離婚調停で親権を獲得するポイント

離婚問題

離婚調停で親権を獲得するポイント

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将

監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士

離婚する際に、どちらが子供の親権者になるか揉め、当事者の話合いで解決が難しい場合には、裁判所を通じて話し合いを行う「離婚調停」を行うことになります。

司法統計のデータ(令和6年度)によると、離婚の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち「子の親権者の定め」をすべき件数の総数は16,859件で、そのうち母親が親権を獲得した件数は15,780件と、母親が親権を獲得した割合は約93%にのぼり、日本では依然として母親が親権を獲得することが多い状況にあります。

本記事では、離婚調停において親権を獲得するためには、どのような点に気を付けるべきかについて、詳しく解説していきます。

離婚調停で親権者を判断するポイント

離婚調停は、調停委員会が行うもので、裁判官1名と調停委員2名(男性、女性1名ずつ)が事件に関与しますが、直接話す相手は、調停委員2名であり、調停委員をいかに説得するかが離婚調停の結果を左右することになります。

そして、親権者の適格性(親権を持つにふさわしいかどうか)は、「子の利益」や「子の福祉」を最優先事項として判断されることになるため、この点を調停委員にアピールすることが重要となります。

以下では、調停委員が離婚調停で親権者を判断するポイントを詳しく解説させていただきます。

子供への愛情

子供をどれだけ愛しているか(子供への愛情の深さ)は、親権者を判断するポイントになります。しかしながら、子供の愛情は目に見えるものではなく、客観的に評価しづらい事項ですので、育児への関与、子供の生活の安定性、両親と子供の関係性等の実際の行動を見て子供への愛情の深さを判断することになります。

なお、子供への愛情は、あくまでも親権者を判断する上での考慮要素の一つであり、これだけで親権者が決定されるわけではないことに注意が必要です。

今までの監護実績

監護実績とは、これまでどちらの親が子供の世話(生活面や学習・教育面等)をしたのか、その実績のことをいいます。この監護実績は、親権者を判断する上で最も重視されるポイントです。

今までどちらが子供の世話を主にしてきたか、子供の世話の具体的内容はどのようなものか、という点が監護実績を判断する上で考慮されることになります。一般的には、子供が小さい時(特に乳幼児)においては、母親が子供を養育することが多いこと等から、母親が親権を獲得することが多いといえるでしょう。

離婚後の養育体制

離婚後の養育体制が整っているかは、親権者を判断する上で重要なポイントです。離婚すれば、基本的には、親権を獲得するどちらか一方が子供を養育することになるため、離婚後の養育体制が整っていなければ、親権を取得しても子供を適切に養育することができないと判断される可能性があります。

養育体制は、自身の経済的・時間的な余裕があるか、親族の協力を得ることができるのか等の様々な事情を考慮して判断されることになります。

親族の協力の有無・程度

親族の協力の有無は、親権者を判断する上で重要なポイントとされます。親が単独で子育てを行うことに支障がある場合でも、祖父母や親族の支援を受けられることによっては、育児環境が安定しているとして、親権者としてふさわしいと評価されることがあります。

また、同居している他の家族が子供と良好な関係を築いている場合、その環境を継続することが、「子供の福祉」にかなうと判断されることもあります。したがって、親権獲得を目指す場合は、自身のみならず、親族の協力を受けられ、その協力が手厚いものであることを示す必要があるといえるでしょう。

離婚後の経済状況

離婚後の経済状況は、親権者を判断するための補助的な要素として判断されます。親権を希望する親が無職又は極端に収入が不安定な場合には、子供の生活が不安定となり、親権獲得に悪影響を及ぼす可能性があります。もっとも、生活保護を受給することや親族の支援があること、就労予定があるなどの事情があれば、問題がないと判断される可能性があります。

これに対し、相手方が高収入で経済的に安定しているため、相手方に有利に考慮される可能性がありますが、監護実績が乏しい、子供との関係が希薄、面会交流に協力的でない等の場合には、不利に判断される可能性があります。

また、離婚後の経済状況については、養育費の支払いによって賄われることが想定されているので、相手方より年収が低いからとって親権を獲得できないと考えるべきではありません。離婚後の経済状況については、あくまでも補助的な要素と考えるべきでしょう。

子供の年齢、意思

子供の年齢や子供の親権者を希望する意思は、親権者を判断する上で重要なポイントになります。おおまかに0歳から9歳くらいまでは、言語能力や判断能力が発達途上であるため、子供の意思よりも、これまでの親の監護実績や今後の育児の安定性を判断するのが一般的です。また、おおまかに10歳から14歳は、子供がどちらの親を希望しているかについて一部参考にされ、15歳以上は子供の意思が重視されることになります。

これは、子供が成長するにつれて、自分の生活環境や親との関係を理解し、選択する能力が高まるとされているからです。ただし、子供の真の意思を尊重することになりますので、親の誘導や圧力が無いか、慎重に判断する必要があるとされています。

親の健康状態

親の健康状態が良好かどうかは、親権者を判断する上で重要なポイントです。健康状態が良好であれば、子育てに支障が生じないことになります。これに対し、重度の病気や精神的疾患がある場合、子供の福祉の観点から親権者としてふさわしくないと判断される可能性があります。

健康状態に不安がある親が親権獲得を希望する場合には、医師の診断書や診療記録を提出することや、家族のサポートを受けることができる等の自身の健康状態が子育てに悪影響を及ぼさないことを、調停委員に示す必要があります。これに対し、相手の健康状態に問題がある場合には、子育てに悪影響を及ぼすことを診断書や診療記録などの客観的証拠で示す必要があります。

親権者を決める際の離婚調停の流れ

親権者を決める際の離婚調停のおおまかな流れは以下の通りになります。

  1. ①管轄の家庭裁判所に離婚調停を申し立てる(離婚調停の申立て)
  2. ②申立てが受理されると、裁判所から当事者双方に対し、第1回調停期日の日時が記載された「呼出状」が送付されてくる(呼出状の送付)。
  3. ③第1回調停期日が開かれ、当事者双方が交互に調停委員と離婚条件について協議する(離婚条件の協議)。
    ※必要に応じて、第2回目以降の調停期日が開かれ、親権が争点となった場合には、家庭裁判所調査官による調査官調査が行われる。
  4. ④当事者双方が内容に合意できた場合には、調停条項案を作成し、調停成立で終了する(調停の終了)。
    ※当事者双方の合意が得られない場合には、調停不成立として終了する。

離婚調停の申し立て

離婚調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する裁判所若しくは夫婦で定めた家庭裁判所に対して必要書類を提出する必要があります。各家庭裁判所の必要書類や費用が変わってきますので、申し立てる前に連絡して聞いておくことをお勧めいたします。

  • 必要書類
    申立書の正本、副本各1通、夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • その他の書類
    事情説明書等
  • 費用
    収入印紙1200円、送付用の郵便切手(各裁判所によって異なります。)

家庭裁判所調査官による調査

親権が争点となっている場合には、家庭裁判所調査官(家裁調査官)が、親権者としてどちらがふさわしいのかを調査し、調停委員会が親権者を判断する際の資料として用いられる調査報告書を作成することになります。

家裁調査官は、実際に子供と面会したり、必要に応じて家庭訪問をするなどの方法で、現在の生活状況であったり、両親の養育状況・子供の心情の事実を聴取することになります。その上で、子供の幸せにとって最適な解決策は何なのかを考え、調停委員会に報告をし、当事者双方にも子供の思いを伝えたり、助言をしたりします。このように、家裁調査官は、離婚調停を行う上で必要な調査を行い、円滑に調停が進むための役割を果たしています。

離婚調停で親権者が決まらず不成立になった場合

離婚調停は、裁判所(調停委員会)を通じて、当事者間で離婚について協議を行う手続であるため、お互いが合意しなければ離婚調停が成立しません。したがって、離婚調停が不成立となった場合には、離婚訴訟を提起した上で、裁判所が親権者を決める必要があります。裁判所の決定に不服がある場合には、控訴して高等裁判所に審理を求めることになります。

離婚調停で親権を獲得するためのポイント

離婚調停で親権を獲得する重要なポイントは、3つあります。1つ目は、調停委員を味方につけること、2つ目は、自分が親権者として適していることを主張すること、3つ目は、調査官調査に協力することです。

以下で、3つのポイントについて詳しく説明しますので、ご参考ください。

調停委員を味方につける

本記事の親権者を判断するポイントでも説明したとおり、離婚調停で直接会話をするのは、男性、女性1名ずつから成る調停委員2名です。調停委員は、当事者双方から交互に話を聞き、解決に向けた落としどころを探ることになります。

調停委員も人間ですので、こちらの主張が正しいと思ってもらえることや、誠実な対応をすることによって、こちらに有利な内容の提案をしてくれることもありますので、調停委員を味方につけることは非常に重要です。

自分が親権者として適していることを主張する

離婚調停で自分が子供の親権者となるためには、親権者として適格であることを主張し、その主張を裏付ける証拠を提出することが必要となります。

裁判所は、当事者からいくら親権者として適切であると主張されても、証拠が無いものについてはその主張通りの事実を認めることはありません。

したがって、自身の主張を証明する証拠を示した上で、調停委員に対し、説得力のある主張をすることが重要なポイントとなります。

調査官調査に協力する

調査官調査とは、離婚調停においては、家裁調査官が子供の監護状況や親権者としての適格性を判断する調査です。

調査官調査に協力しなければ、自身が親権者としてふさわしいことを証明する調査(子供と親の関係、監護実績、経済状況等)が適切に行えませんので、不正確で事実が不足している調査をもとに調停が実施されることになり、ご自身にとって不利な調停が進行することになりかねません。

また、調査官調査に非協力的な態度自体が親権者としてふさわしくない、親権獲得を真に望んでいないとみなされることにもなりかねません。このような事態を防ぐためにも、調査官調査には積極的に協力する姿勢を示すことが重要だといえるでしょう。

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離婚調停で父親が親権を獲得した解決事例

母親が子供を監護している状況で、父親が親権を主張した事案で、監護者指定・子の引渡しの審判を先行させた上で、離婚調停において親権取得を主張し、父親が親権を獲得することができました。

本事案においては、監護実績としては母親の方があったものの、別居後、母親が子供の体調不良にもかかわらず病院へ連れて行かず、子供が何度も病気となっていたこと、父親は仕事で監護体制が十分ではなかったものの、子供が父親側の祖父に非常に懐いており、父親側の祖父による監護補助が期待できたこと等の事情が重視され、父親が親権者として指定されることとなりました。

親権と離婚調停に関するQ&A

共同親権が導入されたら調停無しで親権を獲得できますか?

令和6年度の民法改正によって、共同親権制度が導入されることになりました。同改正は、令和8年5月までに施行される予定です。施行後は共同親権の場合でも、父親と母親が話し合いで合意すれば、共同親権の選択が可能になります。離婚届に「共同親権」と記載し、必要な書類を添付すれば、調停や裁判を経ずに成立します。したがって、共同親権が導入された場合には、調停を経ずに親権を獲得できることになります。

もっとも、裁判離婚になった場合には、家庭裁判所が「子の利益」を最優先に判断し、共同親権か単独親権かを決定することになります。

離婚調停中に相手方が子供を連れ去った場合、親権への影響はありますか?

子供を連れ去った経緯・態様にもよりますが、子供を連れ去った相手方が親権獲得にとって不利に判断される可能性があります。

離婚調停中であり、子供の親権が争点となっているにもかかわらず、子供を連れ去ることは適切な手続に基づかない実力行使として、違法な連れ去りと判断されるのが通常です。このような行為は未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性もあり、親権者として不適格と判断されることになると考えられます。

離婚調停中に夫婦のどちらかが死亡してしまった場合、親権は自動的にもう一方が得ることになりますか?

離婚調停中であれば夫婦のどちらかが死亡してしまった場合には、親権は自動的にもう一方が得ることになります。これは離婚調停が成立していない以上、未だ共同親権の状態ですので、法律上の婚姻関係は継続しているためです。

実の親が亡くなるという経験は、子供にとって忘れがたい重要な出来事ですので、残された親は子供の心身のケアをしっかりすることが重要でしょう。

離婚調停で決めた親権者を変更することはできますか?

一度、離婚調停で決めた親権者を変更することは可能ですが、家庭裁判所の手続(親権者変更調停)が必要となります。したがって、たとえ父母の合意があっても、家庭裁判所の調停又は審判を経なければ親権者の変更はできません。

裁判所は、監護の継続性ないし現状維持を重視し、現実に子を養育している者を優先させようとする考え方を採用していますので、親権者の変更には慎重な姿勢であることには注意が必要です。

妊娠中に離婚調停を行った場合の親権はどうなりますか?

妊娠中でも、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。出産前に離婚調停が成立した場合には、子供は生まれていないため親権者の指定はできないことになります。したがって、子供が出生後、母親が自動的に親権者となります。

これに対し、出産前に離婚が成立しなかった場合、出産後に離婚する際は、親権者は父母のどちらかにするかを決めなければ離婚できないことになります。

離婚調停で親権を獲得したい方は、弁護士に依頼してみませんか?

離婚調停で、親権を獲得するために重要なことは、調停委員にご自身が相手方と比べて、親権者としてふさわしいと判断されるかが重要になります。親権者としてふさわしいと判断されるためには、弁護士が依頼者から必要な事実を拾い上げた上で、的確な法的主張をすることが重要となります。

離婚調停で親権を獲得したい方は、お気軽に弁護士法人ALGの姫路法律事務所の弁護士にご相談ください。離婚調停で親権を獲得できるように最善を尽くします。

姫路法律事務所 副所長 弁護士 松下 将
監修:弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。