監修弁護士 松下 将弁護士法人ALG&Associates 姫路法律事務所 副所長 弁護士
離婚する際に相手方に対して離婚慰謝料を請求したいと考えられる方は少なくありません。
しかし、離婚する際には、夫婦の双方が相手に対する不満を感じていることが多く、その不満が全て離婚慰謝料を請求できるケースに該当するわけではありません。
そこで、今回の記事では、そのようなケースに離婚慰謝料を請求できるのか、離婚慰謝料を請求するためのポイント、離婚慰謝料の相場や増額事由、減額事由等を解説していきます。
目次
離婚慰謝料とは?
離婚慰謝料とは、離婚によって被った精神的苦痛などを慰謝するために支払われるお金です。
どちらの責任とも言えない「性格の不一致」、「価値観の相違」などが離婚原因である場合には、相手方に不満を抱いていたとしても離婚慰謝料の請求は認められません。
あくまで、離婚に至る主な原因を作り出した配偶者(いわゆる有責配偶者)に対して、一方の配偶者が離婚慰謝料を請求できるのです。
離婚慰謝料を請求できるケース
以下では、離婚慰謝料を請求できる代表的なケースを紹介します。
不貞行為
「不貞行為」とは、民法770条1項1号に規定されている法定離婚事由の一つであり、判例上「、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶ行為をいう」とされています。
したがって、一方配偶者の不貞行為を立証できれば、離婚慰謝料を請求できます。
例えば、配偶者以外の者とラブホテルに宿泊したことが分かる写真、不貞相手とのメールのやりとりのデータ・写真などが不貞行為を立証する証拠になります。
DV・モラハラ
相手からDV・モラハラを受けていたことを証明すれば、離婚慰謝料を請求することができます。
ただし、DV・モラルハラスメントは家庭内の密室で起きていることが殆どであり、また、一方当事者が精神的に支配されている状態にあるケースが少なくないため、被害を受けている証拠を押さえるのが難しいケースと言えますので、我慢をせずにまず弁護士にご相談ください。
警察等公的機関への相談記録、医療機関の受診記録、ケガの写真、暴行暴言の映像・音声、第三者の証言、日記・メモなどが証拠になります。
悪意の遺棄
「悪意の遺棄」とは、民法770条1項2号に規定されている離婚事由の一つであり、夫婦間の義務である「同居の義務」「協力義務」「扶助義務」を正当な理由なく履行しないものをいいます。例えば、「理由なく同居を拒否する」、「頻繁に家出する」「生活費を渡さない」というような行為は悪意の遺棄として配偶者に慰謝料請求できる可能性があります。
ただし、正当な理由があれば、「悪意の遺棄」には該当せず、夫婦関係を見つめなおすために別居する場合なども正当な理由があると考えられているため、「悪意の遺棄」を理由に離婚慰謝料の請求が認められるケースは多くなく、その立証のハードルはかなり高いといえます。
「悪意の遺棄」を認めた裁判例としては、夫が半身不随の身体障害者で日常生活もままならない妻を自宅に置き去りにし、正当な理由もないまま家を飛び出して、長期間別居を続け生活費を渡していなかったというケースが挙げられます。
つまり、夫婦関係が不仲になり別居状態というよくあるケースにおいて、「悪意の遺棄」に該当することは殆どなく、上記裁判例のような極めて限定的なケースにのみ「悪意の遺棄」を理由とした離婚慰謝料の請求が認められることになります。
浪費やギャンブルによる借金
浪費やギャンブルによる借金の場合には、その程度によっては、法定離婚事由の「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)や「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する可能性があり、離婚慰謝料の請求が認められる可能性があります。
例えば、全収入をギャンブルにつぎ込んで家にお金を入れない期間が長期間継続しているようなケースにおいては、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。
また、「悪意の遺棄」に該当しなかったとしても、配偶者の浪費やギャンブルによる借金により生活がひっ迫しており、浪費を辞めるように再三注意しても聞き入れてもらえないようなケースにおいては、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性があります。
セックスレス
「セックスレス」とは、日本性科学会によると、「病気などの特別な事情がないのに、1ヶ月以上合意の上の性交渉やセクシュアル・コンタクトがないこと」と定義されています。ただし、一般的には、「カップルのうち、どちらかがセックスをしたいと望んでいるのに、長期間それができない状態」を総じて「セックスレス」と呼んでいます。
夫婦の一方が正当な理由なくセックスを拒絶している場合には、「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)として法定離婚事由になり、離婚慰謝料請求できる可能性があります。
もっとも、相手方にも性行為を拒む理由や反論があることが殆どであり、セックスレスを理由とした離婚慰謝料が認められるケースは多くなく、その立証のハードルはかなり高いといえます。
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離婚慰謝料を請求できないケース
離婚原因が「性格の不一致」「価値観の相違」など、どちらか一方に婚姻関係を破綻させた原因があるとは言えない場合には、いくら相手方に不満を抱いていたとしても離婚慰謝料請求は認められません。
また、自分にも責任があるような場合は、例えばダブル不倫をしていた場合には、互いに支払いあうべき慰謝料が相殺されて、結果として慰謝料が発生しない可能性があります。
なお、離婚慰謝料請求が認められる代表的なケースを説明しましたが、それらのケースでは、「婚姻関係を破綻させる行為」であることから、離婚慰謝料請求が認められています。
裏を返せば、不貞行為開始時には、既に婚姻関係が破綻していた場合には、「不貞行為」に該当するとしても離婚慰謝料を請求が認められません。
離婚慰謝料の請求でのポイントは「不法行為の証拠」
慰謝料について、話し合いで解決する場合には、必ずしも不法行為ついての証拠はいりません。不法行為の証拠がない場合においても、一方当事者が有責性を認め、慰謝料を支払う意向を示すケースがないことはありません。
ただし、殆どのケースでは、どちらが「有責配偶者」であるかが争いになります。その場合に、相手方を説得し、裁判官に離婚慰謝料を認めてもらえるようにするためには、不法行為の証拠が必要不可欠です。
離婚慰謝料の相場
離婚慰謝料の相場は、事案により異なりますが、50万円から300万円程度であり、中でも100万円~200万円程になることが多いです。
ただし、余りに悪質なケースにおいては、300万円を超えることもありますし、それほど悪質とは言えないケースでは、50万円以下になることもあります。
このように、慰謝料相場に幅がある理由は、離婚原因の内容や婚姻期間の長さなどさまざまな要素が考慮されるためです。
離婚慰謝料の増額・減額に影響する要因
離婚の慰謝料は、①離婚原因の内容、②従前の夫婦関係や婚姻期間、③子どもの数など、さまざまな要素を考慮して判断されます。以下で、離婚事由の代表例である「不貞行為」により離婚慰謝料を請求するケースを基に説明します。
①離婚の原因となった行為が悪質であれば離婚慰謝料が増額します。例えば、1度の不貞行為の事案と長期間にわたって不貞関係が継続していた事案では、後者の事案の方が慰謝料は増額される傾向にあります。
②不貞行為発覚前に夫婦関係が円満であったケースは、円満ではなかったケースより、甚大な精神的苦痛を被ると考えられるため、慰謝料が増額される傾向にあります。また、婚姻期間が長いケースは短いケースより慰謝料が増額される傾向にあります。ただし、不貞発覚時において、既に夫婦関係が破綻していたような場合には、慰謝料が認められない若しくは極めて低額な慰謝料しか認められないことがあります。
③子どもの数が多ければ、離婚により家庭に及ぼす影響は大きいと考えられるため、慰謝料が増額される傾向にあります。
離婚慰謝料の請求の流れ
離婚慰謝料を請求は、通常であれば次のように段階を踏みます。
①相手方に対し書面若しくは口頭による請求
②相手方と離婚慰謝料の協議・話し合い
③離婚調停
④離婚訴訟
ただし、当事者間で協議することが難しい場合には協議を経ずに、離婚調停を申し立てることもあります。
なお、離婚訴訟を起こす場合は、基本的には離婚調停を経る必要があります。
離婚においては、法律で白黒はっきりさせる訴訟手続きよりも調停を通じて双方が納得のいく解決ができることが望ましいと考えられており、例外的なケースを除き、先に一度離婚調停を経ることが強制されています。
離婚慰謝料に関するQ&A
離婚慰謝料の貰い方(受け取り方)は?
離婚慰謝料の貰い方は、無用なトラブルを避けるため、現金手渡しではなく、金融機関の口座に振り込んでもらう方法により支払ってもらう形が一般的です。
判決による場合には、一括での支払いを求められますが、支払方法は、双方の協議により分割払いとすることも可能です。
また、離婚においては、慰謝料の他に財産分与等の金銭を受け取ることがあるため、離婚協議書等を作成して離婚慰謝料として受けっとったことが分かるようにしておくべきでしょう。
離婚後でも慰謝料請求できますか?できる場合、いつまで可能ですか?
離婚後でも慰謝料を請求することは可能です。
ただし、離婚慰謝料については離婚時から3年で時効になるとされているため、時効によって権利が消滅してしまう前に請求する必要があります。
離婚慰謝料には税金はかかりますか?
離婚慰謝料については、基本的に税金はかかりません。
ただし、社会的に相当な範囲を明らかに超えている金額が支払われているケースや税金の支払いを免れたり、財産を隠したりする目的での偽装離婚が疑われるケースにおいては、贈与税が課税される可能性があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚慰謝料についてわからないことがあれば弁護士に相談してみましょう
離婚する際に相手方に対して離婚慰謝料を請求したいと考えられる方は多くいます。
しかし、離婚する際には、夫婦の双方が相手に対する不満を感じていることが多く、相手方が自ら有責配偶者であることを認め離婚慰謝料を支払うケースは殆どありませんし、その不仲となった相手方と離婚慰謝料の協議を行うことは相当精神的な負担がかかるものでしょう。
また、今回ご説明させていただいたとおり、そもそも離婚慰謝料が認められるケースか、証拠は十分か、離婚慰謝料としていくら請求すべきか等一人で判断することが難しい事項も多々あると思います。
弁護士法人ALG姫路法律事務所の弁護士は、これまで数多くの離婚慰謝料案件について多数携わってきており、ノウハウや実績を多数有しています。
離婚慰謝料の請求を検討されている方や離婚条件についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士法人ALGの姫路法律事務所の弁護士にお気軽に相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)