監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
このページでは、遺言書で指定することにより効力を持つことは何か、遺言書自体が有効となる場合、無効となる場合はそれぞれどのようなものか、などについて解説します。
目次
遺言書の効力で指定できること
遺言書により指定することで効力を持つ事項としては、次のようなものがあります。
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容に沿って相続人が遺産を取得するために必要な手続を実行する人です。遺言書を遺す場合、相続人のうちの1人が遺言執行者として指定されることもよくあります。
誰にいくら相続させるか
相続分とは各相続人が遺産を相続する割合のことであり、民法上に定められてはいますが(法定相続分)、それと異なる割合で分けるよう、遺言書で指定することができます(相続分の指定)。
誰に何を相続させるか
上記の相続分の指定は遺産を分ける割合について定めるものですが、各相続人にどの財産を取得させる、というような、具体的な分け方を指定することもできます(遺産分割方法の指定)。「妻にはこの不動産を取得させて、子にはこの銀行口座の預金を取得させる」というような指定です。
遺産分割の禁止
相続開始後すぐに遺産分割を行うことによる不都合が予想される場合などは、遺言により、5年を超えない範囲で遺産の全部または一部の分割を禁止することもできます。
遺産に問題があった時の処理方法
遺産に含まれる財産に遺言者が思っているほどの価値がない場合や、債権の回収がうまくいかない場合など、相続する財産によって生ずる不公平を是正するために、民放には共同相続人間の担保責任(911条~913条)が定められていますが、遺言により、こうした共同相続人間の担保責任を無効にすることもできます(民法914条)。
生前贈与していた場合の遺産の処理方法
遺言者(被相続人)が相続人に対して生前贈与を行っており、その贈与が民法に定める特別受益に該当する場合、遺産分割の際の相続分の計算にあたって贈与を受けた分を考慮した修正を行うことがあります(特別受益の持ち戻し)。しかし、被相続人が遺言でこの持ち戻しを行わない旨を示していた(持ち戻し免除の意思表示)場合は、上記のような修正を行わずに遺産を分けることになります。
生命保険の受取人の変更
生命保険は契約時に受取人を定めますが、遺言により生命保険の受取人を変更することができます。
非嫡出子の認知
事情があって生前には認知していなかった子を、遺言により認知することも可能です。認知された子は相続人となり、相続はその認知された子を含む相続人全員で行うことになります。
相続人の廃除
遺言者は、自身に対する虐待などの非行を行った相続人を相続人から除く(廃除)ことができます。廃除は、生前に家庭裁判所に審判を求めるほか、遺言によって行うこともできます。
未成年後見人の指定
遺言者が未成年者に対して最後に親権を行うものである場合、遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。つまり、自身が亡くなり親権者が誰もいなくなった場合に備え、親に代わって未成年者の監護・教育や財産の管理を行う人を指定できるのです。
遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?
遺言書が複数ある場合、日付の新しいものの方が有効となります。ただし、古い遺言書に新しい遺言書の内容と抵触しない部分があれば、その部分については古い遺言書の内容も有効です。なお、遺言書が有効とされるためには作成された日付が必要となりますので、複数の遺言書のうち日付のない方に、日付のある遺言書が書かれたより後に手に入れたと考えられる財産が記載されている場合も、日付がない遺言書の内容である以上、その財産についての内容も含めて無効となります。
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遺言書の効力は絶対か
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言など、法的に有効と認められるためのいくつかの形式があり、いずれの形式についても、有効と認められるための要件、書式があります。自筆証書遺言の場合、日付を入れる、全文を自筆で書くなどです。書式を守っていない場合、遺言書が無効となってしまうこともあります。遺言書がある場合でも必ずその遺言書自体、あるいはその内容が有効となるわけではないことに注意が必要です。
遺言書の内容に納得できない場合
遺言書自体に書式の不備などがなく有効な場合であっても、遺言書の内容に絶対に従わなければならないわけではありません。相続人や受遺者(遺贈を受ける人)全員の同意により、遺言書の内容と異なる遺産分割を行うことができます。
勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?
自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、遺言書の開封は裁判所で行う「検認」という手続の中で行わなければなりません。相続人の一部が勝手に開封すると、改ざんなどのおそれがあるためです。検認手続の前に勝手に遺言書を開封してしまった場合、ただちにその遺言書が無効になってしまうものではありませんが、他の相続人から改ざんの疑いを持たれる可能性もありますし、5万円以下の過料(罰金)を科されることもあります。
効力が発生する期間は?
遺言書の効力が生ずる期限というようなものはありません。遺言者が死亡するどれだけ前に書かれたものであっても時効のようなものはありませんし、遺言者が死亡して相続が開始してからも、期限が切れて無効になるということはありません。
認知症の親が作成した遺言書の効力は?
遺言者が遺言書を作成した時点で認知症であった場合、遺言が有効と認められることも、無効となることもあります。認知症の検査や医療記録から作成時の認知症の度合いを確認したり、遺言の内容が比較的単純なものか、いくつもの財産や相続分の割合などの比較的複雑なもののいずれであったかを検討したりして、当時の遺言者の意思能力の状態でその内容の遺言を作成することができたか否かという総合的な判断を行います。
記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?
遺言者より先に相続人が亡くなった場合、遺言の内容のうちその相続人を対象とする部分(Aに〇〇を相続させる)については効力が生じず、代襲相続も発生しません。当該相続人に取得させることとしていた財産は、他の相続人により分割されることになります。
遺留分を侵害している場合は遺言書が効力を発揮しないことも
遺言であっても遺留分の侵害はできない。ただし、自動で処理されるわけではなく、請求手続きが必要。
相続人となりうる被相続人の親族のうち、配偶者、子、直系尊属には、遺留分という法律上最低限保証された遺産を受け取る権利があり、これは遺言によっても侵害することができません。もし遺言により指定された分け方により相続人が遺留分を下回る財産しか受け取れないことになる場合、その相続人は財産を多く受け取る他の相続人に対し、金銭の支払いによる清算を求めることができます。こうした争いを回避したい場合は、各相続人の遺留分を侵害しないような分け方を遺言の内容とするべきでしょう。
遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで
これまで説明してきたように、遺言書はその作り方や内容によって、全部又は一部が無効となってしまう場合もあります。せっかく遺言書を作るのであれば、無効とされずに自分の遺志が実現され、またなるべく相続人間の争いが起こらないようにしたいのであれば、その点も考慮したものにすべきでしょう。遺言書の効力について疑問点であれば、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)