞く、しつこく交際を迫ったり食事に誘うなど、相手の身体への接触を伴わない言動によるセクハラが、強制わいせつに該当することはあるでしょうか。 言動によるセクハラは、身体への接触などを伴わない以上、強制わいせつ罪の要件である「わいせつな行為をした」にあてはまらないため、強制わいせつ罪は成立しません。
ただし、しつこく交際を迫ったり食事に誘うなどの相手に何かを強いる行為は強要罪にあたる可能性がありますし、その他のセクハラも民事での損害賠償や職場内での問題に発展する可能性があります。
酒の席でついキスをしてしまったのですが、強制わいせつとなるのでしょうか。
相手も同意の上であれば強制わいせつにはあたりませんが、相手の同意なく無理やりキスをしてしまった場合、強制わいせつにあたります。酒が入っていれば通常以上に相手の態度等から同意の有無を汲み取るのは難しくなりますし、上司と部下、仲の良い知人同士など、人間関係によっては迫られる側が強くNOといえないことも少なくありません。
強制わいせつが成立するためには、暴行又は脅迫を用いてわいせつ行為が行われることが要件となりますが、わいせつ行為それ自体が暴行にあたるとされることもありますし、キスを迫る際の言動や態度が脅迫にあたると判断される可能性もあります。相手の同意なくキスをすることで強制わいせつ罪が成立する可能性は高いといえます。
相手が18歳未満だと知りませんでした。
相手との合意の上での行為であったことには争いが無いが、相手が18歳未満であったため、淫行条例違反に問われている場合、相手が18歳未満だと知らなかったという事情があれば、18歳未満の者に対して性的な行為をすること(淫行条例違反の行為)についての故意が無かったと主張する余地はあります。
しかし、行為時の状況から、18歳未満の可能性があることを認識した上での行為だったと認定されることも少なくありません。また、自治体によっては18歳未満だと知らなかったとしても処罰を免れることができないと定めているところもあり、年齢を知らなかったこと・18歳以上だと信じていたことについて過失のないことを行為者の方で立証しない限り罰せられることとなります。
弁護士への依頼で、日常生活への影響を最小限に抑えます。
強制わいせつ罪で逮捕されたり刑事裁判を受けたりすることとなると、「性」に関する犯罪であることから、他の犯罪以上に世間から厳しい目を向けられてしまいます。
そのような状況の中でも、弁護士に依頼することで、速やかに被害者との示談等の弁護活動を行い、早期釈放、不起訴、執行猶予の獲得など、可能な限り早期に日常生活に戻り、少しでも日常生活への影響を抑えられる可能性が出てきます。ぜひ、お早目に弁護士にご相談ください。
このページでは、刑事裁判の起訴とは何かや、起訴されるまで・されてからの流れやなすべきことについて解説します。
刑事事件における起訴とその種類
起訴とは、検察官が裁判所に公訴(刑事裁判)を提起することです。起訴には、逮捕・勾留に引き続いて行われる通常の起訴のほか、在宅起訴、略式起訴があります。
通常の起訴
起訴のうち、逮捕・勾留されて刑事施設に身柄がある状態で起訴されるのがもっともスタンダードな形です。
起訴後に保釈を請求して認められれば、裁判までの間は身柄を拘束されずに生活することができ、保釈されない場合は、裁判までの間、引き続き勾留されることになります。
在宅起訴
在宅起訴とは、被疑者が勾留されていない状態で起訴されることを言い、被疑者が逮捕や勾留されることなく、あるいは勾留が取り消され、自宅で生活しながら取調べを受けた上で起訴される場合になります。
在宅起訴について詳しく見る略式起訴
略式起訴とは、比較的軽微な罪で、かつ被疑者が事実を争っていない場合に、公開の法廷での通常の裁判ではなく書類審査による簡易な手続により、被疑者を罰金刑に処することを求める裁判を提起することです。
100万円以下の罰金又は科料を刑罰とすることができる罪であること、被疑者が正式裁判ではなく略式手続による裁判を受けることに同意していること等の要件があります。逮捕・勾留に引き続いて行われることもあれば、在宅起訴として略式起訴が行われることもあります。
不起訴
不起訴は、捜査された事件について犯罪成立の証拠が不十分であったり、被疑者がその事件の犯人でないことが明白であったり、犯罪の事実はあったが被害者と示談が成立したなどの事情により起訴の必要性が減少したりした場合に、検察官の判断により事件を起訴しないこととすることをいいます。
不起訴について詳しく見る起訴されたらどうなる?
起訴されると、被疑者から被告人へと立場が変わり、原則として取調べを受けることは無くなる、勾留されている場合は保釈を請求できるようになるなどの変化があります。
立場が変わる
起訴されると、被疑者、つまり犯罪を行った疑いがあるとして捜査され取調べを受けているが起訴はされていない者から、被告人、つまり犯罪を行った疑いがあるとして起訴されている者へと立場が変わります。
事件の捜査は原則として起訴前までに行われることになっているため、被告人になってから取調べを受けることはほとんどありません(余罪がある場合、その事件の取調べを受けることはあります)。また、次に述べるように、勾留されている被疑者の場合、起訴後には保釈を請求することが可能になります。
身柄の拘束が続く
逮捕・勾留されていた被疑者が起訴されて被告人になっても、引き続き刑事施設での勾留が続くことになります。ただし、起訴後は保釈の請求をすることができますので、保釈が認められ保釈金も納付すれば、身柄拘束から解放され、一定の制限はあるものの、日常生活を送ることができます。
在宅起訴の場合は被疑者段階と同じく、起訴後も刑事施設に勾留されることなく、裁判の日まで日常生活を送ることができます。
起訴までの流れ
身柄事件、在宅事件それぞれの起訴までの流れや期間、起訴後に請求が可能になる保釈などについて解説します。
身柄事件の起訴までの流れ
警察に逮捕されると、事件が検察に送られ(送検)、逮捕に続くより長期の身柄拘束(勾留)が必要であると判断された場合、検察の請求・裁判所の決定により勾留されます。勾留は10日間から20日間で、その間に起訴・不起訴が決定されることになります。
逮捕から判決までの流れを詳しく見る起訴・不起訴決定までの期間
警察に逮捕されると、48時間以内に事件が検察に送られ(送検)、そこから24時間以内に、勾留請求するか否かが判断されます。勾留されれば10日間の身柄拘束を受け、その間に起訴・不起訴が決定されることになりますが、捜査の進展によっては、勾留が最大で10日間延長されることがあります。
以上より、身柄事件(逮捕・勾留された事件)で起訴・不起訴が決定されるまでの期間は、逮捕されてから最短で11~12日、最長で23日となります。
在宅事件の起訴までの流れ
在宅事件においても身柄事件と同様に警察から検察に事件が送致され、検察が起訴・不起訴を決定しますが、身柄事件では3.2で解説した勾留の期間内に検察官が起訴・不起訴を決定しなければならないのに対し、在宅事件の場合、そのような期間の制限はありません。
被疑者は断続的に警察や検察に呼ばれて取調べを受けることとなり、起訴・不起訴の決定までに数か月かかることもあります。
起訴された場合の有罪率
起訴された事件が有罪になる確率は99%です。これは、検察官が起訴・不起訴を決定する段階で、無罪になる可能性が高い事件を起訴しないこととしているためです。
起訴後の勾留と保釈について
被疑者段階で勾留されている場合、起訴後も引き続き勾留されることとなります。起訴前と同じ警察署内の留置施設にて勾留されることもあれば、拘置所に移送されることもあります。
起訴前と異なり、起訴後は、保釈の請求をすることができます。保釈は、起訴後勾留されている被告人が裁判所に保釈金を納付することで、刑事裁判を受けて判決が出るまでの間釈放されるものです。
まずは裁判所に対して保釈請求を行います。保釈請求の中では、事件内容や捜査の進展の具体的事情からして被告人に逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと、保釈の間被告人と同居して監督する「身元引受人」がいることや同居する場所(制限住居)について説明します。それでもなお被告人が逃亡や証拠隠滅行為に出るおそれが排除できないと判断されれば保釈は認められませんが、裁判所が保釈を認める決定を出す場合は、同時に事件の具体的な事情から保釈金の金額も決定されます。保釈金は被告人が逃げずに裁判に出頭するための担保のようなもので、準備した保釈金 を裁判所に納めると、釈放されます。
不起訴処分の獲得
事案によっては、不起訴処分を獲得できる場合もあります。事件内容自体として不起訴となる可能性があるものであることや、当該事案の処分に影響を及ぼすような前科がないことが前提となりますが、その上で、被害者のいる事件であれば、被害者との示談交渉を行い、被害弁償がなされたこと、被害者として処罰を求める意思がないこと等の内容を含む示談書を取り交わし、証拠として検察官に提出することが必要となります。
被害者の存在しない事件では、被疑者が事件についての悔悟や反省、更生を誓うことなどを記した反省文や、贖罪寄付を行ったことを証する証明書などを提出します。
起訴前・起訴後に弁護士ができること
起訴前にできること
4で解説したように、不起訴処分を獲得できる可能性がある事案では、起訴・不起訴の処分決定までの間に被害者との示談交渉等の活動を行い、不起訴処分を狙うことができます。
不起訴処分を得ることが困難な場合でも、法定刑として罰金刑がありうる罪であれば、被害者との示談が成立した場合、起訴されて刑事裁判を受けるのではなく、略式起訴による罰金刑というより軽い処分になる可能性があります。
このように、より軽微な処分を目指すためには、起訴される前にどれだけ弁護活動を行えるかが重要です。
起訴後にできること
起訴後の弁護活動として最も重要なのは、刑事裁判に向けた主張の準備や、被告人質問や証人尋問に向けた準備です。また、起訴前には被害者との示談や被害弁償が叶わなかった場合にも、起訴後に示談や被害弁償が成れば、被告人にとって有利な事情として量刑に影響します。
そのような起訴前からの弁護活動についても引き続き行い、少しでも被告人にとって有利な事情を増やします。
起訴に関するよくある質問
在宅起訴と略式起訴の違いがよくわかりません。
在宅起訴は、被疑者が勾留されていない状況で起訴されることを指します。被疑者が逮捕や勾留をされず、あるいは一旦逮捕や勾留されてしまったものの釈放されて、日常生活を送りながら断続的に警察や検察に呼び出され、取調べを受けていると言う状況(在宅捜査)で起訴されれば、在宅起訴となります。勾留されている状況での起訴と区別するための言葉です。
略式起訴は、通常の裁判手続のための起訴と区別されるもので、略式手続という簡易な手続による裁判を求めるための起訴です。
したがって、勾留されず在宅捜査を受けた上、略式手続の裁判を受けるべく起訴された場合、その起訴は、在宅起訴かつ略式起訴ということになります。
被害者と示談出来た場合、起訴を取り消してもらうことはできますか?
起訴された刑事事件が取り下げられることは、被告人の死亡や重い病気で裁判の続行が不可能になった場合などに限られ、起訴後に被害者との示談が成立してもはや処罰意思が無いことが表明された場合でも、起訴が取り下げられることはありません。被害者の告訴が無ければ起訴できない親告罪についても、被害申告はあくまで起訴の要件であり、被害者の意向にかかわらず、一旦起訴された事件は取り下げられません。
もっとも、起訴後であっても示談が成立すれば、量刑上有利な事情となります。また、示談や被害弁償がなされなければ、刑事事件とは別に、民事事件として損害賠償請求される可能性が残ってしまいます。したがって、起訴後であっても示談できる可能性があるならば、被害者との交渉を試みるべきといえます。
起訴された後、裁判までの期間はどれ位かかるのですか?
通常、起訴されてから1か月前後に裁判の日が定められます。犯罪の事実関係に争いのない事件であれば、1回で事件についての審理が集結し、2、3週間後に判決が言い渡され、裁判が終了します。
したがって、起訴されてから判決が出る(裁判が終わる)までの期間は約2か月となります。事案が複雑であったり、無罪を争ったりする場合は、1回の期日では審理が終わらないため、約1か月おきに複数回の期日に渡って裁判が開かれることになり、判決が出て裁判が終わるまでの期間も長くなります。
ご家族が起訴されるかもしれない場合、一刻も早く弁護士へご連絡ください
上記で解説したように、弁護士は起訴前・起訴後のいずれにおいても弁護活動を行いますが、不起訴や罰金刑といった比較的軽い処分を目指すには、起訴前のできるだけ早い段階で弁護士に相談・依頼し、弁護活動が開始されることが重要です。ご家族が起訴されるかもしれない場合、一刻も早く弁護士へご連絡ください。
横領で逮捕された場合の刑罰
| 単純横領罪 | 単純横領罪の法定刑:5年以下の懲役(刑法252条1項) |
|---|---|
| 業務上横領罪 | 業務上横領罪の法定刑:10年以下の懲役(刑法253条) |
| 遺失物等横領罪 | 遺失物等横領罪の法定刑:1年以下の懲役 又は10万円以下の罰金若しくは科料(刑法254条) |
横領罪とは、自分が占有している他人の物を得た場合に成立する罪です。「背任罪」、「詐欺罪」、「窃盗罪」との違いや、横領罪で執行猶予を獲得するために必要なポイントについて解説します。
横領罪とは?
横領罪は、「自己の占有する他人の物」を「横領」した場合に成立する罪です。他人の物を取る罪のうち、窃盗罪や強盗罪などでは他人の持っている物を奪うのに対し、横領罪は、自分が持っている他人の物を自分のものにしてしまう場合に成立するという違いがあります。
着服と横領は同じ?
「着服」と「横領」は、いずれも「他人のものを自分のものにしてしまう」という同じような意味で用いられますが、「着服」は法律用語ではありません。日常用語で着服と言われる行為も、法律上は横領罪にあたります。
横領罪の種類。どのような場合に成立するのか
横領罪には3種類の罪があり、他人の物を手にするに至った事情や管理の性質の違いなどによって区分され、法定刑も異なります。
単純横領罪
単純横領罪は、自分が管理している他人のものを自分のものとして売るなどした場合に成立します。たとえば、友人から預かっている本やDVDを勝手に古本屋に売ってしまった場合などです。
「横領」や「着服」という言葉からすると、人のものをそのまま自分の懐に入れる、というイメージをされるかもしれませんが、人のものを売ってその代金を自分のものにするということも横領にあたります。
業務上横領罪
業務上横領罪は、自分が仕事上管理している会社のお金や顧客からの集金などを自分のものにしてしまう場合に成立する罪で、仕事として会社などのものを管理する以上、友人などのものを管理する場合よりも責任が重くなり、その分、単純横領罪よりも法定刑が重くなっています。
遺失物等横領罪
遺失物等横領罪は「占有離脱物横領罪」とも言われ、文字通り、もともと持っていた人の占有から離れた状態のもの(落とし物など)を自分のものとした時に成立します。
横領罪の具体例
| 単純横領罪 | 知人から借りたアクセサリーを無断で売却した レンタルしたDVDを返却せずに中古屋に売却した |
|---|---|
| 業務上横領罪 | 会社の経理担当者が立場を利用して、売上金の一部を自分の口座へ移した |
| 遺失物等横領罪 | 道端に落ちていた財布を拾い、自分のものにした 釣銭を多く受け取ったことにその場では気付かず後から財布の中身を見るなどして気付いたが、そのまま返さず自分のものにした |
横領罪の法定刑
| 単純横領罪 | 5年以下の懲役 |
|---|---|
| 業務上横領罪 | 10年以下の懲役 |
| 遺失物等横領罪 | 1年以下の懲役 又は10万円以下の罰金若しくは科料 |
量刑に影響を与える要素
横領罪では以下の要素が量刑に影響を与える可能性があります。
・横領した金額
・示談や被害回復の有無、示談や被害回復の見込みの有無
・横領行為(方法)の巧妙さ
・横領行為の悪質さ(どのような事情で管理していた財物を横領したか)
・動機
判例
・買い物を依頼され、そのために預かった携帯電話を返却せず横領した例(懲役8月)
トレーディングカード専門店にて、カードを買うことを依頼され、携帯電話のメモ帳機能に希望の商品を記載したものを渡された者が、そのまま携帯電話を返却することなく立ち去り、携帯電話を横領した。被告人はこの事件の1か月前に窃盗事件で懲役1年6月、4年間の執行猶予付判決を受けており、執行猶予が取り消されてその分も服役することとなるという事情なども踏まえ、懲役8月とされた。
横領罪に時効はあるの?
公訴時効(発生した犯罪を刑事裁判として起訴できる期限)は、法定刑の重さに応じて定められています(刑事訴訟法第250条2項各号)。単純横領罪の時効は5年、業務上横領罪の時効は7年、遺失物等横領罪の時効は3年です。
横領罪と似ている罪
横領罪と同じく人のものを自分のものにする罪として、背任罪、窃盗罪、詐欺罪などがあり、横領罪との区別が問題となります。
背任罪とのちがい
横領罪と背任罪はいずれも任務に反して人に損害を与えるという点で共通しますが、大まかに言えば、管理している他人の「物を得る(領得)」行為は横領、それ以外の方法で損害を与える場合は背任になります。
他人の金を第三者に貸し付ける場合など、「物の領得」の有無だけでは区別がつかない場合もありますが、経済的効果の帰属先が自分である場合には横領、金の正当な所有者である他人本人である場合には背任となります。
背任罪とは?
背任罪は、他人(会社など)のために事務処理(事務作業などに限らず、お金の絡む仕事全般をイメージしてください)をする者が、自分や第三者の利益を図り、または本人に損害を与える目的(「図利加害目的」)で、任務に背く行為(返済の見込みのない貸付など)を行い、本人(会社など)に損害を与えた場合に成立します。
窃盗罪とのちがい
窃盗罪は、他人が占有している物の占有を奪うもので、行為者が占有している他人のものを自分のものとする横領罪とは異なります。窃盗罪は(自分が所有権を持つものであるか否かにかかわらず)その人がその物を持っている(占有している)ことを保護法益とするのに対し、横領罪は、物に対する所有権等の正当な権利と、所有者と行為者の間の委託信任関係を保護法益とします。
そのため、他人のものを持ち主との合意のもとに渡されて管理しており、それを自分のものにしてしまったのであれば横領罪、そうではなく他人の知らないうちにその人のものを取ってしまった場合は窃盗罪となります。
背任罪とは?
背任罪詐欺罪とのちがい
詐欺罪は、財物の持ち主をだまして、持ち主に財物を差し出させることにより奪う罪です。そのため、窃盗罪と横領罪の違いと同様に、行為者が元々その物を占有していたか否かという違いがあります。
詐欺罪では行為者がお金や物の持ち主を騙す(欺く)という行為が必要になりますが、不作為、つまりなすべきことをしない(知っていることを告げないなど)という形で騙すこともありえます。そのため、たとえば釣銭を多く渡された場合、その場で気付いたのに店員に告げず懐に入れる行為は(不作為による)詐欺罪が成立し、後で釣銭が多いことに気付いたが返さないという場合は遺失物等横領罪が成立します。
クレジットカードを不正利用するとのは横領罪ではなく詐欺罪
他人のクレジットカードを持ち主になりすまして不正に利用してしまった場合、感覚的には横領罪が成立するように思えるかもしれませんが、買い物をしたお店などを騙して商品を取ることから、横領罪ではなく詐欺罪が成立します。
Tポイントなどポイントの横領でも横領罪は成立するの?
会社の経費で買い物をしたときに自分のカードでTポイントなどのポイントを付けた場合に業務上横領罪が成立するか否かですが、まず、会社名義での買い物や、会社名義のカードでの支払いの際に自分のカードなどを用いてポイントを付けた場合は、業務上横領罪が成立します。
会社名義のカードなどを用いることなく自分が立て替える形で出した経費についてはポイントを自分に付けたとしても業務上横領罪が成立する可能性は低いですが、会社の就業規則にそうした立替えの際のポイントも会社のものとし、個人に付けてはいけないという定めがある場合や、立て替えた経費やそれにより付与されるポイントの金額が大きい(経費で買った物の金額が大きい、あるいは頻繁に経費のポイントを付けていて累積で大きな金額になる)場合は業務上横領罪が成立する可能性があります。
横領罪は被害者からの被害申告(告訴)がなければ事件化しないことが多い
横領罪は被害者からの被害申告がきっかけで事件化することが多く、その反面、被害者が被害申告をしなければ、刑事事件として捜査され、逮捕などされることは通常ありません。
横領罪は親告罪(被害者が告訴しなければ起訴できない罪)ではありませんが、知人同士や会社と社員などの間で成立する罪であることから、被害者の被害申告がない限り、事件化されないという実情になっています。
返済していたら逮捕されない?
人のものを横領してしまった場合、事後に横領してしまったものの被害弁償・返済を行うことは被害者にとっても加害者自身にとっても重要です。
しかし、返済したとしても横領してしまった事実が無くなるものではなく、事件化した場合に逮捕されるか否かは返済の有無だけで判断されるものではないため、返済していたとしても必ずしも逮捕されないわけではないことには注意が必要です。
事件化する前にできること。まずは弁護士にご相談ください
横領について事件化されないためには、被害者が警察に被害申告をする前に、被害者との間で被害弁償(返済)を含む示談を行うことです。
横領事件では、被害者に加害者に対する怒りや不信感があり、また被害金額についての被害者・加害者双方の主張の食い違いなどが生じる場合もあることから、当事者間での話合いは難しくなることが多いです。弁護士は、加害者の代理人として、被害者との話合いの中で被害金額等の事実関係について明らかにした上、事件化する前に示談や被害弁償を行い、事件を解決することを目指します。
家族間でも横領罪は成立するの?
一定の親族(配偶者、直系血族、同居の親族)の間で横領があった場合、横領罪自体は成立しますが、刑罰は免除されます(刑法255条、244条1項)。また、その他の親族(配偶者や直系血族以外で、同居していない親族)については、横領罪は親告罪となり、被害者である親族の告訴が無ければ起訴されません(刑法255条、244条2項)。
ただし、上記の一定の親族(配偶者、直系血族、同居の親族)間であっても、それぞれ後見人と被後見人の関係にあって後見人が被後見人の財産を横領(業務上横領)した場合について、後見事務の公的性質から、刑罰は免除されないとした判例があります(最高裁平成20年2月18日決定)。
損害賠償請求の可能性も
他人のものを横領した場合、加害者は刑事事件(逮捕、裁判)の中で刑事責任を問われるだけでなく、横領によって被害者に財産上の損害を与えたという民事上の責任も負うことから、民事裁判(損害賠償請求訴訟)を起こされる可能性があります。
民事裁判では実際に横領した以上の金額を主張されることなどもあり、被告本人のみで対応することは難しく、正しい主張と反論を行った上で納得のいく判決(あるいは和解)を迎えるために、弁護士に依頼すべき局面といえます。
横領罪で執行猶予獲得を目指すにはお早めに弁護士にご相談を
横領罪で逮捕されてしまった場合、起訴される前に被害者との間で示談が成立すれば不起訴となる可能性がありますし、起訴されても公判期日(裁判の日)までに示談が成立すれば、執行猶予がつく可能性が高くなります。
限られた期間内に被害者との間で示談を成立させて不起訴や執行猶予を目指すには、速やかに示談に向けて動かなければなりません。横領罪で逮捕されてしまったら、お早目に弁護士にご相談ください。
