監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
婚姻していた男女が離婚する際、ほとんどが協議(話し合い)による離婚となっていますが、一方で、家庭裁判所に申し立てられる離婚調停の件数も増加しております。令和元年に申し立てられた離婚調停の件数は、およそ6万件、そのうち約1万件が不成立、約1万2000件が取り下げとなりました(「家庭裁判所 司法統計 婚姻関係事件数 終局区分別 家庭裁判所別」より)。割合としては6分の1が不成立となっています。
では、なぜ離婚調停が成立せず、不成立となってしまうのでしょうか。
このページでは、離婚調停をお考えの方に向けて、調停が不成立になるケースについて、その理由、不成立にならないための対処、不成立になってしまった後の対応などについて、詳しく解説していきます。
目次
離婚調停が不成立になるときとは?
離婚調停が不成立になるケースとしては、個々の細かな事情はあるものの、主に以下のような例が挙げられます。
調停委員によって不成立と判断される
調停は、当事者である夫婦の双方の意見を、調停委員2名と裁判官1名が聞いて調整を図り、最終的に当事者が主張する意見の合意を目指すものですが、それぞれが主張する意見があまりに食い違っていたり、お互いに条件を譲らなかったり、どちらかが離婚を頑なに拒否していたりする等、合意に達することが見込めない場合、調停委員と裁判官によって、調停不成立と判断されることがあります。夫婦のどちらかが続行を望んでいても、調停委員・裁判官が不成立と判断すれば、その時点で調停は終了になります。
あまりにも双方の意見が食い違い、合意がまったく見込めないようであれば、1回目の調停で不成立と判断されることもあり得ます。
離婚調停を途中で取り下げる
相手が頑なに離婚を拒む、何度調停を行っても平行線で合意が見込めない場合などに、調停を申し立てた側は、いつでもその申立てを取り下げ、調停を中止することができます。また、調停委員や裁判官から取り下げをすすめられることもあります。
ただし、取り下げは「不成立」ではありませんので、離婚裁判を起こすときに必要になる「不成立証明書」は発行されません。日本では、離婚問題については、裁判の前にまず調停を行わなければならない「調停前置主義」という制度を採用しています。そのため、離婚調停を途中で取り下げてしまうと、調停を前置したということにならないため、離婚裁判を起こすことができません。
なお、長期にわたって調停を行ったにもかかわらず合意に至らなかったり、相手が欠席を続けたりした場合は、調停を行ったものとみなされて裁判を起こすことが可能になるケースもあります。
当然終了
調停を行っている期間中に、申し立てた側、申し立てられた側にかかわらず、夫婦どちらかが死亡した場合、合意を得ることは不可能になりますので、「当然終了」といい、家庭裁判所に死亡が報告された時点で調停は終了となります。
離婚調停が不成立と判断されるケース
離婚調停は、調停委員と裁判官によって不成立と判断されればその時点で終了し、続行することはできなくなります。
調停が不成立と判断されるケースの主な例としては、以下のようなものがあります。
相手が離婚調停を欠席
相手方が調停に出席せず、不成立となるケースは多く存在しています。
仕事などの都合でどうしても出席できないときは、裁判所に連絡すれば期日を調整してもらえます。調整ができず、出席が不可能なときは、通常はその旨を連絡します。
しかし、もともと出席する意思がなく、連絡もなく無断で欠席することが2回ほど続くと、調停委員から不成立と判断される可能性があります。
また、無断欠席をすれば、当然、調停委員や裁判官の心証は悪くなります。離婚裁判になった際、離婚調停での発言や態度、欠席の事実が参考にされることもありますので、相手方が無断欠席すればこちら側が有利になる可能性があります。
相手が離婚を拒否
離婚調停を申し立てても、相手方が頑なに離婚を拒否していれば、話し合いが進まずいつまで経っても平行線になってしまい、不成立と判断されてしまいます。
相手方に不貞行為(浮気・不倫)やDV、モラハラなど、離婚の原因を作った等の事情があれば、離婚を前提に意見を調整しあうことも可能ですが、離婚原因となるような事情がない場合、いくら離婚したいとこちらが主張しても、相手方が受け入れなければ合意を得ることは困難です。
こちら側には離婚したい明確な理由があるにもかかわらず、相手が頑なに拒否する場合、調停委員に相手方が離婚を拒否する理由を訊いてもらうという方法もあります。そのうえで合意に達することが困難だと判断されれば、調停は不成立となるでしょう。
親権で争っている
子供のいる夫婦が離婚する場合、親権をどちらが持つかは大きな問題となります。
双方が親権を主張して譲らないケースでは、調停では意見がまとまらず、不成立となる可能性が高いです。
離婚自体やそのほかの条件については合意がとれているものの、親権に関してのみ合意に至らないという場合は、制度上、調停は成立させて、親権者を指定する審判や裁判に移行することもできます。ただし、審判の結果に対しては不服申立てが可能なため、実務上ではあまり行われることはなく、親権で揉めた場合、離婚調停は不成立とし、離婚裁判で争うことがほとんどです。
財産分与の対象、慰謝料や養育費について納得できない
親権と同じく、離婚自体に関しては合意がとれているものの、財産分与の対象や金額、慰謝料を支払うか否か、養育費の額などで揉めて合意に至れないことも多く、離婚調停が不成立となるケースも少なくありません。
特に、離婚後に女性が子供を引き取り育てる場合、生活していくうえで財産分与や養育費は重要な問題となるため、話し合いが平行線になることも少なくありません。
とにかく離婚だけは早くしたいという場合、調停は成立させて、財産分与や慰謝料、養育費については審判に移行するか、離婚裁判を起こすという手段もありますが、相手方が離婚は望んでいるものの財産分与などについては譲らない場合、一旦離婚を成立させてしまうと、こちらの希望を通すことは難しくなってしまいます。そのため、実務では、離婚調停は不成立とし、離婚裁判を起こして離婚と共に財産分与などの条件について争うことが多くなっています。
離婚調停が不成立と判断された場合のその後
離婚調停が不成立となってしまったら、その後はどのように対処すればいいのでしょうか。
以下で、具体的な方法を解説します。
当事者間で再び協議する
調停が不成立に終わっても、その後、協議(話し合い)によって離婚を成立させることは可能です。
第三者が介入する調停によって、相手の真意を知り、気持ちを切り替えて話し合いができる可能性もあります。
ただし、調停が不成立になるほど意見が対立した場合、協議によって合意を得られるというケースは少ないのが実情です。
再調停はできるのか
離婚調停の申立てに、回数の制限はありません。そのため、何度でも調停を行うことが可能です。
一度不成立で終わったあと、別居するなどして距離と期間を置いて再度調停に臨めば、冷静に話し合える可能性もありますし、あるいは、別居して相手から婚姻費用を受け取りつつ、夫婦関係が破綻していると判断されるまで待つという手段もあります。
審判離婚
調停が不成立に終わった後、裁判官の判断により、審判に移行することがあります。
例えば、ほとんどの部分で合意を得られたものの、細かい条件だけ決まらない場合、子供のために争いを長引かせるのはよくないと判断された場合、感情のみで合意に至れていない場合など、審判に移行し、裁判官により離婚条件などが決定されることがあります。
ただし、審判の結果はどちらかが不服申立てをすれば無効になるため、実務上で審判離婚が行われることはほとんどありません。
離婚裁判
離婚調停が不成立になった場合、その後の対応として最も多いのは裁判です。
離婚裁判では、離婚を認めるか否かのほかに、慰謝料、財産分与、親権、養育費などについても、裁判官によって強制力のある判決が下されます。
ただし、裁判で離婚するためには、民法に定められた「法定離婚事由」が必要になります。また、主張を認めてもらうために、あらゆる証拠を用意し、論理的に立証しなければなりません。さらに、裁判では希望どおりの慰謝料や財産分与の額にならないことや、一定期間経過後に裁判官から和解をすすめられることもありますので、こちら側の希望に近い判決を得るためには、弁護士に依頼することをおすすめします。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停不成立にならないためにできることは?
離婚を望んで調停に臨むのですから、不成立ではなく、成立させるに越したことはありません。裁判になれば、費用も時間も手間もかかってしまいます。
以下で、離婚調停が不成立にならないためにできる対策を解説します。
希望の条件に優先順位をつけておく
財産分与や慰謝料、親権、養育費など、離婚の条件に関してさまざまな希望はあるかと思いますが、こちらの望む条件で合意させようとすると、相手方も納得しなかったり反発したり、平行線になってしまう可能性が高いです。
そのため、希望の条件には優先順位をつけ、例えば「親権をこちらに渡してくれるなら、財産分与についてはそちらの条件を飲む」というように、「この条件を飲んでくれるなら、この条件は妥協してもいい」というような交渉をしましょう。
感情的にならない
調停委員は中立の立場といっても、人間です。たとえ離婚の原因が100%相手方にあるとしても、感情的に喚いたり、罵ったりするばかりでは、調停委員の印象が悪くなってしまいます。また、あまりにも頑なに相手方を非難してばかりでは、合意は見込めないとして不成立とされてしまいます。
自分にもある程度の非はあったと認めつつ、あくまでも冷静に、落ち着いて、相手方からされた仕打ちを訴えましょう。
弁護士に依頼する
ほとんどの方は、調停に臨むのは初めてのことかと思います。
その点、離婚案件を多く取りあつかっている弁護士ならば、調停の場に慣れていますので、裁判所に提出する書類の作成から、こちら側の主張を立証する資料の作成、法律に基づいた論理的な主張、調停委員を味方につける言動などを熟知しています。
弁護士に依頼すれば、調停が不成立になる可能性は低くなるといえるでしょう。
よくある質問
離婚調停不成立後、別居する際に気をつけることはありますか?
一度調停が不成立になった後、お互いに頭を冷やし冷静になるための冷却期間として別居することは、場合によっては有効です。離れているあいだに冷静に考えを整理することで、離婚裁判を起こさなくとも、再度の調停や協議がスムーズにいく可能性もあります。
ただし、それは別居して離れているからこそです。もし離婚の原因が相手の不貞行為などにあるとしても、怒りに任せて罵倒やケンカをするような連絡は取らないようにしましょう。
また、注意すべきなのが、子供です。お互いに親権を主張している場合、養育実績のある方が有利になります。日本では、特に子供が幼いと母親が親権を取得しやすい風潮がありますが、別居する際、子供を置いてゆき夫が育てていたとなれば、夫に親権がわたってしまってもおかしくありません。親権を獲得したい場合、必ず子供と共に別居しましょう。
離婚調停が不成立で終わった場合でも養育費や婚姻費用を受け取ることはできますか?
夫婦には、他方配偶者に自分と同じ水準の生活をさせる義務があります。離婚調停が不成立となっても、また、別居していても、離婚しないかぎり扶養義務はなくなりません。夫婦のどちらかが専業主婦・主夫であったり、どちらかの収入が低かったりする場合は、「婚姻費用」を請求できます。相手方が離婚を拒否している場合、この「婚姻費用」の支払いが負担になり、離婚に応じりする可能性があります。相手方が婚姻費用を支払わない場合や低額な婚姻費用しか払ってもらえない場合等には「婚姻費用分担請求調停」を申し立てることができますので、忘れずに請求するようにしましょう。
なお、「婚姻費用」には養育費も含まれています。子供を連れて別居している場合、相手方は子供の養育費も含めて支払わなければならないことになります。離婚後は婚姻費用の支払い義務はなくなりますので、相手方は養育費のみを支払うことになります。
調停不成立から裁判を起こすまでに決められた期間はありますか?
調停が不成立になってから裁判を起こすまでの期限は、法律では定められていません。各地の裁判所で、対応が異なります。
調停不成立からおおよそ1年以内であれば、どの裁判所でも問題なく受け付けられるでしょう。1年半を過ぎると、裁判所によっては「もう一度調停を申し立ててはどうか」と言われてしまう可能性が出てきます。調停不成立から2年以上経ってしまうと、ほとんどの裁判所で再調停をすすめられ、訴状(裁判を起こす際に提出する書類)を出しても、却下はされませんが、「付調停」といい、裁判ではなく調停に回されてしまいます。
そのため、調停が不成立になり裁判を起こすことを考えている場合は、1年以内を目安として考え、弁護士への依頼や準備を行いましょう。
離婚調停が不成立になった場合、別の裁判所で再度離婚調停や離婚裁判などを行うことはできますか?
離婚調停は申し立てる回数に制限がなく、何度でも行うことができますが、申し立てる家庭裁判所は相手方の住所を管轄している家庭裁判所か、夫婦の合意があれば、その他の地域の家庭裁判所でも可能となっています。そのため、一度目の離婚調停は夫婦の合意があり最寄りの裁判所で行ったものの、二度目は相手方住所を管轄する家庭裁判所、というように、別の裁判所で再調停を行うこともあり得ます。
離婚裁判については、申立人、または相手方の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てることと定められています。調停の場合は目的が話し合いによる合意ですので、お互いが出席可能な場所でなければなりませんが、離婚裁判の場合は相手方が欠席しても裁判官が判決を下しますので、例えば妻は東京、夫は北海道に住んでおり、妻が東京の家庭裁判所に申し立てるということも可能です。
離婚調停の不成立を回避したいときは、経験豊富な弁護士へご相談ください
調停で離婚を成立させたいとお考えでも、どのように希望条件を主張すればいいのかわからない、相手方と条件面で争いになることが予想される、相手方が離婚を拒んでいるなど、さまざまなご事情でお悩みの方は多くいらっしゃいます。ほとんどの方は、家庭裁判所という場所も、調停も初めてでしょう。
調停では、感情的にならず、こちらが希望する条件をしっかりと伝え、法律的にもその主張に根拠があることを示す必要があります。この点、弁護士に依頼すると、主張の仕方のアドバイスやサポートはもちろん、裁判所に提出する書類の準備も代行してもらうことができます。
弁護士法人ALGには、数多くの離婚案件を解決してきた実績があり、経験と知識が豊富な弁護士が数多く在籍しております。離婚時に決める財産分与、慰謝料、養育費などの条件は、その後の人生にかかわる非常に重要なものです。ご依頼いただければ、希望する条件が妥当であるかの判断や、調停委員に納得してもらえるような条件への変更のアドバイスなどの対応をさせていただきます。調停が長引いたり不成立になったりしそうなときの対処も、熟練の弁護士にお任せください。
話し合いがまとまらず、離婚調停を申し立てることをお考えの方は、まずはお気軽に、弊所までご相談ください。専門のスタッフが、お悩みやご不安を伺わせていただきます。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)