監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
将来、自分の遺産を相続人以外の人に渡したいと思う場合、どうすればよいでしょうか?また、被相続人の遺言書に「遺贈」と書かれていた場合、その財産やほかの財産はどうなるでしょうか?ここでは、遺贈について解説します。
目次
遺贈とは
遺贈(民法964条)とは、わかりやすくいえば遺言によって財産を譲り渡すことです。法定相続人だけでなく、血縁関係のない他人や、法定相続人にはあたらない親族などにも財産を渡すことができ、遺贈を受ける人のことを受遺者といいます。
遺贈と贈与の違い
贈与は譲る側と受け取る側の合意(贈与契約)により成立するため、両者の意思の合致が必要です。これに対し、遺贈は譲る側の一方的な意思表示により行うことができ、受け取る側の同意は必要ないという違いがあります。
遺贈と相続の違い
遺産を相続できるのは相続人だけですが、遺贈の相手は相続人に限られず、赤の他人に対して行うこともできます。また、税金の課され方にも違いがあります。遺贈の場合も相続と同様に遺産を受け取った受遺者には相続税が課されますが、その税額が相続の場合の2割増しになるほか、不動産を受け取った場合の登録免許税の税率の違いや不動産取得税の課税の有無の違いなどがあります。
遺贈の種類
遺贈には、以下のような種類があります。
包括遺贈(割合で指定されている場合)
包括遺贈は、特定の財産を指定するのではなく、遺産の全部または●割というような形で指定されるものです。借金などの負債が存在する場合は、指定された割合に応じて負債も引き継ぐことになります。そのため、包括遺贈を受けることが受遺者にとって良い場合ばかりとは限らないことから、相続と同様に、受遺者は包括遺贈を受ける(単純承認)という選択のほか、限定承認、相続放棄という選択をすることもできます。包括遺贈を受ける場合、遺産分割協議への参加が必要となります。
特定遺贈(財産が指定されている場合)
特定遺贈とは、文字通り特定の財産を指定して遺贈するものです。マイナスの財産が指定されていない限り、受遺者が借金を背負うことはありません。また、包括遺贈と異なり、遺産分割協議に参加する必要はありません(相続人が遺贈を受ける場合、相続人として遺産分割協議に参加する必要はあります。)。
負担付遺贈
負担付遺贈は、財産を譲る代わりに受遺者に何らかの負担・義務を負わせるもので、たとえば、遺贈者の介護と引き換えに●●を遺贈する、というような条件付きのものになります。受遺者は、そのような遺贈を受けずに放棄することもできます。また、受遺者が負う負担は贈られる財産の価額を超えない限度のものになります。
遺贈の放棄はできる?
包括遺贈は、遺贈があったことを知ってから3か月以内であれば放棄することができ、家庭裁判所に申し立てる必要があります。特定遺贈は、いつでも放棄でき、相続人全員か遺言執行者に意思表示すれば放棄することができます。負担付遺贈についても、期限はなく、いつでも放棄することができます。
遺産の寄付もできる(遺贈寄付)
遺贈では相続人以外の人間、それも個人に限られず法人に財産を贈ることもできるため、NPO法人に財産を寄付する等の遺言により財産を寄付することができます。寄付先は、「NPO法人」や「慈善団体」などの漠然としたものではなく、特定の法人の正式名称を記載する必要があります。遺言にて遺贈寄付をすることと書かれていれば、相続人が(自身の取り分が減少するため)寄付したくないと考えても、原則として遺言の内容通りに財産を分けなければなりません。相続人全員が合意すれば、遺言と異なる分割方法をとることもできますが、そのような遺言と異なる分割を禁止する旨の遺言があれば、それも不可能となります。
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遺贈の効力がなくなるケース
遺贈したい相手が先に死亡した場合
受遺者として指定した人、つまり財産を遺贈したいと考える相手が遺贈者より先に亡くなった場合、遺贈は無効となり、たとえば相続のように受遺者の子などが代わりに遺贈を受ける(代襲)ということもありません。遺贈するとされた財産は、相続人が分割・取得することになります。
遺贈の対象財産が相続財産にない場合
遺贈する財産を誰かにあげてしまったときや、処分してしまったときなど、遺贈の対象財産が相続財産の中から無くなってしまった場合は、遺贈は無効となります。
遺贈者等だれかの介護を行うことが条件(負担)とされていたがその対象者が既に亡くなっているなど、負担付遺贈の条件が達成できない場合、その負担は無効となります。遺贈自体が無効となるか否かは、遺言書の内容から読み取れる遺言者(遺贈者)の意思の解釈により、負担が無効なら遺贈も行わない意図であったか、負担を果たさなくとも遺贈は行う意図であったかにより決せられます。
遺贈にかかる税金
遺贈には相続税がかかります
遺贈で遺産を受け取った受遺者には、相続の場合と同じく相続税が課されます。受遺者が遺贈者の配偶者・子ども・父母の場合は相続の場合と同じ税額ですが、それ以外の人が受遺者となった場合、その税額は相続で遺産を受け取る場合よりも2割加算されます。
不動産を取得した場合はさらに税金がかかる可能性も
遺贈により不動産を受け取った場合、不動産の登記手続の際に登録免許税が課されます。また、法定相続人以外が遺贈により遺産である不動産を取得すると、不動産取得税が課されます。
遺贈の注意点
遺留分を侵害している場合は請求可能
遺留分とは、被相続人の相続人となる者のうち配偶者、子、直系尊属(父母等)について、民法上最低限保障されている相続の取り分のことです。遺贈を行おうとする場合、その遺贈によって遺留分が侵害されると、遺留分を有する相続人は侵害された遺留分についての賠償を請求することができます。そういった争いを避けるため、遺贈を考える際には遺産全体の価額や遺贈を考えている財産の価額、各相続人の遺留分などについて気を配る必要があります。
不動産の遺贈は遺言執行者を指定しておいた方が良い
遺贈された不動産の登記手続を行うにあたって、遺言執行者がいれば受遺者と2人で手続を行うことができますが、遺言執行者がいなければ、受遺者と相続人全員で手続を行わなければなりません。そのため、不動産を遺贈する場合には遺言執行者の指定も行った方がよいでしょう。
受遺者が単独で名義変更できないのはなぜ?
不動産の名義変更について、本来は売買や贈与、財産分与などで不動産を譲り渡す側・譲り受ける側の双方で登記手続を行うこととされているところ、相続の場合は譲り渡す側の被相続人が亡くなっているために譲り受ける側の相続人のみで行えることとされています。遺贈の場合、贈与の一種であることから、受遺者が単独で手続を行うことはできません。
なお、令和3年4月の不動産登記法の改正により、不動産の遺贈を受けたのが相続人である場合に限り、単独で手続を行えるようになります(令和5年4月1日より施行されます。)。
遺贈登記(遺贈による所有権移転登記)の手続き方法
遺贈による所有権移転登記の手続は、
遺言書の検認手続→登記の確認(その不動産が遺贈者の所有であることなど)→書類を集めて登記の申請をする
という流れになります。
遺言書の検認
公正証書以外の方法で作成された遺言書については、裁判所での検認の手続を経ることが必要です。検認を経ない限り、その遺言書の内容に基づいて手続を進めることはできません。
登記簿を取りよせて内容を確認する
遺贈される不動産について、登記簿を取り寄せて内容を確認します。その不動産が遺贈者の所有であることを示すため、遺贈者の住所などについて確認し、死亡時の住所が異なる場合にはその人物の同一性を示す住民票・除票や戸籍の附票を併せて提出するなどの必要があります。
書類を集める
名義変更の登記に必要な書類としては、遺言書、登記済権利証又は登記識別情報通知書、遺贈者の住民票除票又は戸籍の附票、相続人全員又は遺言執行者の印鑑証明書、受遺者の住民票又は戸籍の附票、固定資産評価証明書などがあります。
申請書を作成して提出する
上記のような必要書類のほか、登記の申請書を作成して提出する必要があります。法務局にテンプレートがあるので、それを利用すると便利です。
遺贈についての疑問点は弁護士にご相談ください
遺贈を行いたいと考えている方としては、対象とする財産以外の財産の相続との兼ね合いや遺留分のことなど、考えるべきことは多いですし、遺贈を受けることになった方としても、税金や登記などの遺贈と関連する手続について、相続と同様の点も異なる点もあり、戸惑われることもあるかと思います。遺贈のことについてお悩みや疑問点がありましたら、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)